日本の産業構造の変化と成長戦略

昨年12月に2011年度の国民経済計算確報の一部が公表された。そのデータを使って、日本の産業構造の変化と必要な成長戦略について述べることにする。

国民経済計算確報の中に経済活動別国内総生産という統計がある。その統計では、2001年-2011年の産業別のGDPを30業種に分けて表示している。ここでは、主として、就業者数が多い13業種(GDP総額も含む)を取り上げ、その推移を見ることにする。

まずは、2001年の数値を100とした、主要13業種の産業別就業者数の推移を下記に示す。

主な産業別就業者数の推移.
2011年の就業者合計の数値は98.8なので、就業者合計は2001年との比較で、若干減少している。これは、失業者が増えたからではなく、生産年齢人口の減少を背景とした労働力人口の減少の結果である。上位は、輸送用機械、不動産、金融・保険である。輸送用機械、その中の多くを占める自動車産業の就業者数が増加していることは、大変好ましい。しかし、2位、3位に、不動産と金融・保険が来ているのは、あまり好ましいことではない。理由は、自動車と違って、不動産、金融・保険は基幹産業とは言えないからだ。自動車が拡大すると、それに伴って、不動産、金融・保険などの産業も、付随して必ず拡大する。一方、どんなに立派な不動産、金融・保険といった産業が存在しても、自動車のような別の産業が付随して拡大することはない。その結果、現在、立派な不動産、金融・保険といった産業があったとしても、いずれは死滅してしまう可能性があるからだ。一方、下位には、電気機械、建設、農林水産業が来ている。電気機械、農林水産業は基幹産業である。こうした基幹産業への就業者数が減少していることは、日本経済が順調とは言えない成長過程を歩んでいることの一つの証拠である。後ほど詳述するが、現在、イノベーションが最も活発に行われている電気機械の就業者数が、農林水産業以上に減少しているのは、悲しむべき事実である。

次に、主要13業種の産業別名目GDPの推移を下記に示す。

主な産業別名目GDPの推移
上位3業種は不動産、卸売・小売、政府サービスである。これらはいずれも基幹産業ではない。特に政府サービスというのは、多くが税金によって維持されている寄生産業である。政府サービスだけが肥大化した経済は、税金が重くなり、経済全体の衰退にもつながりかねない。下位3業種は、農林水産業、電気機械、建設であり、下位の二つに基幹産業が位置している。これは就業者数とほとんど同じ構図であり、好ましい姿ではない。なお、2011年に電気機械が大きく落ち込んでいる原因は、私は円高だと考えている。一方、輸送用機械が落ち込んでいる原因は、東日本大震災の影響で、部品供給が滞ったことである。

次に、主要13業種の産業別実質GDPの推移を下記に示す。

主な産業別実質GDPの推移
名目GDPの推移とは全く異なる風景が見えてくる。他産業を大幅に引き離してダントツで一位を占めるのは、電気機械である。大きく引き離されての2位は輸送用機械であり、3位にそうした産業を包括する製造業が来る。一方、下位3業種は建設、金融・保険、農林水産業である。電気機械がダントツの一位となっている理由は、実際の生産性が大幅に上昇しているからである。もう一つの理由は、同じ電気機械の製品であったとしても、従来よりも性能が大幅に向上しているからである。10年前のコメと現在のコメとでは、品質にほとんど差は無い。自動車の性能も、10年間に、多少燃費が良くなったくらいで、それほどの性能の向上は見られない。しかし、パソコンや携帯電話は、10年前のパソコン、携帯電話よりも、飛躍的に進歩したものへと変化をとげている。統計上は、こうした性能の向上を、価格の低下と捉えているので、実質GDPの大幅な上昇につながるのである。こうした生産性の大幅上昇、性能の飛躍的な向上、すなわち、イノベーションの進化は、現在の日本においては、電気機械に集中しているのである。いわゆるIT産業、デジタル家電産業、電子部品産業などでは、イノベーションの速度が速く、結果として電気機械の実質GDPの大幅な上昇につながっている。

