日銀ウォッチャー報告(2014年9月号)

マネタリーベース平残の推移201409(グラフ)

2014年8月の季節調整済のマネタリーベース平残は、前月比で6.8兆円増加し、243.1兆円になった。

マネタリーベース平残の推移201409(表)

上記のグラフに示したとおり、季節調整済のマネタリーベース平残は、2012年12月の白川体制の末期から増加基調が明確になった。その後は、ほぼ、高水準の伸び率が続いている。昨年12月に、1ヶ月間だけ前月比増加率がマイナスになったことがある。それを除けば、比較的高い伸び率が続いている。

8月の市中資金は、16.7兆円の不足であった。そこに、国債の購入6.5兆円、短期国債の購入10.5兆円、共通担保オペ0.5兆円の回収などを中心とした金融調節により、合計16.7兆円の資金が供給された。金融調節後の市中資金は、39億円という非常に少額の資金不足になった。この資金不足を反映して、当座預金残高は、7月末の152.1兆円から、8月末の152.1兆円へとほとんど変わらずであった。この当座預金残高の変動を反映して、8月の季節調整済のマネタリーベース平残は、前月比6.8兆円増加の243.1兆円になった。

当座預金残高がほとんど変わらずで、季節調整済のマネタリーベース平残が増加した理由は、8月のマネタリーベースは大きく減少しやすいという季節要因があるためである。7月も当座預金残高が0.2兆円減少する一方、季節調整済のマネタリーベース平残は9.5兆円増加した。2ヶ月連続で同じような現象が起こったのである。

日銀BSとMB(実績と予想)201409

上記の表に示したように、今年8月末までの過去12ヶ月間に、国債の残高は55.3兆円、マネタリーベース残高は66.5兆円の増加となっている。増加額としては、減少傾向が続いている。しかし、年間増加目標は、国債が50兆円、マネタリーベースは60兆円~70兆円である。国債の増加額は依然として少し多めであり、マネタリーベースの増加額は中央値近くになった。

今年の年末時点におけるマネタリーベースの予定残高は、270兆円である。残り4ヶ月間で増やすので、マネタリーベース末残は、月間5.5兆円の純増が必要である。

9月の市中資金は、3.4兆円の小幅の不足となる。以前は、9月と言えば資金余剰の月であった。しかし、昨年から資金不足の月へと変わっている。これは、日銀が保有する市場から購入した国債、短期国債の中で、9月に償還を迎えるものが12.5兆円存在する。市場から購入した国債の償還金は、本来、市場に支払われるべき資金であった。ところが、日銀の買いオペにより、償還資金が日銀に移ることになる。その結果、市中資金の不足額が12.5兆円だけ増えることになる。そのため、日銀の国債、短期国債の購入額が増えるにつれて、市中資金が不足になる月が増え、余剰になる月が減る。実際、昨年7月以降、資金余剰の月は一度も存在していない。

9月の資金供給は、国債の購入が、8月並の6.5兆円と想定する。短期国債の購入は、8月よりやや少なめの8兆円と想定する。共通担保オペの回収額は、8月より少し増えて1兆円と想定する。貸出支援基金による貸し出しは、6月並の5兆円と想定する。この結果、9月の資金供給は、合計で18.5兆円となる。9月末のマネタリーベース末残は、「18.5兆円マイナス3.4兆円」に等しい前月比15.1兆円の増加と予想する。季節調整済のマネタリーベース平残の増加額は、前月比で15.1兆円より少ない金額になると予想する。

今月号でも、過去1ヶ月間に発表された重要と思われる統計をいくつか取り上げ、その意味を説明することにする。はっきり言って、日銀が以前から繰り返し主張してきた、消費税増税後の反動減からの回復というシナリオは、はずれが決定したと言ってよい。当たっていたならば、7月は順調な回復を示し、増税前の水準まで回復していなければならない。ところが、7月の統計は、増税前のかなり下を動いており、方向性もどちらかと言えば下である。しかし、当初のシナリオからは、はずれているが、景気回復が、8月以降にずれこんでいるだけであるという可能性は、依然として存在する。

まずは、いつものように、コア消費者物価の推移のグラフを下記に示す。


コアCPI201409

消費者物価については、日銀の予想シナリオに沿った動きを示している。消費税増税分を除く物価上昇の要因は、円安と賃金上昇の割合が高い。このうち円安要因がはく落し、賃金上昇を主因とするインフレへと変化しながら、来年度に消費税増税分を除く物価上昇率が2%に達するという予想を、日銀は立てている。この日銀のシナリオは、現在でも崩れていない。ただ、このシナリオが実現する条件は、今後も順調な景気回復が継続し、労働市場の逼迫から賃金上昇率が高まることが前提である。しかし、景気回復の方は、日銀のシナリオ通りには動いていない。

