アメリカの量的緩和政策

(注:この記事は、アメリカの量的緩和政策のうち、QE1、QE2についての解説です。QE3を中心とした解説は、「アメリカQE1,QE2、QE3の効果」という記事に書かれています。)

FRBは、量的緩和政策を、3度にわたって実施している。バーナンキ議長は、「信用緩和」、「大規模資産購入」という言葉の方がより正しいと考えているようだ。ここでは、一般的な使用法に従い、QE(量的緩和)という言葉を使う。

まず、QEの期間にFRBの総資産とその内訳が、どのように変化したかを示す。


FRBの資産内訳

QE1は、2008年11月に開始され、2010年3月までに、1兆7250億ドルの資産購入を実施した。購入資産の内訳は、不動産担保証券(MBS)1兆2500億ドル、政府機関債1750億ドル、国債3000億ドルである。しかし、この期間のFRBの総資産は、2000億ドル前後の増加にとどまった。2008年9月15日のリーマン・ブラザーズの倒産により、金融機関同士の資金貸借市場が凍りついてしまったので、FRBが代わりに資金不足の金融機関に巨額の資金を貸し付けた。危機が治まり、市場の機能が回復するにつれて、FRBは貸し付けた資金の回収を行った。QE1の期間は、資金回収の期間と重なっているため、FRBの総資産の増加額は限定された金額となった。

QE2は、2010年11月に開始され、2011年の6月までに、6000億ドルの資産を購入した。購入資産はすべて国債である。この時、FRBの総資産は6000億ドル弱増加している。国債の購入金額は、年率に直すと9000億ドル、GDPの6%の水準である。前回示したイギリスのQE2の場合、GDPの11%であった。日本の場合、今年8月末までの1年間の日銀の総資産は、8.5兆円、GDPの1.8%だけ増加している。アメリカのQE2の規模は、日本とイギリスのちょうど中間に位置する。

QEの効果を見るために、主要な経済指標をピックアップして見ることにする。最初に、マネーストック(M2)の前年比増加率の推移を示す。


マネーストックの推移

QE1の期間には、マネーストックの前年比増加率が大きく低下しているが、QE2の期間には、上昇している。QEとマネーストックの変化率の間に相関関係は見られない。

次に、中長期金利の推移を示す。


中長期金利の推移

QEの期間、2年債の金利は若干下落しているが、5年債以上の金利は横ばいか若干の上昇を示している。QEが、金利引き下げという効果をもたらしたとは言えない。

次に、株価と住宅価格の推移を示す。


株価と住宅価格の推移

QEの間、株価は明確に上昇している。また、QEの間、住宅価格は下落しているが、QE1では住宅価格の急落を止め、若干の上昇に転じさせている。QE2でも、住宅の下落速度を緩める効果はあったと思われる。

株価と住宅価格の外にもう一つ効果があったと確認できるものがある。それは、為替レートである。ドルの実効レートとドル・円レートの推移を示す。


為替レートの推移

ドルの実効レートを見ても、ドル・円レートを見ても、QEの期間、ドルの価値は下がり続けている。そしてGDP統計を見ても、QEの期間、純輸出が拡大していたことが認められる(実質GDPの増加に対する純輸出増加の寄与率は、四半期平均で、2008年10月-2011年3月がプラス0.5%、2010年10月-2011年6月がプラス0.6%)。

次に、消費者物価(CPI)の上昇率を示す。


消費者物価上昇率の推移

QE1の期間では、CPI総合は上昇、CPIコアは下落となっている。CPI総合の前年比は2009年7月まで大幅に下落しているが、これは、前年の7月の水準が高かったせいである。CPI総合を指数として見た場合、2008年12月に底を打ち、その後はほぼ継続して上昇している。一方、この期間に、CPIコアは継続して上昇率が低下している。この差は、QE1の影響を受けて、商品価格(CRB指数)が2009年2月に底を打ち、上昇に転じた影響が大きいと思う。

