1997年の景気後退と消費税増税、アジア通貨危機、山一證券破綻

2014年4月からの消費税増税について、安部総理周辺で意見が分裂している。日銀の黒田総裁は、来年4月からの消費税増税は、断固として実施すべきだとの考え方である。一方、黒田氏を日銀総裁に推薦した浜田宏一氏、本田悦郎氏の両内閣官房参与が、来年4月からの3%増税に慎重な態度を示している。

こうした意見の分裂が見られる最大の原因は、1997年4月からの消費税増税と、その直後からの景気後退の関係をどのように考えるか、ということが最大の論点であろう。増税推進派の多くは、1997年5月に始まった景気後退の原因を、消費税増税の影響よりも、同年7月に始まったアジア通貨危機、11月の山一證券破綻の影響を重視する人が多い。増税慎重派の多くは、1997年4月から実施された消費税引き上げによる5兆円、特別所得減税打ち切りによる2兆円、社会保険料の引き上げによる2兆円、合計9兆円の実質的な増税が、1997年5月以降の景気後退の最大の原因であると考えている(この時発生していた4兆円の政府支出の削減についてはここでは触れないことにする)。

1997年前後の日本経済はどうであったか。まず当時の実質GDPのグラフを下記に示す。


実質GDP

消費税の増税実施は、1997年4月である。翌月の5月から日本経済は景気後退に突入した。その後、1999年1月に景気回復が始まるまでに発生した大きな事件も記入した。

次に、GDP統計の中の実質民間最終消費支出のグラフを下記に示す。


消費

1997年1-3月期の実質民間最終消費支出、すなわち、消費は、駆け込み需要のため大きく増加した。そして、4-6月期にはその反動で大きく低下した。7-9月期に若干戻すが、その後は、ほぼ低水準横ばいである。消費税増税推進論者の多くは、消費税増税の悪影響は、1997年4-6月期で終わっており、本来なら、7-9月期以降も、消費回復は続いていたはずである、この時、消費が戻らなかった最大の原因は、7月からのアジア通貨危機と、11月の山一證券破綻の影響であると主張する。

この考え方に対する意見は、後で述べる。ここでは、GDP統計と民間最終消費支出統計に差がある最大の原因は、設備投資が少し変わった動きを示したからであることだけを指摘しておいたい。GDP統計における実質民間企業設備のグラフを下記に示す。


投資

この時期の民間企業設備、すなわち設備投資は、実体経済の大幅な遅行指標となっている。1995年4月を頂点とする超円高の影響で、日本経済は景気後退寸前まで行くのだが、なんとかそれを乗り切った。ところが、設備投資の減少は遅行し、ボトムを打ったのは、1996年1-3月期であった。1997年5月をピークにして、景気後退が始まるのであるが、設備投資がピークを打ったのは、1997年10-12月期であった。1997年前後の設備投資は、実体経済より、かなり遅行していた。GDP統計と民間最終消費支出統計のグラフに差がある最大の原因は、設備投資の遅れた動きであった。ただ、設備投資のボトムは1998年10-12月期であり、景気のボトムであった1999年1月とほぼ一致している。

こうしたGDP統計だけを使って、主要な指標を見るだけでは、1997年5月に始まった景気後退に大きく寄与した原因が、消費税増税なのか、アジア通貨危機なのか、山一證券破綻なのか、よくわからない。

そこでまず、1997年5月に始まった景気後退が、アジア通貨危機とは無関係であることを示すグラフを下記に示す。


純輸出

GDP統計における実質輸出マイナス実質輸入、すなわち実質純輸出の変化を示すグラフである。もし仮に、アジア通貨危機の影響で日本経済が打撃を受けていたのであるならば、純輸出は減少していなければならない。ところが、その景気後退期に、純輸出は、大幅と言っていいくらい増加し続けていた。当時、輸出も輸入も両方とも減少していたが、輸出の減少は少なく、輸入の減少の方が大きかった。すなわち、1997年5月からの景気後退の最大の原因は、内需の縮小であり、純輸出、すなわち外需は、景気の落ち込みの悪影響を、かなりの程度緩和してくれていたのである。一方、2000年11月からのITバブル崩壊、2008年2月からのアメリカ住宅バブル崩壊の結果として生じた景気後退は、この純輸出が大幅なマイナスとなっている。よって、1997年7月以降のアジア通貨危機は、結果として見れば、日本経済に何の悪影響も与えなかった。日本経済を悪化させた最大の原因は、内需の落ち込み、すなわち消費の減退にあった。

