国債投資から対外証券投資への転換による財政再建策

前回、個人や企業の資金余剰が、巨額の財政赤字の原因になるメカニズムを説明した。そして、2013年4月に実施された異次元金融緩和を20年前に実施していたならば、政府債務の残高が、現在よりはるかに低い水準に維持できたことを指摘した。現在でも、異次元金融緩和は不可欠な政策であるが、政府債務の増加速度を緩める効果はあっても、政府債務を減らすことは不可能である(*1の最後を参照)。私なりの財政再建策は(*2)で示したが、今回は、それとはまた別の財政再建策を提示してみたいと思う。

前回と同様に、資金循統計における資金過不足に注目する。財政赤字の縮小,すなわち政府部門の資金不足の縮小を目指す解決策のポイントは、個人に蓄積された余剰資金を、政府部門に誘い込むことではなく、海外部門に吸収してもらうことにある。そして、企業部門は設備投資を増やして、自ら資金を使うようになってもらうことである。そうした資金の流れを作り出すためには、まず、政府が、後ほど述べるような行動を起こす必要がある。個人部門の余剰資金が、様々なルートを経て海外に流出したならば、円安になって、輸出が増加し、貿易収支が黒字に戻り、経常黒字が拡大する。輸出を拡大するためには、企業が国内で設備投資を拡大する必要があるので、企業部門の資金余剰は減少し、やがては赤字に転落する。日本企業が多国籍化し、海外での投資が増えても、このような流れは変わらない。国内資金の海外流出が拡大すれば、輸出主導で経常収支の黒字が拡大しやすくなるからだ。その場合、企業の資金は設備投資に回り、個人の余剰資金はもっぱら海外へ流出し、政府部門が赤字から黒字に転換できる可能性が生じてくる。国内の余剰資金が解消され、政府が国債を発行して、経済を支える必要がなくなるからだ。このような財政再建のイメージを下記のグラフに示す。


資金過不足の理想

2022年度までの今後10年間の資金過不足の理想像を描いてみた。政府部門が大幅な赤字から、2015年9月に消費税率10%が実現され、その悪影響が一巡する2017年度以降、若干ながら政府部門が黒字になる姿を描いた。2007年度に、近いところまで来ていたので、容易ではないが、特に高い目標でもない。財政再建の達成にメドをつけるためには、政府部門を黒字にすることが、条件の一つとして必要なのである。以前、円安実現の手段として、異次元金融緩和をさらに大幅に強化して、キャピタルフライトを発生させるという手段を提案したことがある(*3)。国内を超々金余りにし、資金を海外に流出せざるをえないような環境を作り出すという手法である。国内産業の生産性向上のための手段として提案したものであるが、この政策は、同時に財政再建の手段にもなりうる。もう一つの手段として、政府が、資産サイドに保有する金融資産を、国内運用から海外運用へと組み替えるという手段があることを説明する。

国内運用から海外運用への金融資産の組み替えとは同じではないが、参考となる具体例は、海外に存在する。石油輸出国が海外で運用しているオイルマネーである。金持ち産油国は、石油の輸出によって稼いだ資金を、国内ではほとんど運用しなかった。最近は少し異なっているが、一昔前までは、国内には、投資機会が存在しなかったためである。そのため、石油輸出により獲得した資金は、主としてロンドンの金融機関に預けられ、そこから世界の様々な資産の運用に回された。国内に投資機会がない場合、余剰資金を海外で運用することは、当然であることに、金持ち産油国は、ずっと前から気がついていた。獲得して余ったオイルマネーを、一旦、国内の銀行に預けると仮定する。しかし、資金は銀行に滞留し、銀行の運用先がなく、銀行が困るので、政府や中央銀行が、債券を発行して、余剰資金を吸収することは、理論的には可能である。しかし、そのような形での債券発行は、国内に滞留する資金を、政府部門と銀行部門の間で回しているだけであり、新たな利子を生まない有害無益な政策である。余剰資金はすべて海外に移し、利子やキャピタルゲインを海外から獲得する方が、利益が大きくなることは、自明であった(利息禁止のイスラム金融の問題については、ここでは無視する)。ところが、金持ち産油国より、投資機会がある程度存在する多くの先進国、特に日本においては、余剰資金が発生した場合、国債発行が有害無益になることがあることに、気がついていない。

いくつかの産油国は、現在でも巨額の資金を海外で運用している。そうした資金は、最近は、ソブリン・ウエルス・ファンドと呼ばれている。しかし、情報公開が限られたものであるため、具体的にどれだけの資金を何で運用し、結果としてどれほど儲けたのかがわからない。具体的な運用資産額が記されていても、全くの推測値にすぎない例も多い。ここでは、世界最大級のソブリン・ウエルス・ファンドであり、同時に、透明性も世界一であるノルウェーの政府年金基金グローバル(GPFG)について触れてみることにする。

