グレートローテーションによる損失の拡大

世界の多くの市場において、株価が上昇し、グレートローテションという言葉が流行している。債券、預金などの安全資産から、株などのリスク資産への資金の移動を意味する言葉である。しかし、日本においては、世界と異なる現象が発生している。日本の株式市場が抱える問題点について、今までに何度も触れてきたが、今回はその問題点をもう一度まとめることにする。

昨年の11月14日、当時の野田総理による衆議院解散の発言があって以来、円安・株高が急速に進行した。株価については、ほぼ一直線の上昇が続いているため、すでに株式相場バブル論が、あちらこちらで語られるようになっている。

しかし、日本の日経平均株価は、1989年末の最高値から68%下落した状態にあり、史上最高値を更新しているアメリカのNYダウとは相当大きな開きがある。1980年以降の、日本とアメリカの株価の推移を下記に示す。


日本、アメリカの株価推移

1980年代後半の日本のバブルの時代を除いては、アメリカの株価は日本の株価を大きく上回る上昇を示している。2007年の終わり頃から住宅バブル崩壊が始まり、翌2008年のリーマンショックで一時的に大きく下落したが、2013年3月5日に史上最高値をあっさり更新した。日本の株価が23年以上低迷しているのと、大きな違いである。

ではこの間、日本とアメリカのGDPはどのように推移してきたのであろうか。まず、日本とアメリカの名目GDPの推移を下記に示す。


日本、アメリカの名目GDPの推移

日本、アメリカの名目GDPは、株価ほどの差はないが、それでも過去33年間にかなりの格差を生じている。

次に、日本とアメリカの実質GDPの推移を下記に示す。


日本、アメリカの実質GDPの推移

実質GDPの差は、名目GDPの差よりもさらに縮まる。それでも、日本のバブルが崩壊した後は、日本よりアメリカの方が実質GDP成長率が高い状態が続いている。アメリカを震源とする住宅バブル崩壊、リーマンショックにより、日本、アメリカの両国はいずれも打撃を受けた。しかし、実質GDPの減少率は、震源地であるアメリカよりも、当初は影響が少ないと考えられていた日本の方が大きく、その後の回復過程もアメリカの方が順調である。

株価の差>名目GDPの差>実質GDPの差、であるのだが、株価が順調に上がってくれた方が実質GDPの上昇率が高まりやすい傾向があることは理解できる。

では、日本の株価がここまで低迷し続けてきた理由は何なのであろうか。その原因を探るために、日本株の投資部門別の売買状況の長期の動向を下記に示す。


日本株 投資部門別売買状況 長期

バブル以前は、日本人投資家が日本株を買い越し、外国人投資家が売り越していた。バブル崩壊後の最大の買い主体は、外国人投資家である。外国人投資家は、1991年-2012年の22年間に日本株を74兆円買い越している。外国人投資家が大量に買い越すと、日経平均株価は上昇し、外国人投資家の買い越しが減少したり、売り越しに転じたりした場合には、日経平均株価は下落している。バブル崩壊後の日経平均株価は、最大で82%下落した。もし仮に、外国人投資家の買いが無かったとしたならば、日経平均株価はもっと大きく下落していたはずである。その場合、バブル崩壊の悪影響は、より大きなものとなっていたことは間違いない。外国人投資家による巨額の日本株買いにより、日本は救われたのである。一方、その巨大なツケを将来支払うことになる。

株価上昇が常に外国人投資家主導であるという現象は、現在でも変わっていない。日本株の投資部門別の売買状況の短期の動向を下記に示す。


日本株 投資部門別売買状況 短期

昨年11月14日に、当時の野田総理が衆議院解散を明言して以降、株価はほぼ一直線で上昇している。その間、外国人投資家は4.2兆円の日本株を買い越し、それ以外の投資家、すなわち日本人投資家は、ほとんどの主体が売り方に回っている。特に年金などの長期運用の資金を扱っている信託銀行は、売り一辺倒である。個人投資家の売り越し金額も大きい。個人投資家が買い越しになっている期間は、2週間だけあるのだが、この時の日経平均株価は、下落か横ばいである。日経平均株価が順調な上昇を示す時、個人投資家は大量に売り越している。ちなみに、日本人投資家は、昨年11月14日から外国株の売り越し金額も大幅に拡大させている。バブル崩壊以降、日本人投資家の資金は、株から債券、預金へのシフトというグレートローテーション、リスク・オフの流れが継続している。現在の世界の資金移動と正反対の方向であるが、昨年11月14日以降、そうした流れは加速化しているのである。

