海外から日本へ巨額の資金流入を招いた黒田バズーカ砲の威力 

国際収支統計の中にある証券投資という項目の収支は、2013年1年間で、25兆円の赤字であった。現在の統計と継続性のある1996年以来の最大の赤字であり、それ以前を含めても、断トツの過去最大であることは間違いない。これは、証券の売買を通じて25兆円という巨額の資金が、海外から日本国内に流入してきたことを意味する。

この資金流入が始まった原因は、その前年に発生している。2012年11月14日に、当時の野田総理が衆議院解散を明言し、当時の自民党総裁であった安倍氏が主張していた、無制限の金融緩和、大胆な金融緩和が現実のものになることが予想されたことである。2012年11月に将来の金融緩和の期待を発生させ、
2013年に入ると、海外から国内への巨額の資金流入を引き起こした。その金融緩和期待は、2013年4月の異次元緩和により、現実のものとなった。

異次元緩和のような大規模な金融緩和が実施されると、国内にあり余った資金が、新しい運用先を求めて、海外へと大規模に流出するのが普通の国で発生する現象である。しかし、2013年の日本では、それとは正反対の、海外から国内への大規模な資金流入という現象が発生したのである。資金がジャブジャブに余っており、金利が非常に低い国内から、証券売買を通じて25兆円の資金が海外へと流出したのではなく、国内に流入してきたのであった。これは、水が低い所から高い所に流れるような現象である。私はこの現象を、マイナスのポートフォリオ・リバランス効果と呼んできた。本来流れるべき方向と正反対の方向に、25兆円という巨額の資金が移動していたのである。

しかし、2014年に入ると、資金の流れに変化が生じている。12月18日に、日銀が資金循環統計を発表した。その統計では、国内投資家の資金が、海外へと流出していることを示していた。このことは真実であるが、真実の一部に過ぎない。全体としては、証券投資を通じる資金は、依然として流入超過が続いているのである。そしてその流入規模は、10月31日の黒田バズーカ砲の第2弾によって、再び急激に拡大した。今回は、2014年に入ってからの証券投資を中心とする資金の流出入の変化について説明する。

最初に、資金循環統計が示した、国内投資家の資金が海外へと流出している事実を、その投資主体別とあわせて、下記のグラフに示す。


投資主体別対外証券投資

アベノミクス相場の開始以降、海外投資家の資金が国内に大量に流入してきた。しかし、国内投資家の資金もまた、海外から国内へと環流していた。2013年1月-3月期、4-6月期に、グラフがマイナス方向を示しているのは、国内投資家の資金が海外から国内へと環流していたことを示す。しかし、2014年の4-6月期、7-9月期には、国内の資金は確かに海外へと流出している。その主体は、保険、投信、公的年金、中小企業金融機関等である。このうち「公的年金」は、
GPIF、国家公務員共済などの資金である。「中小企業金融機関等」は、普通は信金、信組を指す言葉である。しかし、直近において対外証券投資を増やしている中小企業金融機関等の中の最大の主体は、郵便貯金であることは間違いない。このように、国内投資家の資金は、今年の4月-9月の期間においては、海外へと大きく流出していたのであった。これだけなら、ポートフォリオ・リバランス効果がマイナスからプラスへと転換したことになる。しかし、証券投資の金額を算出するためには、海外投資家の資金の国内への流出入も、同時に見る必要がある。

証券投資を通じる資金の流出入を、国際収支統計、対外対内証券投資という2つの統計を使って、2014年の年初からできるだけ直近に近い時期まで示すことにする。2014年の数字を示すのであるが、月ごとの収支ではなく、年初来合計の累積の収支を示すことにする。証券投資は、月ごとの変動が大きいので、2014年に入ってから資金の流れがどのようになっているかを観察するためには、単月よりも、累積の収支の方がより正確に理解できると考えるからだ。まず、国内投資家の対外証券投資を表すグラフを下記に示す。


対外証券投資

累積の収支は、3月にマイナスのピークを打ち、そこからプラスへと方向転換している。これは、4月以降、証券投資を通じて、国内投資家の資金が、国内から海外へと流出し始めたことを意味している。、先に示した資金循環統計と全く同じ結果である。しかし、12月の12日で終わる週までの2週間の合計は、再びマイナスになっている。しかし、12月12日以前の年間累計はプラスである。プラスのポートフォリオ・リバランス効果が発生していたことは、間違いない。

