金融抑圧による財政再建 経済財政諮問会議資料における試算

前回、イギリスで行われた金融抑圧による財政再建について説明した。今回は、2月12日に開かれた経済財政諮問会議で使われた資料に、財政再建のためには金融抑圧が必要であるというデータが存在していたことを説明する。そのような報道はなく、議事録にも書かれていない。資料を見ただけでは全くわからない。しかし、その資料を分析すれば、財政再建を進めるためには金融抑圧が必要であることを示すデータが存在している。経済財政諮問会議の資料の中に隠されている、金融抑圧の必要性を示す内容を説明する。そして、私が考えている金融抑圧を利用した財政再建への道を示したいと思う。

最初に、私の財政再建、国債発行についての基本的考え方について説明したい。国債発行の限度については、いくつかの考え方が存在する。多数説は、プライマリーバランスを黒字化させ、国債発行残高対名目GDP比率の増加をくい止め、一定比率以下に抑制することが重要、というものであろう。一方、国債の所有者の大半が国内投資家である場合、国債発行残高は無限に増やしてもよい、という考え方も存在する。さらにまた、もはや通常の手段による国債発行残高の削減、財政再建は不可能であり、ハイパーインフレしか解決方法はないという考え方も存在する。

私の考え方では、経済政策の最優先の課題は、長期的な実質GDP成長率の最大化である。しかし、その次に重要な目標の一つは、国債発行残高をゼロにすることである。国債とは麻薬であり、一時的には実質GDPの成長に大変大きく貢献するが、長期的には実質GDPの成長を阻害すると考えるからだ。国債発行残高ゼロというのは、夢の中でしか起こりえないことである。それでも理想としては、国債発行残高ゼロを一日も早く実現させる方法を見つけたいのである。

2月12日の経済財政諮問会議の資料には、将来を、「経済再生ケース」と「ベースラインケース」という2通りのシナリオにわけて想定し、それぞれの場合で必要な資金の金額が示唆されている。多くの想定、算出数字が並んでいるので、その中から重要と思われるいくつかの数字をグラフ化して示したいと思う。

まず、公債等残高対名目GDP比率を表すグラフを下記に示す。


国債・GDP

経済再生シナリオでは、比率の増加が頭を打ったかのようなグラフになっている。

次にプライマリーバランスの対GDP比率を表すグラフを下記に示す。


PB・GDP

上記の想定では、プライマリーバランスは一度も黒字化していない。

この数字を見て、「なぜだ」と感じた。(*1)で説明したとおり、公債等残高の対名目GDP比率を低下させるために一番重要な数字は、「プライマリーバランス(Pbと略する)」の金額と、「名目GDP成長率(gと略する)と名目長期金利(rと略する)の差」である。Pbが赤字で公債等残高の対名目GDP比率が縮小するためには、g>rが必要である(ドーマー条件)。そう考えながら経済財政諮問会議の資料の数字を追ってみた。

「経済再生ケース」と「ベースラインケース」の2通りのシナリオを作成して、「経済再生ケース」の方が公債等残高の対名目GDP比率が低くなっている。つまり、実質GDP成長率を高めれば、財政再建が容易であるかのように見せている。しかし、実質GDP成長率を高めれば、財政再建が容易になるという有力な理論は存在しない。私は(*2)で説明したとおり、実質GDP成長率が高くなるとg>rになる確率も高くなると書いた。これは、理論的に導き出したものではない。高度成長期の日本や、現在の中国を始めとして、いくつかの国の経験を観察することにより導き出した考え方である。しかも、現在の日本のような成熟した低成長国家においては、実質GDP成長率を少し高めても効果は非常に少ない。従って、日本においては、長期的にはg=rと考えた方がよいと(*2)に書いていた。実質GDP成長率を1%ちょっと引き上げたからといって、g-rの引き上げ幅はごくわずかであり、引き上げ幅を理論的に算出することも不可能である。実質GDP成長率の増加によるg-rの引き上げ幅はゼロと想定すべきである。しかし、経済諮問会議の資料では、実質GDP成長率のわずかの上昇によって、g-rも上昇するという全く非現実的なシナリオを提示している。

そのことを示すために、潜在成長率、実質GDP成長率、名目GDP成長率の3つのグラフを下記に示す。


潜在成長率

実質GDP成長率

名目GDP成長率

上記の数字は計算値ではなく、想定値である。この想定には問題はない。

次に名目長期金利を表すグラフを下記に示す。


金利

上記の数字も計算値ではなく、想定値、前提条件である。しかし、この想定は、誤解を招く結果をもたらす大変悪質な前提条件である。それは、下記に示すグラフで明らかになる。

