金融緩和と資産バブル

失われた20年と言われるように、日本は、バブル崩壊以降、20年以上にわたる長期の経済低迷状態が続いている。そのことを表す一つの指標は、名目GDPの縮小である。昨年の日本の名目GDPは、20年前の水準を下回っている。私は、それに加えてもう一つ重要な指標があると考えている。それは、日本の国富が、過去20年以上の間、減少し続けていることである。

日本の国富・土地・社会資本等の時価総額

上記のグラフは、内閣府の国民経済計算確報からとった、国富、土地、社会資本等の時価総額の推移のグラフである。国富は、正式には、正味資産と呼ばれている。社会資本等というのは、非金融資産・生産資産・有形固定資産の中に含まれている「その他の構築物」の数値である。国富は、1990年に3,531兆円を記録した後、減少し続け、2011年に2,996兆円まで、536兆円減少している。その中で最も大きく減少したのは、土地であり、1990年の2,477兆円から、2011年の1,157兆円まで、1,321兆円減少している。国富の中で一番大きな増加を示している項目は、社会資本等であり、1990年の300兆円から、2011年の731兆円まで、431兆円増加している。社会資本等というのは、具体的には道路、橋、堤防などであり、建設費用マイナス減価償却費で決定され、物価変動の影響を受けない。バブル崩壊後、減価償却費を上回る新規の社会資本の建設が行われたため、その時価総額は、順調に増加している。なお、株などの金融資産は、資産負債の両サイドに両建てとなっているため、原則として国富には含まれない。国富に含まれる金融資産は、対外純資産だけである。

このように、土地は、国富に含まれる一番大きな要素である。そこで、地価の動向を国際比較することにする。


日米英の地価の比較

上記のグラフは、日・米・英の代表的な地価、または住宅価格の推移を示している。基準時点は、アメリカの住宅価格の一番最初のデータが残る1987年1月を100としている。日本の地価は、1980年代後半のバブル期には一番大きく上昇したが、その後は、ほぼ一貫して下落し続けている。アメリカ、イギリスは、1990年代に数年間の住宅価格の低迷期があったが、その後急速に上昇している。そして、住宅価格は、2006年あたりまでバブルとなって上昇し続けた。2007年以降、バブル崩壊が始まり、調整局面を迎えるが、日本ほど下落幅も下落期間も長くならなかった。イギリスの住宅価格が底を打ったのは、2009年2月。この時、QE1が同時期に開始されている。アメリカの住宅価格の底打ちは、イギリスより遅れ、2012年1月である。QE2とQE3の間のオペレーション・ツイストの時期である。その後のQE3の時期になると、住宅価格の底打ち反転は間違いないものとなった。アメリカやイギリスは、量的緩和政策により、不況対策、デフレ防止対策だけではなく、バブル崩壊の大元の原因である住宅価格、あるいは株価といった資産価格の引き上げをも意図した面が大きかったと思う。しかし、日本の量的緩和政策は、もっぱら、モノのデフレ対策や不況対策、銀行の不良債権問題処理対策を意図したものであった。日本の場合、日銀による銀行保有株やETFの購入を通じて、株価下落防止策となる政策は実施されたが、株価や地価を引き上げることを意図した政策は、全く実施されなかった。

次に、日本の地価の動向をより詳しく見るために、地域別、用途別の公示価格の推移を下記に示す。


地域別・用途別の公示地価

1991年の年初を頂点とするバブルは、東京、大阪の土地の値上がりを中心とするバブルであった。バブル崩壊後は、住宅地よりも商業地の方が、より大きく値下がりした。そして、住宅地、商業地の中で一番価格水準が低いまま残された地域は、地方の土地であった。2007年-2008年にも東京を中心とする都市部の限定された地域において、局地的なミニバブルが発生し、崩壊した。この時も、地方の土地の価格は、全く上昇しなかった。

今後、金融緩和が強化された場合、地価にも影響があるであろう。その兆候は既に現れている。東証REAT指数と日経平均株価の推移を下記に示す。


東証REAT指数と日経平均株価

東証REAT指数とは、日本の優良な商業ビル、住宅地などの価格指数の一つであり、その先行指標と考えてよい。その大部分は、賃貸収入で十分な利益の上がる大都市を中心とする優良地の地価が対象であり、地方のシャッター通りの地価とは全く無関係に動く。東証REAT指数は、上記のグラフを見て分かる通り、日経平均株価と比較的似た動きをする。株価と同様に、金融緩和の強化を先取りして、昨年後半から明確な上昇を示している。REATの時価総額が過去最高になったことが報道されたが、これは、REATの新規設定が相次いでいる要因が大きい。個々のREATの平均値上がり率を示す東証REAT指数は、そこまで上昇していない。直近の株価の上昇局面で、大幅に株を買い越している主体は、外国人投資家である。一方、直近のREATの最大の買い越し主体は、銀行である。ただし、金額のレベルが違う。今年2月の銀行による東証でのREATの買い越し金額は270億円、今年2月の東証、大証、名証での外国人投資家による日本株の買い越し金額は1兆2000億円であった。

