家計貯蓄率のマイナス転落が行き着く先の国家破綻

2014年12月25日に、2013年度の国民経済計算確報の一部が公表された。その中で最も衝撃的なものは、「家計貯蓄率のマイナスへの転落」という部分であったと思う。さっそく、「国債金利の急上昇のリスク」というコメントが報道の中に見られた。ここでは、公表されたマイナスの貯蓄率は、真の貯蓄率よりも低く出されている可能性が高いことを示す。しかし、安心してよいわけではない。公表された家計貯蓄率のマイナス転落は、「国債金利の急上昇」とは別の種類の国家破綻へと向かう太い道に近づいていることを意味している。その内容を説明することにする。

最初に、国民経済計算に示された家計貯蓄率の推移を表すグラフを下記に示す。


家計貯蓄率

見てわかるとおり、家計貯蓄率は趨勢的に低下し、2013年度に始めてマイナスに転落した。家計貯蓄率を決定する要因はいくつかあるが、その中で最も重要な要因は、少子高齢化・人口減少であろう。その理由を裏づける、年齢別の貯蓄率を表すグラフを下記に示す。

年齢別貯蓄率

勤労者世帯と無職世帯にわけている。当然のことながら、収入の少ない無職世帯の貯蓄率はマイナスである。勤労者世帯では高齢になるほど貯蓄率が低下する。無職世帯では高齢になると貯蓄率は上昇するが、それでもマイナスのままである。勤労者が高齢になり引退して無職世帯になれば、後は貯蓄を取り崩す一方になるので、貯蓄率はマイナスになってしまう。こうした高齢者の無職世帯が増加するにつれて、家計貯蓄率は低下し続けてきたのである。少子高齢化・人口減少がいっそう進行すると、家計貯蓄率のさらなる低下を避けることはできない。

しかし、これはあくまでも大きな傾向である。1年だけの貯蓄率は、少子高齢化以外のさまざまな要因によって変動する。そして、2013年度の貯蓄率は、真の貯蓄率よりも低く出されている可能性が高いことを示す。まず、下記のグラフを見ていただきたい。


家計部門貯蓄、資金過不足

家計部門の純貸出の数字は、家計部門の貯蓄の数字に少し変更を加えた数字である。家計部門の貯蓄の数字から算出された家計部門の純貸出の金額は、家計部門の資金過不足、すなわち全く別の方法により算出された純貸出の金額とかなり異なることを示している。純貸出・純借入と、資金過不足は同じ意味であり、後に出てくる資金の余剰・不足とも同じ意味である。

資金過不足の算出方法は2通り存在する。1つは、実物、金融面の両方のアプローチから算出された数字である。長くなるので、「実物取引から算出された数字」と記すことにする。もう1つは、日銀の資金循環統計を基礎とした金融面だけから算出された数字がある。これを、「金融取引から算出された数字」と記すことにする。この2種類の数字は、本来は同じでなければならない。ところが誤差があるので、実際にはかなり異なった数字になる。上記のグラフで示した赤と緑の線は、本来ならば、同じ動きをしなければならないのである。ところが実際には差が存在し、2013年度はその差がかなり大きなものとなっている。問題は、この2種類の数字のどちらがより正しい数字であるか、ということである。これは、金融取引から算出された数字の方が、誤差の少ない真実に近い数字であると考えられる。

実物取引から算出された数字は、毎年の可処分所得と、消費支出をすべて合計することによって算出する。そして貯蓄=可処分所得-消費支出、として貯蓄金額を算出する。個人で考えてみても、年間の可処分所得、消費支出を全部正確にとらえることは非常に難しいと思う。それができるのは、正確な家計簿をつけているごく一握りの人だけであろう。こうした正確な家計簿がなければ、正確な貯蓄金額、貯蓄率を算出することはできない。

貯蓄金額を求める方法はもう一つ存在する。それは、銀行預金の残高の変化から、貯蓄金額を算出する方法である。この方法なら、正確に近い貯蓄金額が算出可能であろう。この場合でも、株やその他の資産売買を頻繁に繰り返している人にとっては、正確な貯蓄金額を算出することは容易なことではない。それでも実物取引から算出された数字を求めることと比較すれば、少しは容易であるはずだ。

