個人投資家の株式保有と売買動向

これまで何度も、株式市場の需給関係を分析することにより、株価の変動要因を説明してきた。従来は、外国人投資家の売買を中心に説明することが多かった。今回は、個人投資家を始めとする日本人投資家の売買を中心に説明する。そして、株式市場と為替市場の差について、最後に触れてみたいと思う。

まずは、従来と同様に、外国人投資家の日本株買いの実態の確認である。日経平均株価と、外国人投資家の株式売買動向のグラフを下記に示す。


外国人投資家売買

上記の統計の元となっている東証の「投資部門別売買状況」によると、過去12年ほどの間に、外国人投資家は、株価の上昇局面で日本株を大量に買い越してきた。特に、昨年11月14日の野田前総理の衆議院解散発言以降、外国人投資家の日本株買い越し金額は、過去最高のペースであり、その結果として日経平均株価は大きく上昇している。株式の流通市場においては、外国人投資家の日本株買い越し金額=日本人投資家の日本株売り越し金額であるので、日本人投資家は外国人投資家と正反対に、過去最高のペースで株を売り越しているのである。

次に日経平均株価と個人投資家の株式売買動向を示す。


個人投資家売買

個人投資家は、総じて日本株を売り越している。そして、個人投資家の売買は、株価の下落局面では買い越しになりやすく、上昇局面では売り越しになりやすい。いわゆる逆張りという投資手法である。直近の上昇局面では、株の売り越し金額は過去最高のペースにまで増加している。ただ、逆張りの傾向は、グラフを一見しただけでは、それほど強い傾向であるようには見えない。ところが、後で示す通り、個人投資家の逆張り傾向は、見た目以上に強いのである。一見しただけではよくわからないが、グラフをより詳細に点検してみると、株価が高値にある時も、安値にある時も、株価が下がると、個人投資家は買い越しに転じ、株価が上がると、売り越しに転じる傾向が強いことがわかる。

個人投資家が過去最高のペースで売り越しているのにもかかわらず、個人投資家のニューマネーが株式市場に流れ込んでいるとの報道は、よく聞かれる。その根拠の一つは、株価上昇に伴う個人投資家の売買シェアの拡大である。


個人シェア

株価が上昇すると、個人投資家の売買シェアが拡大する傾向があることは、間違いない。前回の株価上昇局面では、前半においてその傾向が顕著に表れた。2003年4月に株価がボトムを打ち上昇に転じると、個人投資家が株を売り越す中で売買シェアが上昇し、個人投資家のニューマネーが株式市場に流入していると喧伝された。

元々、個人投資家の売買シェアは、株価上昇局面において上昇する傾向はあったが、最近は、その傾向がより顕著になっている。きっかけは、1999年の株式売買委託手数料の自由化、インターネットを通じた株式取引の拡大、2003年に始まった株式キャピタルゲイン課税の税制変更である。今年に入ってからは、信用取引の規制緩和の影響が加わっている。こうした技術や制度の変化により、デイトレーダーと呼ばれる超短期の回転売買を好む個人投資家が出現した。彼らは、株価が下落すると、損失が生じて売買を減らすが、株価が上昇に転じると、利益を獲得しながら、急激に売買を増やす。その結果、株価が上昇に転じると、個人投資家の売買シェアが高まる傾向が、より明確になった。その一方、ずっと以前から株式投資を行っている人たち、前回の相場で高値を掴んで身動きがとれなくなっている人たちは、株価が戻り局面に入ると、株を一斉に売却し始める。ただ、前回の相場の時には、2006年1月にライブドアショックが起こった。デイトレーダーが中心になって売買が増加する中で、株価が急速に上昇し続けてきた新興銘柄の多くが、ライブドアショックの発生により一斉に急落に転じた。そのショックの影響で、個人投資家の売買シェアは、日経平均株価がピークを付けるよりも、1年半早く低下に転じてしまった。その後大きく動くことがなかった個人投資家は、昨年11月以降、売買シェアを急速に高めている。株価が上昇に転じると、証券会社の株式セミナーや株式投信のセミナーの参加者が急激に増える。そのため、株価が上昇すると、個人投資家のニューマネーが株式市場へ流入する傾向があることは間違いない。一方、何も報道されないところで、株を売り切る個人投資家がそれ以上に増えることもまた、間違いのない事実なのである。現在の日本で起こっていることは、個人投資家の売買シェアの拡大=個人投資家の買い越し金額増加ではなく、個人投資家の売買シェアの拡大=個人投資家の売り越し金額増加なのである。個人投資家が株を買い越すのは、主として、株価の下落局面である。個人投資家が買い越しから売り越しに転じると、あたかも個人投資家が株を買い越し始めたかのような報道が増えるのは、今回に限ったことではない。