次に、消費水準指数(除く住居等)と消費総合指数の動きを表すグラフを下記に示す。


消費水準・総合201409

今までは、全てを含む消費水準指数を使っていたが、変動が激しいなどの理由で、GDP統計には使われない数字を差し引いた、除く住居等の消費水準指数の数字を示した。

7月の消費水準指数は5月の底と同水準であり、悲惨なほど悪かった。これに供給サイドの数字をも考慮した消費総合指数は、7月分は未発表であるが、4月の底の水準を上回る可能性は高いが、6月から再びマイナスになる可能性が高い。つまり、7月の消費は、6月よりも悪化している可能性が高い。

次に、家計調査の数字を使って、消費を財・サービスに分けて表すグラフを下記に示す。


消費 財とサービス201409

7月の耐久消費財は、大きく回復している。しかし、これは、ノイズを含んでいる。例えば、自動車等購入の実質金額は、家計調査では、前年比+21%となっている。しかし、販売サイドの数字は、前年比マイナスである。そのため、耐久消費財は、上記のグラフほど回復していない可能性が高い。2つ前に示した消費水準指数で住居等を除く数字を使ったが、除かれているのは、住居費だけではなく、自動車等購入費も除いている。

上記のグラフから、半耐久財(衣服等)、非耐久財(食料等)、サービスも、7月は減少していることがわかる。これらは、3月以前の駆け込み需要が少なかった、もしくはなかったものである。駆け込み需要からの反動減にはなりえない。食料、サービス等の消費が7月に減少した原因は、消費税増税がもたらす所得効果、言いかえると、実質所得削減効果である。消費税増税のため、手取りの実質所得が減少し、この分消費を削減しているのである。その実質消費削減効果が横に広まって増幅され、7月になっても前月比マイナスという現象が起こっているのである。日銀は、3月以前は、この実質所得削減効果を完全に無視していた。反対に、増税により財政再建が進むという安心感から消費が増えるという、非ケインズ効果に期待していた。日本では、公共投資によるGDP引き上げの効果が大きい。つまり、ケインズ効果が大きく働く国である。従って、増税を実施したならば、非ケインズ効果ではなく、ケインズ効果が大きく働き、消費の減少を招くのである。

次に鉱工業生産の大部分を占める、製造工業の動きを示すグラフを下記に示す。


製造工業生産予測201409

鉱工業も製造工業も6月が底であり、7月は少しだけ回復した。そして、8月、9月も生産回復を予測している。しかし、グラフを見てわかるとおり、実績は予測を下回るのが普通である。そして、下方修正幅は、生産の拡大局面では少ない。しかし、生産の低下、あるいは停滞局面では、下方修正幅は大きくなる。生産予測指数は、8月+1.3%、9月+3.5%となっている。一方、7月の実績は、前月予測比で-2%、前々月予測比で-3.3%であった。8月の生産予測+1.3%は下方修正され、8月の実績はマイナスになる可能性が高い。9月は7月から見ると、+1.3%+3.5%=+4.8%というかなり高い増加が予測されている。そのため、8月比ではプラスになる可能性が高い。しかし、上記のグラフで示した43ヶ月の期間に、4.8%以上下方修正された月は、7回存在する。従って、プラスになる可能性が高いということはできるが、確実にプラスとは言い切れないのである。そして、8月、9月の下方修正が小幅にならない限り、7-9月の生産水準は、4-6月の生産水準を下回ってしまうのである。

もう一つ悪い材料を示す。それは失業率である。


失業率01409

失業率は、2009年7月の5.5%をピークにして、2014年5月の3.5%にまで低下していた。それが7月に、3.8%にまで再び上昇している。

前回、詳しく述べたとおり、日本の場合、失業率が3.5%を少し下回ったあたりから、名目賃金の上昇率は明確に加速していく。5月に3.5%にまで下がり、その後さらに下がっていけば、少なくとも名目賃金は上昇幅を拡大していたであろう。しかし、失業率3.8%の場合、名目賃金の上昇率が加速する可能性は低い。このため、6月の実質賃金上昇率-3.2%がプラスに転換するのは、かなり先のことになりそうである。1997年には、ここから名目、実質賃金がともに低下し、デフレ不況に突入した。今回、同じことが起こるとは限らないが、雇用、賃金面から正のスパイラル圧力がかかるのではなく、負のスパイラル圧力がかかる可能性は存在する。従来の日銀シナリオでは、完全雇用の達成、あるいは需給ギャップの解消が、賃金上昇圧力を生み出し、2%の物価上昇と景気回復が同時に実現するというシナリオであった。そのシナリオが崩れる可能性が高まった。

