世界最大の対外債務国アメリカの強さ

以前、世界最大の対外債権国日本の対外純資産が、いかに円高によって傷付いているかを示した(*1)。一方、世界最大の対外債務国は、言うまでもなくアメリカである。アメリカの対外純負債は、2011年末の時点で、4兆0303億ドル(2016年末時点で、8兆1097億ドル)と、文句無く世界ダントツの第一位である。この債務は、基本的には、毎年の経常収支の赤字の累積である。この巨額の対外純負債のため、将来ドルは暴落するのではないか、ドルは世界の基軸通貨の地位から転落するのではないか、等々の心配をする人が多い。ここでは、その心配は半分は正しく、半分は杞憂であることを示す。

まず最初に、アメリカの商務省のHPに掲載されている表を、翻訳が不可能なため、英語のまま示すことにする。


アメリカの対外債務の変化とその要因

巨大で、わけのわからない、英語の表を出してきて、大変恐縮であるが、どうか最後までお付き合いいただきたい。

この表は、アメリカ商務省にある、International Investment Positionで表示されているChanges in selected major components of the international investment position,1989-2011から取ってきた表である。

表の2列目は、その年の年頭のアメリカの対外純負債の金額であり、一番最後の列が、その年の年末の対外純負債の金額である。3列目は、その年の資本収支の金額である。この資本収支は、経常収支とほとんど同じものと考えていただきたい。ただし、アメリカの経常収支は毎年赤字でマイナスであり、資本収支は毎年黒字でプラスなのであるが、この表では資本収支がマイナスで表示されている。4、5、6列目は、アメリカの対外資産負債金額の変動要因が示されている。アメリカの対外資産負債金額は、毎年再評価すると、必ず変動する。その変動要因として、4列目は、価格要因、すなわち資産、負債に含まれている株や債券などの価格が変化した結果、年頭から年末にかけて、純負債金額がどれだけ変化したかを示している。5列目は、為替要因、すなわち外貨建て資産、負債の価格が、為替レートが変化した結果、年頭から年末にかけて、純負債金額がどれだけ変化したかを示している。6列目は、資本収支と、価格・為替の変動以外による純負債金額の変動である、その他要因の金額を示している。7列目は、資本収支と資産負債の変動の3要因を合計した金額であり、この金額は、1年間に変動する対外純負債の金額に等しい。(*1)で示した日本銀行の算出値には、価格要因が無かったので、アメリカ商務省の方が、分析の元になる情報量が多いと言える。

1989年を例にとると、1989年の年頭のアメリカの対外純負債は1675億ドルであった。その年の資本収支は、474億ドル(のマイナス)であり、それに等しい金額がアメリカに流入し、負債増加の一因となった。そして、1年間の株価等の変化により、380億ドルの損失を出し、為替レートの変化により56億ドルの損失を出し、その他要因で、122億ドルの利益を獲得した。資本の流入額に、3つの要因による資産負債金額の再評価額を加えた数値が788億ドルのマイナスである。従って、アメリカの対外純負債は、1989年の年頭から788億ドル増加し、年末には2462億ドルとなった。

表の一番下の部分だけは、アメリカ商務省の数値から1989年-2011年の合計を計算して、私が付け加えたものである。この数値の意味することは、次のようになる。1989年の年頭のアメリカの対外純負債は1675億ドルであった。その後、2011年までの23年間の資本収支は、7兆6684億ドル(のマイナス)であり、それに等しい金額がアメリカに流入し、負債増加の一因となった。そして、23年間の株価等の変化により3454億ドルの利益を獲得し、為替レートの変化により2711億ドルの利益を獲得し、その他要因で、3兆1891億ドルの利益を獲得した。資本の流入額に、3つの要因による資産負債金額の再評価額を加えた数値が3兆8628億ドルのマイナスである。従って、アメリカの対外純負債は、1989年の年頭から3兆8628億ドル増加し、2011年の年末には4兆0303億ドルとなった。

23年間にアメリカは巨額の経常収支の赤字を記録し続け、普通なら、経常収支の赤字の合計分にほぼ等しい7兆6684億ドルだけ、対外純負債が増えているはずなのである。しかし、実際には、そのほぼ半分の金額である3兆8628億ドルしか、対外純負債は増えていない。アメリカが株などの運用で3454億ドル稼ぎ、ドル安の影響で2711億ドルを稼いだ。この2つの要因は理解できる。しかし、その他要因で3兆1891億ドルもの金額を稼いでいる。この中身はいったい何なのであろうか。

先に示したアメリカ商務省のHPの中には、2003年から2011年の間のその他要因を細かく分けて示した表が掲載されている(Changes in position, 2003-2010、及び、Changes in position in 2011)。

非常に読みづらい大きな表であるので、掲載することはやめ、2003年から2011年の9年間のその他要因を分析した結果だけを説明する。

2003年から2011年までの9年間のその他要因の合計金額は、1兆9834億ドルである。その細目は多岐にわたるが、そのうち大きな割合を占めるのは、アメリカのノンバンクが外国人に対して保有する負債が、その他要因で1兆0867億ドル減少している(負債の減少なので、資産の増加となる)。これだけでその他要因の半分強を占めている。では、アメリカのノンバンクが外国人に対して保有し、減少した負債の中身は何なのか。ここからは、私の推測であり、正しいと言う保障は全くない。

その他要因がプラスになる原因として私が考えている内容は、例えば、「中国での不正蓄財は先進国の永住権につながっている」のような内容である。この記事では、2005年の中国だけで、5780億元、ドルに直せば、900億ドル強の資金が、マネーロンダリングと、アメリカを中心とする先進国での永住権と引き換えの形で、海外へと流出していると指摘している。最近、このような内容の記事をよく見かける。流出元は中国が多いが、ロシアの富豪が、資金と共に国外へ逃亡する内容の記事も見たことがある。中国、あるいはロシアの富豪の資産を中心とする世界のアングラマネーが、アメリカの永住権や国籍を求めて、人と共に、アメリカに流出しているのだと推測している。アメリカのノンバンクが外国人に対して保有する負債が、8年間に、その他要因で1兆0867億ドル減少している原因は、人と同時にアングラマネーの流入が存在しているからだと考えている。

私の推測が正しければ、アメリカは毎年多額の経常収支の赤字を垂れ流しているが、それによって生じる負債の何割かは、海外の富豪が資産を抱えてアメリカに移住することによって回収されていることになる。株などの資産運用の成功、ドル安による債務の減少、海外の富豪のアメリカへの移住などの結果、アメリカの対外純負債は、経常収支の赤字の累積増加分の約半分しか増加していない。冒頭で、アメリカが抱える巨額の対外純負債のため、将来ドルは暴落するのではないか、等々の心配は、半分は正しく、半分は杞憂であると記したのは、以上のような理由からである。

直近においても、アメリカの経常収支は、2012年4-6月期で1174億ドルもの赤字を出している。上記のような内容を踏まえたならば、心配すべきアメリカの経常赤字の金額は、この半分くらいの金額であっても良いのだと考える。


追記
統計上は、2012年以降も諸外国からアメリカにアングラマネーが大量に流入し続けているという事実は明らかではない。
一方、中国から海外に資産が流出しているという報道は増えている。
例えば、
「中国人富裕層の違法な資産移転、10年で約260兆円が流出」

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