QE2の期間では、CPI総合も、CPIコアも共に上昇率が拡大している。QE2の目的の一つは、CPIコアの上昇率が1%を下回ったため、日本型デフレの状態に突入することを回避することであった。その面では、効果はあったと思う。この期間も商品価格の上昇を受けて、CPI総合の上昇率はかなり高まった。

QEとCPIは、商品価格の上昇を通して、正の相関関係があるようだ。しかし、QEとコアCPIの間には、相関関係は見られない。

最後に、失業率と実質GDP成長率の推移を見ることにする。


失業率と実質GDP成長率の推移

実質GDP成長率は、QE1開始時である2008年10-12月の前期比マイナス2.3%の成長率から、2009年10-12月の前期比プラス1%の成長率と、明確な回復を示した。失業率はQE1開始後も上昇し続けたが、実質GDP成長率がプラス1%まで回復した2009年10月にようやくピークを付け、その後は緩やかな減少傾向を示した。しかし、この時、総額7872億ドルという巨額の財政刺激策の実施が開始されていた。QE1は、実質GDP成長率が高まったり、失業率が下がったりした効果に寄与していたと思うが、財政政策の効果が混じっているため、どれほど大きく寄与していたかは、はっきりわからない。

QE2の期間は、失業率は緩やかに減少しているが、実質GDPの増加は認められない。しかし、この期間、個人消費が大幅に伸びる中、政府が財政再建のために歳出を大幅に減らしている(2010年10月-2011年6月の実質GDPの増加に対する寄与率は、四半期平均で、個人消費がプラス1.9%、政府支出がマイナス0.9%)。株高を原因とする個人消費の拡大は、実現していたのである。

以上を総合すると、QEの直接の効果が認められるのは、株高とドル安である。住宅価格に対しては、下落を食い止める効果は認められるものの、力強く上昇させるほどの効果は認められない。それらの結果として、QEが、実質GDP成長率を高めたり、失業率を引き下げる効果も認められた。そして、商品価格の上昇の影響を受けて、CPI総合の上昇率が高まるという現象が、QEの最大の副作用であろう。

QEという量的緩和政策の効果は、マネタリーベース増加(ここではFRBの総資産の増加とほぼ同義と考えてもらいたい)→マネーストック増加→GDP増加というルートや、マネタリーベース増加→金利低下→GDP増加という、従来考えられていたルートでは発生していない。QE2の期間のFRBへの準備預金の増加の大部分は外国銀行分であるから、QE2に効果があるはずは無い、という考え方があるが、間違った考え方である。GDP増加は、従来ルートと異なったルートで発生しているのである。それは、マネタリーベース増加→株高→消費増加→GDP増加であり、マネタリーベース増加→ドル安→輸出増加→GDP増加というルートである。QEをさらに大規模に実施したら、従来ルートも機能するであろうが、商品価格上昇の副作用を考えると、株高・ドル安ルートだけで十分である。

QE3は、つい先日、2012年9月13日に決定され、MBS債を、毎月、純増ベースで400億ドル買い取るという内容であった。動機は、職探しを諦めてしまった人が多いのにもかかわらず、失業率の絶対水準が高く、失業率低下のペースが鈍いからである。規模としてはQE2の半分強なので、強力な景気刺激策とは言えない。しかし、既にアメリカ経済は緩やかな回復途上にあり、そこにアクセルをより強く踏むだけなので、最初は少なめの金額から始めたのではないか。商品価格の上昇という副作用が大きくならない限り、いくつかのリスク要因が顕在化したならば、MBS債か国債の購入金額を増やしてくるであろう。

問題は、日本である。既に、量的緩和の強化→株高、円安→GDP増加のルートが日本でも成り立つことは、(*1)(*2)で説明した。日本の商品市場は規模が小さく、日本の機関投資家で、商品を資産運用の一部門として運用している投資家は、米英よりはるかに少ない。従って、量的緩和が商品価格の上昇をもたらすという副作用が、日本には存在しない。日本も米英を見習い、1日も早く日銀が量的緩和の強化を実施することを望んで止まない。

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