日銀、FRB、ECB、BOEの政策比較

マネタリーベース、バランスシート最新データの使用グラフはこちら

日銀は、欧米の中央銀行、FRB(アメリカ)、ECB(ユーロ圏)、BOE(イギリス)と比較して、量的金融緩和が足りない、としばしば指摘される。それに対して、日銀は、量的金融緩和を十分実施している、と反論している。今回は、どちらの意見が正しいのかを分析する。

日銀と欧米の中央銀行の量的金融緩和を比較する場合、中央銀行のバランスシートの金額を比較する場合と、マネタリーベースの金額を比較する場合がある。バランスシートの金額を使用する人の方が多いが、私は、中央銀行のバランスシートには、量的金融緩和と無関係の項目がかなり含まれていると考える。マネタリーベースの方が、バランスシートより、ベターな指標だと考えるので、マネタリーベースを使用することにする。マネタリーベースのデータは、日銀、セントルイス連銀、ECB、ONSのサイトに掲載された数値を使用し、GDPは、IMFのサイトに掲載された数値を使用した。

まず、量的金融緩和強化派による、日銀の量的金融緩和が、欧米の中央銀行と比較して、あまりにも不足している、という根拠となる、過去5年半のマネタリーベースの増加の速度を示すグラフを下記に示す。

マネタリーベースの推移201206

上記のグラフを見れば、日本は、欧米と比較して、マネタリーベースの増加率が非常に小さいことが理解できる。

次に、日銀が反論として示す、マネタリーベースの対GDP比率の推移を下記に示す。

マネタリーベースの対GDP比率の推移201206

上記のグラフでは、日銀は、ずっと以前から、欧米の中央銀行よりも大規模な量的金融緩和を実施していた、ということが理解できる。では、どちらのグラフが、正しい事実を提供しているのか。

ここで、マネタリーベースの定義を確認する。

マネタリーベース=紙幣(等)+準備預金(等)

(等)という字が入っているのは、厳密には紙幣ではなく、紙幣+硬貨であるのを省略して紙幣(等)と書いている。今後は、紙幣(等)のことを、省略して「紙幣」と記す。準備預金(等)と買いてあるのも、国によって準備預金の定義が、完全に同じではないからである。日本の場合は、準備預金の外に、証券会社や短資会社等の日銀に対する預金も含めて「当座預金」という言葉を使用し、マネタリーベースに含めている。今後は、準備預金(等)のことを、省略して「準備預金」と記す。

次に、マネタリーベースの対GDP比率の推移を、紙幣の対GDP比率の推移と、準備預金の対GDP比率の推移に分けて、下記に示す。


紙幣の対GDP比率の推移201206
準備預金の対GDP比率の推移201206


上の2つのグラフから分かるように、日本は欧米と比較して、紙幣の対GDP比率が常に高く、準備預金の対GDP比率は最も低いことがわかる。

なぜ、日本は、紙幣の対GDP比率が高く、準備預金の対GDP比率が低いのか。その理由を調べるために、日本の長期のマネタリーベース、紙幣、準備預金の対GDP比率を下記に示す。

日本のマネタリーベースの対GDP比率の推移201206


日本の紙幣の対GDP比率が高くなったのは、バブル崩壊後の初期については、金利の引き下げ、すなわち金融緩和の結果、預貯金の利回りも大きく低下したからである。その後は、銀行の信用不安、ペイオフ解禁,デフレの定着の中で、預貯金を保有するより、現金を手元に保有した方がより安全、という意識が、富裕層の中で高まったからだと思われる。銀行の信用不安は、2004年以降、後退したが、デフレの定着の結果、富裕層の現金志向も、同様に、定着してしまったのだと思う。このように考えると、日本の紙幣の対GDP比率が高い理由は、バブル崩壊後しばらくは、金利低下という金融緩和の効果が浸透したことが原因であった。しかし、その後は、量的金融緩和が不十分なために、デフレが定着し、その結果として、紙幣の対GDP比率は、上昇し続けたものと考えられる。現在、紙幣の対GDP比率が高い理由は、量的金融緩和が十分であったからではなく、量的金融緩和が不十分であったことの結果であるのだ。

