財政政策の望ましいあり方

今まで何度かにわたって、財政政策の望ましいあり方について、分割して書いてきた。今回は、そのまとめとして書くことにする。

私の基本的は考え方は、財政政策も金融政策も有効、という立場である。しかし、現在のような政府債務が大きく積み上がっている時期に、財政政策を採用することには否定的であり、金融政策を政策の中心に置かざるをえないと考える。財政再建には、増税も必要だと思うが、リカードの中立命題(増減税のGDPへの影響度はゼロである)、非ケインズ効果(財政再建のための増税や歳出削減は、GDPを増加させる)は日本ではあてはまらず、増税は不況を招きやすいと考えている。

不況時に、財政政策として公共投資を拡大する政策は、有効であると考えている。しかし、公共投資の拡大は、ケインズが言うように、あくまでも一時的な誘い水としての景気対策であるべきだ。その上、政府債務の残高が巨額な時期には、景気対策として財政政策を用いることは、できるだけ避けるべきであると思う。ただでさえ巨額な政府債務をさらに増やせば、市場に財政破綻の懸念を引き起こす恐れがあるからである。また、現在は、震災復興のために、景気動向と無関係に実施されている公共投資が、実質的にケインズ的な財政政策と同じ効果をもたらし、日本経済の成長を下支えしている。このような時期に景気対策として被災地以外での公共投資を増やすことは、政府債務を増やすだけではなく、建築・土木関連分野という限定された部門で、過度の超過需要を引き起こし、局部的に歪んだインフレの発生を引き起こすことも考えられるので、望ましくない。

前回、デフレが財政赤字の主たる原因だと断定し、GDPデフレーターベースのインフレ率をプラスにすべきとの結論を導き出した。インフレとは、預貯金と確定利付き債券の保有者に対する課税であり、インフレ税と言っても良い。それでは、GDPデフレーターが、プラスになれば、インフレ税の増税となり、財政赤字は縮小していくのであろうか。残念ながら、そうはならない。マイルドインフレを通したインフレ税の導入という増税策だけで、財政再建が可能になる時期は、既に過去のものとなってしまったのである。

前回グラフで示したように、日本のGDPデフレーターは1994年がピークで、その後はほぼ一貫して低下している。従って、1990年代前半にゼロ金利と量的緩和政策だけを採用していたならば、GDPデフレーターがマイナスになることは無かったはずである。財政赤字/GDP比率は、ゼロ近辺にとどまり、プライマリーバランス/GDP比率もその少し上の水準で推移し、政府総債務/GDP比率が一方的に上昇することも無かったはずである。つまり、1990年代前半という時点であるならば、マイルドインフレの継続によるインフレ税の維持だけで、より一層の財政収支の悪化を防ぐことができたと断言できる。しかし、当時はまだ、ゼロ金利+量的緩和政策という発想は、全くといって存在しなかった。そのため、バブル崩壊後の景気対策は、ケインズ的な財政政策が中心であった。1996年まで、こうした公共投資の増加と社会保障費の増加が財政収支悪化の主因であった。それ以降、公共投資は縮小に向かい、社会保障を中心とする支出が拡大し、財政赤字の主因となっていく。

こうした財政赤字が毎年積み上がった結果、前回使用したIMFの統計によると、政府総債務/GDP比率は230%、政府純債務/GDP比率は127%と、主要先進国の中で、日本はずば抜けて多い借金を抱えてしまうこととなった。長期にわたるデフレ減税の結果、とてつもない借金の山が積み上がってしまったのである。ここまで借金の水準が高くなってしまうと、マイルドインフレは必要だが、マイルドインフレだけで借金が増えない状況を作り出すことは、不可能である。理由は(*1)で示したとおり、インフレが発生すると、名目金利も上昇して行くからである。そうなると、国債の利払い費用が膨らみ、歳出が膨張してしまう。もし、インフレだけで財政赤字を解消しようとすると、ハイパーインフレかそれに近い高率のインフレが必要になる。例えば、物価を1年間で1000兆倍にすれば、簡単に財政再建が可能となる。しかし、ハイパーインフレの世界では、財政再建が達成されても、経済自体が崩壊してしまう。限度を超えたインフレ政策を実行することは、経済に悪影響を及ぼすので、採用すべきではない。

