金融緩和と金利上昇、ハイパーインフレ

日銀が一層の金融緩和の強化を実施した場合、金利はどのように変化するか。その変化について、以前に説明したことがある(*1)(*2)。今回は、少し角度を変え、金利の上昇の原因と結果についてもう一度整理する。

ゼロ金利下での金融緩和の強化、すなわち量的緩和を強化した場合、将来金利は上昇する、という意見はよく聞かれる。私も同様な意見を持っている。金利は下落するという意見もあるが、今回は省略し、金利の上昇にだけ焦点を絞る。

量的緩和の強化が金利の上昇を引き起こすとの意見が多数派であるとしても、その原因については、いろいろ意見が分かれる。私なりに金利上昇の原因を整理し、有力と考えられる3つの考え方について説明する。

(1)インフレ期待の発生によるもの
インフレ期待の発生は、金利を上昇させる原因となる。国債の実質価値がインフレによって毀損されるので、投資家が以前と同じ価格ならば、国債を保有しなくなると考えられるからだ。現在の状況で、量的緩和が強化され、現在から将来にかけて、インフレ率が2%上昇すると仮定する。その場合、金利はどう動くのであろうか。一つの有力な考え方は、インフレ率が2%上昇すると予想されたならば、名目金利は直ちに2%上昇する、という考え方であり、フィッシャー効果と呼ばれている。ただ、量的緩和の強化が将来のインフレ発生を先取りして金利が上昇するという現象は、直近の日本においても、過去数年間のアメリカやイギリスにおいても発生していない。例えば、11月14日に衆議院解散が確実となり、安倍自民党総裁が、2-3%のインフレタ-ゲットの導入や、無制限の金融緩和という考えを改めて強調するようになった。それに影響されて、明らかに株価は上昇し、円相場は下落した。一方、国債価格は若干ではあるが上昇し、金利は低下したのである。リーマンショック後、アメリカやイギリスで大規模な量的緩和が実施されたが、金利は、アメリカのQE1、GE2、QE3、イギリスのQE1では、横ばいか若干の上昇であり、イギリスのQE2では大幅な下落になった(*3)(*4)。これは、量的緩和が強化されても、すぐに金利が上昇するとは限らないことを示している。では、永遠に金利が上昇しないことがありうるであろうか。将来、インフレ率の2%上昇が現実化した場合、現在と同じ金利の水準が続くとすれば、実質金利は大幅なマイナスになる。大幅なマイナスの実質金利が長期間続くことは考えにくい。従って、いずれ、金利は上昇に向かうと考える。ただ、その時期、幅、経路を正しく予想することは不可能である。上昇幅については、2%のインフレ率の上昇であるならば、最大で2%であり、それ以上の上昇があったとしても一時的な現象であると思う。今年7月に、2%の金利上昇が発生した場合、銀行の保有する国債の評価損が13.3兆円にのぼるという試算を日銀が発表している。これは、最悪に近いシナリオの1つであるが、銀行にとって、VARショックをはるかに上回る大変大きな損失である。しかし、仮に、2%の幅での金利上昇が発生したとしても、その損失は一時的なものである。嵐が過ぎ去った後には、利ザヤが拡大し、銀行の収益力は強化されるのである。私は、実質金利の大幅マイナスはないものの、実質金利の水準自体は低下に向かうと予想しているので、名目金利の上昇幅は2%を下回り、銀行の損失も、13.3兆円をかなり下回ると考えている。

(2)財政破綻懸念によるもの
国債金利は、財政破綻の懸念の可能性を織り込み始めるとると、相当大幅な金利の上昇、あるいは急上昇が発生すると考えられる。国債の元本や利子の支払いが不可能との予想が広がると、国債を誰も保有したいとは思わなくなる。国債は投げ売りされ、金利は急上昇に向かう。新規の国債発行は不可能になり、国債発行は日銀引受にならざるを得ない。そうなると、物価は急上昇し始め、最後はハイパーインフレに至るであろう。現在のように、政府債務がGDPの230%(IMF発表の数字)もあり、かつ、その比率が上昇する状況が続けば、将来、ハイパーインフレが発生する可能性は100%だと断言できる。ただ、何時起きるかについては、明日なのか、30年後であるのか、誰にもわからない。ハイパーインフレ突入を回避するための現時点の対策が、消費者物価の前年比1%の上昇と、消費税の増税である。しかし、この政策は成功するのであろうか。

消費者物価上昇率とGDPデフレーター上昇率の差
上記のように、税収に密接に関係するGDPデフレーター上昇率は、消費者物価上昇率を平均して1%強下回っている。これは、エネルギー等の輸入品の価格が上昇し続けているという要因が一番大きい。過去10年間については、GDPデフレーター上昇率は、消費者物価上昇率を平均1.3%下回っている。つまり、消費者物価上昇率が前年比1%を達成できたとしても、GDPデフレーター上昇率は、-0.3%前後にとどまる可能性が高いのである。過去10年間の実質GDP成長率は平均して年0.7%にすきない。GDPデフレーターの上昇率が-0.3%であれば、名目GDP成長率も0.4%近辺にとどまってしまう。ここまで低い名目成長率では、税収はごくわずかしか増えない。また、名目成長率が、国債金利よりも低いままだと、税収の伸びよりも、国債の利子支払いの金額の伸びの方が増えてしまい、財政再建には役立たなくなるのだ。
一般会計の税収の推移
次は消費税増税の効果である。上記に示した通り、一般会計の1996年度の消費税増税前の税収は、52.1兆円、今年度の税収見込みは42.3兆円である。デフレ下での消費税増税の結果、税収は大幅に減少したのである。これがどういうことを意味するのか。消費者物価上昇率が前年比1%の状態、すなわちGDPデフレーターがマイナスで、名目GDP成長率が非常に低い状態で消費税を増税すると、一般会計の税収は増えない可能性が高い。少子高齢化による社会保障費や、バラマキではない必要な公共設備の老朽化対策や地震対策などの公共事業費は、今後もある程度増やさざるを得ない。その結果、歳入が増えない中、毎年発行される国債の金額は増加し、政府債務の対GDP比率は上昇し続ける。すると、時期はわからないが、財政破綻懸念から金利は急上昇し、ハイパーインフレに突入する可能性が極めて高いのである。