なお、この文章を書いている途中に、7月の毎月勤労統計が発表された。現金給与総額が前年比+2.6%、所定内給与が+0.7%、実質賃金が-1.4%であり、予想平均を大幅に上回る強い数字であった。ただ、他の統計と矛盾点が多く、上ブレを含む数値である可能性が高い。しかし、上ブレの大きさは、現時点ではわからない。来月以降の統計の発表を見て、改めて解説したいと思う。ただ、この統計の発表により、日銀シナリオが、遅れて実現する可能性が少し高まったのは事実である。

今まで取り上げたのは、重要ではあるが、景気回復が思わしくないことを表す統計である。しかし、ある種の統計では、消費税増税後の景気後退から順調な回復を示すものもある。それは、ソフトデータと呼ばれるものである。アンケート調査を行い、景気が良いか悪いかを答えてもらうという種類の統計である。それに対して、家計調査や鉱工業生産のような、実際の実績を示す統計は、ハードデータと呼ばれる。

日本で一番権威のあるソフトデータは、日銀短観である。1973年からデータが存在し、過去の景気動向を正確に反映している重要なソフトデータである。問題は、3ヶ月に1回しか調査が行われないので、消費税増税後では、1つしかデータが存在しない。これでは、現時点で判断を下すことは不可能である。

最近は、日本でも、政府、民間が毎月調査を行うソフトデータが増えてきた。その中で最もよく引用される景気ウォッチャー調査のグラフを下記に示す。


景気ウォッチャー調査

見てわかるように、ハードデータとは異なり、回復の角度が鋭角的である。先行き判断は、直近は反落しているが、水準は十分に高い。ハードデータの中には、このように順調に回復しているものは少ない。一方、ソフトデータの方は、景気ウォッチャー調査と同等か、それより少し弱いものが多い。

景気の急速な回復を示すハードデータは見つけにくいが、ソフトデータは、急速な回復を示しているものが多い。これは、実際の景気以上に、人々の気分、景況感は、景気後退は一時的であり、現在、あるいは近い将来に、景気は完全に回復すると考えている人が多いことを示す。景気ウォッチャー調査は14年強の歴史しかないが、この間の景気動向を比較的正確に反映してきた。ソフトデータを信じるならば、景気は、現在、あるいは、近い将来に、回復することになる。その意味で、7月までの景気回復は、日銀の想定を間違いなく大きく下回ったが、8月以降に、想定より少し遅れて力強い回復過程に戻る可能性は残されているのである。

以上、見てきたように、7月までの景気は、当初の日銀の想定を大きく下回るものとなっている。しかし、ソフトデータの好調さから、景気が少し遅れて回復する可能性は存在する。日銀がとるべき態度は、消費税増税による景気後退を、リスク要因として見なすことである。従来は、消費税増税による景気の落ち込みは、一時的であり、その後は順調に回復するものと決めつけ、リスク要因にさえ入れていなかった。ここまで来たら、消費税増税による景気の落ち込みが長引くというリスク要因があることを、明確に示すべきである。そして、そのリスクを減らすために、異次元緩和以上に回復効果が誰にも見えやすい追加金融緩和を実施し、景気が回復しない可能性を可能な限り低くすべきである。国債の購入金額を、年間50兆円から100兆円以上に引き上げる必要がある。国債でメシを食う既得権益集団は大反対するであろうが、そうした反対を押し切って実現させなければならない。

景気がこのまま回復しなければ、来年10月の消費税増税の実施は困難になる。すでに、増税延期の声は上がっている。景気回復が思わしくない場合には、増税延期の声はますます強まることは間違いない。その場合、安倍総理は、年内に来年10月消費税増税の決断を下すことができなくなる可能性が高い。異次元緩和の第2弾を実施した場合、その本物の効果が発生するまで時間がかかる。しかし、円安株高の進行により、ソフトデータはさらに大幅に上昇し、すなわち景況感は非常に良くなり、その結果、増税延期の声は減少し、安倍総理は来年10月の消費税増税の決断を下すことができるであろう。そして、来年10月までには、国内投資家の資金の海外流出額が拡大し始め、金融収支の黒字拡大と、それとほとんど定義の等しい経常収支の黒字拡大が発生する。経常収支の黒字が拡大すると、純輸出は間違いなく増加し、景気回復は確実なものとなる。可能性は低いが、景気が過熱して、インフレとバブルが進行すれば、所得、あるいは資産が拡大している人、ないしは法人が必ず存在するので、その所得や資産に対する税金をドカンと引き上げればよい。消費税増税の何倍もの税収を獲得し、一気に財政再建を進めるチャンス到来となる。正しい政策は、政府と日銀が協力して成し遂げなければならない。政府が、インフレやバブルが発生した場合には、消費税増税にさらにプラスして増税を実施して、インフレとバブルを封じ込めることを宣言すべきである。その上で、日銀が異次元緩和の第2弾を実施することが、必要不可欠なのである。


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