成長ー金利

g-rの想定、すなわち前提条件である。現在のg>rがg<rへと向かっていくことが想定されている。

次に、前回と同様に、g-rの2013年からの累積値のグラフを下記に示す。


成長-金利累積

2つのシナリオを「経済再生ケース」、「ベースラインケース」と呼ぶこと自体がおかしいのである。この2つのケースは、「金融抑圧長期継続ケース」、「金融抑圧短期継続ケース」と呼ぶべきである。「経済再生ケース」、「ベースラインケース」を想定するならば、両方ともg-rが同じと想定すべきである。その場合、「経済再生ケース」、「ベースラインケース」の間に財政再建のスピードに差はなくなる。それが真実なのである。「経済再生ケース」が「ベースラインケース」よりもg>rが長く続くように数字を操作し、実質GDP成長率が高くなると財政再建がスムーズに進むように見せかけているのである。とんでもなく間違った内容であり、世間に誤解を広める悪質な資料なのである。

金融抑圧に戻ると、上記のグラフは、一番上に示した公債等残高対GDP比率のグラフとの関連性が見えにくい。これは、名目長期金利が上昇しても、金利が上昇する分は、新規に発行される公債の分だけであるからだ。公債等残高対GDP比率はg-rの累積値よりも遅れるのである。そのことを示すために、公債等残高対名目GDP比率の前年比変化率を表すグラフを下記に示す。


国債・GDP変化

一番最初の公債等残高対名目GDP比率の微分値のようなものであり、先行値と言ってもよい。

上記の値とg-rの累積値との比較を、「経済再生ケース」、「ベースラインケース」に分けて下記に示す。g-rの累積値は上記のグラフとは反対の動きをするので、符号を逆にしたr-gの累積値とを比較する。


財政再建 再生

財政再建 ベースライン

グラフの形としては似ていると思う。特に経済再生ケースでは形が似ている。ただし、目盛りをよく見ればわかるが、2023年においても、青色のr-gの累積値は上向きである。すなわち、金融抑圧はすでに過去に終了しているのである。しかし、過去のr-gの累積のおかげで、赤色の公債等残高対名目GDP比率の前年比変化率は依然として小幅のマイナス、すなわち公債等残高対名目GDP比率の方は改善傾向を示しているのである。

繰り返すが、上記のグラフで明らかなことは、実質GDP成長率を高めると、財政再建が進みやすくなることではない。金融抑圧を長く維持した方が、財政再建が進みやすいということを示した資料なのである。

過去の政策の失敗の大元の原因は、財政再建のために重要な数値であるPbとg-rの2つの数字のうち、Pbは操作可能であるが、g-rは操作不可能であるとの前提を建て、Pbの縮小のみに力を入れてきたことである。これが日本の財政状態を悪化させ、金利の急上昇、財政破綻の懸念を引き起こすようになった最大の原因である。つまり、Pbは自由に操作可能ではないのである。Pbを減らすために消費税を増税したが、景気後退が発生してかえって税収全体が減ってしまった。あるいは全く別の理由で景気後退が発生し、Pbが再び悪化するということが繰り返された。Pbの減少を目指しても、再びPbが増加するということが繰り返されたのである。そろそろ誤りを繰り返すことはやめなければならない。Pbはある程度操作可能であるが、自由に操作可能ではないのである。そして同様にg-rも操作不可能ではなく、ある程度は操作可能なのである。異次元緩和を実施した結果、現在まで、g>rを実現させることに成功している。両方とも制限された範囲内で操作可能なのである。Pbとg-rの両方を可能な範囲内で一番望ましいように操作することが重要なのである。

金融抑圧を続けると、好景気が継続し、賃金は必ず上昇に転じる。賃金の過度の上昇はインフレ率の上昇となるので、何としても押さえ込まなければならない。その方法は平時であれば、政策金利の引き上げである。しかし、現在は平時ではない。Pbを黒字化させ、財政再建を何としても進めなければならない。賃金上昇は、増税によっても抑制可能である。ここでは、将来の増税が当然視されている消費税の増税を実施する場合を考えることにする。