次に、主要13業種の産業別GDPデフレーターの推移を下記に示す。

主な産業別GDPデフレーターの推移
実質GDPの上昇とは正反対で、電気機械のデフレーター下落が著しい。次いで、製造業、輸送用機械の順に下落幅が大きい。一方、デフレーター推移の上位は、建設、卸売・小売、食料品製造である。

以上のように、2001年-2011年の日本において、最も生産性が上昇し、実質GDPの上昇につながった産業は、電気機械である。しかし、デフレーターの大幅下落を背景に、電気機械の産業別の名目GDPは減少し、就業者数も同様に減少し続けている。

現在の日本では、構造改革、規制緩和、貿易自由化などの政策により、成長力強化を図るべきだと考えているエコノミストは多い。そうした政策には、規制や補助金などに守られて、従来、生産性があまり上昇して来なかった分野に、競争という原理を導入し、経済全体の生産性、成長力を高めようとする意図がある。経済全体の生産性の上昇に向けて構造改革という政策を動員すること自体は正しい。では、こうした構造改革が実施されれば、日本経済の成長率は上昇するのであろうか。答えは明らかにノーである。多くの産業では、生産性を上昇させ、成長を実現することは、それほど容易なことではないからだ。実質GDPが大幅に上昇してきた電気機械産業の衰退が続けば、構造改革の結果、他のいくつかの産業の生産性が上昇したとしても、日本経済の実質GDP成長率は、マイナスに転落してしまう可能性が高い。

より重要で効果的な政策は、現在、生産性の上昇の著しい産業を、今まで以上に拡大させることである。最もイノベーションが盛んで、生産性の上昇と成長が見込まれる電気機械産業の就業者数と名目GDPを、縮小ではなく、拡大させていかなければ、日本経済の本物の成長はありえない。電気機械産業が弱体化した大きな原因の一つは超円高である。超円高の継続のため、今や日本の電気機械産業の何割かは、死亡か、死亡寸前と思われるくらい大きな打撃を受けている。多少の円安が来ても、立ち直れるかどうか怪しい企業も存在する。現在の日本に最も必要な政策は、円高を是正し、死にかけている電気機械メーカーをとりあえず蘇生させ、アジアやアメリカのライバル企業との競争に打ち勝てるような基盤を再び取り戻すことである。もはや手遅れの部門もあるが、まだ再生可能な部門も残っている。いつも繰り返しているように、アジアの周辺諸国は、自国の通貨を安く誘導し、自国の輸出産業の競争力の向上を図っている(*1)。経済の発展段階の差としての賃金格差はあきらめるしかないが、自国通貨安誘導政策の結果としての賃金格差は、一刻も早く是正する必要がある。電気機械産業は、成長性が見込まれるために、どの国も競争力の向上に熱心である。その結果としてのアジア諸国の低価格攻勢に、何割かの日本の電気機械メーカーは打ち勝つことができず、工場の海外移転、生産からの撤退など、際限の無いリストラを継続するように追い込まれてきた。それでも黒字を維持できず、倒産してしまったり、倒産寸前の危機に直面する企業も増えている。自国通貨安誘導政策というのは、はっきり言えば、近隣窮乏化政策である。アジア周辺の諸国の中で、日本の近隣窮乏化政策の規模が小さく、円だけが突出して高くなり、その結果、成長するアジアの中で、日本だけが唯一窮乏化する国になっているというのが現実の姿なのである。現在起こっている円安では、全く不十分である。1ドル何円が適正レートかという問いは無意味であり、1円でも安くなればより望ましいことは間違いない。現在も競争力を維持している電気機械メーカーに加えて、円安の進行と定着の結果、死にかけている日本の電気機械メーカーが生き返り、アジアやアメリカの企業との競争に互角以上に戦えるようになって、初めて日本経済の現実の成長率、潜在成長率は高まるのである。円安誘導を前面に押し出す金融緩和策は、世界中での通貨切り下げ競争を招きかねないので好ましくない。従来の日本のように、やられっぱなしでも黙っている国は少ないのだ。だから、表に出す政策は、デフレ脱却でなければならない。しかし、本当の意味において、現在の日本にとって最も重要な成長戦略は、円安誘導政策でなければならない。


テーマ : 経済
ジャンル : 政治・経済

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