日銀ウォッチャー報告(2012年10月号)

9月の季節調整後のマネタリーベースは、8月比で3.8兆円増加し、過去最高を記録した。          
                                        (日銀HPより)

マネタリーベースの推移

上記の季節調整後のマネタリーベースの推移を見ると、大震災のあった昨年3月にマネタリーベースが急増し、一旦、昨年4月にピークをつけた。その後、マネタリーベースは減少傾向であった。しかし、今年度に入ってマネタリーベースは増加に転じ、今年9月は、過去最高の金額になった。

昨年度は、縛りの無い貸出金の大量回収が、マネタリーベ-スの減少につながった。今年4月以降は、縛りの無い貸出金の残高が大きく減少し、7月以降は、残高がゼロのまま、オペレーションの手段として全く使われなくなった。マネタリーベースの残高は、各月の市中資金の過不足に加え、毎月約1.8兆円の長期国債買いオペと、「資産買入等の基金」の資産買い入れだけで、ほぼ決定されるようになった。9月については、市中資金が1.4兆円の余剰のところに、長期国債買いオペと「資産買入等の基金」の5.6兆円の資産買い入れにより、金融調節後の市中資金は、7兆円の資金余剰であった。この資金余剰のため、当座預金残高は、8月末の37兆円から、9月末の44兆円と、7兆円増加した。この当座預金残高の増加を反映して、9月の季節調整後のマネタリーベース平残は、前月比3.8兆円増加の125兆円となった。当座預金残高ほどマネタリーベースが増えていない最大の理由は、当座預金残高が末残ベースであり、マネタリーベースは平残ベースであるからだ。

10月の市中資金は、6.7兆円の不足となる。マネタリーベースの10月末残を9月末残と比較すると、小幅の減少になりそうだ。季節調整後の平残ベースに直すと、9月のゲタが大きかったため、10月は、9月を上回る過去最高の金額を更新するであろう。

11月の市中資金は、季節的には数兆円の不足になる。11月のマネタリーベースの末残は、10月の末残より少し減少しそうである。11月の季節調整後のマネタリーベース平残も、10月より少し減少しそうである。

「資産買入等の基金」の年内の資産購入金額は、4月と9月の金融緩和の強化の時にも、変更は無かった。しかし、9月までの実績を見ると、予想以上のペースで金額を増やしている。
                                        (日銀HPより)

資産買入等の基金の残高と資産の内訳

上記のように、年内購入予定金額65兆円に対して、9月末時点で、すでに61.9兆円分の購入を済ませ、残りは3ヶ月で3.1兆円分の購入だけが必要である。ただ、国債はあと5.9兆円分、短期国債は、2.1兆分円買う必要がある。10月の資金調節では、「資産買入等の基金」で1兆円の資産購入を実施し、「資産買入等の基金」の国債、短期国債の償還分に当たる3.1兆円を改めて買い増しし、「資産買入等の基金」以外で長期国債を1.8兆円購入し、合計5.9兆円の資産購入と予想している。10月の市中資金の不足が6.7兆円であるので、マネタリーベースの末残は若干減少と予想したわけである。一方、貸付金(共通担保資金供給オペレーション)は、年内に5.7兆円減らす必要がある。しかし、9月には、貸付金が1400億円増えている。残高を減らす必要があるのに、実に7回も札割れを起こしながら、強引に残高を増やしていた。こうしたオペレーションを行う日銀の意図は、よくわからない。だがもし、今後の金融政策決定会合で、貸付金の残高を30兆円に維持し、年末の「資産買入等の基金」の残高を5兆円増やすと決めたならば、資産購入金額も、マネタリーベースの残高も、もう少し増えることになる。

毎回、説明しているように、日銀は、マネタリーベースの量の調節ではなく、資産の買い入れで、結果的に金利や各種プレミアムを引き下げることを目標としている。しかし、「資産買入等の基金」で購入する国債は、1年以上3年以下の国債に限っており、毎月約1.8兆円購入する長期国債の平均残存期間は、昨年度において3.3年(日銀調査論文5月8日「2011年度の金融市場調節」)と、かなり短い。そして、残存期間3年以下の国債の金利は、このところずっと、日銀の超過準備に対する付利の0.1%前後にはりついている。現行方式の資金供給では、これ以上金利を引き下げる余地は、ほとんど存在しない。

それでは、日銀が無関係としている資金の量の面ではどうであろうか。9月の当座預金残高は月次の平残ベースで、39.2兆円と過去最高である。10月、11月はこの金額をさらに上回る可能性がある。福井総裁の量的緩和の時代のピークである2006年1月の33.6兆円と比較すると、6兆円以上、上回る可能性がある。

私は、この当座預金の残高では、物価や経済に与える影響は、ほとんど無いと考える。(*1)でアメリカのQE1、QE2の効果を説明したが、その波及ルートは、マネタリーベース増加→マネーストック増加、金利低下→GDP増加ではなく、マネタリーベース増加→株高、通貨安→GDP増加であったことを示した。マネーストックや貸し出しが増えるとしても、その時期は、株高、通貨安が起こった後になる可能性が高い。9月19日の金融緩和の強化の発表後の金融市場は、株安、円高であった。9月の金融緩和は来年分の金融緩和の強化の発表であり、年内の金融政策には、何の変化も無い。金融政策に変化は無く、現状の金融緩和では効果が無いことを市場は織り込んでいる。株価や為替レートにプラスの影響が無い以上、現状レベルの金融緩和では効果は無いと言わざるを得ない。

あと一つ心配なことは、過去1ヶ月くらいに発表された経済指標の多くは、景気が明らかに悪化の方向に向かっていることを示していた。個人消費などの内需は比較的堅調であるが、輸出の落ち込みが激しくなっている。原因は、欧州経済不況にともなう輸出不振と、円高の継続による国際競争力の低下である。欧州経済の不況は循環的なものであるが、円高は、現状のレートが続いた場合、国内製造業の弱体化から、潜在成長率の低下につながる。

現在の政策では、2014年度に中長期的な物価安定の目途である前年比1%の消費者物価上昇率を実現することが不可能であるだけではなく、円高を通して、潜在成長率の低下を招く。そして、(*2)で示した通り、量的緩和の強化は、日本においても円安につながるのである。

超過準備に対する付利の0.1%を廃止して金利の低下を促し、もっと残存期間が長い国債をより大量に購入するか、より期間の長い貸出金の金額をより大幅に増やすなどの本当にインパクトのある政策が必要である。来年の金融緩和の強化でなく、年内の1日も早い時期に実施されるインパクトのある金融緩和の強化策を発表してもらいたいと考えている。

テーマ : 経済
ジャンル : 政治・経済

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