日本国内の投資家による止まらない日本株売りとその損失

日本の株価が上がらない。5月7日に日経平均株価は前年比上昇率がマイナスに転落した。TOPIXは、4月11日に前年の水準を下回り、その後少しプラスに戻したが、4月25日に再びマイナスになった。ここでは、アベノミクス相場が始まった2012月11月第2週から、直近の2014年4月第4週までの期間を、1年前の以前と以後に分けることにする。2014年4月第4週(4月26日)のTOPIXは前年比で8.8ポイント上昇しているが、前日の4月25日は前年比2.79ポイントのマイナスであった。直近の1年間は、株価がほぼ横ばいで上昇していないので、その理由を調べることにする。

2012年11月第2週は、野田前首相が衆議院解散を表明した週である。この時から、大胆な金融緩和を主張していた当時の安倍自民党総裁の政策が現実のものとなると予想され、円安と株高が始まった。アベノミクス相場の出発点とも言える。2012年11月第2週以降の海外投資家による日本株の買い越し金額と、TOPIXの推移を表すグラフを下記に示す。


海外投資家の日本株株買い

海外投資家の日本株買い越し金額=国内投資家の日本株売り越し金額と考えても良い。2012年11月第2週以降、海外投資家の日本株買い越し=国内投資家の日本株売り越しの金額は急増し、その中で、TOPIXもかなりの勢いで上昇し続けた。しかし、2013年5月第1週以降は、海外投資家は買い越し基調であるが、TOPIXの上昇は明らかに鈍くなった。それから約1年、TOPIXは、結局のところは行って来いであり、1年前の水準と変わらなくなった。

この期間の日本株の投資部門別売買状況を、2012年11月第2週-2013年4月第4週(1年前より以前)と、2013年5月第1週-2014年4月第4週(過去1年間)に分けた表を下記に示す。


投資部門別売買

2012年11月第2週以降は、ほぼ海外投資家の一手買いである。事法、投信、その他法人は買い越しにはなっているが、その金額は海外投資家よりも規模がはるかに小さい。そして、過去1年間、海外投資家の日本株の買い越し金額が少し減少しただけであるが、株価の方はほとんど上がらないようになってしまった。

この海外投資家の買い越し金額=国内投資家の売り越し金額が、TOPIXをどのように動かしたかを表すグラフを下記に示す。


外国人買い短期

縦軸がTOPIXの上昇幅で、横軸が海外投資家の日本株の買い越し金額である。海外投資家の日本株の買い越し金額とTOPIXの変動幅は、正の相関が高いことがわかる。これは海外投資家が順張りの投資をしていることを表す。反対に、国内投資家は、逆バリの投資になっていることを同時に意味する。一番重要な点は、グラフの左上の第一象限である。ここには点が1つしかない。2013年7月第5週である。この週だけ、国内投資家の買い越し=海外投資家の売り越しという状況で、TOPIXが上昇した。しかし、それ以外の75週間は、株価の上昇局面では、必ず海外投資家の買い越し=国内投資家の売り越しが成立していた。国内投資家が株の上値を買い上がることはほとんどないのである。一方、表の右下、第三象限では、いくつもの点が存在している。これは、TOPIXが上昇する局面では、ほぼ間違いなく、海外投資家の買い越し=国内投資家の売り越しが成立するが、TOPIXが下落する局面では、国内投資家が売り越すケースと海外投資家が売り越すケースの2通りがあることを意味している。

上記のグラフで青点で示したアベノミクス相場の初期の頃に比べ、過去1年間の赤点は、点の位置が全体的に下か左へと移動している。これは、海外投資家の買い越し金額が少し減少する中で、TOPIXが上がりにくくなっていることを意味する。国内投資家の売り指し値が全体として下に下がっているのである。始めのうちは上値の指し値売りであったが、次第に現値かそれ以下の指し値に変わっているのである。今年に入って、海外投資家が日本株を売り越しに転じた結果、株価が大きく下がり、国内投資家は株の買い越しに転じている。それでも、4月以降、海外投資家は再び買い越し基調となったが、国内投資家の下値の指し値売りが増え、株価は下落のトレンドが続いている。

このような、海外投資家の順張り、国内投資家の逆張りは、ずっと前から続いている。1976年以降の海外投資家と国内投資家の売買動向が、TOPIXをどのように動かしたかを表すグラフを下記に示す。


外国人買い長期

株価の水準が大きく変わっているため、縦軸をTOPIXの変動幅から変動率に変えた。横軸は前の表と同じ、海外投資家の買い越し金額である。青の点が、1974年7月-1989年、すなわちバブル以前の動きを示し、赤の点が、1990年以降、すなわち、バブル崩壊後の動きを示す。見てわかるように、バブル以前は、海外投資家の逆張り=国内投資家の順張りの傾向が見られた。1990年のバブル崩壊後は、明らかに右肩上がりの正の相関を示しており、海外投資家の順張り=国内投資家の逆張りへと見事に転換している。そして、左上の第一象限に、赤点は一つも存在しない。これは、年次で見た場合、国内投資家の買い越し=海外投資家の売り越しによりTOPIXが上昇した年が、バブル崩壊後は、1年たりとも存在しなかったことを意味している。また、2013年は、年間の海外投資家の日本株の買い越し金額=国内投資家の売り越し金額が過去最高になっているが、株価上昇率は、1999年に次ぐ2番目にとどまっている。

バブル崩壊後、取引所内での海外投資家による日本株の買い越し金額=国内投資家の売り越し金額は85兆円にものぼっている。海外投資家が大量に日本株を買い越すとTOPIXは少し上昇し、海外投資家が少量の日本株を売り越すと、TOPIXは大きく下落してきた。その結果、海外投資家が巨額の日本株を買い越す中、日本の株価は下落、低迷のトレンドから抜け出すことができなかった。

この点は、私が繰り返し書いてきた、日本の株式市場におけるヒステリシス(*1)という現象である。この場合のヒステリシスとは、日本国内の投資家が、株価が上昇した場合、株を必ず売り越すという決まった行動パターンを常にとるようになり、その結果、日本の株価が上がらなくなることを意味する。ヒステリシスという病気に一度かかってしまうと、そこから抜け出すことが非常に困難になる。

