インフレ抑制とバブル防止を利用した財政再建策

財務省は、2013年6月末時点で、国の借金の総額が1009兆円になったことを発表した。これに地方政府、社会保障基金の借金を加えた、広義の一般政府の借金総額を計算したならば、プラス百数十兆円の借金が積み増されるであろう。これほど天文学的に拡大し、今後、さらに増え続けると予想される借金を、どのようにして返済して行けばよいのであろうか。普通は、消費税増税と社会保障支出の削減くらいしかメニューとして取り上げられない。増税と歳出削減は不可欠な政策である。しかし、超少子高齢化、人口減少社会で、増税と歳出削減だけに頼る財政再建策を実施した場合、日本経済が、プラスの成長率を維持することができると、自信を持って言える人は少ないであろう。つまり、増税と歳出削減だけに頼る財政再建という手法では、マイナスの経済成長が続き、国民全体の貧困化などが発生する可能性が考えられるからだ。

そこで、二番目の手法として、(*1)で、金融緩和を強化し、名目成長率を高めることにより、財政再建を目指す政策の可能性を考察した。1990年代初頭のバブル崩壊以降、名目成長率<名目金利の状態が長続きし、これが税収を大きく減らし、財政赤字の大幅な拡大を招いたと考えるからである。しかし、異次元金融緩和のような政策が、バブル崩壊直後の20年前に実施されていたならば、効果が大きかったが、現在では効果が小さくなっていることが(*1)での結論となった。

三番目の手法として、インフレ抑制とバブル防止を利用した財政再建策を提唱したい。

その前に、日本の経済と財政の状況を、アメリカ、イギリスと比較してみることにする。まず、IMFのデータを利用して、中央政府、地方政府、社会保障基金を合計した広義の一般政府という切り口で、日・米・英の三ヶ国の政府が抱える借金の残高を対GDP比で見ることにする。


日米英政府総債務

日本は、1990年代初頭のバブル崩壊直後から、ほぼ一貫して借金の残高が増加し続けている。アメリカ、イギリスの借金の残高が増え出したのは、2008年のリーマンショック以降のことである。

次に、借金残高のフロー、すなわち、3ヶ国が毎年増減させる財政赤字の金額を、対GDP比率で見ることにする。


日米英財政赤字

日本は、1990年代初頭のバブル崩壊以降、ほぼ継続して大幅な赤字を出し続けている。アメリカ、イギリスも1990年代初頭に不況があったが、日本より早く不況から回復し、財政収支の健全化を進め、2000年のITバブル期には財政収支が黒字になっている。その後小幅の財政赤字に転落するが、本格的に財政収支が悪化したのは、2008年のリーマンショック以降である。

次に、3ヶ国の歳出、歳入、名目GDPの推移を見ることにする。


日米英歳出
日米英歳入
日米英GDP

基本的には、歳出、歳入、名目GDPは、3ヶ国とも似たような動きを示している。すなわち、アメリカ、イギリスは、1990年以降、歳出、歳入、名目GDPは増加し続け、日本だけが増加の勢いが止まっている。1990年代初頭から日本の財政赤字が増えた最大の原因は、社会保障支出が増えた結果ではない。名目GDPが伸び悩み、歳入の増加が非常に少なかったからである。20年前に異次元金融緩和を実施し、名目成長率をアメリカ、イギリス並みに伸ばし、歳入が増えていたならば、アメリカ、イギリスと同様に、社会保障支出の拡大くらいで、財政赤字が大幅に増加することはなかったのである。その中で本気で財政再建に取り組んでいたならば、財政収支は黒字化し、政府の借金の残高も、現在よりはるかに小さなものとなっていたはずである。しかし、現在のように、潜在成長率が低下し、借金の残高が膨れ上がってしまった環境下では、異次元金融緩和を実施しても、手遅れであるのは、(*1)で示した通りである。そして、今後については、団塊の世代がほぼ引退し、就業者人口の減少と、社会保障支出の拡大が、財政の本物の重荷となるであろう