しかし、これだけでは真実の半分でしかない。海外投資家の対内証券投資を表すグラフを下記に示す。


対内証券投資

債券を中心に、恒常的な資金の流入が続いている。

次に、今年の10月以前において、海外からの資金流入の多くを占める債券を通して、どのような種類の資金が国内に流入しているかを表すグラフを下記に示す。


対内債券投資

見てわかるとおり、一般政府の資金流入が図抜けている。海外投資家の証券投資を通じる資金の国内への流入は、株と債券の2通り存在する。株については、政府以外の民間の資金流入が多い。一方、債券については、民間ではなく、政府系の資金の流入が、以前から多くを占めていた。相対的に金利の低い日本の債券を買う海外投資家は、民間では少なく、政府系の投資家が多かったのである。政府系というと、中央銀行などの外貨準備の割合が高いはずである。その他に、日本でいうGPIFのような、ソブリン・ウェルス・ファンドの資金も混じっているはずである。2013年は、株式投資を中心とする資金が海外から国内へと流入していた。それが、2014年に入ってから、政府系を中心とする資金が、債券投資を中心に国内へと流入している。

2014年は、年初から12月12日までの間に、国内から国外へと流出した金額は12兆円、海外から国内へと流入してきた資金は21兆円、ネットで見ると、9兆円の流入超過、証券投資の赤字継続なのである。ポートフォリオ・リバランス効果はプラスとマイナスの両方が発生していたが、合計すれば、2014年も依然としてマイナスの方が大きい状態が継続しているのである。

10月31日に黒田バズーカ砲の第2弾が放たれる以前の、1月-10月の証券投資を通じる赤字金額は、2兆円にとどまっていた。それが、黒田バズーカ砲の第2弾が放たれると、再び海外から国内への大量の資金流入を引き起こしたのである。黒田バズーカ砲の第2弾の後の11月-12月12日の1ヶ月半の証券投資は、対外対内証券投資ベースで、7兆円という巨額の赤字へと急拡大したのであった。

証券投資は、金融収支の一部門である。2014年の金融収支の数字は10月までしか発表されていない。10月までの金融収支の内訳を見ることにする。


金融収支

証券投資は、「対外証券投資マイナス対内証券投資」の数字となる。繰り返すが、累積の証券投資は、10月時点では、2兆円の赤字、少額の資金流入であった。

2014年10月以前に、海外から国内へと流入し、赤字となっていた資金のルートは、「その他投資」を通じるものであった。この実体は、日本の株、債券を保有する海外の機関投資家が、ヘッジ売りをしていた先物の円を買い戻し、その円資金を日本の銀行等に返却した分が主体であったと思われる。10月31日に黒田バズーカ砲の第2弾が放たれたため、海外の機関投資家は、円のヘッジ売りの買い戻しから、大規模な新規の円売りヘッジ、ないしは投機的な円売りへと180度の方向転換をしたはずである。この時から、「その他投資」を中心とするいくつかの部門を通じる円資金の海外から国内への流入は、国内から海外への流出へと逆転したはずである。「その他投資」の赤字は、黒字へと転換し、その黒字の金額は大幅に拡大したと思われる。11月以降は、証券投資の赤字の急拡大と、おそらく、「その他投資」を中心とするいくつかの部門の黒字の急拡大がセットで起こっていたはずである。そうした中で、金融収支は、ヘッジや投機に絡む資金流出の結果、少しばかり黒字の金額が拡大方向に動いた可能性が高い。そのため、円は円高ではなく、円安方向へと動いた。この証券投資の赤字拡大=資金流入の拡大=円買い外貨売りの拡大の結果、円高ではなく、円安が進行するメカニズムは
(*1)で詳しく説明したので、参照願いたい。

