日本における雇用問題

日本は、バブル崩壊後、20年以上、低成長に苦しんでいる。しかし、雇用と失業の問題が政治問題として取り上げられることは、欧米の先進諸国よりは少ない。理由は、下記に示すグラフの通り、日本は、欧米の多くの先進諸国ほど失業率が高くないからだ。
主要先進国の失業率の推移

上記のグラフは、IMFのHPから、IMFが先進国と定義している34ヶ国の内、ヨーロッパの中小国14ヶ国を除いた、20ヶ国のものである。スペインの失業率は大変高い。今年の8月には、25.1%にまで上昇している。それでも、1990年代に、20%超の失業率を経験しているので、ある程度、社会に高失業に対する耐久力が備わっているのかもしれない。次に高いのはEUのリーダー格であるフランス、そしてアメリカが続いている。

アメリカの失業率、雇用というのは、アメリカ国内においても、大変重要視されている。中央銀行もまた、政策目標として、物価の安定だけではなく、雇用の最大化という法的責務を負っている。

しかし、アメリカで注目されており、日本ではほとんど注目されていない指標がある。それは、雇用者数の伸びである。アメリカでは、非農業部門雇用者数の増減数が、毎月最も注目される経済指標である。アメリカでは、自営業者は、自分が自分を雇っていると見なされているので、非農業部門雇用者数は、日本に当てはめると、農業以外の就業者数である。IMFのHPには、農業を含めた雇用者全体数の統計があるので、先進20ヶ国の雇用者数の前年比の増加率を算出し、そのグラフを下記に示す。

主要先進国の雇用者の増加率の推移

IMFの雇用者の定義は、アメリカと同様で、日本の就業者のことである。2011年のIMFによる日本の雇用者の減少率は、マイナス2.27%であった。大元の数値である総務省による労働力調査の就業者の減少率は、マイナス0.14%であった。総務省の方が新しい数値であるが、この年の日本は、大震災のため、計測値にブレが出るのは仕方が無い。しかし、IMFでも総務省でも、どちらの数値を使っても、日本の雇用者数が2008年以降、4年連続で減少していることに違いはない。4年連続で雇用者数が減少しているのは、先進20ヶ国の中で、スペインと日本だけである。日本の雇用者数が減り続ける中で、失業率が上昇していないのは、生産年齢人口が減少しているからである。仮に生産年齢人口が欧米の先進諸国並みに増加していたならば、日本でも欧米の先進諸国並みの高失業という深刻な問題を抱えていたはずなのである。

失業率は低くても、日本でも、格差社会に変わりつつあると感じている人は、多いと思われる。その原因として、所得分配の問題がある。まず、日本の所得が企業と労働者にどのくらいの割合で分配されたかを示す労働分配率を見ることにする。

日本の労働分配率の推移

日本の労働分配率は、1990年代に上昇し、2000年代に入ると、低下している。2000年代の好況期における賃金の減少と企業収益の回復を、労働分配率の低下が原因であるという主張は、エコノミストの中にも、政治家の中にも見られた。この主張は、正しかったと思う。しかし、リーマンショックの影響は、労働分配率の上昇を通して企業サイドがより大きく吸収し、その後の労働分配率は高いとも低いとも言えない。2011年の段階では、企業と労働者の分配において、問題となるほどの大きな格差は生じていない。

そうなると、現在の所得分配の悪影響は、労働者間に見られることになる。労働者間の格差を示す代表的な指標として、正規雇用者と非正規雇用者の割合のグラフを示す。

日本の雇用者に占める正規雇用者、非正規雇用者の比率

見ての通り、調査が始まった1984年以降、正規雇用者の比率は継続的に減少し、非正規雇用者の比率は継続的に増加している。直近では雇用者3人の中の1人は、非正規雇用者になっている。日本の雇用問題は、賃金が安く、身分も不安定な非正規雇用者の増加が、最大の問題である。雇用の量という点では、それほど深刻な問題は発生していないが、雇用の質に注目すると、質の悪化という深刻な問題が生じているわけである。

労働経済学者を中心に、日本の雇用システムを変えることによって、雇用の質の悪化の問題を解決しようとする様々な議論が行われている。議論から離れた私のような立場から見ると、永久に正しい結論が出そうにもない神学論争が続いているようにも見受けられる。

私のような立場では、制度論争は労働経済の専門家にまかせ、経済成長によって労働者全体の賃金水準の底上げを考えることの方が、より重要であると思われる。

2000年代の労働分配率の低下や、アジアの低賃金国家との国際競争を考えれば、日本では労働者の賃金上昇はもう不可能であると考える人もいる。現在の日本の景気は、方向感だけではなく、水準で見ても、良いとは言えない状況にある。そうした状況下にありながら、今年8月の失業率は4.2%であった。おそらく失業率が3%半ばくらいまで低下したならば、人手不足から賃金は上昇に転じざるをえないであろう。前回の好況末期の2008年初頭から、賃金は上昇に転じ始めたのだが、2008年2月をピークにして、アメリカからの不況の風により景気後退が始まり、すぐに賃金は低下に転じてしまった。経済成長さえ続いていれば、賃金が上昇し始めることは間違いない。

アメリカでは、法で定められた趣旨に従って、FRBの議長が、失業率の低下を促すためと称して、量的緩和第三段を開始した。日銀のHPには、雇用に関する分析レポートが何本も掲載されているが、雇用に関する直接的な法的責務は日銀には存在しないので、日銀総裁が雇用について語ることは、ほとんど無い。

私は、財政に余裕があるならば、経済成長を促す財政政策を発動すべきであると考える。しかし、巨額の国家債務を抱えているという現在のような財政状況下では、財政再建という経済成長の抑制につながる政策を、より優先せざるをえないと考える。欧米の先進国は、国家の累積債務は日本ほど大きくなく、インフレ率も日本より高い状況にある国がほとんどである。そうした国でさえ、財政は緊縮的に、金融は緩和的な政策を実施している。デフレ下にある日本においては、金融政策を利用する余地が他国よりもまだ多く残されている。日本でも、より緊縮的な財政とより緩和的な金融という組み合わせが必要である。そうしたポリシーミックスで経済成長率を高めることは、十分可能であると考える。その根拠については、今まで繰り返し書いてきた((*1)(*2)(*3)など)。経済成長が継続すれば、賃金は上昇に向かい、国民の生活水準も底上げされ、同時に、デフレからの脱却も実現しているはずである。

テーマ : 経済
ジャンル : 政治・経済

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