マネーストックとGDPの関係

デフレが始まった時期は、消費者物価で見ると、1999年から、GDPデフレーターで見ると、1995年からである。その後、わずかな期間を除いて、消費者物価もGDPデフレーターも、ほぼ継続して前年比マイナスのデフレ状態が継続している。

一方、マネーストックは、デフレに突入してからも、毎年順調に伸びている。その結果、マネーストックのGDPに対する比率、すなわち「マーシャルのK」は、下記のグラフで示すように、1990年代半ば頃から上昇傾向をより強めている。

日本のマネーストックの対GDP比率
1990年代に、マネーストックの中で最も重視されていた指標は、M2であった。M2のマーシャルのKは、バブル末期の1990年12月に一度ピークを打ち、その後やや下落し、1993年2月までは、下落傾向であった。その後再び上昇に転じ、前回のピークを更新したのは、1997年12月であった。それ以降のマーシャルのKは、現金から広義流動性に至るまでのすべての指標で、ほぼ上昇が続いている。日本はずっと以前から、マーシャルのKが上昇傾向を示していたが、デフレに突入する頃から、マーシャルのKは上昇傾向をより強めている。

下記の表の通り、日本のマーシャルのKは、アメリカ、イギリス、ユーロ圏と比較しても相当高い。


マーシャルのK

ちなみに、アメリカの場合、下記のように、マーシャルのKは低いだけではなく、長期的にも比較的安定している。ただ、直近については、リーマンショック発生の頃から、上昇傾向が見られる。
アメリカのマネーストックの対GDP比率
いくつかの国のマーシャルのKの変動を垣間見ただけであるが、世界の国々において、マーシャルのKは長期的にも安定的ではないようだ。アメリカはマーシャルのKが比較的安定的な国であるが、他の国では、マーシャルのKが日本のように増加傾向を示す国の方が多い。この意味において、貨幣の流通速度、すなわちマーシャルのKの逆数が、長期的には安定的であるというマネタリズムの教義は、成立しない国が多いと思う。

日本では、マネーストックのGDPに対する比率、すなわちマーシャルのKの時系列的な上昇と、現在の先進諸国に対する日本のマーシャルのKの水準の高さを、日銀の金融緩和が十分すぎるほど実施されていることの結果であると考えている人が多い。

私は、日本のバブル期以前のマーシャルのKの上昇要因として、過度の金融緩和があったことを否定しない。しかし、日本がデフレ期に入った頃から、マーシャルのKが上昇傾向を強めた原因は、日銀の金融緩和の不足の結果であると考えている。

1990年代初頭のバブル崩壊以降、株、土地などの資産価格は、ほとんど下落し続けている。外貨建て資産に投資しても、円高で損をする。1990年代後半から、資産価格だけではなく、モノの価格も下落し始めた。その結果、資産を現金か預貯金で保有した者だけがデフレで資産を増やし、株、土地、外貨建て資産に投資した多くの投資家は、損失を被った。こうなると、ますます、株、土地、外貨建て資産に対する投資が減少し、株価、地価が下落し、円相場も上昇する。投資家の資産も、さらに、現金・預貯金へとシフトして行かざるをえない。

資産デフレと円高による強烈な不況圧力を緩和するために、政府は巨額の国債を発行し、金融機関に預けられた余剰の預貯金を吸収して、支出に回し、日本経済が本格的なデフレスパイラルに陥るのを防いだ。しかし、そうした政策の結果が、1100兆円もの政府債務が積み上がる一因ともなった。

このような状況を作り出した根本的な原因は、バブル崩壊後、ずっと日銀の金融緩和が不足していたからである。現在、実施しているようなゼロ金利と金融の量的緩和策を20年前に実施していれば、地価も株価も現在より高かったであろうし、円も安くなっていたはずである。モノの価格が前年比マイナスになることもなく、政府が1100兆円もの債務を抱えることもなかったはずだ。その場合、投資家の資産運用の対象は、現金や預貯金よりも、株、土地、外貨建て資産の方に向かっていたはずである。

現在の日本のマネーストックのGDPに対する比率が高い原因は、日銀の金融緩和が十分に実施されたからではない。それとは正反対に、日銀の金融緩和が不十分であったことの結果なのである。

