日銀ウォッチャー報告(2015年1月号)


マネタリーベース平残の推移201501(グラフ)

2014年12月の季節調整済のマネタリーベース平残は、前月比で2.4兆円減少し、266.2兆円になった。

マネタリーベース平残の推移201501(表)

上記のグラフに示したとおり、季節調整済のマネタリーベース平残は、2012年12月の白川体制の末期から増加基調が明確になった。その後は、ほぼ高水準の増加率が続いている。12月は前月-0.9%とわずかな減少となった。昨年も12月だけは-2%とわずかな減少であった。12月は、季調済平残を考えることなく、目標としているマネタリーベースの年末残275兆円を重視して調整した結果である。

12月の市中資金は、8.1兆円の不足であった。そこに、国債の購入10.1兆円、短期国債の購入2.3兆円、貸出支援基金による貸し出し3.7兆円などを中心とした金融調節により、合計15.9兆円の資金が供給された。金融調節後の市中資金は、7.9兆円の資金余剰となった。この資金余剰を反映して、当座預金残高は、11月末の170.3兆円から、12月末の178.1兆円へ、7.9兆円の増加となった。この当座預金残高の変動を反映して、12月の季節調整済のマネタリーベース平残は、前月比2.4兆円減少の266.2兆円になった。当座預金残高が増加し、季節調整済のマネタリーベース平残が減少した理由は、12月のマネタリーベースは増加しやすいという季節要因があるためである。

2014年2月18日の金融政策決定会合で決定された、新方式による貸出支援基金による貸し出しの第3回目が12月に実施された。貸出支援基金による貸し出し金額を表すグラフを下記に示す。


貸出支援基金201501

2014年12月分は、ドル特則を除く成長基盤強化支援資金供給の貸し出し増加額は、前月末比で5993億円であった。貸出増加支援資金供給の貸し出し増加額は、前月末比で3兆0236億円であった。2014年12月末のドル特則をも含む貸出支援基金全体の残高は、前月末比で3兆7183億円増加の24兆7001億円となった。2014年2月より前には、2014年末の貸出支援基金全体で、18兆円という目標を設定していたが、その金額は上回ることになった。一方、2014年2月に、貸出増加支援資金供給を2015年3月までに30兆円まで増やすことを、新しい目標として設定した。しかし、2014年12月末現在で19兆円であり、残り1回で30兆円まで増やすことは不可能であろう。

日銀BSとMB(実績と予想)201501

上記の表に示したように、昨年12月末までの過去12ヶ月間に、国債の残高は60兆円、マネタリーベース残高は74兆円の増加となっている。今年の年間目標は、国債とマネタリーベースを80兆円ずつ増やすことである。今年の年末時点におけるマネタリーベースの予定残高は、355兆円である。残り12ヶ月間で増やすので、マネタリーベース末残は、1ヶ月間の平均で6.7兆円の純増が必要である。

1月の市中資金は、14.2兆円の不足となる。1月の資金供給は、国債の購入が12月並の10兆円と想定する。短期国債の購入は8兆円と想定する。12月は2.3兆円の購入と非常に少ない金額であったが、1月は11月以前の購入金額近くに戻さないと、マネタリーベースを積み上げることはできないからだ。共通担保オペの回収額は0.5兆円と想定する。貸出支援基金による貸し出しは、1月中には予定されていない。この結果、1月の資金供給は、合計で17.5兆円となる。その他、1月は銀行券の回収が4.4兆円と日銀は予想している。1月末のマネタリーベース末残は、「マイナス14.2兆円プラス17.5兆円マイナス4.4兆円」に等しい前月比1.1兆円の減少と予想する。昨年1月末も1兆円の減少であった。季節調整済のマネタリーベース平残の増加額は、前月比10兆円近くの大幅増になると予想する。

前々回に(*1)、10月31日のバズーカ砲第2弾の後、証券投資を通じて、海外から怒濤のごとく資金が流入していることを指摘した。そして、資金が流出するようになるまで金融緩和を強化すべきことを改めて強調した。では、日銀の方では、その事実をどのように考えているのであろうか。そこで、12月25日に公表された11月18日-19日の金融政策決定会合の議事要旨からその部分を取り上げ、下に記す。

