日銀ウォッチャー報告(2014年10月号)

マネタリーベース平残の推移201410(グラフ)

2014年9月の季節調整済のマネタリーベース平残は、前月比で1.6兆円増加し、244.7兆円になった。

マネタリーベース平残の推移201410(表)

上記のグラフに示したとおり、季節調整済のマネタリーベース平残は、2012年12月の白川体制の末期から増加基調が明確になった。その後は、ほぼ高水準の伸び率が続いている。9月の季節調整済のマネタリーベース平残の増加率は、前月比1%を下回り、やや低めの伸び率となった。

9月の市中資金は、4.6兆円の不足であった。そこに、国債の購入6.1兆円、短期国債の購入5.3兆円、貸出支援基金による貸し出し3兆円、共通担保オペの0.2兆円の回収などを中心とした金融調節により、合計14.1兆円の資金が供給された。金融調節後の市中資金は、9.5兆円の資金余剰となった。この資金余剰を反映して、当座預金残高は、8月末の152.1兆円から、9月末の161.5兆円へ、9.5兆円の増加となった。この当座預金残高の増加を反映して、9月の季節調整済のマネタリーベース平残は、前月比1.6兆円増加の244.7兆円になった。当座預金残高と季節調整済のマネタリーベース平残の増加に差がある理由は、9月のマネタリーベースは増加しやすいという季節要因があるためである。

2月18日の金融政策決定会合で決定された、新方式による貸出支援基金による貸し出しの第2回目が9月に実施されたので、その説明をすることにする。貸出支援基金による貸出金額を表すグラフを下記に示す。


貸出支援基金201410

9月分は、成長基盤強化支援資金供給の貸し出し増加額は、4077億円(ドル特則8.74億ドルを除く)であった。貸出増加支援資金供給の貸し出し増加額は、2兆5565億円となった。9月末のドル特則をも含む貸出支援基金全体の残高は、8月末比で3兆1124億円増加の20兆9763億円となった。これは、2014年末の18兆円という目標を上回る金額である。年内にあと1回、12月に貸出支援基金による貸し出し実施が予定されている。現在すでに目標を約3兆円上回っているが、12月末には、5-7兆円程度まで上回ることになりそうである。

日銀BSとMB(実績と予想)201410

通常は月末の数字を掲載しているが、今月は発表日が遅いので、9月20日時点の数字を上記の表に示した。上表から、今年9月20日までの過去1年弱の期間に、国債の残高は55兆円増加し、今年9月末までの過去1年の期間に、マネタリーベース残高は67兆円の増加となった。年間増加目標は、国債が50兆円、マネタリーベースは60兆円~70兆円である。国債の増加額は依然として少し多めであり、マネタリーベースの増加額は予定通りの金額となっている。

今年の年末時点におけるマネタリーベースの予定残高は、270兆円である。残り3ヶ月間で増やすので、マネタリーベース末残は、月間5.8兆円の純増が必要である。

10月の市中資金は、12.1兆円の不足となる。10月の資金供給は、国債の購入が、9月並の6兆円と想定する。短期国債の購入は、8月よりやや多めの8兆円と想定する。後に記すが、短期国債の金利がマイナスになっても日銀は問題なしとしているので、従来通りの短期国債の購入を実施することを想定した。共通担保オペの回収額は、9月より少し増えて0.5兆円と想定する。貸出支援基金による貸し出しは、10月には予定されていない。この結果、10月の資金供給は、合計で13.5兆円となる。10月末のマネタリーベース末残は、「13.5兆円マイナス12.1兆円」に等しい前月比1.4兆円の増加と予想する。季節調整済のマネタリーベース平残の増加額は、前月比で1.4兆円を上回る金額になると予想する。

最近、短期国債にマイナス金利が発生している。日銀は問題なしとしているが、私は問題ありと考えている。日銀が獲得するはずの通貨発行益が減少するからである。すでに国債は前年比55兆円(厳密には1年弱)と目標より多めの金額を購入している。年間50兆円の目標を60兆円に引き上げるべきである。その他、先に書いたとおり、貸出支援基金による貸出金額が5-7兆円程度の超過達成が確実である。準備預金の超過分に対する付利+0.1%だけで通貨発行益が減るのであるから、二重に通貨発行益を減らすことは好ましくない。短期国債購入予定額を大幅に減額し、マイナス金利の短期国債を購入することは避けるべきである。プラス金利の国債の買い増しと、プラス金利の貸出支援基金による貸し出しの方が望ましい。マイナス金利の短期国債を無理して買わなくても、マネタリーベースの年末目標額270兆円を達成することは、十分可能であるのだ。

今月号でも、過去1ヶ月間に発表された重要と思われる統計をいくつか取り上げ、その意味を説明することにする。現実の日本の景気は、消費税増税以前に日銀が予定したシナリオより悪いシナリオで動き続けている。黒田総裁のデフレ脱却予想は、8月以前は当たっていた。しかし、消費税増税による景気の悪化を楽観的に見ていたが、実際に想定以上の景気悪化が発生してしまった。今後、いずれの時点かには、景気は消費税増税前の水準に回復することは間違いない。しかし、その時期を正確に予想することは不可能であり、予想してもまぐれ当たりしか起こりえない。現時点では、黒田総裁による強気の景気の現状分析や、景気は多少遅れても回復に向かうという予想に対する信頼は、かなり失墜している状況である。