個々人の貯蓄金額の求め方と国民全体の貯蓄金額の求め方とは、共通点はあるが、相違点も多い。ただ、国民経済計算の場合でも、実物取引から算出された数字を求めるのは、大変な作業である。金融取引から算出された数字も大変ではあるが、実物取引から算出された数字よりは困難さが少なく、結果として誤差も少なくなると考えられる。従って、真の貯蓄金額は、実物取引から算出された数字よりも、金融取引から算出された数字の方が近くなる可能性が高い。2013年度において、金融取引から算出された資金の余剰金額は15.8兆円、実物取引から算出された資金の余剰金額は-0.1兆円、金融取引から算出された資金の余剰金額の方が、15.9兆円多い。そのため、真の貯蓄金額は、実物取引から算出された-1.3%、-3.7兆円よりも、15.9兆円前後大きい可能性が高い。

なお、金融取引から算出可能な数字は、貯蓄金額だけであり、可処分所得を算出することはできない。従って、貯蓄率は、実物取引から算出された数字を使うしか方法がない。貯蓄と資金余剰=純貸出との関係は、テクニカルな問題で、重要ではないので、説明は省略し、その関係を下記の表に示しておく。


制度部門別資本調達勘定

次に、金融取引から算出された部門別の資金過不足の推移を表すグラフを下記に示す。

資金過不足

このグラフの場合、家計の資金余剰金額は少し減少しているが、15.8兆円存在し、マイナスまでまだ余裕がある。このグラフも正しいわけではないが、実物取引から算出された数字よりは正確であるはずだ。そのため、国民経済計算で資金過不足の金額という場合は、金融取引から算出された資金余剰・不足の金額を普通は使用する。2013年度において、家計は、銀行預金、投信、保険を大量に増やしていることは間違いない。アベノミクス相場が始まって以降、リスク性の高い株を大規模に売却したことは事実である。しかし、それを上回る低リスク資産、無リスク資産を増やしていることは、他の統計から、ほぼ間違いない事実であると考えられる。大規模な低リスク資産、無リスク資産を家計が積み上げていることを考えると、家計貯蓄率がマイナスであるとは考えられない。金融取引から算出された資金余剰に近い金額の金融資産を増やしており、その結果、家計貯蓄率もプラスを維持できている可能性が高い。

仮に2013年度の家計貯蓄率がプラスを維持できていたとしても、安心はできない。貯蓄率はさまざまな要因で変動するが、現在の大きなトレンドを決めているのは、超少子高齢化・人口減少である。今後も、家計貯蓄金額とそれに連動する個人部門の資金余剰は減少していく可能性が高い。20年先といった長期を考えると、個人部門の資金は大幅な不足に転落している可能性が非常に高い。過去において、プラスの貯蓄を維持してきた個人は、超少子高齢化・人口減少社会においては、貯蓄不足にならざるをえない。先に示した年齢別の貯蓄率で、高齢者の貯蓄率のマイナス幅が大きいため、こうした推測はほぼ間違いないと考えられる。そして、この考え方は、モディリアーニの「ライフサイクル仮説」の考え方と一致する。

日本では、超少子高齢化・人口減少とそれに伴う貯蓄率の低下だけが発生しているのではない。超少子高齢化・人口減少は、日本経済の老齢化という現象を発生させていると考えた方がよいと思う。経済の老齢化現象は他にも見ることができる。多くの老人が、若者と同様に健康で、環境変化に機敏に対応できるのであれば、経済の老齢化は発生しない。しかし、人は高齢化による衰えから逃れることができない。人口構成の高齢化とともに、経済も老齢化し、経済成長率の低下につながることは避けられない。経済の老齢化は、需要サイドでは貯蓄率の低下を引き起こしたが、供給サイドの弱体化をも引き起こしている。この経済の供給サイドの弱体化は、日本の国際競争力の低下につながり、経常収支の黒字を減らし、海外部門の資金不足を縮小する力としても働くことになる。

一つ指摘しておきたいことは、経済の老齢化という現象は、将来の経済成長率を大きく引き下げる要因である。過去の経済成長率の低下に寄与した分は大きいとは言えない。経済の老齢化の悪影響は、今までは小さく、これから本格化するのである。従って、失われた20年の原因は、経済の老齢化が主因ではない。経済政策の失敗の方がはるかに大きく寄与していた。