「為替相場をみると、円の対米ドル相場は、日米の金融政策の方向性の違いが強く意識されたことなどから、円安ドル高方向の動きとなっており、最近では 117円台で推移している。」

為替レートについての記述はこれだけである。毎回、長さは同じくらいである。しかし、実際には、もっと詳しい分析がなされているはずである。10年前までの金融政策決定会合の議事録とその資料は公開されている。そこから、10年前には毎回存在し、おそらく現在も存在している可能性の高い資料を下記に示す。


対外対内証券投資表

黒田バズーカ砲第2弾の後の数字で、11月19日時点において公表されていた数字は、11月7日までの週の数字だけであった。11月14日までの数字は、11月20日公表なので、11月19日時点においても、日銀だけには見えていたかも知れない。それらの週の数字を見ると、国内投資家の対外証券投資の金額は縮小している。一方、海外投資家の対内証券投資の金額は拡大している。すなわち、バズーカ砲第2弾の直後において、ネットで見た証券投資を通じる資金の流入金額は大幅に拡大していたのである。日本が金融緩和、アメリカが金融引き締めに動くと、普通、証券投資を通じる資金は、日本からアメリカへの流出になる。しかし、実際には、その正反対の流れが発生した。この表をより長期化してグラフ化すると、下記のようになる。

対外対内証券投資グラフ

似たグラフを何度か示してきた。しかし、私が何度か示してきたグラフでは、公社債の中に短期債を含めていた。一方、日銀が決定会合で使用していた数字は、公社債の中から短期債を除いた数字である。短期債の売買は、対外証券投資よりも、対内証券投資の方の金額が大きい。そのため、マイナスになっている資金流出の金額は、私が使用していた数字よりも、絶対値がかなり小さな数字になっている。短期債を除いた数字を使用した場合でも、アベノミクス相場の開始以降、証券投資を通じて、海外から国内へと怒濤のごとく資金が流入していることがわかる。2014年に入って、資金流出が止まっていたのであるが、バズーカ砲第2弾の直後から、再び流入金額が急拡大したのである。

バズーカ砲第2弾の直後のポートフォリオ・リバランス効果が、マイナスであったことは明らかである。にもかかわらず、議事要旨には、プラスのポートフォリオ・リバランス効果が発生したかのように書かれている。「日米の金融政策の方向性の違いが強く意識されたことなどから、円安ドル高方向の動き」という文言からは、「日本の金融緩和の強化とアメリカの金融緩和の終了により、資金のあり余った日本から、金利が上昇したアメリカへと大量に資金が流れていき、その結果、円安ドル高が進んだ」と解釈するのが普通であると思う。すなわち、プラスのポートフォリオ・リバランス効果の発生と読み取れるのである。しかし、少なくとも、11月に入ってからの証券投資を通じる資金の流れは、その正反対である。発生した効果は、第1弾の時と同様に、マイナスのポートフォリオ・リバランス効果であったのである。

証券投資以外の金融収支、誤差脱漏などを加えた場合、資金流出は拡大しているはずであり、議事要旨の内容は間違いではない。しかし、10年以上前の決定会合に毎回出ていたのは、証券投資の表が中心である。それ以外の金融収支の資料は、全部を確認したわけではないが、見たことがない。公社債の中から短期債を除いているので、その他投資のような短期で激しく変動する数字は無視しているのかもしれない。当時の日銀は、資金流出入の中心を、株と中長期債を通じる証券投資と見ていたのである。

現在、使われている資料が、どのようなものかはわからない。日銀が、証券投資を相殺する資金の流れをつかんでいる可能性は否定できない。しかし、11月19日時点で、金融収支のデータは、9月分までしか公表されていなかった。10月分の未公表のデータを、日銀はすでに保有していた可能性はある。しかし、バズーカ砲第2弾直後の11月分については、証券投資以外の金融収支のデータを、ごく一部だけは例外的に保有しているものもあったかもしれない。しかし、全部を保有していたはずがない。従って、バズーカ砲第2弾以降の資金流出入の中で見えていたデータは、大部分が証券投資のデータだけであったはずである。そして、その証券投資は資金流入金額の大幅な拡大を示していた。にもかかわらず。資金の流出が拡大しているような内容を議事要旨に書いている。過去にも似たケースがあるのだが、事実と正反対ともいえる内容を議事要旨の中に書いているのである。