次に、山一證券破綻が、消費には何の影響も与えていなかったことを示すグラフを下記に示す。


消費総合指数

GDP統計は四半期ごとであるが、GDP統計の消費に一番近い、月次の消費総合指数のグラフを示した。山一證券破綻は、1997年11月24日であった。この日、山一證券の野澤社長は、テレビの前で、「飛ばし」があったこと謝罪し、涙を流しながら、悪いのは経営陣だけであり、社員は何も悪くないことを訴えた。確かに、このテレビでの謝罪シーンは衝撃的であった。しかし、個人消費には何の影響も与えていない。1997年4月に前月比で6.4%減少した個人消費は、10月にかけて緩やかに回復したが、11月になって2.3%減少している。山一證券破綻は11月24日なので、山一證券破綻が11月の個人消費を比較的大きく減少させた理由にはならない。山一證券破綻が、個人消費に悪影響を与えていたならば、12月の個人消費こそは、大きく減少しなければならなかった。しかし、実際には、12月の個人消費は、11月比で+0.6%である。これは、山一證券破綻が、個人消費に何一つ悪影響を及ぼさなかった明確な証拠である。設備投資が山一證券破綻により影響を受けた可能性は、完全には否定できない。先に示したグラフの通り、設備投資は、山一證券が破綻した1997年10-12月をピークにして下落に転じているからである。ただ、山一證券の破綻の原因は、「飛ばし」という不正経理であった。この後に発生した日興コーディアルグループ、オリンパスと同じ部類に属する原因であり、当時、問題となっていた銀行の不良債権問題ではない。そして、山一證券破綻の結果、公的資金が1000億円強失われた。一方、1998年の終わりに破綻した長銀と日債銀では、両行あわせて7兆円以上の公的資金が失われている。経済に与えた悪影響は、山一證券よりも、長銀、日債銀の破綻の方がはるかに影響が大きかったはずである。山一證券よりも、はるかに影響力の大きい長銀、日債銀の破綻と同時期に設備投資は底を打ち、その後、急速な回復を示している。山一證券は廃業し、長銀、日債銀は、名前を変えて生き残ったという破綻処理の仕方が異なることは考慮する必要がある。しかし、長銀、日債銀の破綻後に設備投資が急回復しているのを見ると、1997年10-12月以降の設備投資の急減に、山一證券破綻が影響を及ぼしたとは考えられない。1997年10-12月以降の設備投資の急落は、消費減退、不況突入にもかかわらず、設備投資を増やし過ぎたストック調整が最大の原因であろう。

GDP統計よりも、より景気に連動する、景気動向指数のグラフを下記に記す。


景気動向指数

一致指数は、1997年5月から、1999年1月にかけて、きれいな曲線を描きながら低下している。そして、その数ヶ月前を、見事に先行指数が先回りして低下し、反転している。1997年5月をピークにして景気後退が始まった原因は何なのであろうか。それは、景気回復が43ヶ月続き、景気を引き上げる牽引力が小さくなっていたところに、消費税を中心とする9兆円の増税があったからである。アジア通貨危機、山一證券、長銀、日債銀の破綻など、いろいろな事件が発生したが、そうした事件は、景気動向に不思議なくらい悪影響を及ぼさなかった。消費税の増税が、駆け込み需要とその反動をもたらすことには、大半のエコノミストは同意するであろう。しかし、それだけではなく。1997年5月から20ヶ月もの間、景気後退が続いた最大の原因は、消費税も含む9兆円の増税であった。財政再建のために9兆円も所得を吸い上げられると、どうしても後々まで景気に悪影響を及ぼしてしまうのである。

1997年5月からの不況の原因は、消費税を含む増税であったことは、間違いない。しかし消費税増税が、必ず不況をもたらすとは限らない。1989年4月の消費税導入時には、景気にほとんど悪影響を及ぼさなかった。ヨーロッパでは消費税の増税は日常茶飯であるが、消費税増税が景気後退を引き起こした例は少ない。

