量的緩和がもたらすマイナスのポートフォリオ・リバランス効果

前回、昨年11月14日以降、猛烈な勢いで日本株、外国株、外国債券を売り越してきた日本の国内投資家が、今後、日本株、外国株、外国債券を買い越し、円安・株高が続く可能性があると書いた。今回は、その根拠について説明してみたいと思う。

経済や株式、為替市場の分析はいろいろとできるが、その先行きを予想するのは難しい。株価や為替レートについては、効率的市場仮説という有力な理論がある。乱暴に言い換えるならば、相場の先行き予想不可能論という理論である。そうした学説が有力であるほど、予想は難しい。また、予想をするならば、重要な論点をすべて解明してから予想すべきなのであるが、今回は、難しいいくつかの重要な論点を、とりあえず無視することによって、予想をしている。さらに、今回使用する財務省の国際収支統計は、正確性に欠けると少し前に批判したばかりの統計であり(*1)、正確性の少し欠けるデータに基づいた予想でもある。従って、厳密な分析に基づく予想ではなく、考えられる有力なシナリオの一つの提示というくらいの感じで受け取っていただきたい。

まず、野田前総理の衆議院解散発言があり、アベノミックス相場の出発点ともいえる、昨年11月第2週から、株式相場がピークを打つ直前の、今年5月第3週までの日本株の投資部門別売買状況のグラフを示す。


投資部門別売買短期

見ての通り、外国人すなわち海外投資家の買い越しが9.9兆円であり、ダントツの買い越し金額となっている。国内投資家は、信託銀行、個人を中心に総売りの状況である。ただ、この傾向は、バブル崩壊後の20年以上の間、変わりなく続く傾向でもある。バブル崩壊後の1991年から今年5月末までの日本株の投資部門別売買状況のグラフを示す。

投資部門別売買長期

海外投資家の買い越しが81.5兆円であり、やはりダントツの買い越し金額である。国内投資家は、信託銀行が多少の買い越しになっている以外、個人を始めとする投資家は、すべて売り越しである。量的緩和の強化が、海外勢の買いvs国内勢の売り、という従来の構造の拡大を通して株高を引き起こすという状況は、以前から、(*2)で指摘し、そうならざるをえない理由を(*3)で指摘していた。ただ、今回の海外投資家の買いは、27週の間に9.9兆円の買い越しである。過去を調べてみると、27週という期間に海外投資家が日本株を買い越した最大の金額は、2005年7月第1週-2006年第1週の27週間に7.8兆円の買い越しというのが従来の記録であった。その過去最大の記録を、今回は、上回ったのである。

量的緩和の強化により、日本株については、国内投資家が売り越し金額を拡大させることは、事前の予想通りであったが、予想外の事態も発生した。国内投資家が、大挙して売り越し始めたものは、日本株だけではなかったことである。国内投資家の外国株と外国債券の売買のグラフを下記に示す。


外株買い越し額

外債買い越し額

国内投資家の外国株式売買の金額は、
1996年1月-2013年5月  34.6兆円の買い越し
2012年11月-2013年5月  4.9兆円の売り越し

国内投資家の外国債券売買の金額は、
1996年1月-2013年5月  193.6兆円買い越し
2012年11月-2013年5月   7.6兆円兆円の売り越し

国内投資家は、従来、大幅な買い越しであった外国株、外国債券を、昨年11月以降、合計12.4兆円も売り越している。

国内投資家が、日本株、外国株、外国債券を、昨年11月以降、合計22兆円前後売り越した資金は、どこへ行ったのであろうか。従来なら、日本の国債がその有力な移転先であったであろう。

しかし、その国債市場に大きな変化が起こっている。下記に、国債発行残高の純増金額と、日銀保有国債の純増金額を示すグラフを記す。


国債発行残高純増金額

2012年の国債発行残高の純増金額は、31兆円であった。一般会計の建設・特例国債発行金額とは、かなりの差があるが、差があることは、毎年のことである。2012年度の補正後と比べた2013年度の国債発行予定金額については、一般会計の建設・特例国債発行金額は、6.6兆円減の42.9兆円、借換債などを含む発行総額は、10兆円減の170.5兆円、カレンダーベースの市中発行金額は、7.2兆円増の156.6兆円である。国債の償還金額はわからない。従って、2013年、2014年の国債発行残高の純増金額はわからないが、2012年の31兆円から大幅にかい離することも、考えにくい。

