日銀ウォッチャー報告(2012年8月号)

7月の季節調整後のマネタリーベースは、昨年4月を上回る過去最高の金額となった。
                                     (日銀HPより)

マネタリーベースの推移(201207)

上記の季節調整後のマネタリーベースの推移を見ると、日銀は、大震災直後の昨年3月に金融緩和の強化を発表して、大規模な金融緩和を実施し、4月まではマネタリーベースを急激に増やした。しかし、その後はマネタリーベースは減少気味であった。昨年8月から今年4月の間に4度にわたって、金融緩和の強化を発表し、「資産買入等の基金」の枠拡大だけで、30兆円増加させることを発表した。にもかわらず、マネタリーベースはあまり増加しなかった。しかし、今年7月にようやく昨年4月の水準を上回ることとなった。

日銀は、毎月約1.8兆円の長期国債買いオペと、「資産買入等の基金」で資産買い入れを実施してきた。しかし、今年3月までは、「資産買入等の基金」の枠外で、主に貸出金を大量回収したため、季節調整後のマネタリーベースは、昨年4月比では減少気味であった。

今年4月以降は、縛りのない貸出金の残高が大きく減少し、5月1日にはその残高がゼロとなった。縛りの無い貸出金は、その後、ほとんど利用されなくなった。マネタリーベースの残高は、各月の市中資金の過不足に加え、毎月約1.8兆円の長期国債買いオペと、「資産買入等の基金」の資産買い入れ金額だけで、ほぼ決定されるようになった。実際、4月以降の季節調整前のマネタリーベースの末残の増減を見ると、各月の資金の過不足の金額に、長期国債と「資産買入等の基金」の買い入れ金額を合計した金額に、ほぼ等しくなっている。7月については、市中資金が9.3兆円の不足のところに、3兆円の長期国債と「資産買入等の基金」の資産買い入れにより、6.3兆円まで不足分を減らすこととなった。その結果として、当座預金の残高は、6月末の43.1兆円から、7月末の36.8兆円と、
6.3兆円減少した。しかし、平残ベースに直すと、6月20日-7月4日の資金の大幅余剰が大きく影響し、季節調整後のマネタリーベース平残は、前月比2.8兆円増加の122.8兆円と、昨年4月の水準を2.3兆円上回り、過去最高となった。

8月の市中資金は、5.1兆円の大幅不足となる。マネタリーベースの8月末残を7月末残と比較すると、1兆円前後の減少となりそうだ。しかし、平残ベースに直すと、7月の当座預金の残高が7月後半にはかなり減少していたことが、8月のマネタリーベースの平残を引き下げる方向に働くため、8月の季節調整後のマネタリーベース平残は、前月比数兆円レベルの減少になるはずだ。9月は、数年前までは、季節的には資金不足の月であったが、最近は資金余剰の月へと変わりつつある。9月の市中資金が若干の余剰になると仮定すると、9月の季節調整後のマネタリーベースは、再び数兆円レベルの増加となる。

前回、詳しく説明したように、日銀は、マネタリーベースの量の調節ではなく、資産の買い入れで、結果的に金利や各種プレミアムを引き下げることを目標としている。「資産買入等の基金」で購入する国債は、1年以上3年以下の国債に限っており、毎月約1.8兆円購入する長期国債の平均残存期間は、昨年度において3.3年(日銀調査論文5月8日「2011年度の金融市場調節」)と、かなり短い。そして、残存期間3年以下の国債の金利は、このところずっと、日銀の超過準備預金に対する付利の0.1%か、それを少し下回る水準にはりついている。現行方式の資金供給では、これ以上金利を引き下げる余地は、ほとんど存在しない。

現在の日銀の政策では、マネタリーベースは史上高水準であり、少なくとも、しばらくは、高水準を維持しそうである。しかし、当座預金の残高は、2004年-
2006年の水準を少し上回る程度である。そして、以前にはなかった、0.1%の超過準備に対する付利という制度が導入されている。この付利という制度は、ポートフォリオバランス効果(銀行が貸し出しを増やす意欲を刺激するような効果)を阻害するものである。従って、量という点で見ると、2004年-2006年の頃と現在では、どちらが緩和的かは判断ができない。

現在、日銀が採用している政策は、日銀が重視する金利の面でも、日銀が無関係としている資金の量の面でも、金融緩和の効果は、非常に小さいと断言できる。従って、現在の政策では、中長期的な物価安定の目途である、前年比1%の消費者物価上昇率を実現することは、不可能であると思われる。

超過準備に対する付利の0.1%を廃止して金利の低下を促し、もっと残存期間が長い国債をより大量に購入するか、より期間の長い貸出金の金額をより大幅に増やすなどして、資金の量の面でも思い切った金融融和を実施すべきである。

テーマ : 経済
ジャンル : 政治・経済

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