個人消費不振の真の原因

日本の個人消費の不振が続いている。1990年代初頭のバブル崩壊以降、個人消費の伸び悩みがずっと継続している。その原因を探るために、まず、日本の個人消費の変化と、アメリカ・イギリス両国の個人消費の変化(実質値)を比較してみることにする。

日米英の個人消費

1990年代初頭、日・米・英は、共に不況に陥っていた。しかし、その後は、米・英の個人消費の伸び率が高まったのに対して、日本の個人消費の伸び率は、むしろ低くなった。

日本の個人消費の伸び率の低さを説明する理由として、一番よくあげられるのは、多くの日本人が「将来不安」を抱き、消費を手控えている、というものだ。しかし、この説明には難点がある。それは、日本の個人貯蓄率の低下=消費性向の上昇である。


日米英の個人貯蓄率

上記のグラフを見て分かる通り、日・米・英はいずれも個人貯蓄率は低下しているが、日本の低下が一番著しい。理由は少子高齢化である。勤労者世帯だけの貯蓄率は、ほぼ横ばいであるのだが、引退した高齢者が貯蓄を取り崩して消費に回すので、日本全体では、貯蓄率が大きく減少し、反対に消費性向が上昇しているのである。

個人消費の伸び率の低さを説明する理由として次にあげられるものは、所得の伸び率の低下である。しかし、私は、所得の伸び率の低下原因をうまく説明して、消費の伸び率の低下につなげる主張を見たことがない。なぜなら、所得の伸び率が低下する多くの原因は、米・英を中心とする先進国でも広範に発生しているので、日本だけが所得の伸び率が低下する理由にならないからである。また、所得の伸び率の低下の原因が、消費の伸び率の低下であるケースもあるからである。

私は、他の別の原因があり、その原因が、日本の所得と消費の伸び率の低下の両方の原因になっていると考えている。他の別の原因とは、先進国では20年以上という長期間、日本だけで発生している現象である。それは、資産価格の下落である。

日本のバブルの頂点の株価と、米・英のリーマンショック前のバブルの頂点の株価を100として、その時期の前後に、株価がどのように変化したかを見ることにする。


日米英の株価比較

日本と米・英の違いは、住宅バブルの前にITバブルがあったため、バブルの前の株価の動きは日本と少し異なっている。しかし、それよりももっと重要なことは、バブル崩壊後、日本の株価が下げっぱなしであったのに対して、米・英の株価は戻りの幅が非常に大きいことである。

同様な手法で、日本の1980年代のバブルとその崩壊と、1929年のアメリカの大恐慌を引き起こしたバブルとその崩壊の比較をしてみる。


日米の株価比較

バブル発生時はよく似た動きをしているが、バブル崩壊後は相違点が多い。最大の相違点は、NYダウがバブル崩壊から2年10ヶ月後に89.2%下落した後、反発が継続したのに対して、TOPIXは、バブル崩壊から22年6ヶ月もの長期間にわたって、75.9%下落し続けたことである。TOPIXは、その後若干反発はしているものの、まだバブル崩壊後のボトムを打ったかどうかさえも確認できない。

次に、同様の比較を地価(米・英の場合は住宅価格)で行い、その変化を見ることにする。


日米英の地価比較

バブルの発生過程は、日・米・英は、共に非常に似た動きを示している。しかし、バブル崩壊後は、イギリスは短期間で下げ止まり、若干の上昇傾向を示している。アメリカの住宅バブル崩壊後の下げは、日本より急であったが、直近は下げ止まりの傾向が見られる。日本は、バブル崩壊後20年以上にわたって地価はほとんど下がり続け、未だに下げ止まっていない。米・英の将来の住宅価格について正確なことは分からない。しかし、アメリカは住宅着工件数が目に見えて増え始めており、住宅価格も今後上昇傾向をたどる可能性は十分考えられる。イギリスの経済は良くないが、現在イングランド銀行が日本よりはるかに大規模な量的緩和を実施しているので、今後、住宅価格が大きく下がる可能性は低いと見ている。

