日銀ウォッチャー報告(2015年1月号)


マネタリーベース平残の推移201501(グラフ)

2014年12月の季節調整済のマネタリーベース平残は、前月比で2.4兆円減少し、266.2兆円になった。

マネタリーベース平残の推移201501(表)

上記のグラフに示したとおり、季節調整済のマネタリーベース平残は、2012年12月の白川体制の末期から増加基調が明確になった。その後は、ほぼ高水準の増加率が続いている。12月は前月-0.9%とわずかな減少となった。昨年も12月だけは-2%とわずかな減少であった。12月は、季調済平残を考えることなく、目標としているマネタリーベースの年末残275兆円を重視して調整した結果である。

12月の市中資金は、8.1兆円の不足であった。そこに、国債の購入10.1兆円、短期国債の購入2.3兆円、貸出支援基金による貸し出し3.7兆円などを中心とした金融調節により、合計15.9兆円の資金が供給された。金融調節後の市中資金は、7.9兆円の資金余剰となった。この資金余剰を反映して、当座預金残高は、11月末の170.3兆円から、12月末の178.1兆円へ、7.9兆円の増加となった。この当座預金残高の変動を反映して、12月の季節調整済のマネタリーベース平残は、前月比2.4兆円減少の266.2兆円になった。当座預金残高が増加し、季節調整済のマネタリーベース平残が減少した理由は、12月のマネタリーベースは増加しやすいという季節要因があるためである。

2014年2月18日の金融政策決定会合で決定された、新方式による貸出支援基金による貸し出しの第3回目が12月に実施された。貸出支援基金による貸し出し金額を表すグラフを下記に示す。


貸出支援基金201501

2014年12月分は、ドル特則を除く成長基盤強化支援資金供給の貸し出し増加額は、前月末比で5993億円であった。貸出増加支援資金供給の貸し出し増加額は、前月末比で3兆0236億円であった。2014年12月末のドル特則をも含む貸出支援基金全体の残高は、前月末比で3兆7183億円増加の24兆7001億円となった。2014年2月より前には、2014年末の貸出支援基金全体で、18兆円という目標を設定していたが、その金額は上回ることになった。一方、2014年2月に、貸出増加支援資金供給を2015年3月までに30兆円まで増やすことを、新しい目標として設定した。しかし、2014年12月末現在で19兆円であり、残り1回で30兆円まで増やすことは不可能であろう。

日銀BSとMB(実績と予想)201501

上記の表に示したように、昨年12月末までの過去12ヶ月間に、国債の残高は60兆円、マネタリーベース残高は74兆円の増加となっている。今年の年間目標は、国債とマネタリーベースを80兆円ずつ増やすことである。今年の年末時点におけるマネタリーベースの予定残高は、355兆円である。残り12ヶ月間で増やすので、マネタリーベース末残は、1ヶ月間の平均で6.7兆円の純増が必要である。

1月の市中資金は、14.2兆円の不足となる。1月の資金供給は、国債の購入が12月並の10兆円と想定する。短期国債の購入は8兆円と想定する。12月は2.3兆円の購入と非常に少ない金額であったが、1月は11月以前の購入金額近くに戻さないと、マネタリーベースを積み上げることはできないからだ。共通担保オペの回収額は0.5兆円と想定する。貸出支援基金による貸し出しは、1月中には予定されていない。この結果、1月の資金供給は、合計で17.5兆円となる。その他、1月は銀行券の回収が4.4兆円と日銀は予想している。1月末のマネタリーベース末残は、「マイナス14.2兆円プラス17.5兆円マイナス4.4兆円」に等しい前月比1.1兆円の減少と予想する。昨年1月末も1兆円の減少であった。季節調整済のマネタリーベース平残の増加額は、前月比10兆円近くの大幅増になると予想する。

前々回に(*1)、10月31日のバズーカ砲第2弾の後、証券投資を通じて、海外から怒濤のごとく資金が流入していることを指摘した。そして、資金が流出するようになるまで金融緩和を強化すべきことを改めて強調した。では、日銀の方では、その事実をどのように考えているのであろうか。そこで、12月25日に公表された11月18日-19日の金融政策決定会合の議事要旨からその部分を取り上げ、下に記す。

「為替相場をみると、円の対米ドル相場は、日米の金融政策の方向性の違いが強く意識されたことなどから、円安ドル高方向の動きとなっており、最近では 117円台で推移している。」

為替レートについての記述はこれだけである。毎回、長さは同じくらいである。しかし、実際には、もっと詳しい分析がなされているはずである。10年前までの金融政策決定会合の議事録とその資料は公開されている。そこから、10年前には毎回存在し、おそらく現在も存在している可能性の高い資料を下記に示す。


対外対内証券投資表

黒田バズーカ砲第2弾の後の数字で、11月19日時点において公表されていた数字は、11月7日までの週の数字だけであった。11月14日までの数字は、11月20日公表なので、11月19日時点においても、日銀だけには見えていたかも知れない。それらの週の数字を見ると、国内投資家の対外証券投資の金額は縮小している。一方、海外投資家の対内証券投資の金額は拡大している。すなわち、バズーカ砲第2弾の直後において、ネットで見た証券投資を通じる資金の流入金額は大幅に拡大していたのである。日本が金融緩和、アメリカが金融引き締めに動くと、普通、証券投資を通じる資金は、日本からアメリカへの流出になる。しかし、実際には、その正反対の流れが発生した。この表をより長期化してグラフ化すると、下記のようになる。

対外対内証券投資グラフ

似たグラフを何度か示してきた。しかし、私が何度か示してきたグラフでは、公社債の中に短期債を含めていた。一方、日銀が決定会合で使用していた数字は、公社債の中から短期債を除いた数字である。短期債の売買は、対外証券投資よりも、対内証券投資の方の金額が大きい。そのため、マイナスになっている資金流出の金額は、私が使用していた数字よりも、絶対値がかなり小さな数字になっている。短期債を除いた数字を使用した場合でも、アベノミクス相場の開始以降、証券投資を通じて、海外から国内へと怒濤のごとく資金が流入していることがわかる。2014年に入って、資金流出が止まっていたのであるが、バズーカ砲第2弾の直後から、再び流入金額が急拡大したのである。

バズーカ砲第2弾の直後のポートフォリオ・リバランス効果が、マイナスであったことは明らかである。にもかかわらず、議事要旨には、プラスのポートフォリオ・リバランス効果が発生したかのように書かれている。「日米の金融政策の方向性の違いが強く意識されたことなどから、円安ドル高方向の動き」という文言からは、「日本の金融緩和の強化とアメリカの金融緩和の終了により、資金のあり余った日本から、金利が上昇したアメリカへと大量に資金が流れていき、その結果、円安ドル高が進んだ」と解釈するのが普通であると思う。すなわち、プラスのポートフォリオ・リバランス効果の発生と読み取れるのである。しかし、少なくとも、11月に入ってからの証券投資を通じる資金の流れは、その正反対である。発生した効果は、第1弾の時と同様に、マイナスのポートフォリオ・リバランス効果であったのである。

証券投資以外の金融収支、誤差脱漏などを加えた場合、資金流出は拡大しているはずであり、議事要旨の内容は間違いではない。しかし、10年以上前の決定会合に毎回出ていたのは、証券投資の表が中心である。それ以外の金融収支の資料は、全部を確認したわけではないが、見たことがない。公社債の中から短期債を除いているので、その他投資のような短期で激しく変動する数字は無視しているのかもしれない。当時の日銀は、資金流出入の中心を、株と中長期債を通じる証券投資と見ていたのである。

現在、使われている資料が、どのようなものかはわからない。日銀が、証券投資を相殺する資金の流れをつかんでいる可能性は否定できない。しかし、11月19日時点で、金融収支のデータは、9月分までしか公表されていなかった。10月分の未公表のデータを、日銀はすでに保有していた可能性はある。しかし、バズーカ砲第2弾直後の11月分については、証券投資以外の金融収支のデータを、ごく一部だけは例外的に保有しているものもあったかもしれない。しかし、全部を保有していたはずがない。従って、バズーカ砲第2弾以降の資金流出入の中で見えていたデータは、大部分が証券投資のデータだけであったはずである。そして、その証券投資は資金流入金額の大幅な拡大を示していた。にもかかわらず。資金の流出が拡大しているような内容を議事要旨に書いている。過去にも似たケースがあるのだが、事実と正反対ともいえる内容を議事要旨の中に書いているのである。

