不動産バブルの崩壊防止を利用した財政再建策

3月18日に2015年1月1日時点の公示地価が発表された。公示地価の全国全用途平均は今年も-0.3%と小幅な下落を示した。1991年をピークとしたバブル後の最安値更新である。不動産バブルは崩壊から24年が経過したが、現在でも日本では不動産バブルの崩壊が依然として進行しているのである。1年前に書いた内容と重複する部分もあるが、改めて不動産バブル崩壊進行の問題点と、不動産価格引き上げを通した財政再建策を示したいと思う。

最初に、日本の地価を地域別に現したグラフを下記に示す。


日本の地価

東京、大阪、名古屋はかろうじて前年比小幅のプラスを維持できた。しかし、地方の地価の下落は、1992年にピークを打って以来、23年間連続して続いている。全国レベルで見ても、1991年にピークを打って以来、不動産バブルの崩壊現象が、2年の例外はあるものの、ほぼ連続して24年間続いていると言ってよいであろう。

2015年の公示地価についての報道を見る限り、昨年と同様に、三大都市圏の地価が上昇という論調が一番多かったと思う。昨年よりも、都市と地方との格差拡大を指摘する記事は増えた。しかし、昨年と同様に、不動産バブルの発生を警告するものも、いくつか存在した。

24年間も続く不動産バブルの崩壊は、いい加減に停止させなければならない。これからの日本は、不動産バブルの崩壊の進行から、地価の安定的な上昇へと局面を切り替えなければならない。

その最大の根拠は、他の先進国と日本の不動産価格の動きがあまりにも違いすぎていることである。BIS(国際決済銀行)のホームページに掲載されている、先進諸国の住宅用不動産価格の推移を表すグラフを下記に示す。


世界の地格

日本の場合、公示価格の全国全用途平均ではなく、全国住宅地平均とほぼ等しい。商業地の地価が住宅地以上に大きく下落しているので、日本の住宅地の平均価格は、最初に示した全国全用途平均価格よりも下げ幅が小さい。下げ幅が小さいのであるが、他の先進国と比べると、異常に大幅な下落を示している。

日本以外の国の住宅価格は、右肩上がりが普通である。日本だけが、右肩下がりなのである。茶色の線のフィンランドでは、1989年頃に日本以上に大きな不動産バブルが発生し、崩壊した。しかし、1993年までバブル崩壊が続いたが、直近の地価は1989年のバブルのピークを64%も上回っている。濃紺色の線のアイルランドでは、2007年まで凄まじい不動産バブルが発生していた。そのバブルはリーマンショックとともに崩壊し、2013年にはピークの半値ほどにまで下落した。しかし、最近の地価の回復はめざましく、景気も並行して良くなっている。

リーマンショックにみまわれたアメリカだけではなく、他のいくつかの先進国でも、不動産バブルの崩壊は発生していたのである。ただし、日本とは異なり、バブル崩壊から数年後には地価は再上昇に転じている。上記のグラフで示した国以外では、依然として不動産バブルの崩壊に苦しめられている国は存在する。ギリシャ、スペインなどが思い浮かぶ。それでも他の民間の調査会社のデータを見る限り、日本とギリシャ、スペインとを比較した場合、地価の下落率、下落期間は、日本の方がはるかに規模が大きく、期間も長い。加えて、アイルランドも含めたユーロ圏参加国は、独自の金融政策を実施することのできない国なのである。

まともな先進国と比較した場合、日本の地価の動きは、あまりにも異常すぎるのである。バブルがピークを打ってから24年も経過し、地価は半値以下になっているのにもかかわらず、依然として下落が続いている。私はこれは大変異常な現象であり、地価を引き上げる政策の必要性をずっと感じていた。何度も書いたことであるが、2013年4月の異次元緩和は20年遅かったのである。バブル崩壊が明らかになったら、すみやかに金利をゼロにまで引き下げ、国債の大規模な買いオペを開始すべきであった。そうしていれば、不動産価格が短期間下落する時期はあったであろうが、その後は上昇に転じていたはずである。銀行の不良債権門題は深刻化しなかったし、財政破綻の懸念など決して発生しなかった。問題は、地価が24年間もほぼ連続して下落し続けている国は、先進国では唯一であり、おそらくは、途上国を含めた世界中でも、唯一かもしれない国が、日本であるということだ。それにもかかわらず、地価を引き上げることの必要性を唱える人は少ない。それよりもはるかに大きく聞こえてくる声は、不動産バブルの再燃を避けよという声である。