昨年4月の異次元緩和は、モノの価格をある程度上昇させることに成功した。そして、一見すれば、株価を引き上げる効果も大きかったように見える。しかし、株価は上昇したが、海外投資家が過去最高の金額で日本株を買い越しただけである。国内投資家は、バブル崩壊後、ずっと株価が戻ると売るという姿勢をとり続けてきた。アベノミクス相場で株価が上昇する中、そうした売り越し金額を、過去最高の水準にまで増やしただけであるのだ。

予想や期待には、様々な種類のものが存在し、経済に様々な影響を与える。しかし同時に、予想や期待は見えないものであり、それを計測するのは非常に困難である。普通、用いられているのが、債券市場におけるブレーク・イーブン・インフレ率である。ブレーク・イーブン・インフレ率は、債券市場の投資家の期待インフレ率を見る有効な手段であると思われる。その他にも期待インフレ率を調べるために、いくつかのアンケート調査が実施されている。そこで入手できる期待インフレ率は、財・サービス価格の期待インフレ率であることが多い。

株価の将来期待を調べるためには、東証の発表する投資部門別売買状況を見ることが必要である。そこからわかることは、国内投資家の株価の将来期待は、バブル崩壊後の株価上昇局面では常に下落期待であった。その間、株価の上昇期待を持っていたのは、ほとんどの場合、海外投資家であった。これは、バブル崩壊後、ほぼ24年間以上続く現象である。アベノミクス相場の開始後、国内投資家の株価下落期待は減少したのではなく、過去最高の水準まで拡大したのである。そして、過去1年間は、海外投資家が大量に日本株を買い越しているにもかかわらず、TOPIXは上がらなくなってしまった。これは、国内投資家の株価下落期待がさらに強まったことを意味する。今年の年初に、国内投資家は、海外投資家の売り越しの結果としての株価下落局面で、NISA特需の買いもあって株の買い越しになっている。しかし、4月以降は、株価が下落する局面であるにもかからず、株を売り越している。国内投資家の株価下落期待、株価が戻れば売るというヒステリシスは、アベノミクス相場開始以降も強くなり続けているのである。

モノの価格は日銀の予想通りに上昇している。しかし、株式市場における国内投資家のヒステリシスは全く治っておらず、株価下落期待は、過去最高の水準にまで高まっているのである。ここで重要なことは、モノの価格が上昇に転じていることを理由に、金融引き締め政策をとるべきではないということである。仮に、消費者物価上昇率2%を達成した後、金融引き締め政策を実施し、株価が下落に転じ、株価の低迷が長引けば、株式市場のヒステリシスがますます強力なものとなってしまうからだ。現在のところ、日本の株式市場では、海外投資家による株の保有比率が約30%である。この比率が拡大すると、将来の日本が貧困化する大きな原因になるからである。

2013年は、円安が原因で、対外純資産は過去最高を更新した。しかし、株高が原因で、ドル建ての対外純資産は大きく減少してしまった(*2)。現在の日本は、株価を引き下げることにより、国民全体が貧しくなるのを我慢するか、株価を引き上げることにより、国民全体をある程度豊かにすると同時に、その利益の何割かを海外投資家に献上するかの、2つに1つの将来しか存在していない。現在の政策の延長線上には、海外投資家の日本株保有比率が、30%から50%、あるいはそれ以上にまで上昇し、日本の株価が上がればその利益のより多くの部分を海外投資家に献上する傾向が強まるばかりである。潜在成長率が低下し、加えて、海外投資家に利益を献上すれば、日本国内の貧困化は進むばかりである。ここは、あらゆる手段を使って、国内投資家が日本株を買い越すように誘導させるような政策をとり、将来の富の海外流出を可能な限り減らすことが必要不可欠である。

異次元緩和という、文字通りの普通ではない強力な金融緩和が実施されたことは、高く評価されるべきである。普通なら、異次元緩和という大規模な金融緩和策が実施されたならば、国内投資家は日本株の買い越しに転じるか、売り越し金額を減らすのが、当然予想される結果であるはずだ。しかし、実際には、日本の国内投資家は過去最高の規模で株を売り越し始めた。そして、過去1年間に、株価は上がらなくなり、直近では株価の下落局面でも株を売り越し始めるようになった。異次元緩和でさえも、日本の株式市場に強くこびり付いたヒステリシスを解決するのに全く役に立たなかったのである。今回、株価の上昇トレンドが定着しなければ、ヒステリシスは今後さらに強まるだけである。この将来的な損失は、計算が不可能なほど大きい。そしてもう一つの大きな問題は、このヒステリシスという大問題が問題として認識されていないことである。「バブルを再燃させる金融緩和は絶対反対」という長年誤り続けたにもかかわらず、現在でも根強く存在する思想が、将来の日本をより大きく貧困化させるのである。

今、必要とされる政策は、国内投資家による株の買い越しが定着するまで、金融緩和の強化を続ける政策である。そのためには異次元緩和をさらに何次元も上回る金融緩和が必要である。日銀が国債の買い取り金額を大幅に増やしていけば、国債という運用手段を失った国内投資家の資金は、消去法的だが株式市場に流入していかざるをえなくなる。従って、異次元緩和をさらに何次元も上回る金融緩和の強化を実施した場合、ヒステリシスという重い病気は治療可能である。しかしその場合、消費者物価は2%をこえて上昇するはずである。その際、金融引き締めを行ってはならない。金融緩和を強化しながら、所得税の大規模な増税や、消費税増税の上のせなどによる総需要抑制策をとるべきである。インフレによる所得の増加分を大規模な増税で吸い上げ、インフレを押さえ込み、長期金利の上昇を限定的なものにするのである。この政策を実施する前後の時期には、政治的にも経済的にも相当大きな混乱が起こることが予想されるが、そのコストを支払ってもやり抜く必要がある。そして金融緩和の強化を続け、国内投資家による株の買い越しが続き、その結果、海外投資家の日本株保有比率が大きく低下するようになるまで待つ必要がある。それが達成された場合、金融緩和の強化を維持しながら、株にかかるキャピタルゲイン税率を大幅に引き上げ、バブルの進行を防止し、税収を大幅に増やせば良い。これで財政再建が一挙に進む。