まずは、いつものように、コア消費者物価の推移のグラフを下記に示す。


コアCPI201410

上記のグラフで見た場合、直近の消費者物価上昇率は鈍化している。しかし、コアコアで見た場合、8月全国の上昇率は、7月と同じ+2.3%であり、心配する必要はない。しかし、9月東京の方には問題が発生している。コアコアが+2.1%から+2%へと少し低下しているからである。具体的には、衣類を中心とした半耐久消費財と、耐久消費財の上昇率低下が目立つ。今後、円安進行が止まった場合、エネルギー価格の上昇率はさらに低下する。この場合、東京コアの上昇率+2.6%はさらに低下する。消費税増税分を除いた場合、9月時点で+0.6%の上昇率にすぎないが、ここからまた下がりそうなのである。全国のコアも、+3.1%より下、すなわち、消費税増税分を除く消費者物価上昇率が、8月の+1.1%から、いずれ1%を下回る可能性が徐々に高まりつつある。

物価の動向を予想する場合、景気動向を見きわめる必要がある。日銀が想定するように、景気回復が早期に達成できた場合、人手不足がより深刻化し、賃金の上昇率がアップする。これは消費者物価の上昇につながる。消費税増税分を除く消費者物価上昇率が8月以降も1%を割らずに、遠くない時期に目標の2%を達成することが可能になる。

そこで景気動向なのであるが、まず、個人消費の動向に注目する。今までは、家計調査を基に分析を進めてきた。家計調査は非常に細かなデータが存在し、分析するには非常に有益な統計である。一方、家計調査は約9000世帯からの標本調査であり、その数字には無視ができないほど大きな誤差がいくつも含まれている。家計調査を利用する際には、そうした欠陥を頭に入れながら分析をする必要がある。

家計調査からみた消費税増税後の消費動向は、はっきり言って悪すぎる。そのため、販売サイドから見た統計を使って、実際の消費は、家計調査が示す数字よりかなり良いという見方も存在する。今回は、販売サイド、供給サイドの数字を使って消費動向を見ることにする。

まず、経済産業省の商業販売統計から、小売業の名目売上高、実質売上高を表すグラフを下記に示す。


小売業 名目実質 

見てわかるとおり、名目の売上高は前年を上回っており、かなり好調である。一方、実質の売上高は、かなり水準が低い。

まず、この売上高の大半は、財の売上高である。直近の8月には、名目値が+0.9%、実質値が-3.8%(季調済であり、原数値の前年比増加率とは異なる)になる。この名目と実質の差は、財だけの消費者物価上昇率が+4.9%であることが原因である。名目小売業の売上高も、消費者物価上昇率も、ともに消費税増税分を含んでいる。一方、消費者物価上昇率には上方へのバイアスが存在する。こうした欠陥があることは、昔から知られていた。ただ、東大日次物価指数の登場により、その欠陥が可視化されるようになった。しかし、東大日次物価指数は家計調査の品目の17%を占めるにすぎない。代替となるものが存在しないので、上方バイアスはあるが、一番正確なものに近い、総務省の消費者物価指数の中で使われている数字を使うことにする。

財の物価上昇率+4.9%のうち、消費税増税分は最大で+2.9%である。財の場合、消費税増税分を除いても、+2.0%強の物価上昇が発生している。8月の店舗調節後で見た売上高は、百貨店が-0.3%、スーパーが-0.1%と、ほぼ前年並みに近づいている。この数字は、消費税抜きベースであるが、前年比とあまり変わらなくなった。しかし、消費税増税以外の物価上昇を考えると、消費はまだ前年を約2%強下回る水準で動いている。ただ、先に示した消費者物価の上方バイアスを考えると、実際には+2%強ではなく、+2%弱になる可能性が高い。それでも、前年並み、ないしは、微減にまで戻っていることが確認できるのは、台数ベースでの統計が存在する自動車販売台数くらいであろう。

8月の家計調査で見た場合、財よりも、サービスの方が下落率が大きい。サービス支出を供給サイドから捉えることのできる統計として、第三次産業活動指数が存在する。このグラフを下記に示す。


第三次産業

上記のグラフは、消費を広義の対事業所向けサービスと、広義の対個人別サービスに分けている。そして対個人向けサービスを、「非選択的」と「し好的」の2種類に分けて示したものである。この数字は、サービスの数量ベースなので、名目値ではなく、実質値である。

