2015年4-6月期 日銀統計 株 コメント

日銀 資金循環統計に基づく株式売買と株式保有残高はこちら

資金循環統計コメント表201506


日銀の資金循環統計から、株式投資部門別売買・保有残高の直近分を取り上げ、重要な箇所に色をつけて示した。

薄赤色の部分が、企業年金を中心とする私的年金に相当する「年金基金」と「公的年金」、および両者の合計である「年金計」を表す。この中の公的年金は4068億円の売り越しになっている。この公的年金の売り越しという点に大きな問題が含まれている。この大元になった数字の1つは、東証の投資部門別売買状況における信託銀行の売越額4067億円であったと思われる。

信託銀行の中にはいくつかの投資家が存在する。その中のプレーヤーの大手として、クジラと呼ばれるGPIFと3共済(国家公務員共済組合連合会、地方公務員共済組合連合会、日本私立学校振興・共済事業団)があげられる。クジラの定義は人によって多少異なり、厳密に確立した定義は存在しない。ここではクジラに含まれることの多い日銀ETFやゆうちょ銀行などを除いたGPIFと3共済だけをクジラと呼ぶことにする。クジラをこのように定義すると、クジラによる株のすべての売買は、資金循環統計では公的年金の中に含まれることになる。公的年金の中で最大規模を誇るGPIFは年4回運用状況が公表される。そのため、完全にではないが、大体の運用状況が事後的には把握可能である。一方、3共済は年度末という年1回しか運用状況が公表されない。GPIFほどには詳しく把握できないが、ある程度の範囲内での運用状況の把握が可能である。

GPIFと3共済は2015年3月末時点に合計で株式を37.8兆円保有していた。ところが、6月に公表された資金循環統計の3月末速報値では、公的年金による株式保有金額は35.5兆円と、GPIFと3共済の株式保有の合計金額を下回っていた。すなわち、間違った推計値が掲載されていたのである。その間違った推計値が、9月公表の確報値で41.6兆円に上方修正され、より正しい方向に数字が変更された。日銀は速報値の段階では公的年金の株式保有、売買額を正しく推計できないのである。

9月に公表された公的年金による4068億円の株式売り越しというのも、推計ミスであると考える。GPIFの4-6月期の運用状況はすでに公表されており、日本株を1500億円前後買い越していたことがわかっている。3共済の株式売買については正確なことはわからないが、3月末の段階での株式組入比率は目標とも言える25%より低かった。そのため、株を売り越していた可能性は非常に低いと考える。

上記の表では、4-6月期には年金基金、すなわち企業年金を中心とする私的年金が453億円買い越したことになっている。しかし、過去の年金基金の行動パターンは逆バリであった。株価が大きく下がったところでは大幅な買い越しになることもあるが、4-6月期のような株価の上昇時に、かつ高値で買い越しになることは過去にはなかった。従って、4-6月期の年金計が3615億円の売り越しというのは、東証の統計の信託銀行による売買から見てもそれほど大きく間違っていることはないと思われる。ただ中身が、年金基金の買い越し、公的年金の売り越しは間違いである。公的年金は小幅の買い越しであり、年金基金は売り越しであったはずである。

12月に公表される確報値で公的年金の4068億円の売り越しは修正される可能性が高い。だが十分に正しく修正されない可能性もある。推計の多い資金循環統計には常に推計誤差が存在する。公的年金は6月末時点で総資産207兆円、株式資産41.6兆円という巨額の資産をいくつかの組織に分けて保有していた。後で詳しく述べるように、日銀は把握が困難な推計値を算出するための組織体制が十分に整っていない。数千億円レベルの推計ミスが残ることは、可能性としては存在する。

