日銀ウォッチャー報告(2013年9月号)

マネタリーベース平残の推移2013008(グラフ)

2013年8月の季節調整後のマネタリーベース平残は、前月比で4.8兆円増加し、過去最高の173.7兆円となった。

マネタリーベース平残の推移201308(表)

最初に示したグラフを見て分かる通り、 一昨年3月の大震災の直後、季節調整後のマネタリーベース平残は、一旦、急増した。その後しばらく横ばいを続けていたが、上記の表で示した通り、昨年の春頃から再び増加傾向となった。今年2月の白川体制の末期から増加率は加速し、4月に黒田体制に移行してからも、高水準の増加速度が続いている。

8月の市中資金は、12.3兆円の不足であった。そこに、国債の購入6.8兆円、短期国債の購入7.5兆円、貸出金(共通担保オペ)1.1兆円を中心とした金融調節により、合計15.8兆円の資金が供給された。金融調節後の市中資金は、3.4兆円の資金余剰になった。この資金余剰のため、当座預金残高は、7月末の85.2兆円から、8月末の88.6兆円と、3.4兆円増加した。この当座預金残高の増加を反映して、8月の季節調整後のマネタリーベース平残は、前月比4.8兆円増加の173.7兆円になった。当座預金残高増加額と季節調整後のマネタリーベース平残の増加額に差がある理由は、8月のマネタリーベースは減少しやすいという季節要因があるからである。


20130903 日銀BSとMB(実績)(修正後) 201308

日銀BSとMB(予定) 201308

上記の表のように、今年の年末のマネタリーベ-スの予定残高は、200兆円であり、残り4ヶ月間、等金額で増やすと仮定した場合、マネタリーベ-ス残高は、月間5.8兆円の純増が必要である。4-8月のマネタリーベース純増額平均が月間6.2兆円であったので、今後は、マネタリーベース純増の速度を、若干下げていく必要がある。

9月については、市中資金が2.8兆円の小幅な不足となる。9月は、国債の償還が集中する月であり、従来は、資金余剰になりやすい月であった。今年は、9月に、日銀保有の国債が4.2兆円、短期国債が5.1兆円償還を迎える。日銀が市場から買い取った国債、短期国債が償還を迎えると、その金額だけ市中資金が不足する要因となる。日銀の国債、短期国債保有金額が増加し続けているので、今年の9月は、市中資金が不足になった。月々の市中資金の不足金額は、今後も着実に増加していくことになる。

9月のグロスの国債購入金額は、6.5兆円とやや少なめを想定する。短期国債の償還が5.1兆円あるため、これをすべてロールオーバーすると仮定する。9月は、貸出支援基金の貸出があり、年内貸出の6兆円の半分に当たる、3兆円の貸出があると想定する。この資金調節だけで、9月の資金供給は、国債購入で6.5兆円、短期国債購入で5.1兆円、貸出支援基金の貸出で3兆円、合計14.6兆円となる。9月の市中資金は、2.8兆円の不足なので、9月のマネタリーベース末残は、前月比で11.8兆円の大幅増加になる。月間に必要なマネタリーベース純増額は5.8兆円なので、少し多すぎるように感じる。従って、短期国債のロール
オーバー金額を少し減らして、11.8兆円マイナスアルファの増加と予想する。9月のマネタリーベースの末残、季節調整後のマネタリーベ-ス平残は、ともに過去最高の金額になることは間違いない。9月のマネタリーベ-スの末残ベースでの前月比増加金額は、6月の14兆円増加に次ぐ大幅な増加となりそうである。これは、外部環境に変化がないと仮定した場合、長期金利に引き下げの圧力がかかりやすいことを意味する。

FRBのバーナンキ議長が、5月22日の議会証言で、「労働市場の見通しが実質的かつ持続的に改善すれば、FOMCは資産買い入れペースを緩やかに縮小していく。」と、量的緩和縮小の可能性を示唆する証言を行った。この証言に最も大きく反応したのは、日経平均株価であり、翌5月23日の途中から暴落となった。今年に入ってからの日経平均株価とドル・円レートの動きを示すグラフを下記に示す。


