日銀ウォッチャー報告(2012年11月号)

10月の季節調整後のマネタリーベースは、9月比で2.9兆円増加し、過去最高を記録した。          
                                        (日銀HPより)

マネタリーベース平残の推移

上記の季節調整後のマネタリーベースの推移を見ると、大震災のあった昨年3月にマネタリーベースが急増し、一旦、昨年4月にピークをつけた。その後、マネタリーベースは減少傾向であった。しかし、今年6月からマネタリーベースは増加に転じ、10月は、過去最高の金額になった。

昨年度は、縛りの無い貸出金の大量回収が、マネタリーベースの減少につながった。今年4月以降は、縛りの無い貸出金の残高が大きく減少し、7月以降は、残高がゼロのまま、オペレーションの手段として全く使われなくなった。マネタリーベースの残高は、各月の市中資金の過不足に加え、毎月約1.8兆円の長期国債買いオペと、資産買入等の基金の資産買い入れだけで、ほぼ決定されるようになった。10月については、市中資金が7.9兆円の不足のところに、長期国債買いオペと資産買入等の基金の6.7兆円の資産買い入れにより、金融調節後の市中資金は、1.2兆円の資金不足になった。この資金不足のため、当座預金残高は、9月末の44兆円から、10月末の42.8兆円と、1.2兆円減少した。この当座預金残高の変化を反映して、10月の季節調整後のマネタリーベース平残は、前月比2.9兆円増加の127.9兆円となった。当座預金残高が減少し、マネタリーベースが増加した最大の理由は、当座預金残高が末残ベースであり、マネタリーベースは平残ベースであるからだ。そして、9月末の当座預金残高が非常に大きく、これが10月の平残にゲタを履かせる効果がもたらし、マネタリーベース平残の増加につながった。

11月の市中資金は、7.2兆円の不足となる。マネタリーベースの11月末残を10月末残と比較すると、減少になりそうだ。季節調整後の平残ベースに直しても、減少になると思う。

12月の市中資金は、季節的には不足の年が多い。しかし、今年は4.1兆円の地方交付税が12月中に配布されると考え、若干の余剰と想定する。12月のマネタリーベースの末残は、11月の末残より大幅増加と予想する。12月の季節調整後のマネタリーベース平残も、11月から増加と予想する。その結果、12月の季節調整後のマネタリーベスの平残は、10月の過去最高値である127.9兆円と同等か、それを上回る金額になる可能性が高い。

資産買入等の基金の年内の資産購入金額は、4月、9月、10月の金融緩和の強化の時にも、変更は無かった。しかし、10月までの実績を見ると、かなりのスピードで金額を増やしている。
                                        (日銀HPより)

資産買入等の基金の残高と資産の内訳

上記のように、年内購入予定金額65.2兆円に対して、10月末時点で、すでに63.4兆円の購入を済ませ、残り2ヶ月で1.8円の購入だけが必要である。国債はあと3.1兆円、短期国債は、2兆円買う必要がある。一方、貸出金(共通担保資金供給オペレーション)は2ヶ月で4兆円減らす必要がある。11月の資金調節では、資産買入等の基金で0.9兆円の資産購入を実施し、資産買入等の基金の国債、短期国債の償還分に当たる2.2兆円をロールオーバーし、資産買入等の基金以外で長期国債を1.8兆円購入し、合計4.9兆円の資産購入と予想している。11月の市中資金の不足が7.2兆円であるので、マネタリーベースの末残は減少と予想したわけである。一方、貸出金は、9月に1400億円増加し、日銀の意図が分からなくなった。10月は、貸出金が1.8兆円減少した。貸出金は、残り2ヶ月で、月2兆円のペースで減らすであろうと考えた。すると、11月2日に貸出金を1.8兆円も増やしてきた。11月2日の地方交付税の支払いが延期されたことが原因であるが、当座預金残高が積み上がっており、かつ貸出金を減らす必要がある状態で、わざわざ大量のオペを実施して、貸出金の残高を増やす日銀の意図は、やはり理解できない。