バブル崩壊後の経済低迷の最大の原因は、経済政策の失敗にある。経済政策は、過去20年以上、誤り続けてきたが、現在も誤り続けている。異次元緩和は20年早く、1993年4月に実施されるべき政策であった。1993年4月に異次元緩和実施であったならば、株価も地価も短期間で元に戻り、銀行の不良債権門題は短期間で解決され、円安で輸出は拡大していたであろう。経済の老齢化の進行により多少は衰えていたであろうが、世界で憎まれるほど強い地位を現在も維持し、ジャパン・バッシングが恒常的に発生し続けていたはずである。20年遅れたために、その間、日本経済はボロボロになり、異次元緩和ですら効果の限られた政策になる国へと没落してしまった。つまり、経済の老齢化以上に、資産・モノのデフレと円高容認という経済政策の誤りの結果、日本経済の供給サイドの弱体化が発生してしまったのである。

超少子高齢化・人口減少、あるいは経済の老齢化という問題の解決策として、大規模な移民の受け入れという政策が考えられる。今回は、移民という解決策をとらなかった場合に限定して述べることにする。

超少子高齢化・人口減少の結果、個人部門が資金余剰から不足へと転落した場合、以前、個人が供給していた資金は、誰が供給するようになるのであろうか。間違いなく、個人部門の資金不足を、海外部門が資金不足から余剰へと転換して供給することになる。日本は、従来から海外に対して貯蓄をしてきた資金を取り崩し、その貯蓄を消費に回すようになる。この場合、個人部門の資金不足は大きくなり、非金融法人、一般政府などをも合計した国内部門も、資金不足となる。一方、今まで資金不足が続き、貯蓄を吸収する側にあった海外部門が、今後は資金の余剰主体になるのである。海外部門が余剰主体になるということは、経常収支(厳密には経常収支プラス資本移転等収支)が赤字化することを意味する。

この国内部門の資金不足転落、経常収支の赤字化に対しては、それを阻止する解決策が存在する。日銀が金融緩和を大幅に強化することである。単に強化するだけではなく、日本国内の資金の海外流出が拡大するまで、金融緩和を強化し続けることである。この場合、国内部門の資金余剰金額が拡大し、同時に、海外部門の資金不足金額も拡大することになる。これは、経常収支の黒字拡大を意味するだけではなく、GDPの拡大とともに新しい貯蓄が国内部門で創造され、その貯蓄が海外へと流出していることをも意味する。

先に、「貯蓄率はさまざまな要因で変動するが、現在の大きなトレンドを決めているのは、超少子高齢化・人口減少である。」と書いた。「貯蓄率」を経常収支の赤字と同じ意味の「国内部門の資金不足」に替えて表現し直すことにする。すると、「国内部門の資金不足は、経済政策によって解消することは一時的には可能であるが、大きなトレンドを決めているのは、経済の老齢化なので、このトレンドを経済政策によって解消することは非常に困難である」となる。金融緩和を徹底的に強化した場合、国内部門の資金余剰の拡大=経常収支の黒字拡大は可能である。しかし、金融緩和を続けることができる条件は、経済の供給サイドの弱体化が進んでいない場合だけであるからだ。

経済の老齢化とともに、経済の供給サイドの弱体化が進行してしまうと、資金の海外流出が拡大して、経常収支の黒字が拡大する場合に、より大幅な円安進行が必要になってくる。経常収支の黒字拡大のためには、例えば、1ドル=1000円という極端な円安が必要になるのである。こうした超円安によって国内需要と輸入需要を押さえ込まなければ、経常収支の黒字は維持不可能になる。経済の供給サイドが弱体化すると、輸出競争力が低下し、輸出金額が減少する。それでも国内部門の資金余剰=経常収支の黒字を維持するためには、輸入金額を大幅に減らすしかない。すなわち、輸入品の価格を大幅に上昇させ、日本人が輸入品を買えなくなるほど高価なものにしないと、経常収支の黒字を維持できないのである。9月に1ドル=105円を下回った頃から、円安デメリット論が急速に盛り上がった。1ドル=1000円よりもはるかに円高の水準でも、日本人は円安の痛みに耐えられなくなるのである。円安の痛みに耐えられなくなった時に、日銀による金融緩和の強化は不可能になる。