日本において、2度の消費税増税の結果わかったことは、消費税増税後の少なくともしばらくの間、消費は大きく減退するという事実である。日本においては、消費税増税はデフレ不況促進効果を持つのである。ヨーロッパとは異なり、日本では景気過熱=賃金上昇を消費税増税により押さえ込むことが可能なのである。賃金上昇が加速しそうな時期にこそ、思い切った消費税増税を実施すべきなのである。その場合、消費税の増税効果で総需要は抑制される。総需要が抑制されると、生産は減少を強いられ、労働力需要も低下する。従って、賃金の上昇圧力も、政策金利の引き上げと同様に抑制されるのである。

増税を実施するためには、法律を国会で成立させなければならない。金融政策とは異なり、財政政策はそう簡単に発動できるものではない。インフレを財政政策で抑制するのは、理論的に可能であっても、実際にうまくいくとはかぎらない。インフレを増税でコントロールすることは、ある程度可能であるが、金融政策ほどはうまくいかない。しかし、ある程度可能であるならば、可能な限り財政政策で対応すべきである。バブルの抑制はもっと困難な点があるが、同様に可能な限り財政政策で対応すべきである。

増税と歳出削減の組み合わせでは、国債発行残高の対GDP比率の拡大を止められないことは、過去20年あまりの日本の経験によって証明された。経済成長により財政再建を実現できるという理論的な根拠も存在しない。財政再建を一番確実に進めることが可能な政策は、金融抑圧の継続と、インフレ、バブル発生時の思い切った消費税増税を含む増税という財政金融政策の組み合わせである。しかし、この政策が完全に成功する可能性は低く、至る所で様々な問題が発生する可能性の方が高い。この道は、決してバラ色の道ではなく、イバラの道である。少子化対策がなおざりにされ続け、異次元緩和の実施が20年遅れた日本の前に、バラ色の道は残されていないのである。

発行された国債は、全額日銀が購入すべきである。そして、インフレとバブルの進行時に、時間をかけて、名目ベースでは日銀が購入した国債金額と同金額の増税を実施しなければならない。しかし、実質ベースでは、名目ベースよりもはるかに少ない金額の増税でかまわないことになる。金融抑圧によるインフレ税が、必要な実質増税の金額を大きく引き下げてくれるからである。この道もイバラの道である。しかし、イバラの道の先に、長期的な実質GDP成長率の最大化と、国債発行残高ゼロの実現が見える可能性が存在する道なのである。


追記
4月18日 日本経済新聞朝刊2面
こんな楽観論に待ったをかけたのは河野太郎行政改革推進本部長ら行革派だ。内閣府試算を独自に検証し、2日の特命委で警鐘を鳴らした。
 「債務残高GDP比の低下は、たまたま低い長期金利と高成長率の恩恵を受けているだけ。23年度の先は長期金利の上昇でGDP比は悪化する」
 内閣府試算もデフレ脱却後は長期金利が名目成長率を上回る前提に立っている。だとすれば、長期的に債務残高GDP比の上昇を避けるうえで、基礎的財政収支の黒字化を後回しにはできない。

ようやく資料のゴマカシを見抜いた人が現れた。しかし、上記に書いたとおり、基礎的財政収支の黒字だけをめざすと黒字化が失敗することは過去の経験から明らか。同時に名目成長率-長期金利の操作をめざさなければ財政再建は不可能。


リンク先記事
ドーマー条件、ボーン条件、財政再建に必要な条件(*1)
名目成長率と名目金利の比較(*2)

テーマ : 経済
ジャンル : 政治・経済

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国の借金について

自分は無教養でよくわからないのですが、いわゆるケインズ派の人たちは借金こそ成長の源泉であり、国家はインフレ率が低い限りいくらでも赤字国債が発行できるのでどんどん財政拡大すべきで緊縮財政が不況のもとだと主張しているようです。自分は国の借金1000兆と聞いて近いうちに国民の預金が消えてしまうんじゃないかと怯えたことがあったけど最悪でも一時的なインフレなら消費税減税等やってみればいいと思ったのですが管理人さんはそうとは思ってないんですね?

その質問は難問です

「国の借金、国債とはそもそも何か」については、今までもあちらこちらに分けて書いてきました。これについてはなるべく近い将来に、もう一度ブログの本文にまとめて書いてみたいと思います。ただこの問題は、実は正しい答えがわかっていない難問です。経済学者、エコノミストの内部でも、意見の一致はありません。ケインズ派内部だけでも相当な幅があります。財政再建、消費税増税、金融政策について専門家と称する人たちの意見が分かれてしまう原因の一つでもあります。
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