量的緩和の波及経路については、現時点では、定説があるわけではない。しかし、おそらく一番有力な説は、通貨安を通じる景気刺激効果であろう。黒田総裁は、実質金利引き下げを通じる経路を最重要視していると公言している。しかし、量的緩和の目的の1つは円安誘導と言ってしまうと、G20の声明文違反になる。従って、口が裂けても、量的緩和の目的の1つが円安誘導であるとは言ってはいけないのである。看板は、実質金利引き下げでなくてはならない。黒田総裁も、量的緩和が一般論として円安を引き起こす効果があることを認めている。従って、量的緩和という政策と、円安、資金の流出入については、最も力を入れて分析しなければならない最重要の論点なのである。量的緩和を強化すれば、証券投資を通じて、海外から巨額の資金が流入してくることが、2013年に明らかになった。それと同じ現象が、バズーカ砲第2弾の直後にも、再び発生したのである。

黒田バズーカ砲が引き起こす効果、すなわち、量的緩和の強化→証券投資を通じる資金流入の大幅拡大=大量の円買い外貨売りの発生→円高ではなく円安が発生、というメカニズムを日銀が説明しているのを見たことがない。私は、証券投資を通じる大規模な資金流入の中で円安が発生するメカニズムを(*2)で説明した。本来なら、こうした分析は日銀が行い、発表しなければならない非常に重要な論点なのである。しかし、分析をするどころか、都合が悪くて見たくない事実は、発生しなかったことにしている。こうした不都合な事実とまともに向き合うことのない日銀の態度には、問題がありすぎる。

私が繰り返し主張していることは、量的緩和の強化→証券投資の黒字拡大→金融収支の黒字拡大=経常収支の黒字拡大→GDPの拡大→景気過熱→インフレとバブルの発生→大規模な増税→急激な財政再建の実現、であった。これは、実際に簡単に実現するものではない。多くの段階において、難しい問題が存在する。しかし、その中で最も大きな問題は、一番最初の段階にある。

円安発生直後から、アメリカにガツンと言われたら、円安は実現できなくなると言われていた。全くそのとおりだと思う。なぜアメリカが現在でも円安を容認しているかと言えば、円安進行にもかかわらず、貿易・サービス収支、経常収支の改善が目に見えて発生していないことが最大の要因であろう。経常収支が目に見えて改善してきたならば、アメリカは円安を許さない。アメリカだけではなく、世界の多くの国が許さない。これは同時に、金融緩和の強化も許されないことを意味する。

Jカーブ効果は発生しないと言われ続けてきた。しかし、足元では少しずつ、貿易・サービス収支と経常収支の改善が発生しつつある。今後、確実に発生する現象は、貿易・サービス収支と経常収支の改善が目に見えて進むことである。遠くない将来に、経常収支の黒字は拡大するのである。これは2年以上にわたる円安効果にプラスして、エネルギー価格の低下による輸入金額減少の効果が加わるためである。

仮に、経常収支の黒字が目に見えて拡大しつつある環境下で、大規模追加金融緩和を実施した場合には、一国繁栄型の近隣窮乏化政策と、アメリカだけではなく世界中から非難されるであろう。経常収支の黒字が目に見えて拡大しつつある環境下では、日本としては、2%のインフレ実現が目的であるとの建前を繰り返して、その時点での金融緩和を維持するのが精一杯であろう。それ以上の追加金融緩和はできないのである。金融緩和は交易条件を悪化させる自国窮乏化政策であるなどと反論したりすれば、世界中から総スカンをくらい、G7やG20から追放されるであろう。エネルギー価格の低下と、日本の国際政治上の力を考えると、追加金融緩和が可能な時間はあまり残されていない。従って、一刻も早くできるだけ大規模な追加金融緩和を実施することが、必要不可欠なのである。


リンク先記事
海外から日本へ巨額の資金流入を招いた黒田バズーカ砲の威力(*1)
海外投資家の日本株買いが円安を引き起こす理由(*2)


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日銀ウォッチャー報告(2014年12月号)

マネタリーベース平残の推移201412(グラフ)

2014年11月の季節調整済のマネタリーベース平残は、前月比で12兆円増加し、268.6兆円になった。

マネタリーベース平残の推移201412(表)


上記のグラフに示したとおり、季節調整済のマネタリーベース平残は、2012年12月の白川体制の末期から増加基調が明確になった。その後は、ほぼ高水準の増加率が続いている。11月は、10月に続いて前月比4%超というかなり大幅な増加率となった。

11月の市中資金は、16.4兆円の不足であった。そこに、国債の購入10.7兆円、短期国債の購入8.8兆円、共通担保オペの0.8兆円の回収などを中心とした金融調節により、合計19兆円の資金が供給された。金融調節後の市中資金は、3.6兆円の資金余剰となった。この資金余剰を反映して、当座預金残高は、10月末の167.7兆円から、11月末の170.3兆円へ、2.6兆円の増加となった。この当座預金残高の変動を反映して、11月の季節調整済のマネタリーベース平残は、前月比12兆円増加の268.6兆円になった。当座預金残高と季節調整済のマネタリーベース平残の増加に差がある理由は、11月のマネタリーベースは減少しやすいという季節要因があるためである。


日銀BSとMB(実績と予想)201412

上記の表に示したように、今年11月末までの過去12ヶ月間に、国債の残高は56.5兆円、マネタリーベース残高は71兆円の増加となっている。年間目標は、国債とマネタリーベースを80兆円増やすことである。10月31日に決めたばかりの目標なので、年内の達成は無理である。来年の早い時期に、80兆円まで増やすことになるであろう。

今年の年末時点におけるマネタリーベースの予定残高は、275兆円である。従って、12月1ヶ月間で、マネタリーベース末残を12.3兆円増加させることが必要である。

12月の市中資金は、7.3兆円の不足となる。12月の資金供給は、国債の購入が9兆円と想定する。上記の表にあるとおり、1ヶ月間に必要な純増額3.4兆円、プラス償還予定額4.9兆円、合計8.3兆円が最低必要金額であり、それを少し上回る金額になると考える。短期国債の購入は8兆円と想定する。償還予定額が8.6兆円あるので、それを少し下回る金額と考える。共通担保オペの回収額は0.5兆円と想定する。貸出支援基金による貸し出しは2兆円と想定する。貸出支援基金の中の成長基盤強化支援資金供給は、残高ベースでは0.6兆円の減少になることが11月中に決まっている。貸出増加支援資金供給の金額はまだ決まっていないが、9月並の2.6兆円と想定する。そこから成長基盤強化支援資金供給の純減0.6兆円を差し引いて、貸出支援基金による貸し出しは2兆円という数字を算出した。この結果、12月の資金供給は、「9兆円+8兆円-0.5兆円+2兆円」となり、合計で18.5兆円となる。その他、12月は銀行券の発行が5.6兆円と日銀は予想している。12月末のマネタリーベース末残は、「18.5兆円+5.6兆円-7.3兆円」に等しい前月比16.8兆円の増加と予想する。マネタリーベースの年末の残高は279.5兆円となり、目標の275兆円を少し上回ると予想する。季節調整済のマネタリーベース平残の増加額は、前月比16.8兆円を大幅に下回り、前月比微増になると予想する。

黒田日銀総裁が、金融政策の最大の目標であると考えている、消費者物価の動向を示す。


CPI201412.gif

コアCPI201412

コアコアCPI201412

上記の真ん中にあるコア物価の上昇率は、このところ低下している。10月の全国コア物価の上昇率は、前年比2.9%増となり、消費税増税分を除くと、0.9%増と、1%割れになった。黒田総裁は、1%を割ることはないと断言していたのが、1%を割ってしまった。10月31日の金融緩和の強化は、こうした2%のインフレ目標への道に逆行する動きが予想以上に大きくなりそうなことがわかったため、急遽金融緩和の強化を実施したわけである。

上記には全部で6種類の物価をグラフに掲載している。生鮮食品の価格は乱高下するので、それを除いたコア物価を見るのが一番適当である。しかし、よく見ると、上記の6つのグラフの大半は、今年の半ばから下落の方向にある。これは、円安要因が消滅しつつあるからだ。9月から再び円安が進行し始めたが、今度は原油を中心とした商品価格が低下しつつある。目先の物価は、上昇(円安)と低下(商品価格低下)の2要因の綱引きになり、どちらが強くなるかはっきりしないが、どちらかに大きく動くこともなさそうである。

なお、11月の東京のコアコア物価を見ると、ストンと低下している。これは、11月になって大きく低下したわけではない。東京のコアコア指数は、4月に消費税引き上げがあった後、動かなくなった。東京のコアコア指数は、消費税増税直後の4月と11月が同じ数字である。そのため、前年比で見た場合、上昇率は低下していくのである。金融緩和を強化しなかった場合、来年4月に東京のコアコア物価上昇率はゼロになってしまう可能性が高かった。食料、エネルギーを含めた場合でも、12月以降も前年比の上昇率は低下し続けるのである。円安と商品価格の綱引きで、両者引き分けであった場合、コアも総合も、コアコアに引き続いてゼロになってしまう。このことは、10月31日の金融緩和の強化が、必然であったことを示すものである。そしてまた、私が重視する資産価格の変動まで考慮した場合には、従来の日銀の政策と同様に、Too little Too Lateであったと考える。