日本人投資家が、株価が上昇すると株を大量に売却してしまう理由は、あまりにも長期間、日本の株価が下落、または低迷を続けているからである。上がらないから新規に買わない、新規の買いがないから上がらない、という悪循環の構造が定着してしまっているからである。株などの資産運用の分野においては、ほとんどの国では、ハイリスク・ハイリターンが常識である。しかし、日本の株は、ハイリスク・マイナスリターンの期間があまりにも長く続いている。リスクを取っても、それに見合ったリターンがマイナスという異常な状態が長続きしすぎているのである。こうした環境下において、株の運用で利益を上げようとすると、戻り局面で売り抜けるしか手段がない。現在の少しばかりの株価上昇をバブルと感じる心理も、同様な病理現象であろう。日本の株価のPERが高すぎるという意見も多いが、将来の利益まで考慮すると、予想PERは現在より低くなるはずだ。私は、こうした構造を、株式市場のヒステリシス(*1)と考えており、解決方法が大変難しい問題である。

次に、直近の日本株の投資部門別株式保有比率下記に示す。


投資部門別保有株比率(日本)

2012年3月末時点における日本の上場株の最大の保有主体は、外国人投資家であった。次いで、事業法人、個人の順である。最近、株高の影響で、百貨店で高額商品の売れ行きが伸びていると報道されている。しかし、個人投資家の持ち株比率は、全体の20.4%、外国人投資家の26.3%よりも低い。日本の個人投資家よりも外国人投資家の方が、日本の株価上昇により、より多くの利益を獲得しているのである。

しかし、外国人投資家の日本株の大量保有と言う現象は、より深刻な問題を内包している。2012年3月末時点での外国人投資家の日本株保有金額は81兆円、この時の日経平均株価は10,083円であった。おおざっぱな計算をすると、日経平均株価が1,000円上昇するたびに、外国人投資家の株式保有金額は8兆円増加する。外国人の日本株保有というのは、対外資産負債残高の観点から見ると、対外負債に相当する。日本は、2011年末時点で、対外純資産を253兆円保有し、世界最大の対外純資産国である。しかし、この対外純資産は、日経平均株価が1,000円上昇すると、8兆円ずつ減少するのである。日経平均株価は、昨年11月14日から約3,600円上昇している。この結果、日本の景況感は著しく改善したのであるが、対外純資産という観点から見れば、この間の株価上昇により、少なくとも28.8円の対外純資産を失っているのである。日経平均株価が史上最高値の38,915円を更新する場合、昨年3月からの日本の対外純資産減少額は232兆円になる。外国人投資家の買いが主導して株価が史上最高値を更新する場合、対外純資産の減少額は253兆円を上回り、日本は対外純債務国に転落する可能性もありうる。対外純資産の決定要因は複雑であり、株価だけで決定されるわけではないが、可能性としては、起こりえることを否定できない。

こうした現象が起きるのは、日銀が、株価下落をあまりにも長期間放置してきたからである。1990年以降、バブルは絶対にいけない、バブルの再発は絶対に防止しなければならない、という強い信念をずっと抱いてきた。一方、バブル崩壊が日本経済に与える様々な悪影響を、あまりにも過小評価してきた。金融緩和の強化により、急激な株価下落を食い止める努力を全くしなかった。一方、過度の金融緩和がバブルの再発をもたらすことに対しては、強い警告を繰り返し発してきた。結果として、バブル崩壊後の日本株の最大の買い手は、外国人投資家となった。日銀が銀行保有株やETFの少しばかりの購入を始めたのは、株価が大きく下落した後のことであった。

1990年代前半に、ゼロ金利政策と大規模な量的緩和政策を実施していたならば、株価下落も短期間で終わり、緩やかながらも日本人投資家主導の上昇相場が続いていた可能性が高い。現にアメリカでは、リーマンショック直後に、ゼロ金利政策の導入と大規模な量的緩和政策を実施し、前の高値から5年強で、NYダウを史上最高値に戻すのに成功している。1991年以降、日本は、外国人投資家の日本株買いという、外国からの一種の借り入れによって株価を支えてきたのである。将来、元本にプレミアムを加えた形で借金を返済するしかない。なお、株式市場だけではなく、不動産市場においても同様な現象が発生しているはずであるが、基礎統計が整備されていないので、金額を計算することができない。

少子高齢化と人口減少に苦しむことが確実な日本経済は、長期的に見れば、対外純資産を取り崩す方向に進んで行くことにならざるを得ない。しかし、取り崩す前に、対外純資産が無くなってしまう可能性もゼロでは無い。バブル崩壊から20年以上にわたって、金融政策の舵取りを誤ってきた日銀の金融政策の負の遺産は、あまりにも大きい。

テーマ : 経済
ジャンル : 政治・経済

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