このように、金融緩和の強化は永遠に続けることのできる政策ではない。しかし、現在はまだ実施可能である。バブルの頂点の頃と比較すると大きく弱体化したものの、まだ日本経済の供給サイドは潜在能力を残している。日本企業は、海外に競争力の強い工場をたくさん保有しているのである。この点が、ギリシャやロシアのような通貨安を容認できない国とは決定的に異なっている。日本経済の老齢化が本格化する前に、大規模な金融緩和を実施する必要がある。金融緩和の強化を急がなければならない。

経済の老齢化が、経常収支を赤字に転落させ、その赤字が継続する場合、それを解消させる政策は非常に難しい。現在の日本は、治療方法の難しい病にかかろうとしている。経常収支の赤字が継続し、対外純債務が拡大した先は、国家破綻、IMF管理である。現在の日本は、世界最大の対外純資産を保有している。このため、経常収支が赤字化しても、国家破綻までにはまだ時間がある。破綻時期はかなり先のことであるが、国家破綻への道を進んでいる可能性は非常に高い。そのため、「実物取引から算出された」家計貯蓄率のマイナスへの転落は、将来の国家破綻へと向かう太い道に近づいていることを意味しているのである。

何度も繰り返し書いてきたように、国債発行残高の増加は、金融の超緩和、財政の超緊縮によって何とか解決可能である。私の案では、超緊縮財政は、インフレとバブルを抑制するものでもある。また、超緊縮財政で生じた資金を使って、日銀保有の国債を買い取って償却するので、金融緩和の出口戦略を心配する必要もなくなる。それでもだめなら、最後の局面では、ハイパーインフレが解決策になると言えなくもない.。しかし、対外純債務の増加の結果としての国家破綻は、時間は残されていても、(移民を除けば)解決策が非常に困難である。ハイパーインフレを起こしても、何の解決策にもならない。為替レートも、国家破綻への到達直前までは、調整メカニズムを十分に発揮できない。小さいながらも、治療困難なガン細胞ができてしまったようなものである。

繰り返すが、国家破綻が避けられないとしても、その時期を先に延ばすことは可能である。今のうちに外国の資産を大量に購入し、対外純資産という蓄えを、経済の老齢化の速度が緩やかな間に増やすべきなのである。破綻の時期を先延ばしする間に、予想不可能なイノベーションなどの幸運が訪れて、日本経済の若返りが可能になることを期待するしかない。世界最大の対外純資産国という地位に安住することなく、国内の投資家が対外資産を可能な限り増やすことができるまで、金融緩和の強化を徹底的に進める必要がある。

現在の対外資産の獲得ルート、すなわち資金流出ルートは、直接投資が中心である。これは産業の空洞化を通じて経常収支の黒字を減らす効果もあるので、一番望ましい資金流出ルートとは言えない。足元では、海外の投資家が円のカラ売りをするために円を大量に借り入れるというルートが、日本から海外への最大の資金流出ルートになっていると思われる。これは、近い将来、円の反対売買とともに日本に再流入してくるので、安定的な資金流出ルートにはなりえない。日本にとって一番望ましい資金流出ルートは、証券投資を通じるルートである。

しかし、アベノミクス相場の開始以降、2012年11月-2014年10月の証券投資は、27兆円の赤字、すなわち流入超過であった。2月に発表される2014年
12月末までの数字は、30兆円を上回っているはずである。証券投資に関しては、海外から国内へと大量に資金が流入している。加えて、海外投資家が大量に購入した日本株の価格は大きく上昇している。これは、日本から見れば、証券投資を通じる資産の増加ではなく、負債の急激な増加=対外純資産の急激な減少を意味する。

証券投資を通じて、資金が大量に流入している最大の原因は、日銀による中途半端な金融緩和策である。別の表現をすると、金融緩和の著しい不足である。日銀が年間80兆円の国債を購入するという金融緩和策は、あまりにも規模が小さ過ぎるのである。日銀が国債購入金額を大幅に増やし、国内の投資家が保有国債の大量売却を強いられたならば、その売却代金の何割かは外国証券へと流れていかざるをえない。日銀の国債購入金額が少なすぎるため、外国証券へと流れていく資金の金額も少なすぎるのである。証券投資が、大幅な赤字から大幅な黒字に転換するまで、金融緩和を強化し続けなければならない。そのためには、日銀が国債を全額購入するくらいの気合いを入れて、国債購入金額を無制限に拡大することが、必要不可欠なのである。


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テーマ : 経済
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