外国人投資家の日本株買い 負の効果

日本の株価は、1989年末を頂点にして、その後ずっと下落トレンドが続いている。日本の株価の下落の期間は非常に長く、値幅も大きい。以前、直近のアメリカ、イギリスの株価動向との比較をしたが、バブル崩壊前後の日本株の方が、圧倒的に、期間は長く、下落幅も大きかった(*1)。1929年世界大恐慌前後のアメリカの株価動向と比較してみても、下落幅は小さかったが、下落期間は日本の方が長かった(*2)。そこで今度は、バブル崩壊前後の日本の株価を、直近のギリシャの株価と比較してみた。
日本とギリシャの株価推移
ギリシャの株価は、アメリカの住宅バブルの時よりも、ITバブルの時の方が高かった。日本のTOPIXでは、住宅バブルの時が、ITバブルの時よりも高かった(日経平均株価は、ギリシャと同様にITバブルの時の方が高かった)。今のところ、日本の株価は、ギリシャの株価ほどは大きく下落していない。

日本の株価がギリシャの株価を上回っているとしても、日本の株式市場は、ある意味では、ギリシャの株式市場以上に大きな問題点を抱えている。もし、日本の株式市場が外国人投資家が参加しない閉鎖市場であったならば、日本の株価は、今よりはるかに安くなっていたはずなのである。毎年、東証が発表する株式分布状況調査を使って、そのことを説明する。

投資部門別株式保有比率の推移
上記のグラフの通り、1990年代初頭のバブル崩壊以降、日本株の保有比率を最も増やした投資家は、外国人投資家であった。外国人投資家の日本株保有比率は、1990年3月末の4.2%から2007年3月末の27.8%まで大幅に上昇し、その後は若干低下している。それ以外では日本の信託銀行が株式保有比率を増やしている。中でも増加しているのは、信託銀行の中で、投資信託と年金信託を除いた部門である。その多くは、投資顧問会社を経由した年金資金の買いであると推測される。しかし、それ以外の部門は、軒並み株式保有比率を減らしている。事業法人は、1990年代に、株式保有比率を減らし、1990年代終わり頃から、都銀・地銀、生命保険の株式保有比率が大きく低下している。事業法人、都銀・地銀、生命保険の株式保有比率の低下は、いわゆる、株式持ち合いの解消である。1990年代初頭のバブル崩壊以降の法人の持ち合い解消の売りは、一部は、信託銀行を通した年金資金が受け皿となったが、それ以上に大きな受け皿となったのは、外国人投資家の資金であった。従って、もし、日本の株式市場が、閉鎖的で外国人投資家の参加しないマーケットであったならば、日本の株価はもっと大きく下落していたはずなのである。ギリシャの場合、対外資産負債残高を詳しく見ると、アメリカ住宅バブル崩壊後は、外国人投資家がギリシャの株を小幅ながら売り越している。外国人投資家の日本株の大幅買い越しとギリシャ株の小幅売り越しを考えたならば、両国が閉鎖市場であった場合、どちらの国の株価がより大きく下落していたであろうか。仮定の話なので正確な答えは出せないが、日本株がギリシャ株以上に大きく下落していたことは、可能性としては十分に考えられる。

この間、政府・日銀は、株価下落に対して無策であった訳ではない。政府は、個人投資家に対する株のキャピタルゲイン課税20%を、2003年から税率を10%まで引き下げている。日銀も、2002年-2004年に、銀行保有の株式を、直接、買い取ったり、2010年からは、市場を通して、ETFを購入するなど、様々な株価対策を実施している。しかし、そうした株価対策の効果は、あまり現れていない。私は、株のキャピタルゲイン課税の減税は、株価が右肩上がりになっている状況では、株価引き上げの効果はあると思う。しかし、株価対策が必要になる株価が右肩下がりの状況では、そもそも株の買いで利益が出ることは少ないのであるから、効果はほとんど無いと考える。日銀の銀行保有の株式買い取りや、現在のETF購入は、効果があったと思う。しかし、金額が小さすぎて、株価の下落幅を小さくする効果はあっても、株価を押し上げるほどの効果は無かった。株価を引き上げるためには、もっと大量にETFを買う必要がある。日銀が、ETF購入の予定金額を、現在の国債の購入予定金額に等しい金額へと増やすことができるならば、間違いなくそれが一番効果的な株価政策である。しかし、リスク資産を大量に買えないのであれば、ETFを少しばかり買うよりは、別のリスクの低い資産、すなわち、国債を大量に購入するか、貸し出しを大幅に増やす方が効果が大きいと思う。アメリカやイギリスの量的緩和では、中央銀行は株のようなリスク資産は購入していないが、国債やMBS債などのよりリスクの低い資産を大量購入することにより、株価を上昇へと導いている。少額のETFの買いではなく、大量に国債を購入したり、貸し出しを増やすことの方が良いもう一つの理由は、後で説明するが、量的緩和で生じた資金が、日本株だけではなく、外国株の買いへと回る可能性があるからである。

