イギリスの量的緩和政策

イングランド銀行は、資産購入プログラムという量的緩和政策を、2度に渡って実施している。量的緩和第一弾ともいうべき資産購入プログラムは、2009年2月に開始され、2010年1月までに、2000億ポンドの資産購入を実施した。量的緩和第二弾ともいうべき資産購入プログラムは、昨年10月に開始され、今年の11月までに量的緩和第一弾と合計で、3750億ポンドの資産を購入する見込みである。

イングランド銀行総資産と資産購入プログラム残高

イギリスの量的緩和の第一の特徴は、資産購入規模の大きさである。量的緩和第一弾は、1年弱の期間に、2000億ポンドの資産を購入している。ただ、この時期は、2008年9月のリーマンショックで凍りついた市場に注入した多額の資金を市場から回収する操作と並行して、資産購入を実施した。そのため、イングランド銀行のネットの総資産の増加額は、810億ポンドにとどまった。量的緩和第二弾は、1年強の期間に1750億ポンドの資産を購入するものである。この1750億ポンドは、イングランド銀行の総資産の増加額とほぼ等しくなる。1年強の期間に、GDP比で11%、日本に当てはめたら、53兆円もの資産を純増ベースで購入するものである。日本の場合、今年8月までの過去1年間の日銀の資産の純増額は、長期国債で19.2兆円、日銀の総資産で8.5兆円にとどまっている。

第二の特徴は、購入する債券の残存期間の長さである。直近において、資産購入プログラム保有資産の99.9%以上が国債で、残りは社債である。今年6月末の時点で、購入時における残存期間が3年以内の債券はゼロ、3-7年の債券が26.4%、7-15年の債券が32.9%、15年以上の債券が40.8%であった。購入時の債券の平均残存期間は10年を大きく上回っていたはずだ。日本では、年間21.6兆円の長期国債の買いオペを実施しているが、購入時の国債の平均残存期間は、2009年度3.9年、2010年度3.8年、2011年度3.3年と圧倒的に短い(日銀HP掲載の資料より)。この他、資産買入等の基金で国債を購入しているが、残存期間1年以上3年以下の国債しか購入していない。

こうした資産購入プログラムは、イギリス経済にどのような影響をもたらしたのか。まず、マネーストックから見ることにする。


イギリスのマネーストックの推移

2012年7月において、M4の34.3%は金融機関が保有し、残りを事業法人と個人が保有している。このうち、金融機関保有分については、金融危機、金融緩和、規制強化などの環境の激変があったため、保有分の変動が非常に大きい。そこで、M4のうち、金融機関保有分以外のM4の動きだけに注目することにする。M4はリーマンショック以前から伸び率が減少傾向を示していたが、量的緩和第一弾が実施中の2009年5月に前年比+1.9%で底を打つ。その後は、ほぼ横ばい状態が続いていたが、量的緩和第二弾の開始直後の2011年11月から直近かけて、伸び率は増加に転じている。こうした動きを見る限り、量的緩和第一弾のために、M4の伸び率低下は食い止められ、量的緩和第二弾のために、M4の伸び率が上昇したと理解できる。量的緩和は、M4の伸び率にプラスの影響を与えたと考えられる。

次に長期金利の動きを見ることにする。


イギリスの長期金利の推移

イギリスの長期金利は、リーマンショックの少し前から横ばいから緩やかな低下傾向を示し、2011年に入って南欧経済の悪化の度合いが強まると、金利の低下速度は速くなっている。量的緩和第一弾の期間は、金利はほぼ横ばいであった。量的緩和第二弾の期間は、金利は下がり続けているが、これは、要因としては南欧経済の悪化の影響の方が大きかったと思う。量的緩和と金利低下の間に大きな相関関係があるとは言い切れない。

次に資産価格である株価と住宅価格の動きを見ることにする。イングランド銀行は、量的緩和が真っ先に資産価格に影響を与えると考えている。


イギリスの株価と住宅価格

株価と住宅価格のボトムは2009年2月。量的緩和第一弾の開始と完全に一致している。量的緩和第一弾は、資産価格を底打ちから反転させ、上昇トレンドを作り出すというイングランド銀行の期待に完全に答える形となった。しかし、量的緩和第二弾の期間については、株価は少し上昇し、住宅価格はわずかだが下落している。量的緩和第二弾は、今のところ、イングランド銀行の期待に答える形になっていない。

