アメリカ株価上昇の原因 バブルか否か?

前回(*1)、現在流行している「グレートローテーション」という無リスク資産からリスク資産への資金の大規模な移動が、日本においては、方向が正反対に動いていることを説明した。

本来の意味の「グレートローテーション」という現象が発生したのは、アメリカからである。今回は、アメリカの株価上昇の原動力を調べることにする。主として、FRBが発表している「Flow of Funds」、日本で言うところの資金循環統計の数値を使って、アメリカの資金循環の構造から、その原因を探ることにする。

まず、アメリカの株価が、日本と比べてどれほど大きく上昇してきたかを示すグラフを、前回と同様に、最初に示す。


日本、アメリカの株価推移

次に、アメリカの株価が、どのような主体の買いにより上昇しているかを表すものとして、下記のグラフを示す。

アメリカ株 投資部門別の株式売買

現在のアメリカ株の最大の買い主体は、事業法人である。事業法人の買いとは、「事業法人の自社株買い+M&Aに伴う株式買い付け-エクイティ・ファイナンス」の金額と言い換えることが出来る。アメリカの場合、「事業法人の自社株買い+M&Aに伴う株式買い付け-エクイティ・ファイナンス」の金額がプラスになる状態が、1994年以降、継続している。この事業法人の自社株買い、M&Aに伴う株式買い付けこそが、アメリカ株の最大の買い手であり、アメリカの株価を上昇させる原動力となっている。二番目の買い主体は投信である。一方、最大の売り主体は、個人投資家である。ただ、個人投資家は、投信を通じる間接的な株式投資金額を増やしているため、その分を含めるならば、それほど大規模に株を手放しているわけではない。

次に、アメリカ株の投資部門別の株式保有比率を下記に示す。


アメリカ株 投資部門別の株式保有比率

アメリカの場合、日本と違って、個人投資家の保有比率が37.7%と一番多い。次が、個人投資家の間接的な株式所有とも言える投信の保有比率が19.6%である。外国人投資家の保有比率は、日本よりかなり低い1.6%、金額で見ると、3兆5136億ドルである。絶対金額は多いが、アメリカ人の外国株保有金額が4兆7457億ドルあり、株に関する対外資産負債は、資産超過である。

次に、アメリカの主要部門の資金過不足の対名目GDP比率を見ることにする。


主要部門の資金過不足の対名目GDP比率

上記の表は、大元の資金過不足の数値に、少し手を加えて変更している。資金の過不足は、各主体の「金融資産増加-金融負債の増加」が定義であるが、非金融機関、金融機関については、投資部門別の株式売買のグラフで示した「自社株買い+M&Aに伴う株式買い付け-エクイティ・ファイナンス」の数値を足し合わせた。つまり、自社株買い等を実施する前に、どれほどの余剰資金が、金融機関、非金融機関に残っていたのかを見るためである。なお、非金融機関とは、事業法人に加えて、金融以外の事業を営む法人ではない団体の分をも含む主体であり、株式売買のグラフで使った事業法人とは少し定義が異なるので、訳語も異なる言葉を使った。また、日本では、株の投資部門別売買状況の統計では、個人という言葉を使い、資金循環統計では家計という言葉を使うので、今後は家計という言葉を使うが、意味は個人と同じである。

家計は、ITバブル期、住宅バブル期においては、バンバン消費するなり、住宅を大量に購入したりしたため、資金不足の主体であった。住宅バブルの崩壊後、貯蓄を増やし、資金不足につながる住宅建設を減らしたため、直近では最大の資金余剰主体になっている。

非金融機関は、2003年から、資金余剰を少しずつ強めていたが、住宅バブル崩壊中の2008年に、一時的に資金不足に転落した。しかし、その後すぐ、資金の大幅な余剰主体へと戻っている。非金融機関は、2003年から、余剰資金が発生すると、そのうち何割かを自社株買いやM&Aに回すという行動をずっと採り続けている。リーマンショック前後の非常時を除いて、住宅バブル崩壊前後で行動パターンが変わったわけではない。住宅バブルの崩壊後、不況下の低金利の状態で非金融機関に資金が蓄積されることはあったが、その資金の何割かは、自社株買いやM&Aなどの株式買い付けに回されている。

一方、直近における最大の資金不足主体は、日本と同じく、政府である。

この資金過不足をフローではなく、ストックで見た主要部門の資産負債差額のグラフを下記に示す。


主要部門の資産負債差額

資産を一方的に溜め込んでいるのが、家計、負債を一方的に増やしているのが、非金融機関、次いで政府である。家計の資産と非金融機関の負債が、ともに絶対値を拡大させている最大の原因は、株価の上昇である。資金循環統計は、企業のバランスシートとは異なり、借方=貸方ではない。また、資産側も負債側も時価評価をするので、株価が上昇すると、家計保有の株式資産金額と非金融機関の発行株式残高の金額が、ともに絶対値が拡大するような構造になっているからである。

2012年12月末の非金融機関の資産負債差額を表にすると、下記のようになる。


アメリカ非金融機関の資産負債差額

非金融機関の資産負債差額は、24兆5200億ドルの不足である。しかし、時価評価された負債サイドの自社株式の金額が24兆2600億ドルもあるので、ほぼ相殺されている。総資産が19兆5600億ドル、総負債が19兆8210億ドル存在し、資産と負債がほぼ均衡している。非金融機関全体としてみると、財務内容は健全であると言える。

最後に、アメリカの非金融機関の税引き前利益の総額のグラフを下記に示す。


アメリカ非金融機関の税引き前利益の総額

アメリカの非金融機関の税引き前利益の総額は、住宅バブルの崩壊で、一旦、減少したが、現在は過去最高になるまで増加している。株価の上昇と並行して増加している。PERも高くないため、株価は割高ではなく、バブルでもない。