量的緩和の効果は、繰り返し述べているように、非常に小さい。だから、大規模に実施しなければ、意味がないのである。特にリスク回避志向が強まっている日本においては、効果が小さくなる。リフレ政策に対する批判は、「物価が上昇していない」、「物価が上昇したのにもかかわらず賃金が追いつかず、国民生活は苦しくなった」、というものが多い。一番問題だと思うのは、同じ人物が、上記の正反対の2つの現象を根拠にしてリフレ政策を批判するのである。ある時には、効果がないと批判し、ある時には、インフレが進行して国民生活が苦しくなった上、金利が急上昇し、財政が破綻する、と批判してくる。こうしたとんでもない批判にはきちんと反論しなければならないのだが、できていない。これは、黒田総裁とリフレ派の主流派の側にも弱点があるからだ。それは、きちんとした出口戦略を示すことができていないからである。

金融緩和を強化し続ければ、いずれは雇用の逼迫により、賃金が上昇してくる。この場合、賃金上昇そのものの上昇によるコストプッシュ、上昇した賃金による購買力の増加から発生するディマンドプルのインフレが発生し、やがては2%をこえてくるであろう。こうした現象が起きたときこそ消費税を増税し、超過需要と労働需要を押さえ込むべきなのである。2017年3月の消費税増税時にこのような現象が発生しているとは限らない。本当は好ましくない増税の延期であった。しかし、ここまで来てしまった以上、そうするより他に道はなかったのかもしれない。

私は、以前から書いてきたように、政府、日銀が協力して、インフレ抑制とバブル防止を目的とする増税プラン=ドッジ・ライン・バージョン2を作るべきと主張してきた(*1)(*2)。金融緩和の結果、インフレとバブルが進行した場合、金融引き締めではなく、増税を中心とする財政政策により、インフレとバブルを封じ込めるというプランである。そのプランの一環として、コア物価上昇率が2.5%をこえた場合、総理大臣が9ヶ月以内に消費税を2%引き上げなければならないことを義務づけるような法律を作っておくべきであった。その消費税増税をも含むドッジ・ライン・バージョン2を、出口戦略と財政再建の手段の一環として準備し、作成しておくのである。そうしたきっちりした財政再建への道筋が提示できていた場合、2015年9月に消費税増税を実施しなかったとしても、日本国債のCDSの保証料率が上昇したり、ムーディーズから日本国債の格下げをくらうことはなかったのである。

ドッジ・ライン・バージョン2の中身は、インフレ抑制とバブル防止を目的とする増税策であると同時に、財政再建のプランであるので、高率のインフレも金利の急上昇も財政破綻も、起こりようがない。反リフレ派から金利の急上昇、財政破綻が起こるなどという批判も封じ込めることができる。また、現在の日本においては、金融抑圧という政策は長続きしない。従って、最初から金融抑圧という政策の放棄を宣言しておけば、欠陥の多い金融抑圧という批判も封じ込めることができる。ドッジ・ライン・バージョン2を作っておけば、インフレは高進せず、税収は増加し、財政は健全化する。もちろん、ドッジ・ライン・バージョン2は簡単に作れるものではなく、いろいろ問題点を含む政策になることはわかっている。それでも、出口戦略、財政再建策としては、他の方法よりは欠点が一番小さいと考える。

Too little Too Lateであるとはいえ、黒田総裁が10月31日に踏み切った金融緩和は、円安批判が強まった環境下であったにもかからず、実施に踏み切ったことを評価したい。これからは、政府と出口戦略を話し合い、インフレ抑制とバブル防止につながるドッジ・ライン・バージョン2を作り上げながら、より大規模な追加金融緩和を実施すべきである。


リンク先記事
量的緩和の出口戦略 増税、増税、増税 ! (*1)
インフレ抑制とバブル防止を利用した財政再建策(*2)

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日銀ウォッチャー報告(2014年11月号)

マネタリーベース平残の推移201411(グラフ)

2014年10月の季節調整済のマネタリーベース平残は、前月比で11.9兆円増加し、256.6兆円になった。

マネタリーベース平残の推移201411(表)

上記のグラフに示したとおり、季節調整済のマネタリーベース平残は、2012年12月の白川体制の末期から増加基調が明確になった。その後は、ほぼ高水準の増加率が続いている。9月はマネタリーベースの増加率がやや低めになったが、10月の増加率は前月比4.9%増とかなり大幅なものとなった。

10月の市中資金は、12.9兆円の不足であった。そこに、国債の購入7.9兆円、短期国債の購入11.9兆円、共通担保オペの1.0兆円の回収などを中心とした金融調節により、合計19.1兆円の資金が供給された。金融調節後の市中資金は、6.2兆円の資金余剰となった。この資金余剰を反映して、当座預金残高は、9月末の161.5兆円から、10月末の167.7兆円へ、6.2兆円の増加となった。この当座預金残高の変動を反映して、10月の季節調整済のマネタリーベース平残は、前月比11.9兆円増加の256.6兆円になった。当座預金残高と季節調整済のマネタリーベース平残の増加に差がある理由は、10月のマネタリーベースは減少しやすいという季節要因があるためである。


日銀BSとMB(実績と予想)201411

上記の表に示したように、今年10月末までの過去12ヶ月間に、国債の残高は54.6兆円、マネタリーベース残高は69.7兆円の増加となっている。10月31日以前の年間増加目標は、国債が50兆円、マネタリーベースは60兆円~70兆円であった。国債の増加額は少し多めであり、マネタリーベースの増加額は上限近くであった。

今年の年末時点におけるマネタリーベースの予定残高は、275兆円である。残り2ヶ月間で増やすので、マネタリーベース末残は、月間7.7兆円の純増が必要である。

11月の市中資金は、15.3兆円の不足となる。11月の資金供給は、国債の購入が8兆円と想定する。上記の表にあるとおり、1ヶ月間に必要な純増額6.3兆円プラス償還予定額1.5兆円に近い金額であるからだ。短期国債の購入は8兆円と想定する。償還予定額が7兆円あるので、その数字を少し上回る金額と想定する。共通担保オペの回収額は0.5兆円と想定する。貸出支援基金による貸し出しは、11月には予定されていない。この結果、11月の資金供給は、合計で15.5兆円となる。11月末のマネタリーベース末残は、「15.5兆円マイナス15.3兆円」に等しい前月比0.2兆円の増加と予想する。季節調整済のマネタリーベース平残の増加額は、前月比で0.2兆円をかなり大幅に上回る金額になると予想する。

10月31日の金融緩和の強化は、多くの人の予想外の金融緩和であった。そのため、市場では、パニック的とも思われる円安・株高が進行した。日本国内では批判の声も多いが、海外では評価する声の方が大きかったと思う。2012年2月14日に、1%のインフレゴール政策の導入を当時の白川総裁が発表した時、ブラジルのマンテガ財務相は「為替操作」と非難してきた。しかし、今回は、日銀の金融緩和が、10月31日のブラジル株式市場の急騰を引き起こした。退任直前のマンテガ氏がどう評価したかは知らない。英文メディアを通じるブラジルからの声として、日銀の金融緩和がブラジルの株価を大きく引き上げたことを評価する声がいくつか聞こえてきた。

黒田総裁が金融緩和に踏み切った最大の理由は、消費者物価上昇率の伸び悩みであろう。


コアCPI201411

上記のコア消費者物価上昇率は、明らかに上昇率を低下させている。9月の全国コア物価の上昇率は、前年比3%増であるが、消費税増税分を除くと1%増になる。黒田総裁は全国のコア物価上昇率が1%を割ることはないと明言していたが、1%以下に低下する可能性が非常に高くなっている。その根拠が、下記に示す企業物価の上昇率である。

サービス企業物価201111

上記の2つの物価は、消費税増税分を除く前年比上昇率である。日銀が作成している統計だからこそ、存在する数字なのである。消費者物価指数は、総務省が作成しているので、消費税増税の影響は約2%以外はわからない。こういう時期であるのだから、総務省も日銀に協力して、消費税増税分を除く消費者物価指数を算出すべきであろう。しかし、ここで、官庁の縦割り主義の弊害が発生する。より精度が高く、商品別の消費税を除く消費者物価の上昇率が、誰にもわからなくなってしまっている。

上記のグラフで、企業物価上昇率の下落が激しい。これは、円安の影響一巡と、原油などの国際商品市況の下落の影響が大きい。消費者物価は企業物価の変動を後追いする可能性が高いため、今後も消費者物価の上昇率に低下の圧力がかかる。従って、今後の全国の消費者物価上昇率が1%を割る可能性が高いのである。