問題は2014年4月の消費税増税である。私は、1997年の時のように景気後退を引き起こすかどうかはわからないが、景気に大きな悪影響を及ぼすことは間違いないと考えている。この点については、黒田総裁の見通しは甘すぎると考えており、浜田宏一氏、本田悦郎氏の考え方に近い。私が望ましいと考えている財政再建の一つの手法は、(*1)で示した通り、インフレ抑制とバブル防止を利用した財政再建策である。これから消費財増税を議論するならば、(*1)で示した案がベストであると考える。しかし、2014年4月の消費税増税法案は、とっくの昔に成立しており、市場もそれを前提として動いてきた。私が一番恐れるのは、財政破綻リスクである。現在の財政政策の延長線上に、財政破綻リスクが発生し、金利の大幅な上昇が発生する確率は100%である。だが、それがいつ発生するのか、明日なのか30年後なのか、誰も予想できない。財政破綻リスクを回避するためには、現状のような潜在成長率を上回る経済成長が進行している場合は、スケジュール通り増税を実施することが重要である。こうした好況下で、政府が増税を延期しようと判断した場合、債券投資家に、政府は財政再建に取り組む姿勢が甘いと受け取られる可能性が出てくる。この場合、財政破綻プレミアムという形での金利の大幅な上昇が発生する可能性がある。「確率は低いかもしれないが、起こったらどえらいことになって対応できないというリスクを冒すのか。」と黒田総裁が発言したと報道されているが、この発言内容には100%同意する。加えて、消費税増税を5年に分けて1%ずつ増税するという案は、実際に消費税を負担する個人、企業に対する事務コストがかかり過ぎる上、消費税増税の転嫁が公正に行われにくくなるといった欠点があるので、現実的な案だとは思えない。この点は、浜田宏一氏、本田悦郎氏とは意見が全く異なる。

しかし、消費税増税だけを実施した場合、今度は、景気後退を誘発するリスクが出てくる。消費税増税の最大の目的は、財政再建である。消費税増税の悪影響を、消費税以外の減税や公共投資の増加という財政政策で、その悪影響を相殺する政策は、財政再建の目的に反するので、賢明な策とは思えない。残る政策は、金融政策である。量的緩和という政策は、効果が少ない政策であり、大規模に実施しなければ、意味がない。同時に、大規模に実施した場合、必ず効果が出てくる政策である(*2)。異次元金融緩和という政策は、今年4月4日に発表された時は、大きなインパクトがある政策であると感じられた。しかし、その後の5ヶ月間の動向を見る限り、依然として金融緩和が不足している可能性が高いと考えるようになった。来年3月までは、アベノミックスの第2の矢、すなわち財政支出の効果と、駆け込み需要の発生で、相当景気は良くなるはずである。しかし、来年4月以降、その反動が必ず来る。1997年の時のように景気後退が発生するとまでは言わないが、消費税増税の悪影響が長引く可能性は高いと思う。現在の金融政策を維持しただけでは、来年度も好調な経済を維持できるとは思えない。来年4月以前に、消費税増税対策のため、異次元金融緩和の第二弾を黒田総裁が出してくれることを強く期待したい。

関連記事
インフレ抑制とバブル防止を利用した財政再建策(*1)
量的緩和の効果とバーナンキの背理法(*2)

テーマ : 経済
ジャンル : 政治・経済

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消費税増税賛成

私は消費税増税賛成です。
もともと、日本の高齢リタイヤ増加によって労働力が逼迫しており、一直線の景気拡大では、すぐ完全雇用となって賃金上昇・物価高になってしまいます。完全雇用に近付く度に、消費税増税や年金支給額の上限引き下げ、健康保険の掛金増などによって、国民の頭を適度にぶっ叩く政策を採らねばなりません。ぶっ叩くのでは芸が無いので、構造改革をして生産性が低くて、他国から調達できるものは自由化して潰します。農業の就労者の平均年齢は70才近く、農村の年金を上積みしたり支給年齢を早めてでも人員整理し、老人介護など生産性が低いが必要な労働に振り向けるべきです。東京への一極集中と言われてますが、実は東京が堕ちた時点で日本は終了です。地方の自立できない産業で必要不可欠でもない産業の延命に都市の税金をつぎ込むべきではありません。
期待がたくさんある社会では、様々な思惑が渦巻く社会であり、取引が活発になり、結果として豊かな社会になります。その意味で、来年四月消費税増税をする準備をするタイムリミットまで、増税表明を先送りするのがベストです。
そうは言っても海外発経済危機が起きれば
増税するのかという別の問題は出てきます。
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