労働生産性と潜在成長率の低下

内閣府が発表している国民経済計算確報によると、2001年から2011年までの11年間に、日本の実質GDPは9.7%増加した。その間に、就業者数は101万人減少し、2011年には6,436万人となった。

国民経済計算確報の中には、経済活動別の実質GDP、就業者数という統計がある。その統計を使って、産業を26業種に分類し、産業の就業者1人当たりの実質GDP増減率を計算した。この数値に就業者数、就業者数の増減数を加えた表を下記に示す。


20130407 労働生産性の上昇率
『(注)分類が、2001年-2004年までは運輸・通信業であったものが、2005年-2011年には運輸業と情報通信産業に分かれた。そのため、運輸・通信業だけは途中に断絶があり、情報産業の分は、2011年の数値から抜け落ちている。』

就業者1人当たりの実質GDPというのは、就業者1人当たりの労働生産性の数値でもある。その増減率とは、業種ごとの労働生産性の増減率でもある。

表を見てわかることように、「産業 製造業 電気機械」の労働生産性の上昇率は、爆発的と言ってよいほど高い上昇率を示している。2番目に労働生産性の上昇率が高いのは、「産業 製造業 繊維」である。それでも、トップの電気機械とは、生産性の上昇率に大きな差がある。労働生産性が1番低下している業種は、「産業 製造業 石油・石炭製品」、2番目に低下している業種は、「産業 鉱業」である。

全体として言えることは、労働生産性の上昇率が高い業種は、製造業が多い。一方、労働生産性が低下している業種、労働生産性の上昇率の低い業種は、第三次産業が多い。そしてまた、労働生産性の上昇率が高い業種は、就業者数が減少している業種が多い。労働生産性が低下している業種、労働生産性の上昇率の低い業種は、就業者数が増加している業種が多い。

電気機械を中心とする生産性の上昇率の高い多くの製造業は、国際競争が激化する中、2001年から直近にかけて、「構造改革」という名のリストラ、人員削減を大規模に実施してきた。そこで首を切られた労働者たちは、「産業 サービス」、「産業 卸売・小売」などの、労働生産性が低下する業種へと、最終的に移動して行った。このような労働者の大規模な移動は、日本経済全体の労働生産性の低下に、大変大きく寄与したことは、間違いない。

「日本経済は、構造改革が遅れている。抜本的な構造改革を断行すべきである、そして、労働者を生産性の上昇率の低い産業から、生産性の上昇率の高い産業へシフトするとこにより、経済全体の生産性を高め、潜在成長率を高めるべきである。」と主張するエコノミストを見かける。こうしたエコノミストの主張は、現実を見ていないと言わざるをえない。日本経済は、大規模な構造改革を実施し続け、生産性の上昇率の高い産業から、生産性が低下する産業へと労働者を大規模に移動させてきたのである。その結果として、生産性や潜在成長率が大きく低下してしまったのである。

日本経済を成長させるために最も重要な政策は、電気機械を中心とする製造業において、生産性低下の最大の原因である「構造改革」を止めさせることである。すべての構造改革を否定するつもりは無いが、国民経済的な観点からは、避けるべきであった有害な構造改革が、数多く実施されたことは、間違いない。経済成長の原動力は、「創造的破壊」である。創造もなく、破壊ばかりをしていれば、経済を際限のない縮小へと導くだけである。企業が強烈な痛みを伴う構造改革を続ける理由は、生産する製品の価格が高すぎて、国際競争力を失ったからである。製品の価格が高すぎる理由は、日本では、賃金などの諸コストが、海外の競争相手国よりも高すぎるからである。企業が収益を上げるためには、人員削減や工場閉鎖という構造改革が必要であった。しかし、日本の場合、コスト削減を、企業レベルではなく、国家レベルで実施すべきであった。理由は、電気機械を中心とする製造業のコスト高の原因の多くが、企業レベルにあるのではなく、行き過ぎた円高という国家レベルに原因があったからだ。従って、現在の日本にとって一番必要な政策は、「円安誘導」により、賃金などの諸コストの価格を引き下げることである。

この意見は、(*1)で指摘し、その後、何度も引用してきた。繰り返すと、日本周辺のアジア諸国は、介入という手段を通じて、大規模な自国通貨安誘導政策を実施している。一方、日本の賃金を始めとする諸コストは、周辺のアジア諸国の中で、一番高い。その理由は、①経済発展段階の差から生じる賃金格差と、②国家による自国通貨安誘導政策の結果として生じる賃金格差がある。①の経済発展段階の差から生じる賃金格差は、無くすことは不可能であり、あきらめるしかない。しかし、②の国家による自国通貨安誘導政策の結果として生じる賃金格差は、日本政府が積極的に是正に動いて、格差を無くさせなければならないものである。韓国、台湾との賃金格差は、ほとんどが②の結果であるから、政府が前面に出て、断固是正する必要がある。中国との賃金格差は①と②が両方混じっており、全部ではないが、一部は是正する必要がある。あらゆる手段を使って円高・アジア通貨安の構造を是正することが不可欠である。多くの周辺のアジア諸国と違って、G20に属する日本は、その声明文などを通して、介入の実施に大きな制限を課されている。現時点での介入は、G20の声明文に違反するので、不可能である。可能な政策は、金融緩和の大幅な強化である。4月4日に発表された、異次元の金融緩和の実施というレジームチェンジは、こうした観点から正当化される適切な政策であった。