日本が抱えるデフレという問題は、モノのデフレだけではない。資産デフレもモノ以上に深刻なのである。経済のストック化の中で、日本は対外資産の量と収益率を増やし、稼げなくなった輸出産業を補完する必要性が増している。しかし、現在の日本は世界最大の対外純資産を持つとは言え、日本の株価が上がるとドル建ての対外純資産が減少(円安が進行しなければ円建てでも減少)するという構造になっている。日本自体が稼ぐ主体にならなければならないのにもかかわらず、外国が少額の投資で、日本の株高により大金を稼ぐという構造ができ上がってしまっているのである。現時点において、日本は世界最大の対外純資産を保有しているが、日本の株価が大きく上昇すると、経常赤字の金額とはケタ違いの富が海外に流出し、日本の対外純資産は大きく減少してしまうのである。

24年間以上の株価低迷の結果、とてつもなく強力なものとなったヒステリシスから抜け出すための政策は、最優先になされなければならない。ヒステリシスが生み出す大きな損失、すなわち対外純資産の大幅な減少についての認識を広めなければならない。モノのインフレ率を2%に引き上げるだけでは全く不十分である。そして、国内投資家が日本株を大量に買い越すようになるまで、追加の大規模な金融緩和を継続し続けることが何よりも必要なのである。


リンク先記事
日本の株式市場のヒステリシス(*1)
2013年末対外純資産が過去最高を更新 ドル建てでは減少(*2)

テーマ : 経済
ジャンル : 政治・経済

過去最高に膨らんだ海外投資家による日本株の買い越し

2013年の1年間に、日経平均株価は56.7%上昇した。上昇率で見ると、戦後4番目という大幅な上昇率であった。この株高を主導した主体は、誰であったのであろうか。言うまでもなく海外投資家であった。海外投資家の日本株買い越し金額=国内投資家の日本株売り越し金額を示すグラフを下記に示す。

海外投資家の売買

海外投資家は、2013年に、日本株を15.1兆円買い越した。年間の買い越し金額としては、2005年の10.3兆円を上回る過去最高であった。アベノミクス相場の出発点とも言える2012年11月第2週からの買い越し金額を計算すると、17.2兆円になる。さらに、バブル崩壊後、海外投資家が大規模な日本株の買い越しを始めた1991年からの23年間を合計すると、89兆円になる。バブル崩壊後、海外投資家は、断続的ながらも、大量に日本株を買い越してきたのである。2012年11月14日に、政権交代とともに、金融緩和が大幅に強化される可能性が高まると、海外投資家は、日本株買いのアクセルを過去に例がないほど強く踏み込み、過去最高のペースで日本株を買い越し始めたのであった。

なお、こうした買い越し売り越し金額は、東証、大証(以前は名証も含む)という取引所内だけ、すなわち流通市場だけの取引についてである。発行市場においては、主として、個人投資家、海外投資家が大手の買い越し主体であったはずである。

次に、海外投資家の日本株買いをストックベースで見ることにする。海外投資家の日本株の保有金額と保有比率を示すグラフを下記に示す。


海外 日本株 保有金額比率

バブル崩壊直後の1989年度末、すなわち1990年3月31日時点において、海外投資家の日本株保有金額は21兆円、保有比率は4.2%であった。その後、断続的に日本株を大量に買い越してきたため、2013年3月31日時点で、海外投資家の日本株保有金額は106兆円、保有比率は28%にまで上昇した。2013年末時点での数字をごくおおざっぱに計算してみると、保有金額は150兆円前後、保有比率は32%前後にまで拡大していると推計する。

発展途上国の中には、海外投資家の自国株式に対する買いに対して、外資規制をかけている国が存在する。私は、先進国の場合、そのような規制をかけるべきではないと考える。株式市場は、原則として自由であるべきである。複雑な規制は、自由な市場を維持するために不可欠であるが、自由な市場自体を規制することは、極力避けるべきである。それでも、海外投資家による日本株の大規模保有は、日本経済にとってデメリットが多いのも事実である。対外純資産の減少(*1)、海外投資家の日本株買いに伴う円高の進行、配当金支払いによる所得収支の黒字幅縮小、日本企業の経営者が、日本の国益より、海外の株主の利益を重視せざるをえないという悪い意味での経営の国際化の進展、などである。

次に、国内投資家の売買について見ることにする。主要な国内投資家の投資部門別売買状況を掲載したグラフを下記に示す。


国内投資家の売買

国内の流通市場だけでの売買であるので、最初に記した通り、国内投資家の売り越し金額=海外投資家の買い越し金額が成立する。主要な国内投資家は、バブル崩壊後は軒並み売り越し基調である。昨年の海外投資家の15.1兆円という過去最高の大幅な買い越しに対しては、個人投資家、次いで信託銀行が売り向かっていた。

個人投資家は、発行市場で常に株を購入しているので、流通市場では売り越しになりやすい。加えて、2014年から株式譲渡所得に対する増税が決定されていたので、例年よりは売り越し金額が拡大することは予想できた。しかし、それらを考慮しても、年間8.8兆円という過去最高の売り越し金額は、やや衝撃的なほど大きかった。信託銀行は、2000年代の前半あたりまでは、年金資金が恒常的に流入し、運用資産が増加していた。しかし、高齢化の進展とともに、運用資産が減少する年も増えてきた。2013年の4兆円の売り越し金額は、過去3番目の金額であるが、株価上昇時には、この程度の売り越しは、過去の売買から見ると、想定可能な範囲内での売り越し金額であったと思う。

