外国人投資家の日本債券買いの問題点

前回、外国人投資家の日本株買いについての問題点を指摘した。今回は、外国人投資家の日本債券買いについての問題点に言及してみたい。

まず、国際収支の中で、外国人投資家の日本債券買いの占める大きさを見るために、下記の表を示す。


日本の国際収支の主な内訳

国際収支の中で、為替変動に影響を与える規模の大きいものは、経常収支と投資収支がある。国際収支統計が現行の方式に改定された1996年から2012年11月までの年平均の経常収支は14.4兆円の黒字、投資収支は8.3兆円の赤字であった。この状態が続くと、為替の需給が均衡せず、円高に向かうはずである。そこで、表には無いが、年平均5.8兆円のマイナスの外貨準備の減少=為替介入が実施され、その結果、為替の需給が均衡し、円高の進行が阻止された。投資収支の中では、直接投資、証券投資、その他投資収支の3項目が重要な項目である。これも表には無いが、直接投資は、年平均4.7兆円の赤字であり、毎年安定した赤字が続いている。ここでは、投資収支の中の、外国人投資家の日本債券買いを中心に分析を進めることにする。その際、投資収支の中の、外国人投資家の日本株買い、日本人投資家の外国株、外国債券買い、及び、その他投資収支についても、関係があるので同時に分析を進める。そして、外国人投資家の日本債券の売買の大半が、日本国債(厳密には日本国債プラス財投債)であるため、ここでは、日本債券と日本国債を区別せず、同義として使うことにする。

上記の表を見て分かるとおり、日本人投資家は、ほぼ継続して、外国株式、外国債券を購入している。一方、外国人投資家はプラスマイナスを繰り返しているが、年平均を見ると、日本株を4.5兆円買い越し、日本債券を4.7兆円買い越している。為替への影響という点では、外国人投資家の日本株買いの影響よりも、外国人投資家の日本債券買いの影響の方が、少し大きい。それ以外に、その他投資収支と言うものがあり、年平均では1600億円とわずかな黒字である。しかし、年ごとに見ると、2007年には、24.6兆円の赤字を記録し、翌2008年には、19.6兆円の黒字を記録している。その他投資収支の中には、巨額の投機的な資金が含まれている。その他投資収支は、短期の為替相場の決定においては、最も大きな影響を及ぼす。しかし、長期の相場水準に対する影響力は無い。

次に、外国人投資家の日本国債保有額を、他の日本人投資家の日本国債保有額とを比較することにする。

国債等の保有者内訳
上記のように、外国人投資家の日本国債の保有額は、最近、急速に増えつつある。国債発行残高に占める比率は、2012年9月末時点で11%である。同時点おいて、外国人投資家のアメリカ国債の保有比率は48%である。保有比率という点に関しては、まだアメリカのように外国への依存を心配するレベルには達していない。上記のグラフの出所元である日銀の資金循環統計に加え、財務省の国際収支統計、本邦対外資産負債残高統計、日本証券業協会の公社債投資家別売買高統計も合わせて見ることにより、外国人投資家は、短期国債と、長期の中でも残存期間が比較的短い国債の保有比率が高いと推定する。日本人投資家で国債保有額を増やしているのは、少し前までは、郵便貯金を含むその他金融機関であった。直近では、保険、銀行、日銀の国債保有額が増えている。

次に、外国人投資家の日本国債の売買を、他の日本人投資家の日本国債売買と比較することにする。

国債等の保有者の売買状況
見づらい表であるが、外国人投資家の売買である黒色のマーカーの入った線の直近の動きを見ていただきたい。直近の3年間、厳密には、2010年4月-2012年9月の間の2年半であるが、この期間の日本国債の増加額に占める外国人投資家の保有増加額の割合は39%にもなる。つまり、日本は、過去2年半の間、新規国債の発行において、売却先の主体のうち39%は外国人投資家に依存していたことになる。これは相当大きな比率であると言える。ストックと言う点ではまだ心配は不要であるが、フローという点では、心配すべき状況が既に発生してしまっている。もし外国人投資家が日本国債を買わなくなったり、売り方に回ったりしたならば、日本国債の金利が上昇する可能性が発生しつつある。日本は財政赤字の金額は大きいが、国債の大部分は日本人投資家が買っているので問題は無い、と言う話は既に過去の話になってしまった可能性がある。