次に消費者物価(CPI)の動きを見る。イングランド銀行のインフレターゲットの基準は、CPIであるが、2008年12月以降、付加価値税が下がったり上がったりしているので、間接税を除くCPIだけに注目することにする。なお、イングランド銀行は、量的緩和がまず資産価格を上昇させ、最終的にCPIの上昇を引き起こすと考えている。


イギリスのCPIと間接税を除くCPIの前年比上昇率


量的緩和第一弾、第二弾の時期に、CPIは下がり続けている。ただ、金融緩和がCPIの上昇を引き起こすまでのラグを考えると、量的緩和第一弾開始から1年半経過した2010年8月から2011年9月までCPIがじりじり上昇しているのは、量的緩和第一弾の効果であるかもしれない。

最後に実質GDP成長率を見ることにする。


イギリス実質GDP成長率

リーマンショックで大幅に落ち込んだ実質GDPは、量的緩和第一弾が始まってから、マイナス成長の幅が小さくなり、量的緩和第一弾が実施中の2009年7-9月期から成長率はプラスに転じている。量的緩和第一弾は、実質GDPの引き上げに効果があったと考えられる。しかし、量的緩和第二弾が開始されてから、実質GDPの成長率はずっとマイナスであり、現時点では効果が全く現れていない。

全体として見ると、量的緩和第一弾は、効果を十分に発揮したと言えると思う。もっとも、この時期は、リーマンショックという急激な経済の落ち込みに危機感を抱いた世界の多くの国々の政府が、同時に大規模なケインズ的な財政政策を実施し始めた時期でもある。イギリス政府も同様の政策を採用した。経済成長の伸び率がプラスに転じたのは、こうした財政要因や、落ち込みすぎた反動の影響などが重なったからであると見るべきであろう。それでも、イングランド銀行が最も期待していた資産価格が下落から上昇に転じた理由は、量的緩和第一弾の影響が大きかったと思われる。

なお、量的緩和第二弾は、現時点では効果がごくわずかしか現れていない。南欧経済の不況からの直撃と、財政再建優先という環境下での不況であるが、量的緩和第一弾の時期と違って、景気対策は量的緩和第二弾だけが頼りとされている。もし、近い将来、資産価格が上昇に転じ、経済成長率もプラスに転じたならば、量的緩和の効果が間違いなく存在することの、より明らかな証拠となるであろう。


【いつもクリックで応援していただき、大変感謝しております】      
  

テーマ : 経済
ジャンル : 政治・経済

コメントの投稿

非公開コメント

 株式関連 株 コメント一覧

  • 投資部門別 現物先物 時系列表

  • 投資部門別売買状況 時系列グラフ

  • 10月第2週 株 コメント

  • 10月第1週 株 コメント

  • 9月第4週 株 コメント

  • 9月第3週 株 コメント

  • 9月第2週 株 コメント

  • 9月第1週 株 コメント

  • 8月第5週 株 コメント

  • 8月第4週 株 コメント

  • 8月第3週 株 コメント

  • 8月第2週 株 コメント

  • 8月第1週 株 コメント

  • 7月第4週 株 コメント

  • 7月第3週 株 コメント

  • 7月第2週 株 コメント

  • 7月第1週 株 コメント

  • 6月第4週 株 コメント

  • 6月第3週 株 コメント

  • 2016年 年間 株 コメント

  • 投資部門別売買状況アノマリー

  • 日本株 株式分布状況調査

  • 日銀資金循環統計 株 長期グラフ

  • 日銀資金循環統計 株 コメント

  • 株式先物投資部門別売買状況

  • 大手証券 先物建玉推移 グラフ

  • 海外投資家の株式買い越し金額

  • 世界の株価 国別 長期推移

  • 世界の住宅用不動産価格

  • 長期の実質実質為替レート

  • 最新記事
    カテゴリ
    全記事表示リンク
    目次のページを表示

    最新コメント
    Twitterを表示
    経済指標が意味するところを解説
    FC2カウンター
    最新トラックバック
    検索フォーム
    リンク
    ブロとも申請フォーム

    この人とブロともになる

    QRコード
    QR
    RSSリンクの表示
    Web Analytics