こうした株価上昇時の国内投資家の売り越しというパターンは、バブル崩壊以降、不変の行動パターンである。1980年代後半のバブルの時期に、株を買い上がっていた投資家は、銀行(当時は信託銀行も含む)、投信などの国内投資家であった。1番最初に示したグラフを詳しく見ればわかるのだが、バブルが崩壊した1991年以降、株価が上昇する年には、海外投資家の買い越し=国内投資家の売り越しという現象が必ず発生していた(*2で詳細を説明)。バブル崩壊後、海外投資家が日本株を買い越すことなしに、株価が上昇したことは、一度もなかったのである。この法則が、2012年11月以降、規模が大幅に拡大し、海外投資家の買い越し金額=国内投資家の売り越し金額が年間で15.1兆円と大幅に膨らみ、2013年の株価が前年比56.7%上昇という、戦後4番目の大幅な株価上昇につながったのであった。

2001年に小泉内閣が誕生してから、「貯蓄から投資へ」というスローガンが唱えられ、個人投資家による株式投資の増加をはかるという政府の政策が、初めて姿を見せ始めた。しかし、この背景には、当時の日本の株式持ち合い構造を、スムーズに解消させたいという意図が見え過ぎていた。銀行などの金融機関が、株価下落で損をするのは好ましくない、損をするような金融商品は個人投資家に買わせよう、と政府は考えていたのであった。個人投資家は、以前から発行市場で株を大量に買っていたので、流通市場においては、株を売り続けるしかなかった。結果として、国内で買い手が少なくなった日本株は、海外投資家が大量に買うという結果にならざるをえなかった。先に書いた通り、外資の排除は誤りではある。しかし、外資の株式保有が増え過ぎないように、個人投資家だけではなく、他の多くの国内投資家の資金を株式市場に誘導する政策は、必要不可欠である。

次に、株式市場のバリエーション、すなわちPERの推移を下記に示す。


TOPIX PER


2009年の年初から1年半ほどの間、TOPIXベースでのPERが無くなったり、水準が大幅に高くなる現象が発生している。これは、リーマンショック後の超円高、デフレ不況で、上場企業の収益が赤字に転落し、その後の収益の水準も低かったためである。似たような現象は、1990年代に、銀行が不良債権の償却で大幅な赤字となり、PERが無くなったり、水準が大幅に高くなる現象がより長期間発生したことがあった。直近のPERは、過去と比較して、高いとは言えない。これは、円安と景気回復の結果として、企業収益が大幅に改善したためである。直近のPERはやや上昇傾向である。もう少し詳しく見ると、14.03倍(2012年11月14日、野田前総理の衆議院解散発言があった日)→17.26倍(2012年末)→17.17倍(2013年末)である。昨年1年間だけを見てみると、株価は56.7%上昇したが、その要因は企業収益の拡大が原因であり、PERは小幅ながら低下していたのである。

昨年1年間は、主として円安をきっかけにして景気が回復し、企業収益は大幅に増加した。その結果、海外投資家は過去最高の年間15.1兆円の日本株を買い越してきたが、国内投資家はそれと同金額の日本株を売り越してきた。その結果としての株価上昇は、企業収益の大幅な増加を反映した上昇であり、PERは小幅ながら低下し、バブル的な要素は全くなかったのである。

私の目から見ると、こうした現象は、非常におかしなものと感じられる。すなわち、景気が回復し、企業収益が大幅に拡大する中、国内投資家は、年間15.1兆円という過去最大の日本株の売り越しを実施したのである。企業収益の大幅な改善は、昨年4月、7月、10月の決算発表の前に、証券アナリストたちが予想していた範囲内に、だいたいは収まっていた。証券アナリストが景気回復とともに、企業収益の見通しを強気に出したり、収益予想の上方修正が相次いだ。企業の側も、景気回復とともに、増益の見通しを相次いで発表し、それを超過して達成してきた。2013年はそうした株価にとって「良いニュース」が溢れていた。こうした企業収益が急激に増加しつつある間、国内の投資家は、ひたすら日本株を売り続けていたのであった。株式市場に良いニュースが入ってくると、まず海外投資家が大挙して日本株を買い始める。デイトレーダーなどの一部の投機家を除けば、国内の大部分の投資家は、良いニュースが出て、証券会社や株式評論家が株の購入を推奨しても、そのような推奨はほとんど無視し、もっぱら株を売ることしか考えていなかったのである。国内の投資家は、株式市場に続々と流入してくる良いニュースに対して、「買い」という反応はほとんど示さず、ひたすら「売り」という反応しか示さなかったのである。「良い材料が出ると株を売る」という行動は、はたして正常な行動パターンであるのだろうか。

こうした国内投資家の行動パターンは、バブル崩壊後からずっと続いている大変大きな病理的現象と考えている。私はこの「株価が上がれば必ず売り越す」という国内投資家の投資パターンを「株式市場のヒステリシス」と考え、解決が困難であるが、解決を真剣になって考えなければならない大問題であると何度も書いてきた(*2)

もう一つの大きな問題は、日本の株式市場関係者やエコノミストたちが、この病的な現象を、病的な現象と考えてはいないということである。海外投資家が過去最高の速度で日本株を買い越し=国内投資家が過去最高の速度で日本株を売り越し、昨年1年間だけで15.1兆円、バブル崩壊後の1991年から23年間の金額を合計すると、89兆円もの日本株を国内投資家は流通市場で売り越してきたのである。バブル崩壊後に発生した病気が、年がたつにつれて重症化しているのである。この重症化してしまった病気を、病気と考える人が少なすぎることは、大変大きな問題であると考える。

それどころか、それとは正反対の病気と理解している人が多数存在している。それは、金融緩和の結果として、国内の投資家が株を買い過ぎている=バブルが発生しているという事実と正反対の認識が広まっていることである。昨年1年間、国内投資家が過去最高の速度で日本株を売り越しているという事実と、企業収益が大幅に増加し、その結果、PERが少しばかりであるが低下したという事実を認識していない人が多すぎるのである。