そうかといって、日本がデフレに逆戻りしたわけでもない。上記のグラフに企業向けサービス価格の上昇率を示したが、前年比0.8%程度の上昇で横ばいである。企業向けサービス価格も円安や国際商品市況の影響を一部は受ける。外貨建ての多い外国との飛行機代、船賃や、電気代などの上昇を通して、円安や輸入エネルギー価格上昇の影響を受けるからだ。しかし、それは一部であり、多くは、賃金などの内需によるコストプッシュの影響が大きい。企業向けサービス価格から推測すると、日本の物価上昇率の実勢は、前年比0.8%かそれを少し下回る程度である。異次元緩和が開始されて1年半以上経過した。そして、日本経済はデフレからの脱却には成功しつつある。

しかし、2%のインフレ実現にはまだ時間がかかりそうである。黒田総裁が当初公言していた2年、あと半年弱の期間に2%を実現できる可能性は、非常に低くなってしまった。黒田総裁は、異次元緩和を実施した日に、「経済も金融も生き物なので、その時々の状況を見て、必要あればちゅうちょなく調整していく」と述べていた。1年半以上が経過してみると、デフレ脱却には成功したが、2年で2%の実現が非常に困難になった。それどころか逆に、1%から下向きに動く気配を見せ始めたのである。期待インフレ率も2%に届いていない。ここで動かなければ、日銀と黒田氏自身への信任にかかわると考えたのであろう。

この意味では、今回の金融緩和は、当初の方針と変わりのない金融緩和である。むしろ遅すぎなのである。ただ、黒田総裁は、腹の中を全く明かさず、直前まで、景気はいずれは順調な回復過程に復帰し、物価も今後上昇基調を強めるという従来とほとんど同じ発言を繰り返していた。そのため、10月31日の金融緩和の強化は、市場には全くの不意打ちとなり、発表直後から急速な円安株高が進行したのである。


1031金融緩和の強化

10月31日の金融緩和の内容は上記の点だけであり、シンプルな金融緩和である。量的には、2013年4月4日の異次元緩和に近い金額のようにも見える。国債の保有残高の増加額は、年間50兆円から80兆円への30兆円拡大である。ただ、先に示したとおり、10月末時点で国債の純増額は前年比55兆円であり、実質的には25兆円の増額修正になる。2013年4月4日の異次元緩和直前の3月末の国債純増額は21兆円であり、白川前総裁も資産買入等の基金で国債を20兆円純増させることを目標としていた。そのため、国債の年間の純増額は、2013年3月末21兆円→2014年10月末55兆円→2014年11月以降80兆円となる。実質的には異次元緩和とほぼ同額の25兆円の純増である。

一方、マネタリーベースの年間の純増額は、2013年3月末26兆円→2014年10月末70兆円→2014年11月以降80兆円と、異次元緩和による純増額が44兆円、今回が10兆円と規模は小さくなる。これは、白川前総裁が、国債を購入する一方、共通担保オペを中心とする短期の貸出金を大量に回収してきたため、マネタリーベースの純増額が小さくなってしまっていたからである。異次元緩和実施以降は、短期資金の回収ではなく、短期国債の購入を通して、短期資金の供給をも増やした。しかし、短期国債のマイナス金利が常態化し、これ以上、短期資金の供給を増やすことは簡単にはいかなくなった。それが、国債の純増額を表面上は30兆円、実質的には25兆円増やした一つの理由であろう。

今回の金融緩和の特徴として、金融緩和の実施日が、GPIFの資産構成変更の発表日と重なったことである。GPIFの資産構成の変更内容を下記に記す。


GPIF201406.gif

発表された内容は、短期資金を除く部分であるので、短期資金の保有額を資産全体の5%と仮定した。そして、株などの購入金額は、株価が上がれば減らし、下がれば増やさなければならない。将来の株価動向はわからないので、GPIFが公表している直近の6月末と資産価格に変更がないことを仮定し、各資産の必要売買金額を試算した。この数字は、6月末時点での必要売買金額であり、10月末時点では資産構成の変更はある程度は進行しており、資産価格も変化しているので、金額も変わっているはずである。

上記の表にあるとおり、6月末時点の国債の予想売却金額の中心値は、26兆円である。10月末時点の国債の売却予定金額は、少しは減少しているはずである。一方、実質的な日銀による国債購入金額の増加額は、25兆円である。この2つの金額が非常に近いので、GPIFと日銀は裏で話し合い、公的相場操縦を行ったという意見まで出ている。

私のGPIF資産構成変更論は、(*1)で述べたとおりである。国債を安全資産とは正反対にある全資産損失確定商品とみなし、国債を全額売却して外国証券での運用に回すべきという異端の意見である。この観点からみると、今回のGPIFの資産構成の変更は、ベストの変更ではないが、ベターな変更であると評価している。そして、GPIF保有の国債を日銀に移すべきとも主張してきた。国債という全資産損失確定商品を保有する一番ましな主体は日銀であり、金利の上昇も避けることができると考えているからである。

GPIFは、資産構成の変更にかける期間を明示していない。国債を26兆円減らすとした場合でも、期間が1年であることはないし、構成変更の開始、終了時点もわからない。これを明示した場合、高値づかみになってしまうので、当然、期間の明示などすべきではない。

私のかねてからの主張である、日銀による国債の購入を通じた機関投資家による保有資産の株式、外国証券への移動というポートフォリオ・リバランス効果の何割かが、今回はGPIFの資産保有分に関しては現実化するのである。日銀による金融緩和とGPIFの資産構成変更を足し合わせた場合と、私が常に望ましいと考えているポートフォリオ・リバランス効果とが、結果的に非常に似た内容となる。

黒田総裁とは異なり、私は、デフレの悪影響は、モノの価格の下落だけではなく、株や土地などの資産価格の下落も大きな悪影響を実体経済に与えていると考えている。加えて、日本の成長性、生産性の高い知識集約型産業の成長を促すためには、円安だけでは不十分であるにしても、円安という環境は最低限必要である。円安とそれ以上に重要な貿易・サービス収支の改善を実現させるためには、国内資金の海外への大規模な流出が不可欠である。これを実現する手段として日銀による金融緩和の強化、特に国債購入の拡大を重視してきた。この点において、10月31日の発表は、日銀とGPIFが連携プレーをする形で、円安、貿易・サービス収支の改善、株高へとつながる可能性の高い図式になる。そのため、先に述べたとおり、GPIFによる資産構成の変更と、日銀による金融緩和が同じ日に発表されたのは、偶然ではなく、裏で公的な相場操縦が行われているという主張をする人がいる。

金融緩和が実施された10月第5週の対内対外証券投資などのすでに発表された統計を見る限り、株高を実現させたのは、相変わらず海外投資家である。国内投資家の株価が上がれば売りというヒステリシス(*2)は変わっていない。また、対外証券投資は増えているが、対内証券投資の方が株式投資を中心により大きく増えており、ネットでは証券投資を通じて資金が流出しているのではなく、流入している。この状況で円安が発生するメカニズムは、銀行から短期資金が海外へと貸し出され、その資金が円のカラ売りに使われているというパターンしか考えられない。このカラ売り主体の中心は、円建て資産を250兆円以上保有する海外の機関投資家のヘッジ売りであろう。一部に投機家の資金も混ざっているであろう。

GPIFの資産構成変更計画は、10月30日のニューヨーク市場においてすでに伝わっており、少しばかり円安が進行していた。株式市場もその材料に反応して、寄り付きから堅調に推移していた。そのため、かなり以前から噂が続いていたGPIF関連のニュースは、10月31日の朝の段階で、すでに織り込み済み、材料出尽くしであったのである。GPIFを中心とする国内の公的年金も、10月31日13時44分までは、日本株や外国証券を買っていたと思われる。しかし、日銀の金融緩和の強化が発表された直後から、大量の円売り株買いが市場に殺到し、急激な円安株高が進行した。こうした注文を急激に増やしたのは、海外投資家が中心であり、国内投資家は正反対に株売りを大量に実施し、円買いも同様に実施した可能性が高い。この海外投資家の売買が急激に増加した原因は、GPIFではなく、日銀の金融緩和である。金融緩和発表後、GPIFが安い価格で外貨と株をできるだけ多く買うという一番重要な資産構成変更計画は、修正せざるをえなくなってしまったと思う。

