日銀ウォッチャー報告(2013年7月号)

マネタリーベース平残の推移2013007(グラフ)

2013年6月の季節調整後のマネタリーベース平残は、前月比で7.5兆円増加し、過去最高の164.5兆円となった。

マネタリーベース平残の推移201307(表)

上記の表で示した通り、昨年2月14日に金融緩和の強化が発表され、その翌月である昨年3月以降の季節調整後のマネタリーベース平残の推移を見ると、ほぼ継続して増加し続けている。最初に示したグラフを見て分かる通り、そのトレンドは、直近では、ますます強くなっている。今年2月の白川体制の終わり頃からマネタリーベースの伸び率は加速し始め、4月に黒田体制に移行してから、その伸び率はさらに加速度を増している。

6月の市中資金は、3.9兆円の余剰であった。そこに、国債の購入7.7兆円、短期国債の購入4兆円、貸出支援基金による3.2兆円の資金供給、貸出金(共通担保オペ)の6.1兆円の回収などを中心とした金調調節により、合計9.1兆円の資金が供給された。金融調節後の市中資金は、13兆円の資金余剰になった。この資金余剰のため、当座預金残高は、5月末の71.7兆円から、6月末の84.7兆円と、13兆円増加した。この当座預金残高の増加を反映して、6月の季節調整後のマネタリーベース平残は、前月比7.5兆円増加の164.5兆円になった。当座預金残高増加額と季節調整後のマネタリーベース平残の増加額に差がある理由は、6月のマネタリーベースは、月末にかけて急増したため、末残は大幅増加であっても、平残に直すとそれほど大きく増加しなかったからである。


日銀BSとMB(実績) 201307

上記の表のように、4-6月の平均で、日銀のバランスシート残高は、7.6兆円の純増、マネタリーベース残高は、9兆円の純増となっている。バランスシート残高の純増額とマネタリーベース残高の純増額には、かなりの差が存在する。6月の場合、バランスシート残高2.8兆円の純増に対して、マネタリーベース残高14兆円の純増と12.2兆円もの差があった。6月の場合、負債サイドにあって、「その他」に含まれる日銀の国の特別会計に対する10.3兆円の売現先が終了した要因が一番大きい。ただ、長期的に見た場合、売現先の残高の変動金額の平均はゼロ近辺になるので、バランスシート残高とマネタリーベース残高は、ほぼ並行して増加するようになる。

日銀BSとMB(予定) 201307

上記の表のように、今年の年末のマネタリーベ-スの予定残高は、200兆円であり、残り6ヶ月間、等金額で増やすと仮定した場合、マネタリーベ-ス残高は、月間4.5兆円の純増で済むことになる。この金額を見る限り、4-6月のマネタリーベ-ス純増額平均が9兆円というのは、かなり多めであったと言えるであろう。

7月については、市中資金が18.3兆円の大幅な不足である。7月のグロスの国債購入金額は、7.5兆円と仮定する。短期国債の償還が7.6兆円あるので、これをすべてロールオーバーすると仮定する。貸出支援基金による資金供給は、7月には実施されない。7月の資金供給は、国債で7.5兆円、短期国債で7.6兆円、合計15.1兆円となる。7月のマネタリーベース末残は前月比で3.2兆円の減少となる。そして、7月の季節調整後のマネタリーベース平残の前月比をとると、減少額は3.2兆円を上回る可能性が高い。マネタリーベースは、4-6月の末残の平均で、月に9兆円ずつ増加してきた。そして、マネタリーベースが、7月にいきなり前月比で純減になったならば、長期金利が跳ね上がる可能性が出てくる。おそらく日銀は、国債、短期国債、貸出金による資金供給の金額を、上記の金額より増やすことにより、季節調整後のマネタリーベース平残の前月比をプラスの領域まで強引にもっていくであろう。その場合でも、7月のマネタリーベースを4-6月のように大幅な増加にもっていくことは難しい。7月の長期金利は、何らかの上昇要因が発生すると、日銀のオペにもかかわらず、上昇しやすい環境になる。この点は、要警戒であり、日銀にとっても試練の月となるであろう。

昨年11月14日以降、ほぼ一直線で円安・株高が進行していた。しかし、株価は5月22日、為替は5月23日をピークにして、一転して急激な円高・ドル安が進行することになった。この急激な円高・ドル安の進行を阻止するために、6月11日の金融政策決定会合において、共通担保オペ(貸出金)の期限を、現在の最長1年から最長2年にまで延ばすことを決定するであろうという予想が市場で広まっていた。だが、市場の期待に反して、6月11日の金融政策決定会合はゼロ回答となり、市場に失望を与えた。