安倍総理の認識にも問題がある。昨年9月に、NY証券取引所で「バイ・マイ・アベノミクス」と呼びかけている。もうすでに日本株を買い過ぎている海外投資家に、日本株のさらなる買いを要請することは、誤った行動である。外資排除は望ましくないが、外資導入のやりすぎも望ましくないのである。日本は、過去23年間以上、株価上昇のほとんど全てを、海外投資家に依存し過ぎてきた。安倍総理が行わなければならないことは、国内投資家に対して日本株の買いを呼び掛けることである。昨年、企業収益が大幅に改善したにもかかわらず、国内投資家が過去最高の15.1兆円もの日本株を売り越したという事実を、国民の前で説明すべきであろう。そうして、個人だけではなく、国内のすべての投資家に対して、日本株を買うことの重要性を繰り返し呼びかけるべきである。

日本の株式市場のヒステリシスという重い病気を、安倍総理か黒田日銀総裁の周辺ブレーンの一人くらいは気がついてほしい。ヒステリシスという現象は、解決が困難な問題を指す言葉であるが、問題が長引けば、ますます解決が難しくなる。この現象を解決するためには、安倍総理が2013年の衆議院選挙の直前に発言していた「大胆な金融緩和」では力不足なのである。衆議院選挙が確実になった直後に発言していた「無制限の金融緩和」が必要なのである。2013年4月4日の異次元金融緩和は、2012年の11月から日本株を大量に売り越してきた国内投資家の投資パターンを変えることに完全に失敗した。国内投資家が日本株を本格的に買い越すようになるためには、異次元金融緩和とは何次元も次元が異なる大規模な追加金融緩和を続けることが必要なのである。今さら、金融緩和の強化により、国内投資家の資金を株式市場に向かわせて、株価を引き上げても、海外投資家の儲けが大幅に拡大し、対外純資産が大きく減少するので、完全に手遅れの段階に達している(*1で詳細を説明)。異次元金融緩和は、実施の開始が20年遅すぎたのである。それでも損失を少なくするためには、遅すぎでも実施に踏み切るしかない。国内投資家が株の上値を買い越すように転換するまで、無制限の金融緩和を実施するという政策は、遅すぎではあるが、真に求められている政策なのである。


関連記事
外国人投資家の日本株買いと対外純資産の減少(*1)
株式市場のヒステリシス(*2)




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株式市場のバブル論からヒステリシス論への転換

アベノミックスは、バブルを引き起こし、景気回復を図る政策であると批判されることがある。バブルの結果としての景気回復であるならば、次に発生するバブル崩壊後に、大変痛い目にあることが確実であるからだ。

この意見が正しいならば、諸外国に比べて、日本の株価の上昇率は高すぎることになる。ネット上で世界の長期の株価指数が入手可能なサイトは、Yahoo Finance USAである。そこから取り出すことのできる1984年4月以降の日・米・英の3ヶ国の代表的な株価指数の動きを見ることにする。


日米英の株価の推移

日本の株価の上昇率は、米英と比較して圧倒的に劣っている。日本がバブルであるならば、米英では、いずれもより大きなバブルが発生していることになる。

この他にネットで入手可能な株価データとしては、MSCIが算出する世界各国の株価指数がある。世界中の主要な機関投資家が、株のグローバル運用を行う場合、MSCIの指数をベンチマークとして採用することが一番多い。MSCIの指数は、世界の先進国、新興国を幅広く網羅しており、一番古い指数は、1969年12月から算出されている。MSCIの指数は、ネット上にも掲載されている(クリックして、さらに下から三行目のAGREEをクリック)。しかし、MSCIの指数は、MSCI・バーラ社の重要な知的財産なので、見ることはできても、無許可で転載することができない。従って、グラフをお見せすることはできない。

MSCIの指数で、1984年4月にまでさかのぼってデータが存在する国は、20ヶ国ある。その20ヶ国の1984年4月-2013年5月の株価上昇率を調べると、トップは香港、アメリカが第5位、イギリスが第12位、日本は第20位、すなわち最下位である。また、MSCIの指数が存在する先進国、新興国の43ヶ国の株価指数の大半は、2000年のITバブル崩壊の直前、2007年のアメリカ住宅バブル崩壊の直前、直近、という3つの期間に株価のピ-クをつけている。日本は1989年12月が株価のピークであり、例外に属する。日本の仲間としては、日本よりピークが少し早かったニュージーランド、日本よりピークが少し遅かった台湾があげられる。しかし、ニュージーランド、台湾は、いずれも株の配当利回りが高く、配当を考慮した投資収益率を見ると、日本は、直近がピーク比で大幅なマイナスであるのに対して、ニュージーランド、台湾は、直近がピークである。昨年11月-今年5月の期間、日本の株価は急上昇したわけであるが、世界各国の長期の株価指数の動きと比較すると、今年5月末の日本の株価は、バブルとは正反対であり、世界の中で最も株価低迷が長引いている国であることは、間違いない。

株価の過去最高値からの下落率を見ると、日本よりも、ギリシャを筆頭とするユーロ圏に属する6ヶ国の方が、下落率が大きい。しかし、こうしたユーロ圏諸国の株価下落が継続している期間は、日本より短い。加えて、ユーロ圏諸国は、現在、深刻な景気後退の最中にあるので、景気回復の時期にある日本とは、事情がかなり異なる。

昨年11月ー今年5月の日本の株価上昇を見て、バブルと主張する人たちは、海外の株式市場と比較した場合、日本の株価が、あまりにも長期間低迷し過ぎているという視点が欠けている。同時に、この期間、国内投資家は株を大幅に売り越している。加えて、長期の株価下落が経済全体に及ぼす悪影響を、低く評価しすぎている。一部の金持ちが資産を減らすだけではないことを、後で示す。

