2013年の金融政策 多額だが不十分な量的緩和

2012年10月30日の日銀金融政策決定会合で、資産買入等の基金の金額を2013年末に91兆円まで拡大することが決定された。2012年末の資産買入等の基金の金額は、65兆円で従来と変わらずであった。そして、2011年末の資産買入等の基金の金額は、42兆円であった。この数値から計算すると、資産買入等の基金は、2012年には23兆円の増加であり、2013年には26兆円の増加である。ここでは、2012年のマネタリーベースの増加額は、23兆円より少なく、2013年のマネタリーベースの増加額も、多分26兆円にはならないことを説明する。

10月4日、5日の金融政策決定会合の要旨でも示されているが、2013年に、資産買入等の基金が増加し、その結果、少しでもマネタリーベースが増加するのであれば、それだけでも量的緩和の強化になるといえる。この事実を金融政策決定会合の要旨では、ストック効果と呼んでいる。

それでは、2012年、2013年のマネタリーベースの増加にあたるフロー効果というのは、どれくらいの金額なのであろうか。金融政策決定会合で決定される金額は、資産買入等の基金の金額だけであり、マネタリーベースの増加額ではない。まずは、2012年のマネタリーベースの予想増加金額を算出してみる。

前回、2012年12月の季節調整後のマネタリーベース平残の金額は、2012年10月の平残である127.9兆円と同等かそれを上回ると金額になると予想した。これを、2012年12月の季節調整前の末残で計算すると、138兆円(プラスマイナス3兆円)くらいだと予想できる。一方、2011年のマネタリーベース末残は、125兆円であった。そこから、2012年のマネタリーベースは13兆円前後の増加であると計算できる。一方、2012年の資産買入等の基金の増加額は、23兆円である。この金額の差はどこから来るのであろうか。

2012年12月のマネタリーベースの細かな内訳の数字はわからない。しかし、2012年10月以前のマネタリーベースの細かな内訳の数字は既に公表されている。そこで、日銀HPの時系列データの中にある「マネタリーベースと日本銀行の取引」の2012年10月の数値を使って、2011年10月末ー2012年10月末の間で、資産買入等の基金の増加金額とマネタリーベースの増加金額が乖離する理由を説明する。


マネタリーベス増加額の内訳2012年10月

上記の表は、2012年10月末までの過去1年間のマネタリーベースの増加額とそれに相当する資産サイドの双方の数値を示した表である。(a)に記入されている通り、この期間に資産買入等の基金は23兆円増加している。(b)の長期国債は、毎年21.6兆円購入している長期国債の金額である。より正しく説明すると、日銀は、2012年10月末までの1年間に、長期国債を21兆9125億円購入し、償還等により18兆8535億円残高を減らし、その差が3兆590億円であった。(c)、(e)、(f)、(g)は、日銀と銀行との取引であるが、金額自体が小さいので、今までは無視してきた。(d)は日銀と外国の中央銀行との取引の数字であり、(h)、(l)は、日銀と政府の間の取引である。中でも金額の大きい(l)の対政府長期国債売現先というのは、政府の2つの特別会計による余剰資金の運用手段であり、特別会計の買現先、日銀の売現先という形式をとって、日銀が一時的に政府からの運用資金を預かるものである。こうした日銀と外国の中央銀行、日銀と政府との取引は、事前の把握は不可能で、事後に公表された数値しかわからない。(j)の国庫短期証券は、短期国債のことである。以前は日銀が買いオペの手段として頻繁に利用してきたが、2011年7月以降は、短期国債の買いオペは行われていない。2012年10月末時点で保有している短期国債のかなりの部分は、長期国債の償還からの乗り換え分である。これは、日銀保有の長期国債に償還があると、その多くは、期間1年の短期国債に乗り換えられ、1年後に償還するという約束が、政府と日銀の間に出来ているためである。1年間の乗り換えで保有される短期国債の金額は、毎年予算が組まれる時に決定されるが、その金額は、2011年度は11.8兆円、2012年度は16.7兆円である。2012年10月末の短期国債の前年比マイナス0.6兆円は、1年前には、買いオペで購入した短期国債を保有していたのに対し、現在はそうした国債はすべて償還されたことが影響していると思われる。 (k)の共通担保資金供給というのは、私が、「縛りの無い貸出金」と勝手に名付けている貸出金である。正式名称は、「金利入札方式・共通担保資金供給オペレーション」である。これも少し前までは非常に頻繁に利用されていたが、2012年7月以降は全く利用されていない。1年前に残高が5兆円存在していたが、直近の残高はゼロであり、2012年10月末においては、前年比マイナス5兆円となっている。

以上のような資金変動の結果、マネタリーベースは、2012年10月末までの1年間に15兆円増加し、うち、(n)の日本銀行券発行高が2兆円、(o)の貨幣流通高が170億円増加したため、(m)の日銀当座預金の増加は、13兆円となった。