(3)財政ファイナンスによるもの
財政ファイナンスが行われれば金利は上昇に転じる、という意見を繰り返し表明しているのは、日銀である。私は、この考え方については否定的である。日銀はすでに国債を90兆円近く、市場から購入している。これは財政ファイナンスなのであろうか。現在が財政ファイナンスで無いとしたならば、日銀が幾ら以上の国債を購入すれば、財政ファイナンスになるのであろうか。そもそも、「歳出が増えて、国債をいくら発行しても、日銀が国債購入を増やせば、何も問題は起こらない」と考えて、政治家や財務省が、歳出と国債の発行を増やすという行動を過去に取ってきたようには、全然見えない。日銀の国債購入金額とは全く無関係に、政治家や財務省は、国債や政府債務の残高を天文学的数値にまで積み上げてしまったのである。私は、巨額の政府債務が積み上がった原因として、社会保障費の増加や公共事業のバラマキは二番目以下であると考える。第一の原因は、歳入の減少であり、その大元の原因は、GDPデフレーターで測ったデフレであると考えている(*5に詳しく詳述)。この立場からすると、日銀による財政ファイナンス開始の時期があまりにも遅く、規模も小さすぎたことが、政府債務が恐ろしく膨張した最大の原因であるのだ。1990年代初頭のバブル崩壊直後に、ゼロ金利と大規模な国債の買いオペ=財政ファイナンスを実施していれば、デフレに陥らず、税収は増加し、政府債務の対GDP比率も上昇することはなかった。その結果、財政破綻が危惧される現在のような状況には、決してならなかったはずである。政府債務増大の最大の原因は、デフレという預貯金や確定利付き債券の保有者に対する減税を継続的に実施しすぎたことにある。このデフレ減税による税収の減少こそが、政府債務増大の最大の原因であると考える。白川総裁は、日銀の国債の買いオペを、市場が財政ファイナンスであると認識するようになったら、金利は急上昇し始める、と述べている。私は、この場合の金利の急上昇の原因は、財政ファイナンスが原因ではなく、(2)の財政破綻を懸念した金利の急上昇であると考える。1990年代初頭のように、財政破綻の懸念が全く無かった時期に、日銀が国債を大量に購入し、市場参加者の多くが、国債の買いオペが財政ファイナンスにあたると考えたとしても、財政ファイナンスを原因とする金利の急上昇は決して起こらなかったと考える。このことは、リーマンショック後のイギリスの巨額の財政ファイナンスや、それに次ぐアメリかの大規模資産購入の結果を見れば明らかである(*4)(*3)。財政ファイナンスを実施すると、金利が急上昇するのではない。過去の日銀による財政ファイナンスがあまりにも不足していたために、税収の減少と政府債務の巨額の積み上がりが発生し、日銀が国債を買う買わないにかかわらず、財政破綻懸念から金利が急上昇する可能性が、現在、発生してしまっているのである。

その他にも、量的緩和を強化すれば、金利の急上昇や、金利の急上昇の結果としてのハイパーインフレが発生する、と主張する経済学者やエコノミストは存在する。こうした考え方の多くも、量的緩和の強化だけでハイパーインフレが発生する、という論法になっていない。量的緩和の強化+巨額の政府債務が、結果としてハイパーインフレを引き起こす、という論法になっている。つまり、ハイパーインフレの真の原因は、量的緩和の強化ではなく、巨額の政府債務の方なのである。何度も繰り返すが、政府債務の対GDP比率が日本よりずっと低いアメリカやイギリスでは、大規模な量的緩和にもかかわらず、金利の急上昇も、その懸念も、全く発生していない。量的緩和の強化が、単独で金利の急上昇やハイパーインフレを引き起こすことはありえない。一方、財政破綻が真近になれば、量的緩和の実施の有無にかかわらず、金利は急上昇し始めるのである。

量的緩和の強化は、インフレ増税となり、税収の増加にもつながる。その意味では、量的緩和の強化は、財政再建にも役立つ政策である。現在の財政金融政策を続ければ、財政破綻懸念から、将来、何時かは金利の急上昇、ハイパーインフレが発生する可能性が高い。インフレだけで財政再建を成し遂げるべきである、などと言うつもりは毛頭無い。しかし、金利の急上昇、ハイパーインフ突入の可能性を引き下げるためにも、量的緩和の強化、大胆な金融緩和という政策は、むしろ必要とされる政策だと考える。

テーマ : 経済
ジャンル : 政治・経済

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