従って、財政再建のためには、増税と歳出削減は、どうしても必要になってくる。歳出については、少子高齢化に伴う社会保障支出の自然増に加えて、今後は、高度成長期に建設された社会資本の維持・更新費用が増えていくことも予想される。従って、歳出をどれほど合理化しようとしても、歳出の伸びを減らすことはできるが、歳出自体を減らすことは、ほとんど不可能であると思われる。歳出の合理化による歳出の伸びの縮小に加えて、増税もまたやむをえない政策であろう。

私が考える一番望ましい増税のあり方は、金融政策で量的緩和を徹底的に行い、バブルを引き起こし、そのバブルが膨張し、崩壊することが絶対にないようにするために、大規模な資産課税の強化を実施することである。(*2)で述べたように、量的緩和の効果は、モノの価格の上昇よりも、先に資産価格の上昇をもたらす可能性が高い。その中で、量的緩和を継続していけば、必ず、地価、株価といった資産価格の上昇率が大きくなるはずである。この資産価格の上昇は、はっきり言って、バブルである。しかし、ここで量的緩和をやめたり、金融引き締めをはかったりすれば、景気は必ず減速する。従って、地価、株価の上昇が明らかになった時点で、金融政策ではなく、財政政策によってバブルへの発展を阻止すべきだと考える。具体的には、土地については、地価税の復活と、対象範囲の拡大、税率の引き上げであり、株については、キャピタルゲイン課税の税率引き上げである。この2つの税金の税率をきめ細やかに上昇させることにより、バブルの成長を徹底的に封じ込め、同時に税収の拡大を目指すことが可能となる。

インフレ税+キャピタルゲイン課税の強化でも税収が足りなければ、その時には、消費税の増税もやむをえないと考える。

現時点では、景気が悪化しない限り、消費税の税率が、5%→8%→10%と二段階で増税が実施されることが決定されている。しかし、消費税増税後には、不況か、経済成長率の低下が生じる可能性が高い。消費税増税の経済に与える負の効果を軽減するためにも、前提として、マイルドインフレの実現、資産価格の緩やかな上昇を実現することは、不可欠であると考える。

1997年-1999年の不況は、消費税増税の影響は小さかったという意見がよく聞かれる。不況の主因は、アジア通貨危機や、山一證券の倒産などの特殊事情が重なったためである、という考え方である。しかし、この考え方は、間違っている。1997年-1999年の不況は、内需が大きくマイナスになり、外需はプラスであった。この不況は、間違いなく、内需の落ち込みを原因とする不況であり。アジア通貨危機の影響は全くといって無かったと断言できる。1997年11月の山一證券の破綻は、社会的にはショッキングな出来事であり、心理的には大きな影響を及ぼし、貸し渋りの強化もあったはずだ。しかし、山一證券破綻による国民負担は、最終的には1000億円強の負担にしかならなかった。経済的により大きな影響を与えたのは、1998年10月の長銀破綻と12月の日債銀の破綻である。この2行に対する国民負担は、合計すると7兆円を超える規模であった。1998年末に金融危機は深化していくのであるが、1999年1月を底にして、景気は力強い回復に転じるのである。長銀、日債銀の破綻が景気にほとんど悪影響を及ぼさなかったのであるから、当然、山一證券の破綻の景気に対する悪影響は、より小さかったはずである。 このように、消費税増税の景気に対する悪影響は、ヨーロッパとは違って、日本においては、高い確率で発生することになると考えられる。リカードの中立命題や非ケインズ効果というのは、日本では成り立たないのである。

繰り返すが、私は、財政再建の一環として、ある程度の消費税増税はやむをえない、という立場であるが、消費税増税の経済に与える負の効果を軽減する政策を同時に打ち出す必要がある、と考えている。野田政権で決定された消費税増税策では、消費税増税だけが単独で実施されることになる。そのため、2014年4月の8%までの増税は、実現可能性が高いと思われるが、2015年10月の10%までの増税は、景気の悪化のために、実行できなくなる可能性が高いと考える。
1997年の時と同様の、景気後退と税収全体の落ち込みという現象に、再び襲われる可能性があることを、十分考慮に入れておかなければならない。

以上、私が望ましいと考える増税策をまとめると、(1)量的緩和の強化→マイルドインフレの実現によるインフレ税、(2)マイルドインフレの中で資産バブルの発生を防ぐ資産課税の強化(3)消費税、という順番で増税を実施していくのがベストの選択であると考える。

テーマ : 経済
ジャンル : 政治・経済

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