外国人、個人の株式保有比率

東証の「投資部門別売買状況」によると、2001年4月-2013年4月の間に、外国人投資家は日本株を52兆円買い越す一方、個人投資家は24兆円売り越しており、最大の売り主体となっている。では、個人投資家の株式離れが進んでいるのかというと、それは正しくない。日本の投資家の中では、信託、保険、銀行などの機関投資家の株式離れは確実に進んでいる。しかし、個人投資家に限っては、株式離れは進んでいない。その証拠となるのが、上記に示した東証の「株式分布状況調査」に基づく個人投資家の株式保有比率(金額ベース)である。個人投資家の株式保有比率は、1980年代半ばから直近まで、ほとんど変わっていない。この間、株の公募増資、新規公開などの形で、上場企業の発行済み株式総数は増加している。それにもかかわらず、個人投資家の株式保有比率は変わっていない。これは、個人投資家が、取引所外で公募株などを大量に購入しており、その総額が、取引所での株の売り越し金額を上回っているからである。個人投資家は、発行済み株式総数の増加に比例して、株の保有を増やしているのである。しかし、取引所外で、公募株、新規公開株、売り出し株を大量に買っているため、取引所という流通市場の中では、平均すると大幅な売り越しにならざるを得ないのである。

なお、個人投資家の取引所内での売り越し金額と、取引所外での買い越し金額を合計すると、個人投資家はそこそこの金額の売り越しになるという統計を、日本証券業協会と日銀が別個に算出して発表している。しかし、その2つの統計の数字にはやや疑問を感じている。日本証券業協会のデータは、証券会社から報告を受けたデータが大元になっているため、漏れや誤差が出るのは避けられない。一方、日銀は、「株式分布状況調査」も大元の統計の一つとして利用している。「株式分布状況調査」は、上場企業の株主名簿を集計したものであるため、誤差が非常に少ない統計であると考えられる。しかし、日銀は、「株式分布状況調査」以外の統計も使用しており、他の部門との整合性をとるために、結果として個人の売り越し金額を多めに算出、推定してしまっていると感じている。

個人投資家に次いで、株式市場の大きなプレーヤーである信託銀行の売買動向を下記に示す。


信託銀行売買

現在の信託銀行の主要な運用資産の大元は、年金資金である。個人投資家と同様に、株を総じて売り越している。そして、株価が暴落すると大量に買い越す傾向がある。2008年9月15日にリーマンブラザーズが破綻し、株式市場はパニック的な大幅な下落を示した。その時、株を大量に買い越した主体は、信託銀行であった。個人投資家とは違い、少しばかりの下げで株を買うことはない。しかし、株価が大幅に下落すると、株を大量に買い始める。それ以外の局面では、ほとんど売り一辺倒である。