1878年に東京株式取引所が設立されて以来、日本経済が最も危機に陥った年は、1945年であった。第二次世界大戦以前の株価は、1943年にピークを打ち、その後下落に転じている。しかし、その時、政府は戦時金融公庫という組織を作り、株価の買い支えを行っていた。そのため、戦局が悪化する中でも、株価の下落はごくわずかであった。3月10日の東京大空襲で、取引所のある兜町近辺も大きな被害を受けた。それでも、3月17日から、終戦直前の8月12日まで、取引所での株の取引は続けられた。その際、戦時金融公庫に加えて、取引所自らが、国家資金を使って、株価の買い支えを実施し、株価の下落を阻止していた。東京大空襲の時点で、日本経済はほとんど崩壊寸前であったと思う。時の政府は、終戦直前まで、株価の下落と株式市場の閉鎖がより大きな経済の混乱をもたらすことを避けるために、株の無制限購入を行い、株価下落を防ぎ、取引所の機能を維持していた。時代は戦時下の統制経済の時期であったが、株式市場が日本経済に占める地位は、現在より低かった。そうした環境下において、株価の下落を阻止し、取引所の機能を維持することは、日本経済にとって、重要な政策だということを、時の政府は理解していたのである。

日本は、1989年以降、23年以上の間、株価は、傾向としては下落し続けている。仮に、こうした状況が将来もずっと続いたと仮定するならば、どのようなことが発生するであろうか。いくつかのシナリオが考えられるが、そのうち、極端であるため、わかりやすい3つのシナリオを取り上げる。一番目のシナリオは、バブル崩壊以降ずっと続いている海外投資家の買い越しvs国内投資家の売り越しのパターンが継続し、日本企業の株の大半が、海外投資家の手に渡ることである。この場合、海外投資家が大株主となった日本企業の何割かは、海外の企業に吸収合併されるか、本社を海外に移し、東証での株式上場を廃止し、海外の取引所で海外の企業として株が売買されることになるであろう。企業の機能も、日本支社に必要なものを除いて、日本から海外へ移転することになる。二番目のシナリオは、いくら買っても株価が上昇しない日本の株式市場に幻滅を感じ、海外投資家が日本株を大量に売り始めることである。この場合、日経平均株価は、スパイラル的に下落することになる。国内投資家が、際限なく下がり続ける株を、いつまでも保有し続けることはできない。その上、株価が際限なく下落した場合、上場廃止基準に抵触し、多くの企業は上場廃止に追い込まれるであろう。上場廃止となった企業の何割かは、投資家が、未上場のまま株を保有し続け、経営を続けるであろう。しかし、残りの企業は、解散させられ、財産を株主に分割して返還され、企業は消滅してしまうであろう。三番目のシナリオは、第二次世界大戦中のように、政府、あるいは、それに準ずる機関が、株の無制限購入を行うことである。この場合、上場企業の大部分の大株主が、実質的には日本国政府になる。株価が反転上昇したとしても、政府が、株を売却する意向を示せば、再び株価は低迷し続けることになる。株価の長期下落が続いた場合、上記の分かりやすい極端な三種類のシナリオが発生する可能性は低いが、三種類のシナリオが様々な組み合わせで混じりあったシナリオが発生する可能性は、高いと思われる。いずれのシナリオが発生しても、日本経済が正常な形で成長する姿は想像できず、日本経済が大打撃を受けることは間違いない。

以前、国内投資家は、株価が上昇すれば、必ず株を売るという行動に出る結果、株価が本当に上がりにくくなる、「株式市場のヒステリシス」(*1)という現象が日本で発生していることを説明した。20年以上、株価が低迷するという環境下においては、株価の戻り局面で株を売るという行動をとることが、株で儲けようとする国内投資家にとっては、必要かつ正しい行動であるからだ。その結果、日本の株価は、本当に上昇しにくくなってしまったのである。前回、記したように、昨年11月第2週以降の27週間の株高局面で、海外投資家の9.9兆円の買いに対して、国内投資家は、それと同金額の株を、過去最高の速度で売却してきた。これは、「株式市場のヒステリシス」が発生していることの明確な証拠である。しかし、それを放置し続ければ、先に示した株価下落のシナリオのように、日本経済が大打撃を受ける道へと進んでいく可能性が生じる。

4月4日に決定された異次元金融緩和は、株価の上昇を維持することも、目的の一つであったはずである。異次元金融緩和が20年前に実施されていたならば、「株式市場のヒステリシス」が発生することを、100%の確率で防ぐことができた。しかし、「株式市場のヒステリシス」が発生し、定着してしまった後において、異次元金融緩和を実施しても、「株式市場のヒステリシス」から抜け出すことが可能であるかどうかは、わからない。前回、異次元金融緩和の結果、日本株に関しても、遠くない将来、国内投資家が株を買い始めると書いた。この場合でも、国内投資家は、株価の下落局面で、株の買い越し金額を増やし、株価の上昇局面で、株の売り越し金額を減らすことまでしか、確実に期待することはできない。株価が戻り高値を更新するためには、依然として、海外投資家の買いが必要になるかもしれない。「株式市場のヒステリシス」から抜け出すことに成功するかどうかは、現時点では明らかではない。

従って、現在の異次元金融緩和だけでは、「株式市場のヒステリシス」から抜け出すことができず、異次元金融緩和の第二弾が必要になるかもしれない。しかし、インフレ率が2%に近付けば、異次元金融緩和の第二弾を発動することができなくなる。それ以外に、「株式市場のヒステリシス」から抜け出す手段として、投資家の株式市場についての認識や理解を変えてもらうという方法がある。現在の日本は、「株式市場のヒステリシス」という、大変重くて危険な病をわずらっているということを、日本の多くの投資家に理解してもらうことである。まず、昨年11月以降、株価が急速に上昇したのは、日銀の金融緩和によって余った資金が株式市場に流れ込み、バブルが発生しているという考え方は、完全に間違っていることを、理解してもらう必要がある。昨年11月以降、国内投資家の資金は、過去最高の速度で株式市場から逃げ出していたのである。直近の株価の水準も、諸外国の株価と比較した場合、非常に低い水準にあることは、先に示した通りである。また、昨年11月以降の株価上昇は、海外投資家が日本株を買っているだけである、と正しく理解している人も増えている。しかし、その理解は正しいけれども、十分な理解ではない。国内投資家が過去最高の速度で株を売却するという、「株式市場のヒステリシス」が発生しており、放置したならば、日本経済が大打撃を受ける可能性があるというところまで、理解を深めてもらう必要がある。