上記の2つのグラフは、昨年9月までのグラフであるので、財務省の統計を使って、昨年10月以降の動きを見ることにする。この間、当時の野田総理の衆議院解散発言があった11月14日を境にして、急速な円安・株高が始まったので、その変化と合わせて観察することにする。まず、外国人投資家の日本株、日本債券の売買を示す。

外国人投資家の日本株、日本債券の売買

次に、日本人投資家の外国株、外国債券の売買を示す。

日本人投資家の外国株、外国債券の売
昨年11月14日を境にして、明らかに大きく変化したのは、外国人投資家の日本株買いの金額の増加と、日本人投資家の外国株売りの金額の増加である。しかし、よく見てみると、外国人投資家の日本債券買いの金額も増加しており、日本人投資家の外国債券買いの金額は減少している。つまり、証券投資収支を4つのセクターに分けてみると、11月14日以降、全てのセクターにおいて、資金の流れが、日本国内から国外への流出方向ではなく、日本国外から国内への流入方向の金額が増えている。証券投資収支の黒字額が拡大しているのである。これは、11月14日を境にして、証券投資収支に関しては、円買い・ドル売りの金額が大きく増加していることを示している。にもかかわらず、為替は円高・ドル安の方向に向かわず、円安・ドル高の方向に向かった。その理由は、11月14日を境にして、その他投資収支を通じた投機的な資金による、大規模な円売り・ドル買いが発生したからである。昨年11月については、国際収支統計が既に発表されており、間違いないことが確定している。統計が未発表である12月以降についても同様であることは、ほぼ確実だと思われる。11月14日以降に注目されたのは、当時の安倍自民党総裁による、大胆な金融緩和、2%のインフレ目標の発言であった。安倍氏の政策が実現されると、一部の日本人投資家と多くの外国人投資家は、金融緩和が強化される結果、円の価値は下がり、外貨の価値は上がると予想したはずである。にもかかわらず、証券投資に関しては、価値の上がると思われる外貨建て資産には売りが増加し、あるいは、買いが減少し、価値が下がると思われる円建ての資産には買いが増加しているのである。外国人投資家の日本株買いに関しては、円安の不利益よりも株高の利益の方が大きいからだとの説明が可能である。それ以外の売買については、説明しづらい現象が起こり続けている。ただ、株、債券と言った商品の場合、価格変動の理由が説明しづらい状況は、しばしば発生する。一方、その他投資収支については、11月14日を境にして、投機家たちの大規模な円売り・ドル買いが発生した結果、為替が、円安・ドル高方向へ動くという説明のつく動きを示している。 

以上のように、現在の円安・ドル高は、もっぱら投機的な資金の動きによって支えられている。長期の為替レートに大きな影響を与える証券投資収支の赤字化は起こらず、逆に黒字額が拡大している。投機家の多いその他投資収支の大幅赤字は、長ければ3年くらいは続くと思う。しかし、5年、10年も続くことはありえない。円安・ドル高を継続させるためには、直接投資収支の赤字に加えて、証券投資収支も赤字に変える必要がある。そうした状況が発生したならば、円安・ドル高の定着による輸出拡大を通じて、日本国内における所得創出能力が高められ、新規発行の国債の最終的な販売先を、外国人投資家や日銀に頼らなくても済む元の経済構造に戻すことが可能になる。