広義の対事業所向けサービスの多くは、中間投入であり、GDPに直結しているわけではない。しかし、リーマンショック、消費税増税の両方の影響を大きく受け、直近でも水準は低い。一方、大半がGDPに直結する対個人向けは、非選択的サービス、例えば医療費などが含まれているのであるが、リーマンショックからも消費税増税からも小さな影響しか受けていない。高齢化が進む中、医療費などは増加し続けているので、着実に増加しつつある。対個人向けのし好的サービスは、例えば野球観戦サービスなどが含まれているのであるが、リーマンショック、東日本大震災、消費税増税のいずれからも大きな影響を受けている。消費税増税前は、駆け込み的なサービス支出増加があったが、その後は反動減となり、そこからごくわずかしか回復していない。例えば、ボウリング場というサービス業は、3月に大きく売り上げを伸ばし、4月に反動減が発生した。しかし、その後も減少傾向にある。駆け込みとその反動減はあったが、そこからの回復が発生していない。これは、最近の減少が、消費税増税による反動減ではなく、消費税増税による実質所得削減効果が続いていることが原因であるからだ。耐久消費財とは異なり、サービス支出は、消費税増税の影響を受けにくいと考えられてきた。確かに個人向け非選択的サービス支出は、影響を受けてはいない。しかし、個人向けし好的サービス支出は、大変大きな影響を受けている。この悪影響は、いつかはゼロになるはずであるが、ゼロになるのにまだかなりの時間がかかりそうである。

なお、この第三次産業活動の統計は、現時点で、7月分までしか公表されていない。足元の動向はわからないのであるが、7月であっても、反動減の解消は完全に終わっているはずである。それでも元に戻っていないということは、実質所得削減効果と考えるのが一番適切と考える。

上記の第三次産業は、農林水産業を除いたGDPの63%をカバーする大変大きな分野である。その次に大きな分野は、鉱工業生産であり、農林水産業を除いたGDPの18%を占める。そのグラフを下記に示す。


鉱工業生産201410

8月の鉱工業生産の不振、在庫率の急上昇は、予想を大きく上回る悪い結果であった。この鉱工業生産というのは、規模は第三次産業よりもずっと小さいのであるが、景気により敏感に反応するので、景気動向を理解するためには欠かせない統計である。9月以降は回復との予測になっているが、前月号で説明したとおり、予測は大きく下方修正されるのが最近の傾向である。8月にマイナスになった後、9月は多少のプラスに戻すであろうが、10月に再び低下する可能性が高い。

この鉱工業生産が衝撃を与えたもう一つの点は、1-3月期に駆け込み需要で大きく上昇した鉱工業生産が、4-6月期に反動減として減少したが、7-9月期にはその戻りとしてプラスに転じると期待されていた。それが7-9月期もまたマイナスになることがほぼ確実になったことである。この衝撃は大きかったと思う。鉱工業生産の減少は、単に消費の不振を表しているだけではなく、輸出や設備投資の不振をも表している可能性が高い。そのため、エコノミストによる7-9月期の実質GDP成長率予想の下方修正が始まりつつある。

このように、現時点で発表されている統計を見る限り、足元の経済は、順調な戻りを示すものは数が少なく、戻りが鈍い統計の方が圧倒的に多い。一方、ここからさらに下に行くことを示唆する統計は、ほとんど存在しない。すなわち、現時点における景気は、方向としては緩やかな回復方向を示しているのである。ただ、当初、日銀が想定していた速度より、かなり鈍い速度である。消費税増税前の水準にいずれは戻るのであるが、その時期が現時点では見えないのである。

足元では大きな変化が起こりつつある。それは円安である。そして株価も、一時はリーマンショック後の最高値を更新した。最近は、円安デメリット論が急速に広がっている。私は、(*1)(*2)で円安デメリット論に反論した。現時点では、狭義の円安メリットはまだ発生していない。対外資本流出が始まり、金融収支の黒字拡大が発生し、定義としてほぼ等しい経常収支の黒字拡大が発生し、同時に貿易・サービス収支が改善するまでは、狭義の円安メリットを享受することができないことを指摘した。これは、現在が、円安の行き過ぎではなく、円安が不十分であるため、日本全体がまだ狭義の円安メリットを享受できていないことを意味する。残念ながら、こうした考え方は、少数派である。

円安は、同時に金融収支の黒字拡大を伴っている場合には、貿易・サービス収支の改善につながり、日本経済にプラスの影響を与える。最近の対外対内証券売買の数字を見ると、金融収支の黒字拡大が発生している可能性が高くなってきた。株高は資産効果を通じて、消費やGDPにプラスの影響を与える。ただし、株価の上値を買うのは海外投資家だけという状況は、変わっていない。株式市場のヒステリシス(*3)には変化はなく、これを克服するのは容易なことではない。加えて、金融収支の黒字拡大が発生し、定義としてほぼ等しい経常収支の黒字拡大が発生し、同時に貿易・サービス収支の赤字縮小だけではなく、黒字転換までを実現するためには、現在の金融政策では十分ではない。それを実現可能にするためには、金融緩和のさらなる強化が必要である。現在、円安デメリット論が広がり、国債市場の機能不全が語られ、日銀による国債購入金額を増やすのが政治的により困難になりつつある。政治的な困難が増えたとしても、望ましい政策が、望ましくない政策に変わることはない。追加の大規模金融緩和を実施することが、必要不可欠であることに変わりのないことを強調したい。


リンク先記事
これ以上の円安は本当にメリットか(*1)
交易条件悪化論と中小企業損失論をこえた円安メリット論(*2)
株式市場のヒステリシス(*3)


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