10月31日13時44分から発生した急激な円安株高は、GPIFにとっては迷惑きわまりないものであったに違いない。GPIFは資産運用状況を年4回発表する。従って、大きく資産を動かしている期間に、GPIFが高値で資産を買ったり、安値で資産を買うことに失敗した場合、後から資産運用報告書をよく見れば、かなりの程度わかってしまうのである。資産構成の変更は、発表前から少しずつ進めていたはずであるが、発表と同じ日に日銀が予想外の金融緩和を実施したため、安値で株と外貨建て資産を大量に買うことができなくなってしまった。そして、その事実は、何ヶ月か後にわかってしまうのである。円安株高が進行していなかった7-9月期よりも、円安株高がずっと進行した10-12月期に、株や外貨建て資産をより多く買っていたことが後日にわかった場合、GPIFは下手な資産構成の変更の結果、国民の貴重な財産に損失を与えたと非難される可能性が出てくる。GPIFにとっては、日銀の予想外の金融緩和は、大変有害なものであった。構成変更の完了が同日発表であるならば、日銀の金融緩和はGPIFにとって歓迎すべきものとなる。しかし、構成変更の開始の同日発表は、GPIFにとって大きな損失以外の何ものでもありえない。

少なくとも、GPIFが日銀と安易に結託することは、絶対にありえないのである。仮に、GPIFと日銀が結託するとすれば、政府の上層部から強い圧力があった場合だけである。この場合、マスコミに情報が流れたり、GPIFの職員が内部告発をした場合、内閣と日銀を巻き込んだ大スキャンダル事件発生になることは間違いない。政府としては、株価が上がってくれるのが望ましいとしても、このような案件で、そこまで大きなリスクを取るとは考えられない。従って、公的相場操縦説は、一見もっともらしく見えても、事実ではない。

金融緩和の話に戻ると、私の立場からすると、10月31日の金融緩和を非常に高く評価しているのであるが、同時に不満も感じざるをえない。最も不満な点は、国債購入の金額が少なすぎるという点である。私は、最低でも50兆円と言ってきたので、30兆円では足りない。国債の発行残高とその保有主体を表わすグラフを下記に示す。


日銀以外の国債保有残高

上記のグラフで示したように、政府が国債発行した分以上の国債を、2013年4月以降、日銀は購入してきた。

古い日銀理論では、これこそが財政ファイナンスであり、日銀が絶対やってはならない政策である。私は、国債という全資産損失確定商品の残高がここまで巨大化した最大の原因は、日銀が財政ファイナンスを実施しなかったことであると考えている。異次元緩和を2013年4月ではなく、20年早い1993年4月に実施していたならば、ここまで、国債という毒薬の残高が増えることは、絶対にありえなかったと考えている。あまりにも手遅れであるとはいえ、国債という毒薬は、可能な限り日銀が吸収してしまうことが一番望ましい。

日銀の国債の大量購入により2014年6月末以前の過去1年間に、日銀以外の主体が保有する国債残高は、5兆円減少している。今後、国債発行金額が一定であると仮定するならば、日銀以外の主体が保有する国債残高は、5兆円プラス今回の緩和策で実際に増える金額25兆円の合計で30兆円だけ減らさざるをえなくなる。そのうち何割かはGPIFを中心とする公的年金による減少になるであろう。残りは、日銀、公的年金以外の主体である。その中心は、国内の機関投資家であるが、国債を売却した資金の何割かは、株や外国証券に振り向けざるを得ない。

30兆円では、公的年金以外の機関投資家の資金が株や外国証券に回る金額は、かなり少ない金額になると考えている。50兆→80兆円では少なすぎ、少なくとも50兆円→100兆円はほしかった。量的緩和に効果はないという意見が依然として存在している。量的緩和の効果は非常に小さいことは間違いない。今回はたまたまGPIF要因があるため、ある程度の株や外国証券への移転を見込むことができる。しかし、先に指摘したとおり、GPIFの資産構成変更がどれくらいの期間で行われるかは不明である。今回は、たまたまGPIFの資産構成変更があるため、通常の金融緩和よりも効果が大きそうであるが、どれくらい大きいかはわからない。従って、効果の見える量的緩和の金額は、少なくとも、年間100兆円以上の国債購入のような大規模な緩和である必要性が存在する。

効果の見える量的緩和が続いた場合、円安株高が安定して継続することになる。その結果としてインフレやバブルが進行すれば、それを防止するために、増加した所得や資産に対する課税をドカンと増やせばよい(*3)。インフレ、バブル防止のための増税の仕組みを作り上げることは、実際には簡単なことではない。しかし、その仕組みを作り上げることができた場合には、消費税増税の悪影響よりはるかに少ない負担ですむはずである。消費税増税の場合は、実質所得が大きく減少してしまう。インフレ、バブル防止税は、インフレとバブルによって所得や資産を増やした主体に対して、その何割かを税金として徴収するので、所得や資産の増加額が減少するだけであり、所得や資産自体の増加は続く。その場合でもいろいろと問題は発生するが、消費税の大幅増税よりは、小さなものになるはずである。インフレやバブルが進行すればするほど増税を通じた税収が急激に拡大し、財政再建が急速に進む。

こうして財政収支の黒字が拡大すれば、国債の買入消極を増やすことが可能となる。日銀が保有する長期国債をガンガン買入消却すれば、日銀が大量に保有する国債の金額を急激に減少させることが可能になる。財政再建を確たるものにするには、よりいっそうの金融緩和の強化が望ましい。2%のインフレ目標実現だけが目的なら、そこまでの金融緩和は必要ではないかもしれない。しかし、急速な財政再建を同時に実現させるためには、日銀がさらなる金融緩和の強化を実施することが、必要不可欠なのである。


リンク先記事
GPIF改革論議の問題点(*1)
株式市場のヒステリシス(*2)
インフレ抑制とバブル防止を利用した財政再建策(*3)

テーマ : 経済
ジャンル : 政治・経済

日銀ウォッチャー報告(2014年10月号)

マネタリーベース平残の推移201410(グラフ)

2014年9月の季節調整済のマネタリーベース平残は、前月比で1.6兆円増加し、244.7兆円になった。

マネタリーベース平残の推移201410(表)

上記のグラフに示したとおり、季節調整済のマネタリーベース平残は、2012年12月の白川体制の末期から増加基調が明確になった。その後は、ほぼ高水準の伸び率が続いている。9月の季節調整済のマネタリーベース平残の増加率は、前月比1%を下回り、やや低めの伸び率となった。

9月の市中資金は、4.6兆円の不足であった。そこに、国債の購入6.1兆円、短期国債の購入5.3兆円、貸出支援基金による貸し出し3兆円、共通担保オペの0.2兆円の回収などを中心とした金融調節により、合計14.1兆円の資金が供給された。金融調節後の市中資金は、9.5兆円の資金余剰となった。この資金余剰を反映して、当座預金残高は、8月末の152.1兆円から、9月末の161.5兆円へ、9.5兆円の増加となった。この当座預金残高の増加を反映して、9月の季節調整済のマネタリーベース平残は、前月比1.6兆円増加の244.7兆円になった。当座預金残高と季節調整済のマネタリーベース平残の増加に差がある理由は、9月のマネタリーベースは増加しやすいという季節要因があるためである。

2月18日の金融政策決定会合で決定された、新方式による貸出支援基金による貸し出しの第2回目が9月に実施されたので、その説明をすることにする。貸出支援基金による貸出金額を表すグラフを下記に示す。


貸出支援基金201410

9月分は、成長基盤強化支援資金供給の貸し出し増加額は、4077億円(ドル特則8.74億ドルを除く)であった。貸出増加支援資金供給の貸し出し増加額は、2兆5565億円となった。9月末のドル特則をも含む貸出支援基金全体の残高は、8月末比で3兆1124億円増加の20兆9763億円となった。これは、2014年末の18兆円という目標を上回る金額である。年内にあと1回、12月に貸出支援基金による貸し出し実施が予定されている。現在すでに目標を約3兆円上回っているが、12月末には、5-7兆円程度まで上回ることになりそうである。

日銀BSとMB(実績と予想)201410

通常は月末の数字を掲載しているが、今月は発表日が遅いので、9月20日時点の数字を上記の表に示した。上表から、今年9月20日までの過去1年弱の期間に、国債の残高は55兆円増加し、今年9月末までの過去1年の期間に、マネタリーベース残高は67兆円の増加となった。年間増加目標は、国債が50兆円、マネタリーベースは60兆円~70兆円である。国債の増加額は依然として少し多めであり、マネタリーベースの増加額は予定通りの金額となっている。

今年の年末時点におけるマネタリーベースの予定残高は、270兆円である。残り3ヶ月間で増やすので、マネタリーベース末残は、月間5.8兆円の純増が必要である。

10月の市中資金は、12.1兆円の不足となる。10月の資金供給は、国債の購入が、9月並の6兆円と想定する。短期国債の購入は、8月よりやや多めの8兆円と想定する。後に記すが、短期国債の金利がマイナスになっても日銀は問題なしとしているので、従来通りの短期国債の購入を実施することを想定した。共通担保オペの回収額は、9月より少し増えて0.5兆円と想定する。貸出支援基金による貸し出しは、10月には予定されていない。この結果、10月の資金供給は、合計で13.5兆円となる。10月末のマネタリーベース末残は、「13.5兆円マイナス12.1兆円」に等しい前月比1.4兆円の増加と予想する。季節調整済のマネタリーベース平残の増加額は、前月比で1.4兆円を上回る金額になると予想する。