こうしたアメリカの株式売買、株式保有、資金過不足、金融資産負債差額、非金融機関の収益の動きを見ると、株を取り巻く資金の流れについては、非常にスムーズに循環していることが分かる。リーマンショック後、FRBの大規模な金融緩和政策が、景気や企業収益の悪化を食い止め、モノの価格をデフレに陥らせず、株価もすぐに回復させるのに成功している。株価上昇のメカニズムは、企業収益の増加と同時に発生する、企業の余剰資金による自社株買い、M&Aの増加が最大の原動力である。2012年以前においては、年金、投信、保険といった機関投資家が、無リスク資産から株へと資金を大量に移動させたわけではなかった。しかし、機関投資家は、アメリカ株を大量に買うことはなくても、株価上昇により利益を獲得し、外国株や国内のベンチャー企業に積極的に投資してアメリカ経済の回復に貢献している。こうした良い資金循環の構造は、住宅バブル期に形成されたが、住宅バブルの崩壊中に、一時的に破壊された。しかし、FRBのゼロ金利政策の導入、大規模な量的緩和政策の継続により、短期間にバブル崩壊以前の構造に戻った。市場の威力と政策の効果が見事にマッチして、資金の流れを素早く元の形に戻すことに成功している。もし、FRBが、ゼロ金利政策や量的緩和政策を採用していなければ、企業の余剰資金が、自社株買いやM&Aに少ししか回らず、利子率の高い預金や国債などの安全資産の方により多くの資金が流れ、株安と金余りで、バブル崩壊後の日本と似た経済不振の状態が長く続いていたであろう。アメリカ経済には、高い失業率や所得格差などの問題が、依然として山積している。それでも、企業や株を取り巻く資金については、効率的な循環構造が続いており、株価も、企業収益の増加と並行して上昇している。

前回示したように、日本は、景気回復期に外国人投資家が日本株を大量に買い、株価が上昇するという構造が、バブル崩壊から20年以上継続している。そして、外国人投資家による日本株の大量保有という環境下での株価上昇は、日本の対外純資産の大きな減少要因になる。2013年3月14日に発表された3月第1週の投資部門別売買状況によると、外国人投資家の日本株買い越し金額=日本人投資家の日本株売り越し金額は、1兆0173億円と過去最高を記録した。長年の株価下落と低迷の影響で、日本人投資家がリスク回避志向を極端なまでに強めてしまったからである。2%のインフレ目標に向けて大胆な金融緩和が実施されることが確実になる中で、日本人投資家は、配当利回りは高いが、価格下落リスクがある株という資産から、利子率が非常に低く、インフレで実質価値が目減りする可能性がある預貯金や債券へと、過去最高の速度で資金を移動させている。株というものに対するあまりにも極端なリスク回避志向の結果、現在の日本国内の資金循環構造は、狂ってしまったと言わざるをえない。こうした資金循環の構造を正すためには、単なる量的緩和の強化以上のものが必要であろう。(*2)の最後に示した、日銀のオペの対象を超長期、長期の国債に集中させ、生保や年金の資金を、無理やり日本株の買いへ誘導させるという、現実味が乏しいほどの過激な案までも、検討の対象にしてもよいのではないかと感じられる。



【いつもクリックで応援していただき、大変感謝しております】      
  

テーマ : 経済
ジャンル : 政治・経済

コメントの投稿

非公開コメント

No title

初めまして。わたくし金融関係で働いているものです。
質問がございまして、この日のブログでアダムスミス2世さんがアメリカの投資部門別売買のデータを載せていらっしゃいますが、具体的にはどこにありますでしょうか?FRB flow of fundsのサイトを見てみたのですが、見つけられなくて…。お忙しいところ申し訳ありませんが教えてくださると幸いです。よろしくお願いします。

FRBのサイトは使いにくいです

http://www.federalreserve.gov/datadownload/Choose.aspx?rel=Z.1

の中のBにある

F213 (A)Corporate Equities,s,a

から数字を取り出し、わかりやすい形に集計し直してグラフ化しました。
 株式関連 株 コメント一覧

  • 投資部門別 現物先物 時系列表

  • 投資部門別売買状況 時系列グラフ

  • 11月第2週 株 コメント

  • 11月第1週 株 コメント

  • 10月第4週 株 コメント

  • 10月第3週 株 コメント

  • 10月第2週 株 コメント

  • 10月第1週 株 コメント

  • 9月第4週 株 コメント

  • 9月第3週 株 コメント

  • 9月第2週 株 コメント

  • 9月第1週 株 コメント

  • 8月第5週 株 コメント

  • 8月第4週 株 コメント

  • 8月第3週 株 コメント

  • 8月第2週 株 コメント

  • 8月第1週 株 コメント

  • 7月第4週 株 コメント

  • 7月第3週 株 コメント

  • 投資部門別売買状況アノマリー

  • 日本株 株式分布状況調査

  • 日銀資金循環統計 株 長期グラフ

  • 日銀資金循環統計 株 コメント

  • 株式先物投資部門別売買状況

  • 大手証券 先物建玉推移 グラフ

  • 海外投資家の日本株国別売買保有

  • 海外投資家の株式買い越し金額

  • 世界の株価 国別 長期推移

  • 世界の住宅用不動産価格

  • 長期の実質実質為替レート

  • 政府・日銀の犯罪的な政策の誤り

  • 最新記事
    カテゴリ
    全記事表示リンク
    目次のページを表示

    最新コメント
    Twitterを表示
    経済指標が意味するところを解説
    FC2カウンター
    最新トラックバック
    検索フォーム
    リンク
    ブロとも申請フォーム

    この人とブロともになる

    QRコード
    QR
    RSSリンクの表示
    Web Analytics