ノルウェーは、1990年から、北海油田の収入を原資にして、将来の年金の支払いにあてる資金を積み立てるファンドを保有している。政府年金基金グロ-バル(GPFG)と呼ばれており、運用対象は、全てが海外の株、債券、不動産である。ノルウェーはこの他にも、政府年金基金ノルウェー(GPFN)と呼ばれる、通常の政府年金基金を保有している。こちらの運用対象は、ノルウェー国内(北欧諸国を含む)の株と債券である。運用資産額は、2012年末の円に換算すると、GPFGが59兆円、GPFNが2兆円である。運用利回りは、1998年-2012年の15年間の年平均で、GPFGが5.05%、GPFNが6.58%となっている。ノルウェー政府は、余剰資金の大半を海外で運用しており、かつその海外運用での利回りは、国内運用よりも低い。それでも、資金の大半を海外で運用しているのは、国内に運用対象がないことが最大の理由である。無理に国内運用を増やしても、国内運用利回りが下がり、有害無益となるからである。ある程度の国内運用は、国内の設備投資という将来の所得製造マシンに資金を配分するために必要である。GPFNの2兆円の運用資産は、国内の投資機会に見合った投資金額なのであろう。GPFGの59兆円の運用資産から得られる収入は、外国からノルウェー国内に移転される純粋な所得である。海外運用の場合、たとえ運用利回りが低くても、マイナスが長続きしない限り、海外から資金を獲得でき、常に有益なものとなる。

日本は、ノルウェーほどではないが、国内に余剰資金を多く保有する国である。年金、保険、銀行などの金融機関は、余剰資金の多くを国債で運用しており、外国証券への投資比率は高いとは言えない。国債を中心とする国内運用は、個々の金融機関単位では、最も安全確実な運用対象である。しかし、日本という国家単位で見ると、国内で新規の投資機会が無いために発行された国債で資金運用しても、消費をしながら国内で資金を回していることになる。金持ち産油国のように、国内で余剰資金が発生した場合、速やかに資金を海外に移すことこそが、正しい政策なのである。これを言い換えると、個人レベル、企業レベルで見ると、余剰資金を貯蓄することは可能であるが、日本という国家レベルで見た場合、余剰資金を金融資産として国内に貯蓄することは不可能であり、海外に貯蓄するしか手段は残されていないのである。

日本には、公的年金という制度がある。その資産総額は、2013年3月末現在で210兆円である。公的年金の中で、一番、資産金額が大きいのは、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)である。GPIFの資産金額は、2013年3月末現在で120兆円、運用利回りは、2001年度-2012年度の平均で、2.02%である。期間は少し短いが、ノルウェーの2つの年金基金の運用利回りを下回っている。そして国が目標としている年金運用利回りである4.1%をも下回っている。2013年3月末でのポートフォリオの主要なものとしては、国内債券が62%、国内株式が15%、外国株式が12%、外国債券が10%である。

私はGPIFのポートフォリオを、外国株式40%、外国債券40%に引き上げることを提案したい。年金資金が、企業の設備投資などの、所得製造マシンに回るのであれば、国内運用にも意味があるが、余剰資金を消費に回す国債に投資し続けるのは、日本という国家単位で見た場合、有害無益である。本来、そのような国債は発行されるべきではなかった。発行されてしまった国債をすでに保有している場合、外国証券への投資に組み替えるべきである。国債は、言い換えると、「将来の増税実施の予約証書」であり、日本という国家レベルで考えると、余剰資金の国債運用は貯蓄にはならないことを理解する必要がある。

かつて、円高株安でGPIFが大きな損失を出した時、GPIFは、運用資産を、最も安全確実な国債に限定すべきだという意見が繰り返し主張されてきた。国債だけでの運用は、GPIFという運用機関の立場から見ると、一番安全確実な運用になる。しかし、年金基金が、「将来の増税実施の予約証書」である国債だけで運用し続ける場合、年金受給時かその前後に、受給資金を増税の形で全て吸い上げられる可能性が出てくる。GPIFという運用機関の立場ではなく、日本という国家レベルで見た場合、国債だけの運用とは、リスクのない安全確実な貯蓄とは正反対であり、将来の増税による全資産消失確定が発生するリスクが最も高い運用手法になるのである。「将来の増税実施の予約証書」である国債を保有していても、貯蓄にはならないケースが多いからである。従って、速やかに、外国証券に組み換えるべきである。ただ、GPIFが外国証券購入のために保有債券を大量売却すると、国内金利の上昇が発生する。それを回避するためには、日銀が直接、ないしは間接の形でその債券を買い取るスキームを作る必要がある。