地価の下落という現象は、大変大きな病気なのである。最初に示した地方の全用途平均は、23年間下落し続けている。しかし、これは地方の平均地価である。地方の中の過疎地では、地価が事実上なくなっている土地も多いのである。現在、東北では東日本大震災からの復興が進められている。その中で生じている問題は、土地を海沿いから高台へと移転しようとしても、その中で土地の所有者がわからない土地が、いくらでもあるということである。登記簿を見ても、大昔になくなった人が所有者であり、現在の相続人がどこにいるかわからないという土地が多数存在する。そのため、真の土地の所有者を探し出すことに手間暇がかかるだけではなく、不可能な土地も多いのである。この土地の所有者の存在しない地域を再開発するためには、ものすごく手間暇がかかってしまう。その手続きを簡素化する努力が続けられているが、手続きをゼロにすることは不可能である。つまり、東北の土地の所有者の何割かは、自分の土地に価値を見いだすことができず、とっくの昔に土地の所有を放棄していたのである。その後、相続が行われても、その子や孫は土地の存在さえ知らずに、都会で暮らしているのである。すなわち、価値がゼロと見なされている土地が全国にいくらでも存在するのである。

この現象は、東北の被災地に限ったことではない。全国の過疎地でも広く発生しているはずの現象であろう。このような現象が発生しているということは、地価がゼロというよりも、所有権を確認して収容などにかかる費用を考えると、資産価値という意味での地価は、マイナスであると考えた方がよい。

また、この現象は、ずっと昔から発生していた。登記が、明治、大正時代から変わっていないものもあるからだ。山林などでは、昔から相続の手続きが行われなかった土地も多いようである。しかし、山林以外の農地や宅地などにまで所有権不明が広まったのは、バブル崩壊後だと思う。バブル以前は、日本中の地価が、一応右肩上がりに上昇し続けていた。過疎地の土地でも、放棄するよりも、一応保有して、将来何かいい機会に巡り会えば、現金化することを考えていた人は多かったと思う。しかし、バブル崩壊後、地方の地価は下がり続け、もはや、価値の下がる過疎地に土地を保有する意味がなくなってしまったのである。超少子高齢化、人口減少がさらに進むと、こうした地価のマイナス化現象がいっそう広がることは間違いない。

この問題の広まりを防ぐために有効な政策は、過疎地の地価が上昇するまで、徹底的に金融緩和を強化することである。過疎地でも地価が上昇に転じれば、これ以上の土地の所有放棄は進みにくくなる。うまくいけば、都会に住んでいる人たちが、先祖か保有していたかも知れない土地を探し始めるかもしれない。あるいは、都会に住む投資家やハゲタカファンドが、過疎地に投資することによって利益を上げることを考え始めるであろう。彼らは、ある程度の費用をかけても真の土地の所有者を探し出し、その相続人から安値で土地を買うという行動をとり始めるであろう。

名目の価値が増え続ける銀行預金の場合でも、所有者不明のものが一定割合存在する。従って、過疎地の土地も、所有者不明がなくなることはありえない。特に山林の所有者不明を減らすのは困難である。しかし、農地や宅地であれば、地価が安定的に上昇し続ければ、所有者不明の発生件数は大きく減少するはずである。

地方創生という言葉が叫ばれている。金融緩和により地方がマイナスの影響を受けているという批判が出始めた直後に、急遽打ち出された政策である。増田前総務相による地方消滅の警鐘がまともに取り上げられるようになったのは、円安で地方が打撃を受けているという批判が吹き出した後からである。しかし、人口減少とともに地価の下落が続けば、過疎地の保有者はいっそう少なくなり、価値がマイナスの土地が増えてしまう。従来のように財政資金をばらまいてみたところで、資金が投入された特定の地域以外の地価を引き上げることは不可能である。

従って、金融緩和の副作用を取り除かなければならないとしても、徹底的な金融緩和は、地方にこそ必要な政策なのである。たとえ人口が減少しようとも、マネーが増え続ければ、地価は上昇するのである。バブル以前は、地価の上昇率が、人口の増加率よりもはるかに高かった。地価を上昇させるためには、人口の増加があった方が上昇しやすい。しかし、マネーを大量に供給し続けた場合は、人口が減少しても、地価を上昇させることは可能なのである。