株価の下落は、個人消費を抑制するなど、負の資産効果を引き起こす。日本の場合、株の持ち合い構造が解消方向に向かっているが、まだ残っている。そのため、設備投資に対しても負の効果があると思う。

一方、外国人投資家の日本株の大量の買いは、それが無かった場合と比較して、為替を円高方向に動かしていたはずである。円高は、日本の製造業の国際競争力の低下を通じて、貿易収支を悪化させ、日本経済に負の影響を与えてきたはずである。

さらにもう一つ、外国人投資家の大量買いの中で値下がりを続けた日本株は、仮に上昇したとしても、素直に喜べない負の効果が存在する。それは、対外純資産が減るという効果である。2011年末の対外資産負債の一部を取り出した表を下に示す。


2011年末の日本の対外資産負債残高

単純化のために、今後の日本の経常収支はゼロで、外国の資産価格も為替レートも変化が無く、外国人投資家と日本人投資家が同じ株式保有比率を保ったままの状態で、日本の株価だけが2倍にまで上昇すると仮定する。その場合、日本の対外負債の株式部門が、66兆円から132兆円へと66兆円だけ増加する。その結果、日本の対外純資産は、253兆円から187兆円へと66兆円減少してしまう。ちなみに、財務省が発表する対外資産負債の負債部門の株の中には、例えば、ルノーが保有する日産自動車株43%分の株などは、株式部門ではなく直接投資部門に計上されている。東証が発表している株式分布状況調査によれば、外国人投資家の日本の上場株の保有金額は、2007年3月にピークの161兆円を記録した後、主として日本の株価の下落により、2012年3月末には、81兆円となっている。これは、日本の上場株だけの株価が現在の2倍になった場合、日本の対外純資産が81兆円減少することを意味する。実際には日本の株価が2倍にまで上昇する時には、日本人投資家が保有する52兆円の外国株式の金額も上昇する可能性が高く、81兆円まで大きく損をすることは考えにくい。

経済のグローバル化の中で、国境を越えた株式、債券、その他様々な資産の国家間の持ち合いとも言える構造は、年々深化している。現在の日本は、自国の株価上昇で損をするという負の構造があることを正確に理解する必要がある。しかし、日本の株価上昇を「外資丸儲け」と嘆くことは正しくない。現在の日本にとって最も賢明な選択肢は、金融の量的緩和を大幅に強化することである。量的緩和をより強化すれば、円高恐怖症に陥っていた日本の投資家の資金が、いずれは海外へ流出し、その一部は外国株への投資となるであろう。外国人投資家の日本株の保有金額以上に、日本人投資家の外国株の保有金額を増やせばよいのである。中長期的に高い成長が見込まれ、株価上昇の期待が持てる企業は、日本国内より、日本国外の方が多いと思う。日本人投資家の資金をそうした外国株へと振り向ける政策を実施すれば良いのである。

バブル崩壊後、日本の株価が下落のトレンドを続けている原因の一つは、政府・日銀による政策対応が、不適切であったことがあげられる。しかし、日本株の大幅下落から生じる負の資産効果は、外国人投資家の日本株の大量購入により、ある程度緩和することができた。しかし、その結果として、対外負債部門に外国人投資家による大量の日本株保有を抱えることになり、日本の株価が上昇すると、対外純資産が減少するという別の負の構造が出来上がった。その負の構造のマイナス分を減らすためにも、日銀が量的緩和を強化し、日本人投資家の外国株保有を促進するという政策が必要なのである。


テーマ : 経済
ジャンル : 政治・経済

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