日本の地価は、バブル崩壊以降、ほぼ一直線で下落し続け、2013年の年初の時点では、新安値を更新している。アメリカ、イギリスでは、ほんの数年前にはじけたバブル崩壊が終了し、住宅価格の上昇が始まっている。日本では、こうした長期間の地価の下落が、ほとんど放置されてきたことは、大変大きな政策的失敗であったと考える。1980年代終盤から1990年代初頭にかけて、土地や株のバブルを潰すことを目的とした政策を、日銀や当時の大蔵省が次々と打ち出してきた。そうしたバブル潰しの政策は正しかったと思う。問題は、バブルがはじけた後、バブル崩壊の悪影響を最小限にとどめるため、資産価格を引き上げる政策が全く実施されなかったことである。住宅バブル崩壊後、アメリカやイギリスが実施した早期のゼロ金利政策の導入と大規模な量的緩和政策を、日本も1990年代前半のバブル崩壊直後に実施していたならば、失われた20年はなかったと考える。しかし、そこまでレベルの高い金融緩和政策を、20年前の日銀に求めることは、当時の雰囲気を考えると、無理であったと思う。しかし、ゼロ金利政策の導入にしろ、量的緩和政策にしろ、より早期に大規模に実施する選択肢は常にあったはずである。日銀の金融政策は、20年以上の間、金融引き締め政策を除けば、常に、”too little too late”であった。

日銀総裁が、白川氏から黒田氏に交代し、今後も金融緩和が強化されていくことは間違いない。東証REAT指数を追いかける形で、大都市の優良地については、今後、地価は上昇に転じる可能性が高い。私は、そうした地価の上昇を、健全な形で長続きさせるために、今から、土地のバブル発生のブレーキとなる政策を準備しておくべきだと考える。具体的には、特別土地保有税に近い新税の導入である。特別土地保有税は、大口の土地の取得、保有に課される税であり、現在は停止されている。地価税と違って、土地の保有だけではなく、取得の際にも課税され、市町村民税であるため、地価が上昇する地域のみに限定して課税することが技術的に容易であると思われるからだ。小口を除く土地の取得者、保有者に幅広く課税する新型の特別土地保有税が望ましいと思う。地域限定の特別土地保有税であれば、外国人投資家であろうと、それに便乗しようとする日本人投資家であろうと、投機的な土地の売買を抑制することが可能になる。投機的な行動を増税によって押さえ込み、景気に悪影響を及ぼすバブル発生防止のための金利引き上げを必要としなくなる政策を、今から準備すべきである。土地の値上がりが広範囲に広がってきたならば、非居住者や個人に対する土地のキャピタルゲイン課税の税率引き上げを始めとして、増税によってバブル発生を防止する政策は数多く残されている。金融政策ではなく、財政政策を利用し、地価がバブル化するのを防ぎ、日本全国の地価を、できるだけ緩やかに、平等に、末永く、上昇し続けるように誘導すべきだと考える。株の場合、増税によるバブル防止策は限定されている。それでも、個人投資家向けのキャピタルゲイン課税の税率引き上げなどのように、株価がバブル化するのを和らげる増税策は残されている。

バブル崩壊が始まって、20年以上も地価が下がり続ける現在のような状況では、政府、日銀が一体となった資産デフレ脱却政策が必要である。金融緩和の強化により、モノのデフレ脱却だけではなく、土地や株などの資産価格を引き上げることを意図する政策を進めることも必要だと考える。従来、バブルを恐れて、金融緩和のアクセルを踏まない、または、ブレーキを早めにかけるといった政策が採られてきたが、誤った政策であった。金融政策は、可能な限りアクセルを踏み続けるべきである。一方、ブレーキの役割は政府が果たすべきであり、増税という財政政策を、何時でも発動することができる準備をしておくべきである。そうすることによって、資産価格が長期間上昇することが可能となり、資産バブルの発生を防ぐことができる。資産バブル防止のための適切な増税策は、景気回復を妨げることなく、財政再建に寄与する政策にもなるのである。



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