私は、6月11日の金融政策決定会合でのゼロ回答の判断は、正しかったと思う。株価や為替レートが、経済にとって好ましくない方向へと、大きなトレンドを描いているならば、金融政策を変更して、そのトレンドの修正をはかる必要がある。しかし、5月22日から6月11日までのわずか20日間の株価や為替レートを見て、円高・ドル安へのトレンド転換が発生したと判断するには、時間があまりにも短すぎる。半年強の間、大した押し目もなく円安・株高が進行してきたことの方がむしろ異常であり、大幅な円安・株高の反動としての大きめの調整局面が訪れることは、健全な相場変動の証拠であると言える。5月22日以降も、同じ速度で円安・株高が進行していたならば、今頃、円安・株高バブル論が沸き起こっていたと思う。金融政策は、株価や為替レートの大きなトレンドを観察する必要があるが、短期的な変動に振り回されることは、望ましくない。株価や為替レートというのは、変動することが通常の姿であるので、小さなトレンドに振り回されて、金融政策をいちいち変更していけば、経済は間違いなく不安定化する。金融政策は、経済の変動が望ましくない方向に向かっていたり、株価や為替レートの大きなトレンドが望ましくない方向に向かっていた場合には、政策変更をためらうことなく実施することが必要である。しかし、20日間という短期間の株価と為替レートの動きに、金融政策が振り回されなかったことは、正解であったと思う。

問題があったとすれば、6月11日の金融政策決定会合後に行われた黒田総裁の記者会見でのメッセージの発し方である。決定会合後の記者会見では、貸出支援基金による資金供給のアピールが弱すぎた。特に、質疑応答の部分では、質問の順に、「1年超の共通担保オペの導入について議論したが、結論として必要ではないということになった」といった内容の発言をし、その後に、「金利0.1%、期間3年の貸出支援基金による資金供給を実施する」といった内容の発言をしている。そのため、6月12日の日本経済新聞朝刊では、市場の期待の高かった「1年超の共通担保オペの導入は必要ではないと判断した」という部分が大きく取り上げられ、貸出支援基金による資金供給の扱いが非常に小さかった。債券市場の関係者はともかく、株式、為替市場の関係者の間に、貸出支援基金による資金供給がほとんど伝わっていなかったように思われる。そのため、株式、為替市場の関係者、特にハト派に変身した日銀に対して、あまりにも高い期待を抱き過ぎていた外国人投資家の失望は大きかったように思われる。黒田総裁は、最初に、「6月18日に、日本版LTROに相当する金利0.1%、期間3年の貸出支援基金による約3兆円の規模の資金供給を実施する。この貸出支援基金による資金供給があるので、共通担保オペの長期化は、今回は見送ることにした。」といった感じの発言をした方が良かったと思う。上記の発言は、過激な発言の一つの例であり、最適な発言であるとは思わない。ただ、株式、為替市場の関係者に、貸出支援基金による資金供給を幅広く伝えるためには、「共通担保オペの長期化は、今回は見送る」ではなく、「金利0.1%、期間3年の貸出支援基金による資金供給を約3兆円の規模で実施する」の方をより前面に出した発言の方が望ましかったと思う。そのように発言していたならば、6月12日の日本経済新聞朝刊の見出しは、「貸出支援基金による資金供給を約3兆円の規模で実施」となり、記事の中で、「共通担保オペの長期化は、今回は見送られた」となっていたかもしれない。このように報道されていたならば、株式、為替市場の関係者による金融政策についての受け止め方も、大きく変わっていたと思う。6月12日の日本経済新聞朝刊では、貸出支援基金による資金供給については、完全なベタ記事扱いであった。黒田総裁の発言を要約した日本経済新聞の記者にも大きな問題があったと思われる。しかし、より大きな問題は、6月11日の記者会見における黒田総裁の市場に対するメッセージの発し方、すなわち市場との対話が失敗であったと考える。

アメリカでも6月19日のFOMC後の記者会見で、バーナンキ議長が、予想以上にはっきりした出口戦略への道筋を語り、その後、株価が急落した。すると、他のFOMCのメンバーたちが、FOMCの決定について、よりハト派寄りの発言を繰り返し行ったため、株式市場は落ち着きを取り戻した。

中央銀行の総裁は、政策決定の中身が重要であることは当然であるが、メッセージの発し方も、同様に重要である。黒田総裁には、今後は、より適切な表現でメッセージを発すること、すなわち市場との対話能力を磨いてもらいたいと思う。

テーマ : 経済
ジャンル : 政治・経済

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