日本のマネーストックのGDPに対する比率、すなわちマーシャルのKが高い原因を、日銀の金融緩和が十分実施された結果であると考えて、金融緩和を止めたり、縮小したりすると大変な結果をもたらす。資産価格もモノの価格もますます下落し、円高は一層進み、本格的なデフレスパイラルに発展する。巨額の財政出動でデフレスパイラルを防ごうとした場合には、財政破綻懸念から金利が急上昇する可能性がある。いずれにしても、日本経済は破綻ともいえる悲惨な状態への道を歩むしかなくなる。

マーシャルのKが上昇した原因を正しく理解すれば、日銀が量的緩和を一層強化することが、最も正しい政策であることが理解できると思う。

テーマ : 経済
ジャンル : 政治・経済

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マーシャルのKの上昇、すなわち貨幣流通速度の低下は単に商品が売れないということに過ぎない。金融緩和でベースマネーが増加し、信用乗数は低下しているとはいえ、マネーストックも増えているにも拘わらずGDPは低迷している。デフレ期に入ってマーシャルのKが上昇したというよりも、むしろこの上昇自体が需要低迷(デフレ)を示している。

また、資産価格下落について、「株・土地・外貨建て資産に対する投資が減少し……現金・預貯金へとシフト」するということではない。この文脈においては、現金・預貯金、すなわちマネーストックは所与であって増える訳ではない。その貨幣が(どこへも「シフト」せず)滞留して(流通速度減速)、資産価格の流通に向かわないということである。

金に対する課税の結果、金産出量が減少しても価値量は変わらない。「その(貨幣の)価値はその数量によって左右されるものである」(リカアドオ『経済学及び課税の原理』小泉信三訳、岩波文庫版上巻P198)という、リオードの誤ったマネタリスト的論説より四十年以上前に、Aスミスは、ペルー金山の租税負担能力の低迷を指摘して、貨幣価値の本質を正しく叙述しているのに(A・スミス『諸国民の富』大内兵衛、他訳、岩波文庫版[二]P147参照)。その貨幣の運動に関しては混乱している。

ともかく、貨幣に関する幻想ほど人を迷わすものはない。マルクスの引用するグラッドストーンによれば、「恋すらも貨幣の本質に関するせんさくほどに多くの人びとを愚かにしたことはない」(マルクス『経済学批判』武田隆夫、他訳、岩波文庫版P74)ということだから仕方ない。

過去の貨幣理論の大半は幻想

貨幣と物価の関係は複雑であり、一般理論は存在しないと思います。なぜなら、貨幣と物価の関係は国ごと、時代ごとに異なるからです。だからこそ、現在の日本においても、リフレ派、反リフレ派の間の議論がかみ合いません。また、リフレ派内、反リフレ派内でも、学者、エコノミストごとに、細かい点まで含めると、百人百様の理論を展開しています。学者、エコノミストごとに考えている仮定などの前提条件が異なるため、建設的な議論ができないという不幸な状態が続いています。

先の学者の意見にしろ、スミス、リカード、マルクスの意見にしろ、時代と場所が異なれば、成立する理論も異なります。ケインズは「一般理論」で複雑な貨幣理論を展開していますが、自分で欠点の存在を指摘しています。ケインズは「一般理論」において貨幣という表題を掲げながら、貨幣理論の形成には失敗しているのです。

1980年代の日本において、金融緩和の結果、貨幣は株にも土地にもモノの売買にも向かいました。しかし、1990年以降の日本において、金融緩和の結果、貨幣は株にも土地にもモノの売買にも向かわなくなりました。同じ国で、数年の間に環境が変わっただけで、金融政策の波及経路、波及効果は激変したのです。当然、成立する貨幣理論も変わったということを意味します。白川前日銀総裁は、若い頃、金融政策万能理論に近い論文を書いています。しかし、日銀総裁就任時の白川氏は、金融政策無効論に近いことをしばしば述べていました。私は日銀総裁就任時の白川氏の理論には反対の立場ですが、白川氏の理論が変化したことは評価しています。

貨幣に関する理論は常に変化し続けると言う意味において、私は貨幣に関する過去の理論の大半は幻想だと思います。2015年9月の日本において、貨幣に関する過去の理論の大半は幻想ですが、その幻想を参考にしながら現実を見つめ、現在の日本で成立する幻想ではない貨幣理論を模索するしか方法はないと考えます。
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