次に問題となるのが銀行である。上記の表では国内銀行は589億円の買い越しになっている。しかし、東証の統計では、都銀、地銀等は1072億円の売り越しである。日銀が公表している「国内銀行の資産負債等(銀行勘定)(平残)」という統計を見ても、銀行が保有する株式資産は簿価ベースで4-6月期に1592億円の減少になっている。これらの数字は、国内銀行が4-6月期に株を売り越していたことを表している。こうした統計数字を元にして日銀は銀行による株式の買越額を推計している。その推計値が589億円と少額ではあるが買い越しになっている。資金循環統計の国内銀行は昨年4-6月期以降5四半期連続の買い越しである。この間の2015年6月1日にコーポレート・ガバナンスコードが実施に移され、従来からの持ち合い株の解消という株の売り圧力が銀行にかかっている。3ヶ月前は、銀行による株の買い越しという日銀の推計は間違いであると書いた。間違いである可能性は現在でも高いと考えている。一方、先の公的年金とは異なり、日銀は銀行に関してはインサイダー情報を多数握っているはずである。国内銀行という部門で間違った数字を出し続けることも、少し考えづらいのである。589億円の買い越しという数字は、間違いの可能性が高いことを認識しながらも、暫定的には正しい数字と受け入れるしかない。

非法人金融企業による4764億円の買い越しという数字にも問題がある。この大半は自社株買いであろう。これも東証の統計では3868億円の買い越しである。これに信託方式で実施された自社株買いを合計すると4764億円かそれ以上の金額になるのだと思われる。ところが、この数字も間違いである。企業は自社株買いを続けながら、同時に自社株償却も実施している。しかし、日銀は自社株償却の金額を十分に把握できていない。これは、日銀のHP上に掲載されている資金循環統計の説明に書かれている。東証の統計は自社株消却前の数字なので、自社株消却を考慮に入れる必要がない。一方、資金循環統計は新株発行を含んているため、理論的には自社株消却を全額控除しなければならない。しかし、4764億円の買い越しは自社株消却が一部しか控除されていない金額なのである。日銀は7-9月期以降に把握した自社株消却の金額を把握した期に控除すると思われる。それでも全額控除ではなく、部分的な控除にとどまる。すなわち、非金融法人企業の買越額は、理論的に計上されるべき金額よりも、日銀が把握できない自社株消却の金額分だけ大きな数字になっているのである。

もうひとつの間違った数字が、証券投資信託による2248億円の売り越しである。この数字は東証の統計の投信による売買額と常に一致する。一方、4-6月期に日銀はETFを8768億円買い越している。ところがこの日銀ETFによる株の買いの一部ないしは全部が証券投資信託による株の買いには含まれていない。これは私が自分で直接日銀に確認した事実なので、過去に何度も書いてきた。日銀は人手不足のため、東証の統計に含まれていない日銀ETFによる株の買越額を把握できないまま放置している。自社株償却だけではなく、間違いを認めながら放置し続けている数字が他にも存在するのである。なお、ETF(金銭拠出型以外の現物拠出型だけを指すことにする)は日銀だけではなく他の投資家も買い越しているので、誤差はもっと大きな数字になる。つまり、ETFをも含めた正確な証券投資信託による株式売買は間違いなく買い越しであり、その金額は数千億円か、場合によっては1兆円を越えていることになる。

証券投資信託での買いから漏れた数字は、「証券会社」に含まれている可能性が高いと考えている。「証券会社」は東証の統計では「自己」である。従って、証券会社はETFによる株の買越額を差し引けば、6422億円の買い越しから、売り越しに修正されなければならない。

それ以外の保険、家計、海外の数字は、東証の統計とは全く同じではないが、大きく異なる数字でもない。東証の統計には含まれていない、増資、売り出し、新規公開株の購入だけではなく、取引所外取引の売買などをも含めた投資部門別売買状況の推計値は、日銀の資金循環統計を頼るしかない。ただし、証券投資信託に含まれるETFによる株の買越額に漏れが存在するなど、正しい数字ではない推計値の多い統計でもある。

以上のことを頭に入れておく必要がある。その上で日銀の資金循環統計による2015年4-6月期における投資部門別売買状況は、「海外3兆0599億円の買い越しvs家計2兆8769億円の売り越し、年金計3615億円の売り越し」であった。この間、日経平均株価は1400円ほど上昇しており、株価上昇局面にはよく見られるパターンと同じであった。

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