前回、日銀の資産購入について、超長期と長期の国債に集中させるという政策により、円安と株高が発生しうることを説明した。今回は、債券投資収支の大幅な赤字化を通じて投資収支を赤字化させる対策、金融政策を考えてみる。一つの例として、貸し出しから国債購入へとオペの内容を大きく変更することがあげられる。先に記した通り、外国人投資家の日本国債のポートフォリオは、残存期間が中短期である国債の占める割合が高いと推定される。資産買入等の基金において、現在予定されている今年の国債購入額は20兆円、短期国債購入額は15兆円である。昨年末の時点で、資産買入等の基金で運用されていた貸出金は27兆円であった。また、貸出支援基金として、2014年3月までに、15兆円前後の貸し出しを増やすことを予定している。この資産買入等の基金で運用されていた27兆円の貸出金と、15兆円前後の増加が見込まれている貸出支援基金の合計42兆円を、貸し出しではなく、国債の購入に回すのである。そうすると、今年の日銀による国債購入額は62兆円、短期国債購入額は15兆円、合計77兆円を国債と短期国債の購入に回すことになる。来年度の国債の市中発行額は、2年債で34.8兆円、5年債で、32.4兆円、合計で67.2兆円である。これ以外に、残存期間が中短期の国債は、数百兆円レベルで存在する。従って、外国人投資家の好む中短期のゾーンの国債を吸収し、外国人投資家の日本国債買いを完全にブロックすることは出来ないが、買いにくくする効果は有ると思う。外国人投資家の日本国債買いの金額が減少すれば、円安がより一層進行し、結果として、外国人投資家の日本国債買いを大幅に減らしたり、売り越しに転じさせたりすることも可能だと思う。日本人投資家による外国債券買いは、ほぼ間違いなく継続するので、債券投資収支の赤字化は可能だと思う。債券投資収支の赤字額を拡大させ、株も含めた証券投資収支も赤字化が出来れば、より望ましい。直接投資収支は常に赤字であるので、投資収支全体の赤字を拡大定着させることが出来れば、安定的な円安が続き、輸出が伸び、経常収支の黒字が拡大し、定着する。

大胆な金融緩和と言う政策が成功するカギとなるのは、円安・株高という現象を、緩やかでよいから、できるだけ長期間持続させることにある。現在の円安という現象は、投機家たちの売買による結果であり、安定的に長続きする構造にはなっていない。現時点では、大胆な金融緩和と言う政策が確実に成功する仕組みは、出来上がっていないのである。円高・株安方向への転換を阻止する方法の一つに、日銀が、現在の購入資産のポートフォリオを国債中心に組み替えて、外国人投資家の日本国債購入をブロックすることを図る、という政策があることは指摘しておきたい。それでも円高・株安が止まらない場合、資産買入等の基金での国債の購入額を増やす政策をとればよい。債券投資収支を大幅な赤字に向かわせ、その状態を持続させることが、大胆な金融緩和と言う政策が成功するための必要条件なのである。

当座預金に積み上がった資金を、いかにして銀行貸出に回すのかを考えるのは、古い考え方であり、生産的ではない。大胆な金融緩和という日銀による大規模な資産購入を通して、内外の投資家のポートフォリオバランスを変化させ、円安・株高の傾向をいかにして持続させるかを考える方が、新しい考え方であり、より生産的である。円安・株高が続き、景気回復と物価上昇が起これば、その時には、銀行貸出も多少は増加しているであろう。



(上記の記事の訂正)
国際収支統計(=確報)の数字
2012年11月 
証券投資 3兆0830億円の黒字 その他投資収支 2兆7173億円の赤字
2012年12月
証券投資 3兆2935億円の赤字 その他投資収支 5兆9172億円の黒字

国際収支統計では、速報値と確報値が大きく異なることがしばしば発生する。2012年12月もそうした月であった。証券投資収支の速報値は、2027億円の黒字であったが、確報値は3兆2935億円の赤字であった。外国人投資家が大量に日本債券を売却し、日本人投資家が外国債券を購入し、円売りドル買いの需要が発生した。それに対して、投機家が円買いドル売りをぶつけ、その結果、その他投資収支は大幅な黒字となった。速報値から予想した私の読みは、外れた。

しかし、その後は私が懸念した通りのことが続いている。詳しくは、「異次元金融緩和の効果」を参照されたい。


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テーマ : 経済
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