日銀ウォッチャー報告(2013年8月号)

マネタリーベース平残の推移2013008(グラフ)

2013年7月の季節調整後のマネタリーベース平残は、前月比で4.4兆円増加し、過去最高の168.9兆円となった。

マネタリーベース平残の推移201308(表)

最初に示したグラフを見て分かる通り、 一昨年3月の大震災の際、季節調整後のマネタリーベース平残は、一旦、急増した。その後しばらく横ばいを続けていたが、上記の表で示した通り、昨年の春頃から再び増加傾向となった。今年2月の白川体制の終わり頃から増加率は加速し、4月に黒田体制に移行してからも、急速な増加が続いている。

7月の市中資金は、18.5兆円の不足であった。そこに、国債の購入7.9兆円、短期国債の購入9兆円、貸出金(共通担保オペ)1.8兆円を中心とした金融調節により、合計18.9兆円の資金が供給された。金融調節後の市中資金は、0.5兆円の資金余剰になった。この資金余剰のため、当座預金残高は、6月末の84.7兆円から、7月末の85.2兆円と、0.5兆円増加した。この当座預金残高の増加を反映して、7月の季節調整後のマネタリーベース平残は、前月比4.4兆円増加の168.9兆円になった。当座預金残高増加額と季節調整後のマネタリーベース平残の増加額に差がある最大の理由は、6月のマネタリーベースは月末にかけて急増したため、7月の平残の増加のゲタが、大きかったためである。

前月号に書いた通り、7月は市中資金の不足金額が大きく、通常のオペレーションであれば、7月のマネタリーベース末残は、前月末比でマイナスになるところであった。しかし、日銀は、主として短期国債を大量に購入することにより、7月のマネタリーベースの末残が、前月末比で0.2兆円増加(下記の表を参照)になるところまで、資金供給を増やした。これは、黒田体制下においては、日銀は強力な金融緩和を維持し続けるという強い意志の現れである。上記の表で示したように、白川体制下では、昨年2月に金融緩和の強化を発表した後、季節調整前のマネタリーベース平残が、3月、4月と連続して前年比でマイナスになり、市場に失望と不信感をもたらした。黒田総裁は、そういうところでは気を抜くことなく、金融緩和の強化を続けている。


日銀BSとMB(実績) 201308

上記の表のように、4-7月の平均で、日銀のバランスシート残高は、8.1兆円の純増、マネタリーベース残高は、6.8兆円の純増となっている。しかし、7月の場合、バランスシート残高9.7兆円の純増に対して、マネタリーベース残高0.2兆円の純増と9.5兆円もの差があった。7月の場合、負債サイドにあって、「その他」に含まれる日銀の国の特別会計に対する売現先の残高が、9.4兆円増加した要因が一番大きい。前月号では、6月中に売現先の残高が10.3兆円減少したことを指摘したが、7月はその正反対の動きがあったのである。売現先の残高は、短期で見ると大きく変動するが、長期で見た場合、その変動金額の平均はゼロ近辺になるので、バランスシート残高とマネタリーベース残高は、ほぼ並行して増加するようになる。

日銀BSとMB(予定) 201308

上記の表のように、今年の年末のマネタリーベ-スの予定残高は、200兆円であり、残り5ヶ月間、等金額で増やすと仮定した場合、マネタリーベ-ス残高は、月間5.4兆円の純増で済むことになる。前月号では、4.5兆円の純増で済むと書いた。しかし、7月にマネタリーベース残高が0.2兆円しか増えなかったので、残り5ヶ月間に必要なマネタリーベース純増額平均は、拡大することになった。それでも4-7月のマネタリーベース純増額平均が6.8兆円なので、8-12月の月間の純増額平均としては、過去よりも減少することになる。

8月については、市中資金が12兆円の大幅な不足となる。昨年8月は、5.7兆円の資金不足であった。以前にも書いたことがあるが、日銀が市中から買い取った国債、短期国債が償還を迎えると、市中資金の不足要因となる。従って、今後は、市中資金の不足金額の増加と、日銀保有の国債、短期国債の償還金額が並行する形で増加していくことになる。

8月のグロスの国債購入金額は、7兆円と仮定する。短期国債の償還が5.9兆円あるので、これをすべてロールオーバーすると仮定する。貸出支援基金による資金供給は、8月には実施されない。この資金調節だけで、8月の資金供給は、国債購入で7兆円、短期国債購入で5.9兆円、合計12.9兆円となる。そして、8月のマネタリーベース末残は、前月比で0.9兆円の増加となる。先に示した通り、年末までの等金額の純増を仮定した場合、8月のマネタリーベース末残の必要増加額は、5.4兆円である。0.9兆円の増加というのは、少なすぎる。従って、これに加えて、短期国債購入を中心にプラスアルファの資金が供給されることが想定される。その場合、8月のマネタリーベースの末残は、前月比0.9兆円プラスアルファの増加となる。8月の季節調整後のマネタリーベース平残の前月比をとると、その増加額は末残の増加額を上回る可能性が高い。8月についても、季節調整後のマネタリーベース平残が過去最高を更新することは、間違いない。