日本の準備預金の対GDP比率が高まったのは、バブル崩壊から10年ほど経過した後である。1990年代初頭のバブル崩壊の直後には、現在の欧米が実施している量的金融緩和は、日本では全く実施されなかった。その後、ITバブルの崩壊によるデフレ不況対策として、日銀は、2001年に、ゼロ金利と、長期国債の買いオペ金額を増額することにより、量的金融緩和を開始した。日本の準備預金の対GDP比率は、この時期から増加に転じる。しかし、2006年の量的金融緩和の終了と同時に、準備預金の対GDP比率も低下する。そして、リーマンショックに伴う強烈なデフレ不況への対策として、2008年末にコールレートを0.1%にまで引き下げ、量的金融緩和を再開した結果、再び準備預金の対GDP比率は増加に転じ、現在にいたる。しかし、準備預金の対GDP比率で見ると、日本は、欧米と比較して、緩和のスピードが遅い。

以上をまとめると、現在の日本のマネタリーベースの対GDP比率が高い理由は、量的金融緩和が十分であったことの結果ではなく、量的金融緩和が不十分であった結果として、デフレが定着し、富裕層の現金志向が高まったためである。準備預金の対GDP比率は、欧米よりも低く、量的金融緩和が、欧米と比較して不十分であることを示している。日銀がたびたび主張する、マネタリーベースの対GDP比率が欧米よりも高いという事実は、量的金融緩和が十分に行われた結果ではなく、量的金融緩和が不十分であったことの結果である。従って、日銀は、準備預金の金額をより増加させることを目指して、量的金融緩和の強化をはかるべきである。


【いつもクリックで応援していただき、大変感謝しております】      
  

テーマ : 経済
ジャンル : 政治・経済

コメントの投稿

非公開コメント

No title

日本はもともと現預金の胎蔵が多く、GDP比で見ると高い傾向にあるということは、浜田宏一翁も指摘していることであり、貴兄のこの記事での解説とも一致しています。マネタリーベースを準備預金と現金に分け、さらにそれぞれを国際比較するデータは有用ですね。ただし、仮にご指摘に従いGDP比の多寡を無視したとしても、現金(紙幣)量の推移をお示しのグラフの期間(2007年1月〜2012年5月)でみても、日本は2%ポイント程度増と他と遜色なく、むしろFRBやBOEを上回っているように見えます。準備預金の積み上げはいわば量的緩和の肝ですが、この効果については異論も多い。むしろ、現金量こそが通貨供給量の増減に直結するのであり、金融緩和の効果を図るための重要な物差しであるはずです。であるならば、日銀はリーマンショック後のFRBによる大胆なQEに比べれば、量的緩和が出遅れ、準備預金の積み上げがECBと同様に出遅れてしまったものの、民間への通貨供給増についてはまあまあよくやっていた、と解釈すべきなのでは?

紙幣増加の原因

紙幣の機能として、交換手段、価値の保蔵手段という2つの機能に注目します。インフレ期の不況下では、交換手段としての紙幣需要が減少するので、価値の保蔵手段としての需要が多少増加しても、紙幣全体の需要の伸びは減少します。利下げなどの金融緩和の強化策が実施されると、価値の保蔵手段としての需要の増加に加えて、景気回復と共に、交換手段としての紙幣需要が発生し、紙幣発行残高は増加します。これが普通の経済であり、紙幣発行残高の増加=景気回復=金融緩和の結果になります。