株価というのは、単に、企業収益だけで決定されるものではない。投資家の株式市場に関する現状認識や先行きの予想に大きく左右される。バブル崩壊後、国内投資家は、企業収益が改善し、株価が上昇する局面で、株を大規模に売却し、企業収益が悪化し、株価が下落する局面で、株を小規模に購入してきた。現在直面している大問題が、「株式市場のヒステリシス」であり、放置した場合、日本経済が大打撃を受ける可能性があるという理解が、多くの国内投資家に広まる必要がある。そうなれば、株価が上昇した場合、従来のように簡単に株を売ることを躊躇する国内投資家が増えると思う。「株式市場のヒステリシス」から抜け出すためには、何が必要かを真剣に考える国内投資家が増えると思う。「株価が上がれば株を売る」という国内投資家の凝り固まった行動パターンに変化が生じれば、その時、「株式市場のヒステリシス」から抜け出すことが可能になる道が開けるのである。

「株式市場のヒステリシス」から抜け出すことに成功し、株価の上昇が継続したならば、その時は、景気回復の結果、企業業績は改善し、名目、実質のGDPは増加してくることになる。その段階まで達することができたならば、株価がファンダメンタルズをこえて、さらに上昇するという本物のバブルが発生しないように、株価をコントロールする必要が出てくる。その手段としては、金融引き締め政策への転換ではなく、増税という財政政策を使うことが、正しい政策であると考える。

現時点においては、多くの国内投資家に、現状の認識、理解を、「株式市場のバブル論」から「株式市場のヒステリシス論」へと変えてもらうことが必要である。日本の株価は、上がることが問題なのではなく、上がりにくい強固な構造が出来上がってしまっていることが、真の問題なのである。その認識、理解が広まれば、脱出が困難な「株式市場のヒステリシス」から抜け出す道が、先に見えてくるのである。

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株式市場のヒステリシス(*1)

テーマ : 経済
ジャンル : 政治・経済

外国人投資家の日本株買いと日本人投資家の株式離れ

投資部門別売買状況 長期棒グラフ
投資部門別売買状況 棒グラフ

2013年4月第2週の外国人投資家の日本株買い越し金額は、1兆5865億円と過去最高を更新した。これは、日本人投資家が過去最高の速度で株を売却していることを意味する。

4月4日に日銀による異次元の金融緩和の実施が発表された。その後、外国人投資家は猛烈に日本株を買い、日本人投資家は猛烈に株を売却した。

ちなみに、外国人投資家は3月第1週に日本株を1兆0173億円買い越しているが、これは、4月第2週に次ぐ過去第2位の買い越し金額である。

日本人投資家が売却した巨額の株式売却代金は、債券や預金へと移動している。こうした日本人投資家の資金の移動は、果たして、正しいのであろうか。


投資部門別売買状況 表

(4月第2週は、外国人投資家が一手で日本株を買い越し、日本人投資家は全部門で売り越している。中でも、個人投資家の売り越し金額は、過去最高となった)

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グレートローテーションによる損失の拡大

世界の多くの市場において、株価が上昇し、グレートローテションという言葉が流行している。債券、預金などの安全資産から、株などのリスク資産への資金の移動を意味する言葉である。しかし、日本においては、世界と異なる現象が発生している。日本の株式市場が抱える問題点について、今までに何度も触れてきたが、今回はその問題点をもう一度まとめることにする。

昨年の11月14日、当時の野田総理による衆議院解散の発言があって以来、円安・株高が急速に進行した。株価については、ほぼ一直線の上昇が続いているため、すでに株式相場バブル論が、あちらこちらで語られるようになっている。

しかし、日本の日経平均株価は、1989年末の最高値から68%下落した状態にあり、史上最高値を更新しているアメリカのNYダウとは相当大きな開きがある。1980年以降の、日本とアメリカの株価の推移を下記に示す。


日本、アメリカの株価推移

1980年代後半の日本のバブルの時代を除いては、アメリカの株価は日本の株価を大きく上回る上昇を示している。2007年の終わり頃から住宅バブル崩壊が始まり、翌2008年のリーマンショックで一時的に大きく下落したが、2013年3月5日に史上最高値をあっさり更新した。日本の株価が23年以上低迷しているのと、大きな違いである。

ではこの間、日本とアメリカのGDPはどのように推移してきたのであろうか。まず、日本とアメリカの名目GDPの推移を下記に示す。


日本、アメリカの名目GDPの推移

日本、アメリカの名目GDPは、株価ほどの差はないが、それでも過去33年間にかなりの格差を生じている。

次に、日本とアメリカの実質GDPの推移を下記に示す。


日本、アメリカの実質GDPの推移

実質GDPの差は、名目GDPの差よりもさらに縮まる。それでも、日本のバブルが崩壊した後は、日本よりアメリカの方が実質GDP成長率が高い状態が続いている。アメリカを震源とする住宅バブル崩壊、リーマンショックにより、日本、アメリカの両国はいずれも打撃を受けた。しかし、実質GDPの減少率は、震源地であるアメリカよりも、当初は影響が少ないと考えられていた日本の方が大きく、その後の回復過程もアメリカの方が順調である。

株価の差>名目GDPの差>実質GDPの差、であるのだが、株価が順調に上がってくれた方が実質GDPの上昇率が高まりやすい傾向があることは理解できる。

では、日本の株価がここまで低迷し続けてきた理由は何なのであろうか。その原因を探るために、日本株の投資部門別の売買状況の長期の動向を下記に示す。


日本株 投資部門別売買状況 長期

バブル以前は、日本人投資家が日本株を買い越し、外国人投資家が売り越していた。バブル崩壊後の最大の買い主体は、外国人投資家である。外国人投資家は、1991年-2012年の22年間に日本株を74兆円買い越している。外国人投資家が大量に買い越すと、日経平均株価は上昇し、外国人投資家の買い越しが減少したり、売り越しに転じたりした場合には、日経平均株価は下落している。バブル崩壊後の日経平均株価は、最大で82%下落した。もし仮に、外国人投資家の買いが無かったとしたならば、日経平均株価はもっと大きく下落していたはずである。その場合、バブル崩壊の悪影響は、より大きなものとなっていたことは間違いない。外国人投資家による巨額の日本株買いにより、日本は救われたのである。一方、その巨大なツケを将来支払うことになる。