日銀は、現在でも金融緩和の強化という言葉は使うが、量的緩和の強化とか、マネタリーベースの増額という言葉は、決して使わない。日銀は、2010年10月5日に「包括的な金融緩和政策」の実施を表明し、資産買入等の基金を創設した時に、資産の購入で、長めの市場金利の低下と各種リスク・プレミアムの縮小を促すことを目標としている、と発表していた。白川総裁は、今年5月24日の衆議院の特別委員会で、「ゼロ金利下では日銀が大量に資金を供給しても、資金はそのまま当座預金に預けられる『のれんに腕押し』の状況になっているため、『量では金融緩和の度合いは測れない』」と答弁しており、金融緩和は金利の低下が目的であり、量の拡大は念頭に置いていないことを確認していた。しかし、その直後の6月以降の日銀のオペを見ると、「金利の低下」ではなく、資金の「量」の拡大を念頭においてオペを実施していることがわかる。金利の引き下げを目標とするのであれば、資産買入等の基金で、残存期間1年-3年の国債だけではなく、より残存期間の長い国債を購入した方が効果的である。購入する国債の残存期間は伸ばさずに、ひたすら購入する金額だけを増やしている。今年10月4日、5日の金融政策決定会合の議事要旨を見ても、金利の話とは無関係に、資産買入等の基金の残高を増やすフロー効果やストック効果の大きさについての議論が堂々となされている。現在の日銀は、間違いなく、「金利の低下」から資金の「量」の増加に目標を切り替えているはずだ。

10月30日の金融政策決定会合では、2013年末の資産買入等の基金の残高を91兆円、2013年の年間で、26兆円の資産を購入することが決定された。今年の資産買入等の基金の残高増加分は、23.2兆円、来年の残高増加分は26兆円であり、資産買入等の基金の枠外の資産の残高の変化を考慮しても、2012年より、2013年の方が、金融緩和が強化されることになるはずだ。

私は、上記の政策で、2014年度ないしは15年度に中長期的な物価安定の目途である前年比1%の消費者物価上昇率を実現することは不可能だと考える。理由は、金額がまだ小さすぎるからである。イギリスの量的緩和第二弾では、GDPを考慮すると、26兆円の倍近い規模での長期国債の購入が実施されているが、現在のところ消費者物価の上昇率は、低下し続けている。現在の日本の景気の方向は明らかに下向きである。景気が下向きの時に金融政策で景気や物価を上昇させることは、非常に困難であり、相当大規模な金融緩和を実施しなければ効果は現れない。アメリカの量的緩和第三弾のMBS証券購入金額は、GDPを考慮すると、26兆円の半分強くらいの金額であるが、アメリカの景気は自律的な回復方向に向かっているので、少額の量的緩和でも効果が発揮されやすいのである。現在のような局面で、消費者物価上昇率を1%にまで引き上げるためには、年間26兆円より多くの資金供給が必要だと思う。10月30日の金融政策決定会合で導入が決定された「貸出支援基金」の効果は、制度の中身が完全に固まっておらず、正式に評価する段階ではない。直感的には、新規貸し出しを増やす効果が大きいとは思えないが、新たな貸し出し増加策を模索する中での一つの試みとしては、評価できると思う。

私が望ましいと考えている政策は、毎回同じで、超過準備に対する付利の0.1%を廃止して金利の低下を促し、もっと残存期間が長い国債をより大量に購入するか、より期間の長い貸出金の金額をより大幅に増やすなどの政策である。

ただ、最近、日銀の政策は、以前と変化している気配が感じられる。冒頭の表をよく見れば分かるように、昨年度は、口先では金融緩和、行動は資金回収ということで、日銀の金融緩和の発表を信じることは出来なかった。しかし、今年6月以降の季節調整後のマネタリーベース増加額を見ると、口先だけではなく、実際の行動も、明らかに量的緩和の強化に動いている。その上、白川総裁は、「日銀として、消費者物価の上昇率の1%の達成を目指して、今後も強力な金融緩和を進めていく」といった表現で、1%の上昇を目指すことを、従来以上に強くはっきりと明言するようになった。こうした態度で、年間26兆円の金額を増やす方向での金融緩和の強化を続けていけば、いずれは1%の物価上昇が実現されることは間違いない。白川総裁が、政治家からの圧力を避けるために、金融緩和のポーズを示しているのではなく、金融緩和で消費者物価の上昇率1%を達成しようと本気になって考えるようになったのであれば、望ましい変化であると思う。



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