以上の事実を頭に入れた上で、月次の日経平均株価の騰落率と月次の投資部門別売買状況との相関係数を示すと、下記のようになる。


株価と投資部門別売買の相関係数

相関係数がプラスの投資家は、上がれば買い、下がれば売る順張りの投資家である。相関係数がマイナスの投資家は、下がれば買い、上がれば売る逆張りの投資家である。最も順張り傾向の強い投資家は、外国人投資家、次いで自己となっている。自己の相関係数が高いのは、外国人投資家が先物、特にTOPIX先物を順張りで大量に売買するからである。その結果、現物と先物の裁定売買が入る。裁定売買の多くは、証券会社の自己勘定で行われる。裁定売買によって、現物の株価が大きく変動する。自己の相関係数が高い理由もまた、外国人投資家が先物を順張りで売買していることの結果なのである。

外国人投資家が順張りであるのに対して、日本人投資家は、すべて逆張りである。最も逆張りの傾向が強いのは個人投資家、その次が「証券」である。東証の「投資部門別売買状況」は、主要な証券会社である52社の集計値である。その他にも証券会社は200社以上存在する。200社以上ある証券会社の何割かの証券会社の売買が、この「証券」の中に集約されている。そして、この「証券」の多くは、個人投資家相手の中小証券会社である。すなわち、「証券」の売買の多くは、個人投資家の売買である。従って、「個人」と「証券」は似たような相関係数になる。次に信託銀行の相関係数が高い。信託銀行は、1ヶ月という短期の株価騰落に左右されて売買する投資家ではない。株価が上昇したり、高値にある間は、常に売り方に回り、株価が大きく下落すると大量に買う。従って、1ヶ月という期間の短い株価の騰落率との相関係数は、あまり高くならない。

以上のように、株式関係の統計を詳しく観察すると、それぞれの期間において、どのような投資家が株を買い、どのような投資家が株を売り、その結果として株価がどう動いたのかがよく理解できる。そして、どの投資家が順張り傾向が高く、どの投資家が逆張り傾向が高いのかもわかる。昨年11月以来、株を大幅に買い越している主体は外国人投資家だけであり、個人投資家の売り越し金額は、過去最高のペースである。こうした分析が可能であるのは、株式関係の統計が整備されており、かつ、精度が高いものが多いからである。

昨年11月に株高と同時に発生した円安という環境下で、誰が円を売り、誰が円を買ったのかを解明する努力を続けているが、その解明は難しい。為替関係の統計の中心である財務省の国際収支統計は、非常に細かい項目まで細分化されており、統計の量という点では、株式統計以上に整備されていると言ってよい。ところが、統計の質が悪いのである。国際収支統計の中には、精度が高いと思われる数値、精度が低いと思われる数値、精度が高いか低いか分からない数値が混在している。そうした統計をベースに、正しいと確信が持てるような分析を行うことは、困難である。私は現在の円の大きな売り手の一つとして、「株を売却した日本人投資家の資金が、いくつかの経路を経て世界の投機家に貸し出され、円のカラ売りに使われている。」という仮説を立てている。以前から、金融緩和が強化されると、真っ先に投機家たちが円を売り、しばらくしてから日本の機関投資家の円売りが増えると予想していた(*1)。円安予想は的中したが、円安進行のメカニズムの予想が的中したかどうかは、まだわからない。ただ、外国人投資家が過去最高のペースで日本株を買い越し、それに伴う円の買い需要が急速に増大する中で、円高ではなく、円安が急速に進行するという現状を説明するためには、上記のような仮説が正しくないと、円安の原因を説明しようがないように感じられる。しかし、現時点では上記の仮説を立証する十分な証拠がそろってはいない。ただ、国際収支統計の場合、1ヶ月間の統計を見ただけでは、精度が低いと思われる数値でも、毎月のデータが蓄積され、長期統計となった場合、全般的に精度が高まる傾向のある統計であることも事実である。為替市場において、誰がどのくらい円を売買しているのか、正しいと確信が持てるような分析をするには、もうしばらく統計データが蓄積される必要がある。先行き予想は、株も為替も同様に難しいが、現状分析は、株は易しく、為替は難しいのである。


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テーマ : 経済
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