もう一つ指摘しておきたい事がある。1990年以降、日本がアメリカ、イギリスのように伸びなかったものは、名目GDPだけではないということである。3ヶ国の地価と株価の推移のグラフを見ることにする。


日米英地価
日米英株価

見ての通り、1990年代初頭のバブル崩壊以降、日本は、地価と株価とが上昇することなく、依然として下落のトレンドにある。地価については、日本では1990年代初頭のバブル崩壊後の安値を2013年に更新しているが、アメリカ、イギリスでは、リーマンショック前の住宅バブルの崩壊が、すでに底を打ち、地価の上昇局面に入っている。株価については、アメリカは株価が新高値を更新し、イギリスでも株価が最高値に近づきつつある。日本だけは、1990年代初頭のバブル崩壊前の最高値からも、リーマンショック前の高値からも、まだ遠い位置にある。

昨年11月以降の円安株高と、景気の底打ちからの回復局面の中で、インフレ率は、輸入物価を中心にして上昇に転じ始めている。インフレ率が、2年で2%になるかどうかは別にして、いずれは2%の上昇率が実現されるであろう。インフレが発生する原因はいくつかある。近い将来、日本で発生するインフレの原因として一番可能性が高い原因は、消費税の引き上げによるインフレを除けば、輸入インフレと賃金インフレである。

輸入インフレ自体は、デメリットであるが、円安という現象は、日本にとっては、メリットがデメリットを大幅に上回る(*2)。私の場合、大幅な円安実現こそが、日本経済が立ち直るために一番必要な政策であると考えている(*3)。その場合、円安が進行している間、輸入インフレは続くであろう。しかし、輸入インフレは放置しておいてもかまわない。輸入インフレの反対側で、輸出企業の競争力の回復が続くからだ。輸出企業が完全に立ち直り、円安が止まって安定するようになれば、円安を原因とする輸入インフレ率はゼロに近づく。一方、巨額の為替差益を獲得する輸出企業の収益力は大幅に拡大するので、輸出企業の賃金や、部品調達コストの引き上げなどにより、輸出企業の超過利潤は拡散していくはずである。

また、円安により景気回復が続いた場合、直近で3.9%にまで低下した失業率は、よりいっそう低下し、人手不足が深刻化し、遠からず賃金が上昇し始める可能性が高い。これは、賃金インフレであり、多くの先進国で発生するインフレの最大の原因でもある。賃金インフレが拡大し、インフレ率が2%を超えた場合、日銀は金利の引き上げに転じるべきではない。政府が、所得税を増税すべきである。消費税の増税でも構わない。増税により総需要を抑制すれば、生産に必要な労働力は、以前より少なくて済むようになる。人出不足は解消に向かい、賃金の上昇率を、年間2%+アルファ(労働生産性上昇率)で頭打ちにさせることができる。その結果、インフレ率を2%前後に押しとどめることが可能となる。一方、増税の結果、政府の税収は拡大する。インフレターゲット政策は、政府と日銀の共同作業であるべきだ。その場合、アクセルは日銀が踏み、ブレーキは政府がかける。増税というブレーキを何度も踏むことができれば、インフレ率が2%を大幅に上回ることはなく、同時に政府の税収の拡大につながる。

もう一つの問題は、資産バブルの問題である。モノのインフレ率には2%という上限があるが、資産価格の上昇率に具体的な目標はない。私は、資産価格については、2%のようなターゲットを設けるべきではないと考える。しかし同時に、政府・日銀は、資産価格に常に配慮した政策を実施すべきであると考える。1990年代初頭のバブル崩壊以降、政府・日銀は、バブルの再燃、すなわち資産価格の上昇を警戒してきた。しかし、資産デフレ、すなわち資産価格の下落に対しては、配慮はしてきたが、少なすぎた。その配慮の少なさの結果が、上記の最後の2つのグラフで示したように、アメリカ、イギリスと比較した場合の、日本の地価と株価の下がりすぎである。