しかし、そこまで金融緩和を強化すれば、都会の土地の価格は、放置すれば巨大なバブルへと進行するのが目に見えている。私は、これを財政再建の絶好の機会ととらえるべきだと考える。上から2番目に示したグラフで、上位の3位から6位までのスウェーデン、オーストラリア、ニュージーランド、カナダは、財政再建を成功させた実績をもつ模範国だとしばしば取り上げられる国である。日本では財政再建が進まず、財政は悪化する一方であった。日本で財政再建が進まなかった最大の原因は、モノと資産の価格が下がり続けていたからであった。その中で影響が一番大きかったのは、地価の下落であろう。国民は、資産価格下落により資産を大きく失うような環境下では、、増税や歳出削減に簡単に応じにくくなるのである。資産価格が上昇しているような環境下ならば、増税や歳出削減をある程度受け入れやすくなるようだ。日本が財政再建に失敗し続けたのは、デフレが原因であり、中でも地価のデフレの影響が一番大きかったと思う。

金融緩和の結果として発生するバブルは、増税によって抑制すべきである。まず、現在停止している地価税と特別土地保有税を復活させることから始めればよい。この2つの税金は、不動産バブル防止税として過去に導入されたものであるが、現在は停止中である。その後に、この2つの税制を同時に合わせて改正することである。不動産のキャピタルゲイン課税の改正も必用である。その理念は、不動産のキャピタルゲイン課税の税率を引き上げること、地価上昇率の高い地域の土地の保有、売買の税率は高く、地価上昇率の低い地域の土地の保有、売買の税率を低くすること、課税対象者を広げること、である。

理念を述べるだけなら難しくないが、この理念から具体的な法律を作り上げ、実施へと移す中では、様々な困難な問題が発生することが考えられる。財政再建と不動産バブルの防止という大義はあるが、税収を大幅に増やすための増税策なので、税金の負担者からの反対は相当激しいものになるであろう。資産は増えても、収入は増えない人も大勢いるからだ。そうした政治的な困難さは理解できるが、何としてでも乗り越えなければならない。なお、固定資産税を中心とする既存の税体系を見直すことも必要である。価値のない土地を放棄せず、固定資産税を支払い続けている人も多い。しかし、非常に複雑化し、同時に空洞化もしている既存の土地税制の抜本的な改革は不可欠であるにしても、順序としては後回しにするしかない。すぐに必要な税金は、不動産バブル防止税であるからだ。

現在、格差是正が大きな問題となっている。トマ・ピケティは、資産への累進課税の強化を提案している。これは、ピケティも言っているように、1国だけでは実現不可能である。1国だけで増税したならば、資産家が外国に逃げてしまうからだ。世界で同時に実施しなければならない。遠い将来には実現可能だと思うが、時間がどれほどかかるかはわからない。

同じくピケティが述べているように、資産家が逃げることができない唯一の対象が、土地である。土地ならば、株とは異なって、外国人が所有しても、高い税金を取ることが可能になる。保有税が増税となっても、地価が上がり続けるならば、土地を保有する資産家の資産は増えるわけであるから、資産家の中でも、内心は歓迎する人もいるはずである。

金融緩和を強化し、同時に不動産関連の大幅な増税を実施すれば、政府の税収は一挙に拡大する。税収の名目GDPに対する弾性値は1.1と想定されるケースが多い。しかし、不動産価格上昇+不動産関連の大幅な増税を組み合わせれば、弾性値は1.1を間違いなく大きく上回る。バブルの時代は、増税はなかったが、不動産価格の上昇だけで財政再建が進行した。現在でも、不動産価格の上昇とともに、不動産関連の大幅な増税を実施すれば、税収は急速に増加し、財政再建も急速に進むのである。

金融緩和を強化し続ければ、モノやサービスの価格も必ず上昇する。これに対しては、(*1)などで述べたように、消費税の増税などで対応すべきである。金融抑圧によってインフレ税を徴収し、インフレが行き過ぎたならば、消費税などのデフレ不況促進税の増税を次に実施するのである。

プライマリーバランスの黒字化という目標を立てて、増税と歳出削減だけを繰り返せば、デフレ不況が間違いなく進行する。これは1990年代から20年あまりの間、間違い続けた政策である。その先は、金利の急上昇と財政破綻、国家破綻しかありえないのである。