株価と為替

為替市場においても、円が買われ、インド・ルピー、インドネシア・ルピア、ブラジル・レアル、トルコ・リラなどの新興国の通貨が一斉に下落し始めた。5月22日が、円安株高が、一旦、終了した日であり、新興国の通貨の下落、経済の混乱が始まった日である。ただ、私は、円高株安への転換と、新興国通貨の下落の間に、因果関係はないと思う。新興国通貨の下落の原因は、バーナンキ証言であろう。また、バーナンキ証言は、本来なら、米国金利上昇、日米金利差拡大をもたらし、円安要因になる。しかし、一直線に進行していた円安株高は、いずれかの時期に調整局面を迎えることは必至であった。円安株高が調整局面にいつ入ってもおかしくない時に、バーナンキ証言が出たのである。バーナンキ証言は、円高株安への転換の原因ではなく、きっかけであったと考える。

株価と為替は、ほとんど似た動きを続けている。ただ、因果関係としては、円安→株高であり、円安の方がより重要である。円安株高が止まると、早速、景気のセンチメントが悪化し始めた。景気ウォッチャー調査、消費動向調査といった、景気が良いのか、悪いのかを1000人以上の人たちから聞き取るアンケート調査に基づく指標は、昨年末から今年5月まで急激に上昇していたが、5月をピークにして若干の低下を示している。円安株高というのは、景気の気、すなわち気分を良くする効果は、大変大きいようだ。

そうした環境下で、一つだけ変わった動きをしているものがある。それは、日本の長期金利である。今年に入ってからの日本の長期金利を、他の先進諸国の長期金利の動きと合わせて下記に示す。


国債金利

結果として、日本の株価の暴落につながった5月22日のバーナンキ証言は、本来一番影響が大きいはずのアメリカの長期金利に対しては、何の影響も与えていない。アメリカの長期金利のボトムは、バーナンキ証言より3週間早い5月1日である。英、独、仏の長期金利は5月2日にボトムを打っている。それから直近に至るまで、米、英で1.2%、仏で0.8%、独で0.7%前後、金利は上昇している。新興国経済にも大きな混乱をもたらした5月22日のバーナンキ証言をほとんど無視しながら、金利は上昇し続けている。欧米の債券ディーラー・債券投資家にとっては、5月以降の経済指標が重要であり、バーナンキ議長が何を言うのかは、その前から予想し、相場に織り込んでしまっていたようである。

そうした中で、日本の国債だけが、5月22日のバーナンキ証言以降、金利の緩やかな低下に転じている。アメリカの金利が上昇し始めると、英独仏のように、日本の金利にも上昇圧力がかかるのが普通である。

こうした格差が発生する最大の原因は、日本の金融政策、異次元金融緩和であろう。国債が売られても、日銀の継続的な国債購入が金利上昇を防いできた。先月号で、4-6月に、メガバンク3行が、国債、短期国債を大量に売却していた事実を指摘した。日証協の公社債投資家別売買高という統計を見ると、7月もメガバンク3行の売りは継続している。メガバンク3行は、4月4日に異次元金融緩和が始まると同時に、金利上昇、債券価格低下を予想し、早めに国債残高を減らすための売りを出したようである。7月以降も、方向は売りであるが、以前のようにあせらずに、もっぱら金利低下、債券価格上昇の局面で売りを出すように変化したようである。メガバンク3行は、当初は、VARショック(2003年に起きた債券価格の暴落)の再来を恐れていたが、現在は、すぐに債券価格が急落するとは考えていないようである。

私は、以前から、2%のインフレ率が実現した時、実質金利(名目金利-CPI上昇率)が低下する中で、名目金利は上昇すると書いてきた。現在、低下基調にある名目金利は、いずれは上昇に転じることは間違いないと思う。仮に、金利が長期間上昇しない場合、いずれかの時期に起こる金利の急上昇を警戒する必要がある。基本的には、金利は低い方が良いのであるが、下がりすぎは良くない。日銀は、長期金利をある程度コントロールすることができるので、インフレ率や景気の動向を見ながら、長期金利が、下がり過ぎないように、また、上がり過ぎないように、国債オペを利用して、コントロールして行くことになると思う。

金融政策は、金利だけではなく、ポートフォリオ・リバランス効果を働かせ、円安株高を再発させる役割もある。しばらく待てば、資産購入の累積効果で、円安株高が再発する可能性は、ありうる。しかし、再発しない可能性もある。私は、再発しない可能性をゼロにするため、金融緩和をさらに強化することがあっても良いと考えている。黒田総裁は、現時点ではその考えは全くないようだ。その代わりに、市場の動きをよく見ながら、金融緩和の必要性が高まった時には、素早く決断し、行動してもらいたい。



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