今後、日本は、資産価格を着実な上昇基調へと戻す必要がある。土地については、これから人口減少率が拡大し、土地の需要が減ることは確実である。従って、昔のような金融政策を続けていたならば、地価の下落基調は続いていたであろう。4月4日の異次元金融緩和のような政策が発動されて、ようやく、地価が下落から上昇へと向かう土地が出てくるはずである。しかし、地価の上昇は、都会の一部でしか起こらないと思う。過疎化が進む地方で、地価の上昇を期待するのは難しい。つまり、異次元金融緩和などの大規模な金融緩和の結果として起こる地価の上昇は、都会の一部のみに限られた、局地的な地価のバブルとなる可能性が高い。ならば、地価が上昇する土地のみに税金をかけてはどうか。

1992年-1998年の間、地価の上昇を抑えるため、地価税が導入された。これは国税であり、土地の保有に対して課される税金であった。また、1973年-2002年の間、市町村民税の中に特別土地保有税というものが存在していた。これは、土地の取得と保有の両方に対して課せられる税金であった。今後、都会の地価の上昇が始まれば、土地の取得と保有の両方に課される新たな国税を導入すべきである。加えて、土地を細分化し、地価の上昇率が低いかマイナスの場合、税率をゼロにし、地価の上昇率の高い土地ほど、税率を高くするという税金であれば、より望ましい。このような新税が、法技術的に実現が可能かについては、よく分からない点もある。要は、地価の値上がりが見込める土地の保有者、特に投機的な短期の土地保有者に対しては、重い税金がかかるような税体系を構築すべきなのである。それにより、金融緩和の結果としての地価の局地的なバブルを防ぐことができる。そして、何段階もの税率に分かれる新税の導入により、できるだけ広範囲にわたって、地価が少しずつ値上がりするように誘導すべきである。異次元金融緩和の結果、局地的な地価のバブル発生の兆候が見られた場合、金利を引き上げてバブル発生を止めるべきではない。増税という手段を使って、広範囲の地価の緩やかな上昇が、長期間続くことを目指すべきである。その場合、地価の上昇の結果として、国富は増加し、同時に税収も増え続ける。

なお、もう一つ重要な資産として、株がある。株の場合、土地よりも、増税によるバブル抑制の手段が、はるかに難しい。株の委託取引(証券会社の自己売買以外の取引)の60%を占める外国人投資家のキャピタルゲインに対して、無理を重ねて税金をかけた場合、外国人投資家の株の売買は、東京証券取引所から海外の私設取引所へと移ってしまうであろう。これは、東京の金融センターとしての地位を大きく引き下げる。従って、可能な増税策としては、個人投資家に対するキャピタルゲイン課税の強化と、配当所得に対する課税の強化くらいしかない。配当所得の課税の強化は、国内の個人と多くの法人の対しては、増税の効果がある。しかし、多くの外国人投資家に対しては、租税条約の存在などのため、増税が困難である。ただ、株は、その時価総額が、土地の半分以下の市場規模であるため、バブル崩壊の悪影響は、土地の場合より小さい。株に対しては、増税をしてバブル化することを止めることは必要であるが、その増収規模は小さく、バブル化を完全に阻止することはできない。そうした限界を理解した上で、金利を引き上げることなく、株のキャピタルゲイン、配当に対する課税の強化を実施すべきである。

今後、金融政策は、インフレやバブルが発生するくらいの緩和的な政策を長期間続けるべきである。一方、財政政策は、増税を頻繁に繰り返すことにより、インフレのさらなる進行と資産価格がバブル化することを防ぐべきである。緩やかな物価の上昇と資産価格の上昇を、可能な限り長続きさせ、同時に税収も増やすことを目指すのである。この政策に、最初に示した歳出削減策を組み合わせた政策が、財政再建のために最も適した政策になるであろう。歳出削減策に加え、単なる増税や金融緩和策ではなく、その2つをうまく組み合わせることができれば、超少子高齢化、人口減少社会の下で、経済成長を実現できる一番可能性の高い財政再建策になると考える。

関連記事
名目成長率と名目金利の比較(*1)
円高メリット論に対する反論(*2)
生産性上昇の方法 キャピタルフライトによる円安誘導(*3)

テーマ : 経済
ジャンル : 政治・経済

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