資産買入等の基金は、2012年10月末までの1年間に23兆円増加したが、マネタリーベースは、15兆円しか増えなかった。縛りのない貸出金が1年間に5兆円回収されたことと、対政府長期国債売現先という形で、日銀が一時的に政府からの預かり金を5.7兆円増やしたことが主因である。ただし、縛りのない貸出金の回収は、日銀が意図的に減らした結果であるが、対政府長期国債売現先がマイナス5.7兆円になったのは、2012年10月末までの1年間の期間を取ってみると、たまたまマイナス幅が大きかっただけだと考えるべきである。従って、マネタリーベースが23兆円まで増加しなかった最大の原因は、縛りのない貸出金の5兆円の回収である。2011年度に、資産買入等の基金の増額を発表しながら、資産買入等の基金の枠外で縛りの無い貸出金を大量に回収した結果が、2012年にもマネタリーベースの伸び悩みという形で影響を及ぼしている。

では、資産買入等の基金の増加額が26兆円である2013年のマネタリーベースの増加額はどれくらいになるのであろうか。正確な数値は予想不可能であるが、ある程度の範囲内で予想可能な領域が存在する。

従来、月次の市中資金の過不足を予想し、そこから2ヶ月先までのマネタリーベースの残高を予想してきた。しかし、この方法は来年の資金過不足の予想には使えない。理由は、資金過不足の中の大部分を占める財政等要因というのは、来年度の予算が成立しなければ、算出できないからである。さらに、たとえ予算が成立しても、補正予算の実施などにより、予算と決算は必ず異なるので、予想値と実現値は大きく乖離してしまうからである。

もう一つの予想方法は、2011年10月末ー2012年10月末の分で示したように、「マネタリーベースと日本銀行の取引」の数値からマネタリーベースの予想増加額を算出する方法である。そのために、下記のような表を作成する。


マネタリーベース増加額の内訳

まず、2011年10月末ー2012年10月末の表と全く同じ様式で、2012年末ー2013年末のマネタリーベース増加額の内訳の表を準備する。次に、負債サイドのうち、(n)の日本銀行券発行高は、大体、年間の増加率は2.3%前後で安定的に増加しているので、2013年末まで年率2.3%で増加すると想定し、1兆9764億円と入力する。(o)の貨幣流通高は、年間の増加率は0.1%前後で安定的に増加しているので、2013年末まで年率0.1%で増加すると想定し、46億円と入力する。(m)の日銀当座預金は、最初は空白にする。次は、資産サイドである。まず、(a)の資産買入等の基金に26兆円と入力する。次は、縛りの無い貸出金、すなわち、(k)の共通担保資金供給である。これはほぼ間違いなく0であるので、0と入力する。次は、(b)の長期国債である。2012年10月末は前年比3.1兆円の増加であり、2013年の増加額は3.1兆円以下だと思うが、それ以上は予想できない。ここは保守的に見積もって、増加額は0と入力する。次は、(j)の国庫短期証券である。先に記したように、2012年度の長期国債から1年物の短期国債への乗り換え金額は、16.7兆円である。2013年度はそれ以上の金額になる可能性が高い。しかし、保守的に見積もって、2013年度の短期国債乗り換え金額は16.7兆円であり、2014年3月末の日銀保有の短期国債の残高も16.7兆円と想定する。さらにまた、短期国債の保有金額は2012年10月末の13.9兆円から、2014年3月末に16.7兆円にまでほぼ一直線で2.8兆円増加すると仮定する。そうすると、2013年の短期国債の増加額は、少なくとも2兆円であるので、2兆円と記入する。(c)の貸出支援資金供給は、予想不可能であるので、保守的に考えて0と入力する。(l)の対政府長期国債売現先の変動額は、長期の平均をとれば、0に近いのであるが、2013年末時点の数値は予想不可能である。2012年10月末までの過去1年間に最も大きく減少したのは、2012年10月末のマイナス5兆7239億円である。ここも保守的に予想して、マイナス6兆円と記入する。(d)、(e)、(f)、(g)、(h)、(i)は、予想不可能の数値であるが、絶対値が小さいので、全て0と入力する。このような方式で予想すると、2013年のマネタリーベースの残高は22兆円の増加、日銀当座預金は20兆円の増加となる。

(c)の貸出支援基金を、日銀は無制限に増やす計画である。仮にこの制度がうまく機能すれば、貸出支援資金供給は大幅なプラスとなるので、0という予想は、予想しうる最小の数値である。(l)の対政府長期国債売現先の金額は、予想不可能だが、マイナス6兆円から数兆円増加する可能性は大いに存在し、数兆円減少する可能性はほんの少ししか存在しない。(b)、(j)も少な目の予想値である。(d)、(e)、(f)、(g)、(h)、(i)は変動があったとしても小さな変動しかありえない。従って、2013年のマネタリーベースの22兆円増加というのは、予想しうる数値の中で、下限値に近い予想値である。そのため、「2013年のマネタリーベースの増加額は、少なくとも22兆円であり、26兆円を超える可能性も十分ある」、と表現したい。