最近、短期国債にマイナス金利が発生している。日銀は問題なしとしているが、私は問題ありと考えている。日銀が獲得するはずの通貨発行益が減少するからである。すでに国債は前年比55兆円(厳密には1年弱)と目標より多めの金額を購入している。年間50兆円の目標を60兆円に引き上げるべきである。その他、先に書いたとおり、貸出支援基金による貸出金額が5-7兆円程度の超過達成が確実である。準備預金の超過分に対する付利+0.1%だけで通貨発行益が減るのであるから、二重に通貨発行益を減らすことは好ましくない。短期国債購入予定額を大幅に減額し、マイナス金利の短期国債を購入することは避けるべきである。プラス金利の国債の買い増しと、プラス金利の貸出支援基金による貸し出しの方が望ましい。マイナス金利の短期国債を無理して買わなくても、マネタリーベースの年末目標額270兆円を達成することは、十分可能であるのだ。

今月号でも、過去1ヶ月間に発表された重要と思われる統計をいくつか取り上げ、その意味を説明することにする。現実の日本の景気は、消費税増税以前に日銀が予定したシナリオより悪いシナリオで動き続けている。黒田総裁のデフレ脱却予想は、8月以前は当たっていた。しかし、消費税増税による景気の悪化を楽観的に見ていたが、実際に想定以上の景気悪化が発生してしまった。今後、いずれの時点かには、景気は消費税増税前の水準に回復することは間違いない。しかし、その時期を正確に予想することは不可能であり、予想してもまぐれ当たりしか起こりえない。現時点では、黒田総裁による強気の景気の現状分析や、景気は多少遅れても回復に向かうという予想に対する信頼は、かなり失墜している状況である。

まずは、いつものように、コア消費者物価の推移のグラフを下記に示す。


コアCPI201410

上記のグラフで見た場合、直近の消費者物価上昇率は鈍化している。しかし、コアコアで見た場合、8月全国の上昇率は、7月と同じ+2.3%であり、心配する必要はない。しかし、9月東京の方には問題が発生している。コアコアが+2.1%から+2%へと少し低下しているからである。具体的には、衣類を中心とした半耐久消費財と、耐久消費財の上昇率低下が目立つ。今後、円安進行が止まった場合、エネルギー価格の上昇率はさらに低下する。この場合、東京コアの上昇率+2.6%はさらに低下する。消費税増税分を除いた場合、9月時点で+0.6%の上昇率にすぎないが、ここからまた下がりそうなのである。全国のコアも、+3.1%より下、すなわち、消費税増税分を除く消費者物価上昇率が、8月の+1.1%から、いずれ1%を下回る可能性が徐々に高まりつつある。

物価の動向を予想する場合、景気動向を見きわめる必要がある。日銀が想定するように、景気回復が早期に達成できた場合、人手不足がより深刻化し、賃金の上昇率がアップする。これは消費者物価の上昇につながる。消費税増税分を除く消費者物価上昇率が8月以降も1%を割らずに、遠くない時期に目標の2%を達成することが可能になる。

そこで景気動向なのであるが、まず、個人消費の動向に注目する。今までは、家計調査を基に分析を進めてきた。家計調査は非常に細かなデータが存在し、分析するには非常に有益な統計である。一方、家計調査は約9000世帯からの標本調査であり、その数字には無視ができないほど大きな誤差がいくつも含まれている。家計調査を利用する際には、そうした欠陥を頭に入れながら分析をする必要がある。

家計調査からみた消費税増税後の消費動向は、はっきり言って悪すぎる。そのため、販売サイドから見た統計を使って、実際の消費は、家計調査が示す数字よりかなり良いという見方も存在する。今回は、販売サイド、供給サイドの数字を使って消費動向を見ることにする。

まず、経済産業省の商業販売統計から、小売業の名目売上高、実質売上高を表すグラフを下記に示す。


小売業 名目実質 

見てわかるとおり、名目の売上高は前年を上回っており、かなり好調である。一方、実質の売上高は、かなり水準が低い。

まず、この売上高の大半は、財の売上高である。直近の8月には、名目値が+0.9%、実質値が-3.8%(季調済であり、原数値の前年比増加率とは異なる)になる。この名目と実質の差は、財だけの消費者物価上昇率が+4.9%であることが原因である。名目小売業の売上高も、消費者物価上昇率も、ともに消費税増税分を含んでいる。一方、消費者物価上昇率には上方へのバイアスが存在する。こうした欠陥があることは、昔から知られていた。ただ、東大日次物価指数の登場により、その欠陥が可視化されるようになった。しかし、東大日次物価指数は家計調査の品目の17%を占めるにすぎない。代替となるものが存在しないので、上方バイアスはあるが、一番正確なものに近い、総務省の消費者物価指数の中で使われている数字を使うことにする。

財の物価上昇率+4.9%のうち、消費税増税分は最大で+2.9%である。財の場合、消費税増税分を除いても、+2.0%強の物価上昇が発生している。8月の店舗調節後で見た売上高は、百貨店が-0.3%、スーパーが-0.1%と、ほぼ前年並みに近づいている。この数字は、消費税抜きベースであるが、前年比とあまり変わらなくなった。しかし、消費税増税以外の物価上昇を考えると、消費はまだ前年を約2%強下回る水準で動いている。ただ、先に示した消費者物価の上方バイアスを考えると、実際には+2%強ではなく、+2%弱になる可能性が高い。それでも、前年並み、ないしは、微減にまで戻っていることが確認できるのは、台数ベースでの統計が存在する自動車販売台数くらいであろう。

8月の家計調査で見た場合、財よりも、サービスの方が下落率が大きい。サービス支出を供給サイドから捉えることのできる統計として、第三次産業活動指数が存在する。このグラフを下記に示す。


第三次産業

上記のグラフは、消費を広義の対事業所向けサービスと、広義の対個人別サービスに分けている。そして対個人向けサービスを、「非選択的」と「し好的」の2種類に分けて示したものである。この数字は、サービスの数量ベースなので、名目値ではなく、実質値である。

広義の対事業所向けサービスの多くは、中間投入であり、GDPに直結しているわけではない。しかし、リーマンショック、消費税増税の両方の影響を大きく受け、直近でも水準は低い。一方、大半がGDPに直結する対個人向けは、非選択的サービス、例えば医療費などが含まれているのであるが、リーマンショックからも消費税増税からも小さな影響しか受けていない。高齢化が進む中、医療費などは増加し続けているので、着実に増加しつつある。対個人向けのし好的サービスは、例えば野球観戦サービスなどが含まれているのであるが、リーマンショック、東日本大震災、消費税増税のいずれからも大きな影響を受けている。消費税増税前は、駆け込み的なサービス支出増加があったが、その後は反動減となり、そこからごくわずかしか回復していない。例えば、ボウリング場というサービス業は、3月に大きく売り上げを伸ばし、4月に反動減が発生した。しかし、その後も減少傾向にある。駆け込みとその反動減はあったが、そこからの回復が発生していない。これは、最近の減少が、消費税増税による反動減ではなく、消費税増税による実質所得削減効果が続いていることが原因であるからだ。耐久消費財とは異なり、サービス支出は、消費税増税の影響を受けにくいと考えられてきた。確かに個人向け非選択的サービス支出は、影響を受けてはいない。しかし、個人向けし好的サービス支出は、大変大きな影響を受けている。この悪影響は、いつかはゼロになるはずであるが、ゼロになるのにまだかなりの時間がかかりそうである。

なお、この第三次産業活動の統計は、現時点で、7月分までしか公表されていない。足元の動向はわからないのであるが、7月であっても、反動減の解消は完全に終わっているはずである。それでも元に戻っていないということは、実質所得削減効果と考えるのが一番適切と考える。

上記の第三次産業は、農林水産業を除いたGDPの63%をカバーする大変大きな分野である。その次に大きな分野は、鉱工業生産であり、農林水産業を除いたGDPの18%を占める。そのグラフを下記に示す。


鉱工業生産201410

8月の鉱工業生産の不振、在庫率の急上昇は、予想を大きく上回る悪い結果であった。この鉱工業生産というのは、規模は第三次産業よりもずっと小さいのであるが、景気により敏感に反応するので、景気動向を理解するためには欠かせない統計である。9月以降は回復との予測になっているが、前月号で説明したとおり、予測は大きく下方修正されるのが最近の傾向である。8月にマイナスになった後、9月は多少のプラスに戻すであろうが、10月に再び低下する可能性が高い。