株価上昇が常に外国人投資家主導であるという現象は、現在でも変わっていない。日本株の投資部門別の売買状況の短期の動向を下記に示す。


日本株 投資部門別売買状況 短期

昨年11月14日に、当時の野田総理が衆議院解散を明言して以降、株価はほぼ一直線で上昇している。その間、外国人投資家は4.2兆円の日本株を買い越し、それ以外の投資家、すなわち日本人投資家は、ほとんどの主体が売り方に回っている。特に年金などの長期運用の資金を扱っている信託銀行は、売り一辺倒である。個人投資家の売り越し金額も大きい。個人投資家が買い越しになっている期間は、2週間だけあるのだが、この時の日経平均株価は、下落か横ばいである。日経平均株価が順調な上昇を示す時、個人投資家は大量に売り越している。ちなみに、日本人投資家は、昨年11月14日から外国株の売り越し金額も大幅に拡大させている。バブル崩壊以降、日本人投資家の資金は、株から債券、預金へのシフトというグレートローテーション、リスク・オフの流れが継続している。現在の世界の資金移動と正反対の方向であるが、昨年11月14日以降、そうした流れは加速化しているのである。

日本人投資家が、株価が上昇すると株を大量に売却してしまう理由は、あまりにも長期間、日本の株価が下落、または低迷を続けているからである。上がらないから新規に買わない、新規の買いがないから上がらない、という悪循環の構造が定着してしまっているからである。株などの資産運用の分野においては、ほとんどの国では、ハイリスク・ハイリターンが常識である。しかし、日本の株は、ハイリスク・マイナスリターンの期間があまりにも長く続いている。リスクを取っても、それに見合ったリターンがマイナスという異常な状態が長続きしすぎているのである。こうした環境下において、株の運用で利益を上げようとすると、戻り局面で売り抜けるしか手段がない。現在の少しばかりの株価上昇をバブルと感じる心理も、同様な病理現象であろう。日本の株価のPERが高すぎるという意見も多いが、将来の利益まで考慮すると、予想PERは現在より低くなるはずだ。私は、こうした構造を、株式市場のヒステリシス(*1)と考えており、解決方法が大変難しい問題である。

次に、直近の日本株の投資部門別株式保有比率下記に示す。


投資部門別保有株比率(日本)

2012年3月末時点における日本の上場株の最大の保有主体は、外国人投資家であった。次いで、事業法人、個人の順である。最近、株高の影響で、百貨店で高額商品の売れ行きが伸びていると報道されている。しかし、個人投資家の持ち株比率は、全体の20.4%、外国人投資家の26.3%よりも低い。日本の個人投資家よりも外国人投資家の方が、日本の株価上昇により、より多くの利益を獲得しているのである。

しかし、外国人投資家の日本株の大量保有と言う現象は、より深刻な問題を内包している。2012年3月末時点での外国人投資家の日本株保有金額は81兆円、この時の日経平均株価は10,083円であった。おおざっぱな計算をすると、日経平均株価が1,000円上昇するたびに、外国人投資家の株式保有金額は8兆円増加する。外国人の日本株保有というのは、対外資産負債残高の観点から見ると、対外負債に相当する。日本は、2011年末時点で、対外純資産を253兆円保有し、世界最大の対外純資産国である。しかし、この対外純資産は、日経平均株価が1,000円上昇すると、8兆円ずつ減少するのである。日経平均株価は、昨年11月14日から約3,600円上昇している。この結果、日本の景況感は著しく改善したのであるが、対外純資産という観点から見れば、この間の株価上昇により、少なくとも28.8円の対外純資産を失っているのである。日経平均株価が史上最高値の38,915円を更新する場合、昨年3月からの日本の対外純資産減少額は232兆円になる。外国人投資家の買いが主導して株価が史上最高値を更新する場合、対外純資産の減少額は253兆円を上回り、日本は対外純債務国に転落する可能性もありうる。対外純資産の決定要因は複雑であり、株価だけで決定されるわけではないが、可能性としては、起こりえることを否定できない。

こうした現象が起きるのは、日銀が、株価下落をあまりにも長期間放置してきたからである。1990年以降、バブルは絶対にいけない、バブルの再発は絶対に防止しなければならない、という強い信念をずっと抱いてきた。一方、バブル崩壊が日本経済に与える様々な悪影響を、あまりにも過小評価してきた。金融緩和の強化により、急激な株価下落を食い止める努力を全くしなかった。一方、過度の金融緩和がバブルの再発をもたらすことに対しては、強い警告を繰り返し発してきた。結果として、バブル崩壊後の日本株の最大の買い手は、外国人投資家となった。日銀が銀行保有株やETFの少しばかりの購入を始めたのは、株価が大きく下落した後のことであった。

1990年代前半に、ゼロ金利政策と大規模な量的緩和政策を実施していたならば、株価下落も短期間で終わり、緩やかながらも日本人投資家主導の上昇相場が続いていた可能性が高い。現にアメリカでは、リーマンショック直後に、ゼロ金利政策の導入と大規模な量的緩和政策を実施し、前の高値から5年強で、NYダウを史上最高値に戻すのに成功している。1991年以降、日本は、外国人投資家の日本株買いという、外国からの一種の借り入れによって株価を支えてきたのである。将来、元本にプレミアムを加えた形で借金を返済するしかない。なお、株式市場だけではなく、不動産市場においても同様な現象が発生しているはずであるが、基礎統計が整備されていないので、金額を計算することができない。

少子高齢化と人口減少に苦しむことが確実な日本経済は、長期的に見れば、対外純資産を取り崩す方向に進んで行くことにならざるを得ない。しかし、取り崩す前に、対外純資産が無くなってしまう可能性もゼロでは無い。バブル崩壊から20年以上にわたって、金融政策の舵取りを誤ってきた日銀の金融政策の負の遺産は、あまりにも大きい。

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