国債から外国証券への投資に転換する最大の目的は、国債という増税による全資産消失確定が発生するリスクの非常に高い資産を、よりリスクの低い外国証券での運用に変えることである。運用利回りの向上は、直接的な目的ではない。ノルウェーの場合、海外投資(GPFG)は、国内投資(GPFN)よりも、運用利回りが低い。ノルウェーは、高い運用利回りを求めて海外投資をしているのではない。しかし、日本の場合、外国証券での運用比率を高めれば、長期的な運用利回りの上昇も同時に達成できてしまう可能性が高い。4.1%という不可能と思われる高い運用利回り目標も、達成できる可能性が出てくる。年金積立金運用管理独立行政法人(GPIF)と、ノルウェーの政府年金基金グローバル(GPFG)の過去12年間の運用利回りを比較する。


運用利回り

正確な利回りではないが、それに近い12年間の年間単純平均の運用利回りは、GPIFが2.19%、GPFGが5.03%と、GPFGの方が平均運用利回りが高い。その代わり、リーマンショックのような大きな危機に直面すると、一時的には損失が大きくなる。

外国証券投資には、様々なリスクがある。しかし、現在、実施しているような分散投資を徹底すれば、リスクは低くなる。最初は、すでに実施している外国株式と外国債券のインデックス運用から始めるべきである。その後は、運用のプロを時間をかけて育成していくという選択肢もあるし、永久にインデックス運用のままという選択肢もある。従来より、運用利回りの変動は大きくなるが、平均利回りも同時に上昇し、ノルウェーのように、年平均4.1%以上を達成することができる可能性が高くなる。理由は、国内中心の運用というのは、日本という老人大国中心の運用であるが、海外運用の場合、老人大国にも若者大国にもミックスして運用することになるので、老人大国中心の運用より、長期的な運用利回りが上昇する可能性が高くなると考えられるからだ。

公的年金には、GPIF以外にも国家公務員共済などがあるので、そうした公的年金も、GPIFと同様な運用にすべきだと考える。公的年金全体で210兆円、うち外国証券の残高は38兆円である。外国証券の組入比率を80%にまで引き上げるためには、あと130兆円の外国証券を購入する必要がある。これを10年に分けて購入すると仮定すると、海外部門の資金不足は、年平均で13兆円増加する圧力がかかり、政府部門の資金不足は、減少する圧力がかかる。2012年度の政府部門の資金不足は40兆円であり、これだけでは政府部門は黒字にならない。円安予想による民間部門の資金の海外流出増加、企業部門の輸出拡大と、その結果としての設備投資拡大による資金不足への転落、デフレ脱却・景気回復の結果としての自然増収、消費税の引き上げ、などの要因を加えると、政府部門の資金過不足=黒字となり、一番最初のグラフで示した理想が、現実化する可能性が高まる。政府の資金過不足がプラスになって、初めて、国債発行残高の減少につながる条件の一つが満たされることになる(プライマリーバランスの黒字化)。

ノルウェーは、北海油田の収入があるが、将来はいずれなくなるであろうという危機感が、1990年にGPFGという海外運用を始めるきっかけとなった。その点は、日本とは決定的な違いがある。その結果、現在のノルウェーは、政府部門に巨額の純資産を保有し、日本は、政府部門に巨額の純負債を保有している。しかも、日本の少子高齢化、人口減少は、ノルウェーのはるか先を進んでいる。

少子高齢化、人口減少は拡大しており、日本全体で貯蓄を増やすことのできる時間はもうそれほど長く残されていない。政府保有資産の国債から外国証券への組み替えもまた、何十年も前から始めておくべきであった。残された短い期間に、徹底的に分散化された対外資産を少しでも多く持つことが、人口減少社会にかかるオーナス(重荷)を軽減することのできる数少ない手段となる。子や孫のためには、可能な限り、資産を海外に分散して保有し、遺産として残すことが、一番望ましいのである。

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テーマ : 経済
ジャンル : 政治・経済

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No title

>私はGPIFのポートフォリオを、外国株式40%、外国債券40%に引き上げることを提案したい。

私なら、外国株式40%は賛成だが、あくまでショ-ト。売り持ちで、下落に備えたポジションを提案したい。

NYダウ 14,810.31
S&P 500種 1,632.97
DJ・ユーロ・ストックス50 2,768.34

今年12月頃に、いくらを付けているか検証してみたいと思います。

ショートは年金に向かず

ショートはデートレーダーやヘッジファンンドが、短期の利益獲得のために行う手法です。
10年-40年も先のことを考えて運用するのが年金です。年金基金はは世界に無数にありますが、ショ-ト中心の運用をする年金の話は、聞いたことがありません。
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