日本経済、特に電気機械を中心とする製造業が破壊された最大の原因は、円高なのであるが、すでに相当破壊しつくされた現在のような環境下では、単に円安になっただけで、すぐに元に戻ることはない。家電大手の中では、超円高に対応して、大空洞化作戦を実施した結果、もはや円安にメリットはないと表明する企業も現れた。それでも一段と円安を進行させ、かつ安定させる努力を続けるべきなのである。海外に作ると報道された有機ELテレビの量産工場を、国内での建設へと予定を変更させるように仕向けるべきである。海外での生産を検討していると報道されたEV向け大型リチウム電池の生産工場を、国内での建設に限るように仕向けることも必要である。このような誘導政策は、円安がより進行し、かつ円高に戻らないという予想を多くの企業経営者が抱いた後、初めて可能となる。円高で大きく傷ついた日本の製造業は、円安だけで再生しないが、製造業復活のための最低条件として、円安への誘導、維持は不可欠である。

円安が定着し、労働者が製造業へと回帰した場合、労働生産性がすぐに上昇することを期待しにくい卸売・小売、サービスなど、広い意味でのサービス業での人手不足は、いっそう深刻化する。規制改革やIT化、ロボット導入などを通じて、サービス業の生産性上昇を促進させる必要性がある。女性や健康な高齢者に、サービス業だけではなく、あらゆる職場で働いてもらうことができる環境を作り出すことも必要であろう。

就業者数に失業者数を加えた労働力人口の減少と、労働生産性の上昇率の低下は、潜在成長率の低下を意味する。ただ、潜在成長率は、労働力人口、資本ストック、全要素生産性の3部門に分けて、その成長率を算出する。労働だけではなく資本ストックも考慮し、労働生産性ではなく、労働と資本を結合させた全要素生産性を計算するものである。このようなアプローチとると、労働生産性の上昇率を、資本装備率(1人当たりの資本ストック)の増加率と、全要素生産性の上昇率に分けて考えることが可能となる。

正確な潜在成長率を算出する能力はないが、今後の日本の潜在成長率が、低下に向かうことは間違いない。まず、少子高齢化の影響で、すでに減少局面に入っている労働力人口は、今後も減少し続けるであろう。2000年代には、半導体や薄型テレビなどの分野において、巨額の設備投資が実施され、労働、資本、先端技術が結合した形で、資本ストックと全要素生産性を大幅に上昇させる大工場がいくつも建設された。このような工場建設は、潜在成長率の上昇に大きく貢献してきたはずである。しかし、韓国、台湾による自国通貨安誘導政策の結果、そうした工場の多くは、赤字に転落し、現在は閉鎖の方向へと向かいつつある。高度な技術が使われる大規模な設備投資が実施され、新工場が次々と建設される状況が、近い将来、実現する可能性は低い。先に例示した、有機ELテレビの量産工場や、EV向け大型リチウムイオン電池の生産工場が、日本国内に建設されることは、現時点では願望にすぎず、確定事項ではない。巨額の設備投資も高度な技術も必要はないが、人手だけはたくさん必要な介護施設などの建設は、今後も増加し続けることは間違いない。日本経済は、労働力人口が減少するだけではなく、資本ストックの増加率、全要素生産性の上昇率も低下するに違いない。当然、今後の潜在成長率も低下するであろう。

労働生産性や潜在成長率を上昇させるために最も必要な政策は、電気機械を中心とする製造業を、可能な限り復活再生させる政策である。最も実施させてはならないことは、構造改革という名による生産システムの破壊である。代わりに、可能なかぎり円の為替レートを安く誘導維持することが、最低限必要である。生産性の上昇率の著しい電気機械を中心とする製造業を、円高の再発によりこれ以上破壊することだけは、絶対に避ける必要がある。そうした政策の結果として、将来、有機ELテレビの量産工場や、EV向け大型リチウムイオン電池の生産工場などが、日本国内に建設され、かつ黒字を産み出し続けるようになれば、日本経済の労働生産性、潜在成長率の上昇も期待できるのである。

テーマ : 経済
ジャンル : 政治・経済

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