こうした株価、地価の変化を通して、日・米・英の家計純資産がどのように変化したかを見ることにする。家計純資産は、家計総資産マイナス総負債であり、資産の中には、金融資産だけではなく、土地や建物などの実物資産も含まれている。


日米英の家計純資産

米・英は家計純資産がほぼ継続して増加している。リーマンショック後、家計純資産は一時急減するが、すぐに回復傾向を示している。一方、日本は、バブル崩壊後は、家計純資産が全く増えず、微減か横ばいが継続している。

日本の場合、家計は、預貯金、保険・年金の保有金額が増加しているのに対して、土地の保有金額が大幅に減少しており、株の保有金額も減少している。その結果、日本の家計純資産は、バブル崩壊後は微減か横ばいとなった。

ここで注目すべきことは、一番最初に示した日・米・英の個人消費(1990=100)のグラフと、一番最後に示した日・米・英の家計純資産(1990=100)のグラフの形状が似ていることである。(再掲)

日米英の個人消費
日米英の家計純資産


1990年以降、米・英は、家計純資産が増え続け、個人消費も、家計純資産の増加に引っ張られるように伸びている。一方、日本は、家計純資産が微減か横ばいとなっているため、個人消費も伸びようとしているのだが、家計純資産が増えないことに引っ張られ、結果として個人消費の伸びもわずかになってしまったように見える。日本と米・英の個人消費の伸び率の差の最大の原因は、家計純資産の伸び率の差である。そして、その差は、株価、地価などの資産価格が、日本だけ下落し続けていることが原因である。

このように、日本の個人消費が不振である最大の原因は、株価と地価の下落、すなわち資産価格の下落であることがわかる。日本の個人消費を増やすためには、株価と地価を引き上げる必要がある。その手法は、既に(*1)で示したように、日銀の量的緩和の強化が必要である。逆に、過去20年間、日銀が量的緩和を実施してこなかった、あるいは、量的緩和の規模が小さすぎたことが、個人消費の伸び率が非常に低かったことの原因である。日銀がこうした過去の誤りを認識し、一日も早く量的緩和のさらなる強化に踏み切ることが、何よりも求められている。


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No title

>日本の個人消費が不振である最大の原因は、株価と地価の下落、すなわち資産価格の下落であることがわかる。日本の個人消費を増やすためには、株価と地価を引き上げる必要がある

これが正しいとして、量的緩和で株価と地価を上げることができるのですか?
株式取り引きの7割が外人、不動産にしても外資頼りです。
緩和で一時的に資産価格を上昇させても外資においしい所だけ持って行かれるのは目に見えています。
また、物価動向についてはCPIで日銀は判断しています。私も資産価格はインフレになったほうが良いと思いますが、一般物価をインフレにしても消費は伸びず、逆に落ち込むだろうにデフレ脱却と騒いでいる人のほとんどがこのことを理解せず、インフレにしろと叫んでいるのだから困ったもの。
デフレの原因は将来不安とバブル崩壊でリスクテイカーがいなくなったこと。(人口動態も当然関係していますが)
これは精神的なものだから、いくら経済学で考えても答えは出ませんよ。

量的緩和の強化による資産価格の上昇

下記のサイトを御覧ください。
http://stockbondcurrency.blog.fc2.com/blog-entry-23.html
外資においしいところを持っていかれるのは事実ですが、それも
長年の日銀の金融緩和の不足が引き起こした残念な現象です。

No title

うーん、凄いな、この記事は・・・。
なるほどなぁ・・・

アメリカではNYダウが1ドル上昇するごとに、何セントの消費が増える、なんて推計もありましたな。

なるほどな、これは勉強になった。

因みに、人口動態云々いってる人はスルー推奨ですな。(笑
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