この鉱工業生産が衝撃を与えたもう一つの点は、1-3月期に駆け込み需要で大きく上昇した鉱工業生産が、4-6月期に反動減として減少したが、7-9月期にはその戻りとしてプラスに転じると期待されていた。それが7-9月期もまたマイナスになることがほぼ確実になったことである。この衝撃は大きかったと思う。鉱工業生産の減少は、単に消費の不振を表しているだけではなく、輸出や設備投資の不振をも表している可能性が高い。そのため、エコノミストによる7-9月期の実質GDP成長率予想の下方修正が始まりつつある。

このように、現時点で発表されている統計を見る限り、足元の経済は、順調な戻りを示すものは数が少なく、戻りが鈍い統計の方が圧倒的に多い。一方、ここからさらに下に行くことを示唆する統計は、ほとんど存在しない。すなわち、現時点における景気は、方向としては緩やかな回復方向を示しているのである。ただ、当初、日銀が想定していた速度より、かなり鈍い速度である。消費税増税前の水準にいずれは戻るのであるが、その時期が現時点では見えないのである。

足元では大きな変化が起こりつつある。それは円安である。そして株価も、一時はリーマンショック後の最高値を更新した。最近は、円安デメリット論が急速に広がっている。私は、(*1)(*2)で円安デメリット論に反論した。現時点では、狭義の円安メリットはまだ発生していない。対外資本流出が始まり、金融収支の黒字拡大が発生し、定義としてほぼ等しい経常収支の黒字拡大が発生し、同時に貿易・サービス収支が改善するまでは、狭義の円安メリットを享受することができないことを指摘した。これは、現在が、円安の行き過ぎではなく、円安が不十分であるため、日本全体がまだ狭義の円安メリットを享受できていないことを意味する。残念ながら、こうした考え方は、少数派である。

円安は、同時に金融収支の黒字拡大を伴っている場合には、貿易・サービス収支の改善につながり、日本経済にプラスの影響を与える。最近の対外対内証券売買の数字を見ると、金融収支の黒字拡大が発生している可能性が高くなってきた。株高は資産効果を通じて、消費やGDPにプラスの影響を与える。ただし、株価の上値を買うのは海外投資家だけという状況は、変わっていない。株式市場のヒステリシス(*3)には変化はなく、これを克服するのは容易なことではない。加えて、金融収支の黒字拡大が発生し、定義としてほぼ等しい経常収支の黒字拡大が発生し、同時に貿易・サービス収支の赤字縮小だけではなく、黒字転換までを実現するためには、現在の金融政策では十分ではない。それを実現可能にするためには、金融緩和のさらなる強化が必要である。現在、円安デメリット論が広がり、国債市場の機能不全が語られ、日銀による国債購入金額を増やすのが政治的により困難になりつつある。政治的な困難が増えたとしても、望ましい政策が、望ましくない政策に変わることはない。追加の大規模金融緩和を実施することが、必要不可欠であることに変わりのないことを強調したい。


リンク先記事
これ以上の円安は本当にメリットか(*1)
交易条件悪化論と中小企業損失論をこえた円安メリット論(*2)
株式市場のヒステリシス(*3)

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日銀ウォッチャー報告(2014年9月号)

マネタリーベース平残の推移201409(グラフ)

2014年8月の季節調整済のマネタリーベース平残は、前月比で6.8兆円増加し、243.1兆円になった。

マネタリーベース平残の推移201409(表)

上記のグラフに示したとおり、季節調整済のマネタリーベース平残は、2012年12月の白川体制の末期から増加基調が明確になった。その後は、ほぼ、高水準の伸び率が続いている。昨年12月に、1ヶ月間だけ前月比増加率がマイナスになったことがある。それを除けば、比較的高い伸び率が続いている。

8月の市中資金は、16.7兆円の不足であった。そこに、国債の購入6.5兆円、短期国債の購入10.5兆円、共通担保オペ0.5兆円の回収などを中心とした金融調節により、合計16.7兆円の資金が供給された。金融調節後の市中資金は、39億円という非常に少額の資金不足になった。この資金不足を反映して、当座預金残高は、7月末の152.1兆円から、8月末の152.1兆円へとほとんど変わらずであった。この当座預金残高の変動を反映して、8月の季節調整済のマネタリーベース平残は、前月比6.8兆円増加の243.1兆円になった。

当座預金残高がほとんど変わらずで、季節調整済のマネタリーベース平残が増加した理由は、8月のマネタリーベースは大きく減少しやすいという季節要因があるためである。7月も当座預金残高が0.2兆円減少する一方、季節調整済のマネタリーベース平残は9.5兆円増加した。2ヶ月連続で同じような現象が起こったのである。

日銀BSとMB(実績と予想)201409

上記の表に示したように、今年8月末までの過去12ヶ月間に、国債の残高は55.3兆円、マネタリーベース残高は66.5兆円の増加となっている。増加額としては、減少傾向が続いている。しかし、年間増加目標は、国債が50兆円、マネタリーベースは60兆円~70兆円である。国債の増加額は依然として少し多めであり、マネタリーベースの増加額は中央値近くになった。

今年の年末時点におけるマネタリーベースの予定残高は、270兆円である。残り4ヶ月間で増やすので、マネタリーベース末残は、月間5.5兆円の純増が必要である。

9月の市中資金は、3.4兆円の小幅の不足となる。以前は、9月と言えば資金余剰の月であった。しかし、昨年から資金不足の月へと変わっている。これは、日銀が保有する市場から購入した国債、短期国債の中で、9月に償還を迎えるものが12.5兆円存在する。市場から購入した国債の償還金は、本来、市場に支払われるべき資金であった。ところが、日銀の買いオペにより、償還資金が日銀に移ることになる。その結果、市中資金の不足額が12.5兆円だけ増えることになる。そのため、日銀の国債、短期国債の購入額が増えるにつれて、市中資金が不足になる月が増え、余剰になる月が減る。実際、昨年7月以降、資金余剰の月は一度も存在していない。

9月の資金供給は、国債の購入が、8月並の6.5兆円と想定する。短期国債の購入は、8月よりやや少なめの8兆円と想定する。共通担保オペの回収額は、8月より少し増えて1兆円と想定する。貸出支援基金による貸し出しは、6月並の5兆円と想定する。この結果、9月の資金供給は、合計で18.5兆円となる。9月末のマネタリーベース末残は、「18.5兆円マイナス3.4兆円」に等しい前月比15.1兆円の増加と予想する。季節調整済のマネタリーベース平残の増加額は、前月比で15.1兆円より少ない金額になると予想する。

今月号でも、過去1ヶ月間に発表された重要と思われる統計をいくつか取り上げ、その意味を説明することにする。はっきり言って、日銀が以前から繰り返し主張してきた、消費税増税後の反動減からの回復というシナリオは、はずれが決定したと言ってよい。当たっていたならば、7月は順調な回復を示し、増税前の水準まで回復していなければならない。ところが、7月の統計は、増税前のかなり下を動いており、方向性もどちらかと言えば下である。しかし、当初のシナリオからは、はずれているが、景気回復が、8月以降にずれこんでいるだけであるという可能性は、依然として存在する。

まずは、いつものように、コア消費者物価の推移のグラフを下記に示す。


コアCPI201409

消費者物価については、日銀の予想シナリオに沿った動きを示している。消費税増税分を除く物価上昇の要因は、円安と賃金上昇の割合が高い。このうち円安要因がはく落し、賃金上昇を主因とするインフレへと変化しながら、来年度に消費税増税分を除く物価上昇率が2%に達するという予想を、日銀は立てている。この日銀のシナリオは、現在でも崩れていない。ただ、このシナリオが実現する条件は、今後も順調な景気回復が継続し、労働市場の逼迫から賃金上昇率が高まることが前提である。しかし、景気回復の方は、日銀のシナリオ通りには動いていない。

次に、消費水準指数(除く住居等)と消費総合指数の動きを表すグラフを下記に示す。


消費水準・総合201409

今までは、全てを含む消費水準指数を使っていたが、変動が激しいなどの理由で、GDP統計には使われない数字を差し引いた、除く住居等の消費水準指数の数字を示した。

7月の消費水準指数は5月の底と同水準であり、悲惨なほど悪かった。これに供給サイドの数字をも考慮した消費総合指数は、7月分は未発表であるが、4月の底の水準を上回る可能性は高いが、6月から再びマイナスになる可能性が高い。つまり、7月の消費は、6月よりも悪化している可能性が高い。