7月末に発表された今年4-6月期の銀行の決算資料から、この期間にメガバンク上位三行は、国債と短期国債の合計保有残高を24.1兆円減らし、現金預け金の残高を21.1兆円増やし、国内の貸出金残高をほとんど横ばいに維持していたことがわかった。今年4-6月期に、日銀は、国債の保有残高を19兆円、短期国債の保有残高を3.7兆円、合計で保有残高を22.7兆円増やしていた。要するに、日銀が異次元金融緩和の導入により、国債と短期国債の購入金額を大幅に増やしたのであるが、メガバンク三行が、それ以上に国債と短期国債を実質的に売り越し、結果として国債の需給バランスが悪化し、金利の上昇を招くことになったのである。そして、メガバンク三行は、6月末の時点では、国債、短期国債の売却代金を、貸し出しに回さず、主として日銀の当座預金に積み上げている。こうした数字を見ると、今年4月4日の異次元金融緩和による伝統的な意味でのポートフォリオ・リバランス効果、すなわち量的緩和の強化が銀行貸し出しを増やすという効果は、6月末まではゼロであったことがわかる。

しかし、伝統的な意味でのポートフォリオ・リバランス効果が、永遠にゼロであることは、絶対にありえない。日銀は、来年末までに、国債保有残高を、あと73兆円増やす予定である。それでも伝統的な意味でのポートフォリオ・リバランス効果がゼロになる可能性は残る。その場合は、次に、日銀が発行された国債を全額買い取ることを目標にすればよいのである。日銀が、国債の全額買い取りを目指して、買い取り金額を増やしていけば、いずれかの時点で貸し出しが増え始め、インフレ率も上昇し始めることは間違いない(バーナンキの背理法、(*1)を参照)。

また、昨年11月以降、国内投資家は、日本株や外国株、外国債券などのリスク資産を売りまくっている。日銀の資産購入により、機関投資家のポートフォリオをリスク資産へと向かわせ、景気回復を図るという、新しい意味でのポートフォリオ・リバランス効果もまた、ゼロどころか、大幅なマイナスなのである(*2)

一方、昨年11月以降、海外投資家が過去最高のペースで日本株を買い越している。また、統計上は明らかではないが、海外投資家は、日本円を大量にカラ売りしている可能性が高い。その結果として生じる円安株高の効果のみが、日本の輸出産業の収益力回復と消費センチメントの改善をもたらし、現在の景気回復の最大の原動力となっている。日銀の量的緩和の強化が、直接日銀の量的緩和の影響を受けない海外投資家の予想を変化させ、海外投資家のポートフォリオの構成を変化させている。つまり、日銀が予期しなかった別の意味でのポートフォリオ・リバランス効果が発生し、円安株高を引き起こし、日本に景気回復と物価の上昇をもたらしているのである。

しかし、その円安株高の効果も、株価が高値をつけた5月22日で一巡した可能性はある。ただ、日銀の資産購入は、フローレベルの効果は一巡したかもしれないが、ストックレベルでは、その効果は、今後、いっそう拡大する余地を残している。国内投資家が、日本株や外国株、外国債券を売りまくるというマイナスのポートフォリオ・リバランス効果の、マイナス幅が減少する可能性は非常に高いと思う。国内投資家が大量に円を買い、株を売るという環境下での円安株高から、国内投資家の大量の円買い、株売りが減少する、あるいは止まるという環境下で、円安株高が再燃する可能性は、十分考えられると思う。伝統的な意味でのポート
フォリオ・リバランス効果よりも、こちらの方が先に現実化する可能性が高い。

私自身は、よりいっそうの円安誘導を目指す量的緩和の強化があっても良いと考えているが(*3)、完全な少数派であろう。消費税増税が実施されるまでの今年度中は、景気回復が継続する可能性が高い。今年度の終わり頃から、人手不足の深刻化により、賃金上昇が広まり、輸入インフレに加え、賃金インフレも始まるであろう。今年度中に、金融政策に大きな変更がある可能性は、極めて低い。経済が難局を迎え、日銀の真価が確かめられるのは、来年4月におそらく実施される消費税の増税以降のことになるであろう。

関連記事
量的緩和の効果とバーナンキの背理法(*1)
量的緩和がもたらすマイナスのポートフォリオ・リバランス効果(*2)
生産性上昇の方法 キャピタルフライトによる円安誘導(*3)






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