金融の量的緩和と金利の変化(その2)

現在の日本は、大変大きな問題に直面している。政府債務の総残高のGDPに対する割合が234%(政府債務の総残高は、日銀の資金循環表の数値を使用)と、世界でダントツの第一位であることだ。現状のような巨額の国債発行が毎年続いた場合、将来の日本の財政は、破綻に陥る可能性が高い。財政破綻など起こらない、という意見も、少数だが存在する。しかし、今回の話は、悲観的なシナリオのリスクについての考察なので、財政楽観派の意見に対する批判は、省略させていただく。

財政破綻といっても、国債の元本や利息の支払いが実施されなくなる可能性は、非常に低い。実際に起こりえそうなシナリオの一つは、

国債の投資家が、将来、国債の元本や利子が、支払われなくなると心配し始める
→国債の投資家が新たに国債を買わなくなり、現在保有する国債を売却し始める
→国債価格が下落、金利が上昇
→さらに進んで、国債価格が暴落、金利が急上昇
→政府が新規発行の国債の利率を大幅に引き上げる
→にもかかわらず、国債が売れなくなる
→政府の手元資金が底を付きかける
→政府が日銀の国債引受が可能になるように法改正を実施
→日銀が国債引受を開始
→インフレ率の急上昇開始
→日銀の国債引受が定着
→ハイパーインフレの発生

このように、市場が財政破綻の可能性を織り込み始めると、金利は、急上昇に転じる。しかし、その時期は、明日なのか、数十年後なのか、あるいは、財政破綻の前に政府が大規模な財政赤字削減策を採ることにより、永久に来ないのか、誰にもわからない。

私は、現在、日銀がより大規模な金融緩和を実施すべきであると考えている。そして、増税、歳出削減と、マイルドなインフレによる、預貯金と確定利付債券の保有者に対するインフレ課税の二本立ての政策により、財政破綻の回避をはかるべきであると考える。増税と歳出削減一本だけでは、大変な不況圧力となり、過去20年間よりも、日本経済を、もっと冷え込ませることになると思う。一方、インフレによる財政再建だけでは、金利上昇による国債の利払い費用の増加等が見込まれるため、ハイパーインフレか、それに近い高率のインフレを引き起こす必要がある。高すぎるインフレは、経済を不安定化させ、経済成長の阻害要因となる。

よって、増税、歳出削減と、マイルドなインフレによる預貯金と確定利付債券の保有者に対するインフレ課税の二本建ての政策が、一番日本経済への打撃が少ない政策の組み合わせであると考える。そもそも、デフレというのは、債務者に対する課税である。現時点において、日本の最大の債務者は、政府であるから、政府に対する課税であり、国民にとっては減税である。ここまで政府債務が膨らんだ要因の一つは、デフレという減税を過去十数年間続け、税収が大きく減少してしまったことにある。マイルドインフレに切り替えると、それだけで一種の増税となる。日本以外の多くの先進諸国のインフレターゲット、インフレゴールが、消費者物価上昇率を、ゼロではなく、2%に置いているのは、経済に悪影響を与えることなく、毎年、少額の増税を実施し、歳入を増やし、財政収支の悪化を防ぐ、という発想が根底にあったと思われる。こうした発想が全く無かったのが、日本である。

しかし、政府債務の総残高のGDPに対する割合が、234%まで膨らんでしまうと、マイルドインフレではなく、ハイパーインフレによる財政再建をはかるのではないかという疑念を、市場に抱かせてしまう可能性がある。なぜなら、政府は、消費税増税以外の財政再建策を、全く示していないからである。そして、消費税5%増税が実現しても、それだけでは、財政再建策としては不十分であることを、政府は認めている。さらに、もし、消費税を、8%か10%に引き上げた後、1997年の消費税増税後のような不況が発生すれば、次の財政再建策が実施されるまで、相当の時間がかかるであろう。加えて、少子高齢化、人口減少等の将来の日本経済に対する不安、政治のだらしなさ、市場心理の不安定さ等を考えると、市場が、ハイパーインフレによる財政破綻の回避しか方法が無いのではないかと、疑念を持つようになっても、おかしくは無い。もし、市場にそうした疑念が渦巻き始めたならば、金利は、急上昇に向かう。つまり、現在の大規模な金融緩和の実施は、将来の金利急上昇を、前倒しで引き起こしてしまうリスクが存在するのである。

こうした原因での金利上昇は、前回述べたフィッシャー効果(*1の第二段落)の発生による金利上昇とは、ロジックに、共通点が多いものの、相違点もある。単なるインフレ期待による金利上昇ではない。財政破綻回避のために、ハイパーインフレが起こるかもしれないという恐怖感が引き起こす、金利の急上昇である。インフレ率が、マイナスか、小幅なプラスであるのに、金利だけが一方的に急上昇することになる。

日本は、1990年代初頭のバブル崩壊直後に、ゼロ金利と大規模な金融緩和を実施していれば、金利上昇など決して起こらなかったと思う。しかし、2012年の時点で、大規模な金融緩和を実施すれば、金利が急上昇するリスクは、残念ながら、ゼロではない。大規模な金融緩和の実施による経済再生が、すでに手遅れの段階に達してしまった可能性が、完全には否定できない。しかし、今ではなく将来に大規模な金融緩和を実施した場合、金利が急上昇する可能性は今よりも確実に高くなるであろう。そして、現在の大規模な金融緩和が金利の急上昇を引き起こすならば、現在の金融政策を維持したままでも、財政破綻やハイパーインフレのリスクを織り込んで、近い将来に金利が急上昇し始める可能性が高い。

従って、私は、金利急上昇のリスクがあることを承知した上で、今すぐ、日銀が大規模な金融緩和を実施すべきと考える。具体的手法については、日銀が、固定金利0.1%、期間10年の貸し出しを大幅に増やすべきである。日銀が、国債購入の金額を増やすよりも、国債の金利が急上昇するリスクを低減する可能性があるからだ。金利が急上昇することなく、インフレが発生すれば、準備預金率と超過準備に対する付利の利率を引き上げることにより、資金回収をし、過度のインフレ率の上昇を防げばよい。可能性は低いが、金利が急上昇し始めたならば、日銀による国債購入、国債引受の実施から、最後はハイパーインフレにたどり着く可能性が高い。現時点では、金利急上昇のリスクは小さい。時間がたてばたつほど、大規模な金融緩和を実施しても、現状維持であっても、金利上昇のリスクは高まるのである。それならば、早めに、小さなリスクを取って、大規模な金融緩和を実施すべきである。

テーマ : 経済
ジャンル : 政治・経済

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