次に、家計調査の数字を使って、消費を財・サービスに分けて表すグラフを下記に示す。


消費 財とサービス201409

7月の耐久消費財は、大きく回復している。しかし、これは、ノイズを含んでいる。例えば、自動車等購入の実質金額は、家計調査では、前年比+21%となっている。しかし、販売サイドの数字は、前年比マイナスである。そのため、耐久消費財は、上記のグラフほど回復していない可能性が高い。2つ前に示した消費水準指数で住居等を除く数字を使ったが、除かれているのは、住居費だけではなく、自動車等購入費も除いている。

上記のグラフから、半耐久財(衣服等)、非耐久財(食料等)、サービスも、7月は減少していることがわかる。これらは、3月以前の駆け込み需要が少なかった、もしくはなかったものである。駆け込み需要からの反動減にはなりえない。食料、サービス等の消費が7月に減少した原因は、消費税増税がもたらす所得効果、言いかえると、実質所得削減効果である。消費税増税のため、手取りの実質所得が減少し、この分消費を削減しているのである。その実質消費削減効果が横に広まって増幅され、7月になっても前月比マイナスという現象が起こっているのである。日銀は、3月以前は、この実質所得削減効果を完全に無視していた。反対に、増税により財政再建が進むという安心感から消費が増えるという、非ケインズ効果に期待していた。日本では、公共投資によるGDP引き上げの効果が大きい。つまり、ケインズ効果が大きく働く国である。従って、増税を実施したならば、非ケインズ効果ではなく、ケインズ効果が大きく働き、消費の減少を招くのである。

次に鉱工業生産の大部分を占める、製造工業の動きを示すグラフを下記に示す。


製造工業生産予測201409

鉱工業も製造工業も6月が底であり、7月は少しだけ回復した。そして、8月、9月も生産回復を予測している。しかし、グラフを見てわかるとおり、実績は予測を下回るのが普通である。そして、下方修正幅は、生産の拡大局面では少ない。しかし、生産の低下、あるいは停滞局面では、下方修正幅は大きくなる。生産予測指数は、8月+1.3%、9月+3.5%となっている。一方、7月の実績は、前月予測比で-2%、前々月予測比で-3.3%であった。8月の生産予測+1.3%は下方修正され、8月の実績はマイナスになる可能性が高い。9月は7月から見ると、+1.3%+3.5%=+4.8%というかなり高い増加が予測されている。そのため、8月比ではプラスになる可能性が高い。しかし、上記のグラフで示した43ヶ月の期間に、4.8%以上下方修正された月は、7回存在する。従って、プラスになる可能性が高いということはできるが、確実にプラスとは言い切れないのである。そして、8月、9月の下方修正が小幅にならない限り、7-9月の生産水準は、4-6月の生産水準を下回ってしまうのである。

もう一つ悪い材料を示す。それは失業率である。


失業率01409

失業率は、2009年7月の5.5%をピークにして、2014年5月の3.5%にまで低下していた。それが7月に、3.8%にまで再び上昇している。

前回、詳しく述べたとおり、日本の場合、失業率が3.5%を少し下回ったあたりから、名目賃金の上昇率は明確に加速していく。5月に3.5%にまで下がり、その後さらに下がっていけば、少なくとも名目賃金は上昇幅を拡大していたであろう。しかし、失業率3.8%の場合、名目賃金の上昇率が加速する可能性は低い。このため、6月の実質賃金上昇率-3.2%がプラスに転換するのは、かなり先のことになりそうである。1997年には、ここから名目、実質賃金がともに低下し、デフレ不況に突入した。今回、同じことが起こるとは限らないが、雇用、賃金面から正のスパイラル圧力がかかるのではなく、負のスパイラル圧力がかかる可能性は存在する。従来の日銀シナリオでは、完全雇用の達成、あるいは需給ギャップの解消が、賃金上昇圧力を生み出し、2%の物価上昇と景気回復が同時に実現するというシナリオであった。そのシナリオが崩れる可能性が高まった。

なお、この文章を書いている途中に、7月の毎月勤労統計が発表された。現金給与総額が前年比+2.6%、所定内給与が+0.7%、実質賃金が-1.4%であり、予想平均を大幅に上回る強い数字であった。ただ、他の統計と矛盾点が多く、上ブレを含む数値である可能性が高い。しかし、上ブレの大きさは、現時点ではわからない。来月以降の統計の発表を見て、改めて解説したいと思う。ただ、この統計の発表により、日銀シナリオが、遅れて実現する可能性が少し高まったのは事実である。

今まで取り上げたのは、重要ではあるが、景気回復が思わしくないことを表す統計である。しかし、ある種の統計では、消費税増税後の景気後退から順調な回復を示すものもある。それは、ソフトデータと呼ばれるものである。アンケート調査を行い、景気が良いか悪いかを答えてもらうという種類の統計である。それに対して、家計調査や鉱工業生産のような、実際の実績を示す統計は、ハードデータと呼ばれる。

日本で一番権威のあるソフトデータは、日銀短観である。1973年からデータが存在し、過去の景気動向を正確に反映している重要なソフトデータである。問題は、3ヶ月に1回しか調査が行われないので、消費税増税後では、1つしかデータが存在しない。これでは、現時点で判断を下すことは不可能である。

最近は、日本でも、政府、民間が毎月調査を行うソフトデータが増えてきた。その中で最もよく引用される景気ウォッチャー調査のグラフを下記に示す。


景気ウォッチャー調査

見てわかるように、ハードデータとは異なり、回復の角度が鋭角的である。先行き判断は、直近は反落しているが、水準は十分に高い。ハードデータの中には、このように順調に回復しているものは少ない。一方、ソフトデータの方は、景気ウォッチャー調査と同等か、それより少し弱いものが多い。

景気の急速な回復を示すハードデータは見つけにくいが、ソフトデータは、急速な回復を示しているものが多い。これは、実際の景気以上に、人々の気分、景況感は、景気後退は一時的であり、現在、あるいは近い将来に、景気は完全に回復すると考えている人が多いことを示す。景気ウォッチャー調査は14年強の歴史しかないが、この間の景気動向を比較的正確に反映してきた。ソフトデータを信じるならば、景気は、現在、あるいは、近い将来に、回復することになる。その意味で、7月までの景気回復は、日銀の想定を間違いなく大きく下回ったが、8月以降に、想定より少し遅れて力強い回復過程に戻る可能性は残されているのである。

以上、見てきたように、7月までの景気は、当初の日銀の想定を大きく下回るものとなっている。しかし、ソフトデータの好調さから、景気が少し遅れて回復する可能性は存在する。日銀がとるべき態度は、消費税増税による景気後退を、リスク要因として見なすことである。従来は、消費税増税による景気の落ち込みは、一時的であり、その後は順調に回復するものと決めつけ、リスク要因にさえ入れていなかった。ここまで来たら、消費税増税による景気の落ち込みが長引くというリスク要因があることを、明確に示すべきである。そして、そのリスクを減らすために、異次元緩和以上に回復効果が誰にも見えやすい追加金融緩和を実施し、景気が回復しない可能性を可能な限り低くすべきである。国債の購入金額を、年間50兆円から100兆円以上に引き上げる必要がある。国債でメシを食う既得権益集団は大反対するであろうが、そうした反対を押し切って実現させなければならない。

景気がこのまま回復しなければ、来年10月の消費税増税の実施は困難になる。すでに、増税延期の声は上がっている。景気回復が思わしくない場合には、増税延期の声はますます強まることは間違いない。その場合、安倍総理は、年内に来年10月消費税増税の決断を下すことができなくなる可能性が高い。異次元緩和の第2弾を実施した場合、その本物の効果が発生するまで時間がかかる。しかし、円安株高の進行により、ソフトデータはさらに大幅に上昇し、すなわち景況感は非常に良くなり、その結果、増税延期の声は減少し、安倍総理は来年10月の消費税増税の決断を下すことができるであろう。そして、来年10月までには、国内投資家の資金の海外流出額が拡大し始め、金融収支の黒字拡大と、それとほとんど定義の等しい経常収支の黒字拡大が発生する。経常収支の黒字が拡大すると、純輸出は間違いなく増加し、景気回復は確実なものとなる。可能性は低いが、景気が過熱して、インフレとバブルが進行すれば、所得、あるいは資産が拡大している人、ないしは法人が必ず存在するので、その所得や資産に対する税金をドカンと引き上げればよい。消費税増税の何倍もの税収を獲得し、一気に財政再建を進めるチャンス到来となる。正しい政策は、政府と日銀が協力して成し遂げなければならない。政府が、インフレやバブルが発生した場合には、消費税増税にさらにプラスして増税を実施して、インフレとバブルを封じ込めることを宣言すべきである。その上で、日銀が異次元緩和の第2弾を実施することが、必要不可欠なのである。

テーマ : 経済
ジャンル : 政治・経済

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