こうした試算により、2012年の資産買入等の基金の増加額は23兆円であるが、マネタリーベースの増加額は13兆円になりそうである。2013年の資産買入等の基金の増加額は、今のところ26兆円の増加を予定しているが、マネタリーベースの増加額は、少なくとも22兆円であり、26兆円を超える可能性も十分ある。

このように、2012年と比較した2013年の金融政策は、資産買入等の基金の増加額の変化が示す数値以上に、マネタリーベースの増加する金額は多い。前回示した通り、私は、上記の政策で、2014年度ないしは15年度に中長期的な物価安定の目途である前年比1%の消費者物価上昇率を実現することは不可能だと考えている。米英の量的緩和の実績や、現在の日本経済の構造や景気動向を考慮すると、量的緩和の効果は極めて小さく、依然として金額不足と考えるからである。それでも、現在、予定されている2013年の日銀の金融政策は、過去の日銀が実施してきた量的緩和を大幅に上回る多額の量的緩和になるということは、頭に入れておく必要がある。2012年の量的緩和の金額は、23兆円ではなく、13兆円であり、2013年の量的緩和の金額は26兆円ではなく、少なくとも22兆円であり、26兆円を超える可能性も十分あるのである。その上で、効果が現れる量的緩和の金額を考える必要がある。

最後に、来年から開始される貸出支援基金について触れてみたい。日銀は、貸出支援基金の有力なターゲットとして、ヘッジファンドのキャリートレード向けを考えていることが報道されている。金利0.1%プラスアルファという条件は、スイスフランなどの通貨に劣るが、期間が最長4年というのは、ヘッジファンドにとって魅力的な条件であると思う。貸出支援基金がヘッジファンドのキャリートレード向けに使われたならば、来年は円安になり、景気や物価に確実にプラスの影響を与えることになる。ただ、そうして引き起こされた円安は、不安定なものである。何らかの理由で円高期待が市場に戻ってきたならば、ヘッジファンドのキャリートレードのポジションは一気に巻き戻され、再び現在と同水準の円高に戻ってしまう可能性がある。その時、日銀はどのような対策を採るのか。円高に戻らない対策を練った上で、貸出支援基金のターゲットとして、ヘッジファンドのキャリートレード向けを含めるのであれば、すばらしい政策になると思う。しかし、キャリー巻き戻し時の円高対策が無いのであれば、疑問が付く政策になると考える。私には、キャリー巻き戻し時の円高対策が思いつかない。現時点では、私が(*1)で提案したように、最終的には日本の投資家の対外投資が継続的に増加するまで、強力な量的緩和を長期間実施することを柱にし、場合によっては、財務省の円売り外貨買い介入を補完的に実施する政策の方が、より安定度の高い円安を実現することができると考えている。

テーマ : 経済
ジャンル : 政治・経済

コメントの投稿

非公開コメント

全記事表示リンク
目次のページを表示

株式関連 株 コメント一覧

  • 投資部門別 現物先物 時系列表

  • 投資部門別売買状況 時系列グラフ

  • 3月第3週 株 コメント

  • 3月第2週 株 コメント

  • 3月第1週 株 コメント

  • 2月第4週 株 コメント

  • 2月第3週 株 コメント

  • 2月第2週 株 コメント

  • 2月第1週 株 コメント

  • 1月第4週 株 コメント

  • 1月第3週 株 コメント

  • 1月第2週 株 コメント

  • 1月第1週 株 コメント

  • 2016年 年間 株 コメント

  • 12月第4週 株 コメント

  • 12月第3週 株 コメント

  • 12月第2週 株 コメント

  • 12月第1週 株 コメント

  • 11月第5週 株 コメント

  • 11月第4週 株 コメント

  • 投資部門別売買状況アノマリー

  • 日本株 株式分布状況調査

  • 日銀資金循環統計 株グラフと表

  • 日銀資金循環統計 株 コメント

  • 株式先物投資部門別売買状況

  • 大手証券 先物建玉推移 グラフ

  • 海外投資家の株式買い越し金額

  • 日経レバETF 先物保有建玉枚数

  • 世界の株価 国別 長期推移

  • 最新記事
    カテゴリ
    最新コメント
    Twitterを表示
    経済指標が意味するところを解説
    FC2カウンター
    最新トラックバック
    検索フォーム
    リンク
    ブロとも申請フォーム

    この人とブロともになる

    QRコード
    QR
    RSSリンクの表示
    Web Analytics