一方、日銀保有国債の予定純増金額は、2013年が51兆円、2014年は50兆円である。2013年、2014年の国債発行残高の純増金額が、50兆円をこえる可能性は、低いと思う。ということは、日銀以外の主体が保有する国債の残高は、2014年末までの間は、減少し続けることになる。国債の実質的な発行金額は、マイナスになる可能性が高い。国内投資家が日本株、外国株、外国債券を売った資金を日本国債へと振り向けようとしても、買えない可能性が高い。これは、金利が上昇して、国債価格下落懸念のために買えないか、金利が低下して、国債利回りに魅力がなくなって買えないか、どちらかの状況になるはずである。日銀以外の主体が保有する国債残高は必ず減少するので、融資のできる金融機関以外は、大部分の余資を、利回りが0.1%以下の預金で運用せざるをえなくなる。しかし0.1%以下の預金は、長期間運用する場合、利回りが低すぎる。そのような環境が続けば、値上がりした日本株、外国株、外国債券を売るという戦略自体を、修正する必要が出てくるであろう。すなわち、日本株、外国株、外国債券の売り越し金額を減らす、さらには、押し目を待って買い越しに行くという投資戦略に変更する必要性が生じてくることになる。

中央銀行が資産の購入を通じて、資産価格の変動と資産の移転を促し、景気回復につなげようとする政策の効果は、ポートフォリオ・リバランス効果と呼ばれている。普通のポートフォリオ・リバランス効果は、無リスク資産からリスク資産への資産移転を狙うものである。しかし、昨年11月以降、日本の国内投資家は、ひたすらリスク資産から無リスク資産へと資産を移転し続けてきた。現時点では、ポートフォリオ・リバランス効果は、ゼロというよりも、大幅なマイナスの効果しか顕在化していない。しかし、国内投資家は、いつまでマイナスのポートフォリオ・リバランス効果を維持し続けることができるであろうか。そう長続きはしないと思う。昨年11月から今年5月までの日本株、外国株、外国債券の売り越し金額22兆円というペースは、速すぎたと思う。今後は、日本株、外国株、外国債券の売り越し金額は減少し、価格下落局面では、買い越しに回るケースも増えてくると思う。そう遠くない将来に、ポートフォリオ・リバランス効果は、マイナスからゼロへと向かい、やがてはプラスになることを期待してもよいと思う。このように、国内投資家の投資戦略が変化し、無リスク資産から日本株、外国株、外国債券というリスク資産への移転が始まるならば、その結果、トレンドとしての円安・株高が続くということは、十分起こりえる有力なシナリオの一つになると考える。円安・株高は現在の日本にとって、最も重要な経済成長のエンジンであり、そのトレンドが逆転しないかぎり、景気回復は、今後も進行し続けるであろう。


関連項目
不正確な統計と債券・為替市場の困難な分析(*1)
金融の量的緩和と資産効果(*2)
日本の株式市場のヒステリシス(*3)





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テーマ : 経済
ジャンル : 政治・経済

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No title

初コメントです。
 
 こんにちは、毎回注視させて頂いております。
 そう簡単にプラス期待していいんでしょうか?

 異次元緩和を現状続ける限り、流動性は失われ、価格変動率は高止まりでしょう。 売れるものは売るスタンスは当分変わらないのではないでしょうか?
 対話すら出来てない日銀に異次元緩和を止めるか縮小も出来ないでしょう。
 円安はいずれ止まらない状態に突き進むしか道はないですね。

 アベノミクス第二幕、流動性の低下、止まらない円安。
 難問ですね。

 参議院選挙後、マーケットは一段大荒れ必至かと。

円安はメリットです

従来、日本の投資家の資金の多くが、日本国債の買いに回り、株、外国証券の購入,貸出にあまり回らなかったことが大問題でありました。異次元緩和の継続の結果、将来、日本国債以外の資産に資金が流れるようになれば、それは異次元緩和の成功を意味することになります。

株高の原因は円安、株安の原因は円高です。止まらない円安が続くことは、日本にとって大きなメリットをもたらしてくれます。下記の記事を参照してください。
http://stockbondcurrency.blog.fc2.com/blog-entry-10.html

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