次に、金融収支とその他の収支との関連を見るため、国際収支の4大項目のグラフを下記に示す。


経常収支、金融収支

国際収支表では、経常収支+資本移転等収支-金融収支+誤差脱漏=0という恒等式が成り立つ。(*2)で説明したように、資本移転等収支の金額は小さく、誤差脱漏も長期で見れば小さな数字になる。そのため、長期で見た場合、経常収支=金融収支がほぼ成り立つ。短期の場合は、誤差脱漏が大きくてわかりづらいのであるが、統計が完全に正確で誤差脱漏がゼロと仮定した場合には、金融収支=経常収支が同様にほぼ成り立つ。先に述べたとおり、金融収支の黒字は、中身の構成を大きく変えながら、11月以降もやや拡大方向に向かっている可能性が高い。その結果、同時に経常収支の黒字も、少しばかり拡大方向へと向かっている可能性が高いのである。

次に、経常収支の中身を表すグラフを下記に示す。


経常収支の内訳

第一次所得収支の増加が目立つ。貿易収支は赤字継続であるが、赤字幅は縮小方向にある。その結果、経常収支も少しずつ黒字幅が拡大しつつある。

11月以降におそらく発生していると予想される、「その他投資」を始めとするいくつかの部門の黒字拡大は、先物の円のカラ売り用の資金を調達するための資金流出の拡大である。先物の円のカラ売りの主体は、年金、投信などの機関投資家のヘッジ売りかもしれないし、ヘッジファンドによる投機的な売りかもしれない。いずれにしろ、将来、買い戻しが発生し、長期間の黒字継続は持続不可能である。2013年の円のヘッジ売りの買い戻しは、直接投資の黒字拡大のための円売りによって吸収されたことは、(*1)で説明した。今回も、再び先物の円のヘッジ売りの買い戻しが入った時、それに対して円を売り向かう投資家がいなければ、円は再び急上昇してしまう。2013年と同様に、直接投資の黒字拡大のための円売りに吸収されるならば、日本の産業の空洞化はいっそう進行し、悪い円安が続くことになる。円高の再燃と、悪い円安の進行の発生を防ぎ、良い円安を実現するためには、直接投資以外に、将来の円売り外貨買いの需要を何としてでも作り出す必要がある。

そのためには、国内投資家の対外証券投資が、海外投資家の対内証券投資を上回る必要がある。証券投資の収支が黒字化すれば、恒常的な円売り外貨買いの需要が発生する。この円売り外貨買いで、海外投資家の円の売りヘッジ解消のための円買い外貨売りを吸収させなければならない。国内投資家の対外証券投資が、海外投資家の対内証券投資を常に上回るようにさせなければならない。

2012年11月-2014年10月に発生した円安は、悪い円安であった。この期間に発生した円安により、日本は、広義の円安メリットである、資産価格の大幅な増加という巨額のメリットを獲得することには成功した(*3)。しかし、貿易・サービス収支の改善を通じて、日本が、所得拡大ないしはGDPの拡大という狭義の円安メリットを獲得することには、現時点では失敗している(*4)。この狭義の円安メリットの獲得の失敗、すなわち、所得拡大をもたらさなかったということと、それと並行して産業の空洞化がいっそう進行したという意味において、2014年10月以前の円安は、悪い円安の進行であった。円安は、所得を消費者、中小企業から大企業へと移転させただけである。円安は、貿易・サービス収支を少しばかり悪化させているので、日本全体が獲得する所得ないしはGDPを、少しばかり減少させてしまったのである。

今度こそは、所得拡大という狭義の円安メリットも同時に獲得するようにさせなければならない。そのためには、国内投資家の対外証券投資を大幅に増やすしか方法はない。その時には、証券投資の黒字が拡大し、同時に金融収支と経常収支の黒字の拡大も進行する。そして、貿易・サービス収支の改善も同時に進行する。この場合、日本が獲得する狭義の円安メリット=所得拡大を獲得することが可能になる。これは、従来の産業の空洞化しかもたらさなかった悪い円安から、
GDPの拡大をも伴う良い円安へと転換することを意味する。

円安が日本にとってメリットかデメリットかという論争よりも、証券投資、金融収支の黒字拡大を実現させることの方が、より重要なのである。その場合、日本の経常収支の黒字は拡大し、貿易・サービス収支も必ず改善する。その結果、日本の所得、あるいはGDPは拡大する。ただ、GDPが拡大している間、為替レートが現在より円高方向に動くことは考えづらい。ほぼ間違いなく、いっそうの円安が進行しているはずである。しかし、目的は円安誘導ではない。金融収支の黒字拡大=経常収支の黒字拡大であり、その後のGDPの拡大である。金融収支の黒字を安定的に拡大させるためには、証券投資の大幅な赤字を黒字に転換させ、その黒字を拡大させていくことが必要である。これは、ポートフォリオ・リバランス効果をネットでプラスにし、そのプラスを拡大させることを意味する。