1990年代前半の日本の紙幣発行残高の増加原因は、このような金融緩和の結果としての、価値の保蔵手段に基づく紙幣需要の増加、次いで、景気回復を原因とする交換手段としての紙幣需要の増加だと思います。しかし、1990年代後半に、紙幣発行残高の増加のスピードは加速化しました。この時の紙幣発行残高増加の原因は、第一に銀行の信用不安、次いでデフレです。富裕層の価値の保蔵手段としての紙幣需要が大きく増加しました。2004年以降、信用不安は払拭されましたが、デフレは、短期の期間を除いては、継続しました。その後も、富裕層の価値の保蔵手段としての紙幣需要は拡大を続けました。デフレの定着の結果としての紙幣需要の増加は、金融緩和の結果でなく、金融緩和の不足の結果です。

一方、米・英では、リーマンショック直後の強烈な信用不安に対して、中央銀行の大規模な流動性の供給=金融緩和の結果、信用不安を短期で沈静化させ、デフレに陥ることも防ぎました。この結果、米・英では、紙幣需要はあまり増加しませんでした。紙幣発行残高が増えなかったのは、中央銀行の大規模な金融緩和の結果です。ユーロ圏は、経緯が複雑なので省略させていただきます。

インフレ下の通常の経済では、紙幣発行の増加は、主として金融緩和の結果、その後に生じる紙幣の交換手段としての紙幣需要の回復=景気回復の結果です。現在の日本は、紙幣発行の増加=デフレの継続=価値の保蔵手段に基づく紙幣需要の増加が続いています。この場合の紙幣発行の増加の原因は、金融緩和ではなく、金融緩和の不足です。

より大胆な金融緩和が実施され、インフレが発生すると、価値の保蔵手段に基づく紙幣需要が減少します。その結果として紙幣発行残高が減少し始めれば、これは金融緩和の強化の結果としての、紙幣発行残高の減少になります。

金融緩和

とても興味深い分析ありがとうございます。

この投稿の前提にある考え方は、「不十分な金融緩和の場合にデフレを誘発し、逆に十分な金融緩和の場合にインフレを誘発する」ということだと思います。経済学において当たり前の考え方ですが、この考え方を裏付けるデータはあるのでしょうか?ご参考までにご教授願います。

考え方によっては、インフレやデフレは金融緩和と関係ないとも言えます。

金融緩和がインフレを誘発しないことを望む

金融緩和はインフレを誘発しないかもしれません。それがベストシナリオです。その場合、日銀が国債を全額購入して償却し、無税国家にすべきです。ベストシナリオが実現しない場合は、インフレが発生するまで金融緩和を強化することが必要です。
 株式関連 株 コメント一覧

  • 投資部門別 現物先物 時系列表

  • 投資部門別売買状況 時系列グラフ

  • 11月第2週 株 コメント

  • 11月第1週 株 コメント

  • 10月第4週 株 コメント

  • 10月第3週 株 コメント

  • 10月第2週 株 コメント

  • 10月第1週 株 コメント

  • 9月第4週 株 コメント

  • 9月第3週 株 コメント

  • 9月第2週 株 コメント

  • 9月第1週 株 コメント

  • 8月第5週 株 コメント

  • 8月第4週 株 コメント

  • 8月第3週 株 コメント

  • 8月第2週 株 コメント

  • 8月第1週 株 コメント

  • 7月第4週 株 コメント

  • 7月第3週 株 コメント

  • 投資部門別売買状況アノマリー

  • 日本株 株式分布状況調査

  • 日銀資金循環統計 株 長期グラフ

  • 日銀資金循環統計 株 コメント

  • 株式先物投資部門別売買状況

  • 大手証券 先物建玉推移 グラフ

  • 海外投資家の日本株国別売買保有

  • 海外投資家の株式買い越し金額

  • 世界の株価 国別 長期推移

  • 世界の住宅用不動産価格

  • 長期の実質実質為替レート

  • 政府・日銀の犯罪的な政策の誤り

  • 最新記事
    カテゴリ
    全記事表示リンク
    目次のページを表示

    最新コメント
    Twitterを表示
    経済指標が意味するところを解説
    FC2カウンター
    最新トラックバック
    検索フォーム
    リンク
    ブロとも申請フォーム

    この人とブロともになる

    QRコード
    QR
    RSSリンクの表示
    Web Analytics