量的緩和の波及経路については、現時点では、定説があるわけではない。しかし、おそらく一番有力な説は、通貨安を通じる景気刺激効果であろう。黒田総裁は、実質金利引き下げを通じる経路を最重要視していると公言している。しかし、量的緩和の目的の1つは円安誘導と言ってしまうと、G20の声明文違反になる。従って、口が裂けても、量的緩和の目的の1つが円安誘導であるとは言ってはいけないのである。看板は、実質金利引き下げでなくてはならない。黒田総裁も、量的緩和が一般論として円安を引き起こす効果があることを認めている。従って、量的緩和という政策と、円安、資金の流出入については、最も力を入れて分析しなければならない最重要の論点なのである。量的緩和を強化すれば、証券投資を通じて、海外から巨額の資金が流入してくることが、2013年に明らかになった。それと同じ現象が、バズーカ砲第2弾の直後にも、再び発生したのである。

黒田バズーカ砲が引き起こす効果、すなわち、量的緩和の強化→証券投資を通じる資金流入の大幅拡大=大量の円買い外貨売りの発生→円高ではなく円安が発生、というメカニズムを日銀が説明しているのを見たことがない。私は、証券投資を通じる大規模な資金流入の中で円安が発生するメカニズムを(*2)で説明した。本来なら、こうした分析は日銀が行い、発表しなければならない非常に重要な論点なのである。しかし、分析をするどころか、都合が悪くて見たくない事実は、発生しなかったことにしている。こうした不都合な事実とまともに向き合うことのない日銀の態度には、問題がありすぎる。

私が繰り返し主張していることは、量的緩和の強化→証券投資の黒字拡大→金融収支の黒字拡大=経常収支の黒字拡大→GDPの拡大→景気過熱→インフレとバブルの発生→大規模な増税→急激な財政再建の実現、であった。これは、実際に簡単に実現するものではない。多くの段階において、難しい問題が存在する。しかし、その中で最も大きな問題は、一番最初の段階にある。

円安発生直後から、アメリカにガツンと言われたら、円安は実現できなくなると言われていた。全くそのとおりだと思う。なぜアメリカが現在でも円安を容認しているかと言えば、円安進行にもかかわらず、貿易・サービス収支、経常収支の改善が目に見えて発生していないことが最大の要因であろう。経常収支が目に見えて改善してきたならば、アメリカは円安を許さない。アメリカだけではなく、世界の多くの国が許さない。これは同時に、金融緩和の強化も許されないことを意味する。

Jカーブ効果は発生しないと言われ続けてきた。しかし、足元では少しずつ、貿易・サービス収支と経常収支の改善が発生しつつある。今後、確実に発生する現象は、貿易・サービス収支と経常収支の改善が目に見えて進むことである。遠くない将来に、経常収支の黒字は拡大するのである。これは2年以上にわたる円安効果にプラスして、エネルギー価格の低下による輸入金額減少の効果が加わるためである。

仮に、経常収支の黒字が目に見えて拡大しつつある環境下で、大規模追加金融緩和を実施した場合には、一国繁栄型の近隣窮乏化政策と、アメリカだけではなく世界中から非難されるであろう。経常収支の黒字が目に見えて拡大しつつある環境下では、日本としては、2%のインフレ実現が目的であるとの建前を繰り返して、その時点での金融緩和を維持するのが精一杯であろう。それ以上の追加金融緩和はできないのである。金融緩和は交易条件を悪化させる自国窮乏化政策であるなどと反論したりすれば、世界中から総スカンをくらい、G7やG20から追放されるであろう。エネルギー価格の低下と、日本の国際政治上の力を考えると、追加金融緩和が可能な時間はあまり残されていない。従って、一刻も早くできるだけ大規模な追加金融緩和を実施することが、必要不可欠なのである。


リンク先記事
海外から日本へ巨額の資金流入を招いた黒田バズーカ砲の威力(*1)
海外投資家の日本株買いが円安を引き起こす理由(*2)



テーマ : 経済
ジャンル : 政治・経済

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