これを実現するためには、現在の年間80兆円という日銀の国債購入金額は少なすぎるのである。2012年11月以降、水は低いところから高い所へと流れ続けている。これは、日本経済があまりにも異常な状況に陥っていることを意味する。こうした異常な状況に陥ったことは、歴史上存在しない。従って、現在、必要な政策を考える際、歴史を参考にすることはできないし、参考にしてはいけないのである。年間80兆円の日銀による国債購入は、歴史を振り返れば、異常すぎる巨額の金融緩和である。しかし、もっと異常なことは、バズーカ砲の第1弾だけではなく、バズーカ砲の第2弾が放たれても、その直後の11月-12月12日という1ヶ月半の短期間に、証券投資を通じて7兆円という巨額の資金が海外から国内へと流入してきたという事実の方なのである。10月31日のバズーカ砲の第2弾は、証券投資を通じる海外から国内への資金流入を急激に拡大させるという、巨大なマイナスのポートフォリオ・リバランス効果しか発揮できなかったのである。

効果がマイナスでは意味がない。プラスにさせる必要がある。そのためには、日銀が、年間80兆円という国債購入金額を大幅に増やす必要がある。日銀による国債購入金額を年間160兆円、240兆円、場合によってはそれ以上の金額に増やしていくしかない。国債購入金額を無制限に拡大していけば、今年の4-6月から発生している国内投資家の資金の対外流出金額は拡大し、いずれかの時点で、日本の証券投資は赤字から黒字に転換し、その結果として金融収支の黒字も拡大する。これは同時に、経常収支の黒字拡大と貿易・サービス収支の改善をも意味する。貿易・サービス収支が改善したならば、日本の所得、GDPも増加に転じる。

日銀が国債購入金額を無制限に拡大し続ければ、その先は、GDPの増加、景気回復だけではなく、インフレとバブルの発生へと進行していくはずである。その時こそ大規模な増税を通じてインフレとバブルを抑制し、財政再建を一気に進めるのである。消費税増税が、少なくとも短期的には景気を悪化させ、消費税増税分以外のインフレ率を低下させることは、2度にわたって証明された。消費税増税だけを実施したならば、経済はデフレ不況に戻り、増税が税収の縮小をもたらすことになる。この先の道は、金利の急上昇、財政破綻、国家破綻へと突き進むしかない。財政再建を目的にする増税の実施が、正反対に財政破綻を導くのである。財政破綻を避けるためには、増税だけを実施しては絶対にいけないのである。増税は、大規模な金融緩和の後、景気が十分に回復した後にしか、実施してはならないのである。

日銀が国債購入金額を年間80兆円から大幅に拡大させ、その結果生じる景気回復、インフレ、バブルの発生に対して、消費税増税だけではなく、その他の様々な増税策を組み合わせて実施し、インフレとバブルを抑制させながら、同時に財政再建を一気に進めるしか方法はない。その具体例が、1949年のドッジ・ラインなのである。現在必要な政策は、インフレ、バブルの抑制と財政再建の同時達成を目指すドッジ・ラインのバージョン2なのである。金融緩和の最大の目的は、金融収支、経常収支の黒字拡大を通してGDPを拡大させるだけではなく、それを通じて財政再建を一気に実現させることなのである。金融緩和なしの消費税増税は、財政を破綻へと導く道である。日本が財政破綻を避けるためには、その前提条件として、日銀が国債購入金額を無制限に拡大させることが、必要不可欠なのである。


リンク先記事
海外投資家の日本株買いが円安を引き起こす理由(*1)
国際収支の仕組みと貿易収支を黒字に戻す方法(*2)
資産価格の大幅増加という円安メリット論(*3)
交易条件悪化論と中小企業損失論をこえた円安メリット論(*4)

テーマ : 経済
ジャンル : 政治・経済

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