目標は、プライマリーバランスの黒字化ではなく、国債発行残高ゼロをめざすべきである。これを実現するためには、日銀は無制限に資産の購入を進めなければならない。とりあえず発行済み国債の全額購入をめざそう。ブラックホールのように資金を吸収し、有害極まりない国債市場の機能を停止させよう。麻薬である国債は、できるならなくしてしまうのが一番良い。発行済みの国債を100%購入するのは容易ではない。最後には国債金利の急上昇は発生しないが、国債価格の急上昇(=金利の急低下=マイナス金利幅の急拡大)が発生てしまうからだ。しかしある程度のマイナス金利を覚悟するならば、日銀が発行済み国債の大半を購入することは可能である。大半を購入してしまえば、残りは償還と合わせて国債発行残高ゼロが、将来的に実現可能になる。

日銀が国債の大半を購入しても、インフレや過疎地の地価が上昇しなければ、次に買う対象は後で決めればよい。国債に売り物が存在する間は、国債をガンガン買い続ければよい。そしてモノや土地の価格が上昇すれば、増税でそれを抑制する。財政再建は、金融抑圧による確定利付き債権の保有者に対するインフレ税と、不動産価格上昇分の一部を税収に替えることを中心とすべきである。国債全額償還のための財源の中心は、資産からの移転、すなわち資産課税が中心であるべきだ。格差拡大を防ぎながら、資産家の資産も拡大可能であるからだ。それでも、モノのインフレ抑制のためには、消費税の増税などを利用して、国民の過剰な購買力=実質所得を減少させることも同時に必要である。資産や所得の少ない人にも、負担ゼロは好ましくなく、一定程度の負担はしてもらうべきである。

以前にも書いたとおり、この道はバラ色の道ではなく、イバラの道である。これは、不動産バブルの崩壊が24年間も続くことを容認してしまった過去の政策の誤りの大きすぎるツケなのである。イバラの道ではあるが、実質GDP成長率の最大化と国債発行残高ゼロを目指すものとしては、こうした困難な提案をなんとしても現実化してもらいたいと考えている。そしてその第一歩は、日銀による国債購入金額を、年間80兆円から大幅に増やすことから始めなければならないのである。


リンク先記事
金融抑圧による財政再建 経済財政諮問会議資料における試算(*1)

テーマ : 経済
ジャンル : 政治・経済

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持てる者と持たざる者の格差は?

いつも興味深く拝読させていただいています。2点あります。

●資産価格を上げる政策が良いことなのでしょうか?
不動産価格が他国に比較して上昇していないことに関し、日本の人口が伸びていないことから所得分布のベルカーブの右端に位置する層が中央に戻ったと考えれば問題ないようにも思います。資産価格を上げることを目的とした政策は、持てる者と持たざる者の格差を広げてしまうことから、むしろ社会不安を呼び起こし良いことではないように思います。

●毎年の伸びを確認するためにはグラフ縦軸を対数で表記すべきです。株価や不増産価格などの資産価格は「伸び」を見たいことから対数で表示すべきだと思います。そうでないと低価格にある資産が押しつぶされ高価格にある資産が強調されてしまい「価格の伸び(対前年)」を正しく表示できません。

資産価格上昇を税収に振り替える政策

日本の政府債務増加の最大の原因は、資産とモノのデフレによる税収減少です。財政再建が可能になる前提条件は、資産価格の引き上げです。そして、資産価格を増やし、その増加分を増税により税収に振り替えて財政再建をはかるというのが私のアイデアです。通説的な消費税増税だけに頼る財政再建策は、持たざるものの負担を増やし、格差拡大につながります。日本の場合、格差拡大をあまり容認しない世論があります。そのため、従来と同様に、再び格差拡大の縮小を目指した財政支出拡大策が、景気対策などの名目で打ち出され、財政収支が悪化しやすくなります。その先は、政府債務のさらなる増加、金利の急上昇、財政破綻、国家破綻へと必然的に向かうことになります。異次元緩和をせずに消費税を増税していたならば、この国家破綻への道へと進んでいたでしょう。

45年間の不動産価格の場合は、整数と対数の2つのグラフを見るのがベストだと思います。しかし、どちらか1つをとる場合、整数の方がベターだと思います。理由は、1年間に1%の差が、45年間積もれば大変大きな差がつくからです。これは対数ではわかりにくく、整数でないとわかりません。
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