株価によって決定される国の税収

税GDP株

日本では、財政赤字が毎年累積し、金利の急上昇、財政破綻の懸念を生み出している。財政赤字拡大の原因の一つに、税収の低迷があることは間違いない。そして、税収は、一般的には、名目GDPによって決定されると言われている。しかし、過去30年弱の日本を見た場合、国の一般会計の税収は、名目GDPよりも、日経平均株価の方がはるかに連動性が高い。相関係数で見ると、株価と税収は0.84、名目GDPと税収は、0.28である。この相関係数を見たならば、税収を増やすためには、株価を引き上げる政策をとることが一番重要であることがわかる。

上記のグラフを見る際、注意しておくべき点がある。株価は、1990年の場合、年初、すなわち1990年1月5日の株価を使っている。それに対して、GDPと税収は、1990年度1年間のものを使っている。すなわち、GDPと税収は、期間は原則として同じであるが、株価は、少し先行した株価を使っている。イメージとしては、株価はGDPや税収よりも先行するから、と考えても良いと思う。また、株価が経済分析に用いられる場合、たいていは、株価指数の前年比変動率が使われる。上記のグラフで使ったのは、日経平均という株価指数そのものである。そして、株価、税収、GDPはいずれも1985年度または1985年の年初を100としている。しかし、GDPと税収は目盛りが左軸であり、株価だけが目盛りが右軸である。これが意味するところは、株価は税収と似た動きをするが、その変動率は、税収よりも株価の方が大きいということである。株価だけ縮尺を変えた方が、見た目での相関関係が高くなる。同じ縮尺の場合、相関係数は同じでも、見た目での相関関係がわかりにくくなる。一方、GDPと税収は、動きが少ししか一致しないので、縮尺を変えても同じである。

次に指摘しておきたいのは、株価と税収の相関関係が高かったのは、日本の一般会計の税収と、日本の日経平均株価の相関関係だけであることだ。IMFの統計で主要先進国の一般政府ベースでの歳入と株価の関係を調べてみたが、他の主要先進国では、歳入は、株価よりも、名目GDPの方に高い相関関係を示していた。そして、同じことが、日本についてもあてはまる。日本の一般政府の歳入が名目GDPとの相関関係が高い理由は、名目GDPと連動性の高い社会保険料が、継続して引き上げられており、結果として一般政府の歳入全体が、名目GDPの動きに近くなったからだと思われる。ただ、日本の場合、一般政府のグロス債務の残高の大半は、国の借金である。そして、地方政府はネットの債務を持つが、年金資産が蓄積されている社会保障基金は、巨額のネットの資産を保有している。従って、IMFの一般政府の債務残高をネットで見た場合、一般会計の国債発行残高を大きく下回ることになる。財政赤字や政府債務の問題を、他国との比較ではなく、日本国内の問題として考える場合、広義の一般政府ではなく、より狭義の一般会計を分析することにも、重要な意味があると考える。

ちなみに、2014年度予算では、一般会計だけの国債の発行額は、年間41兆円である。一方、2014年6月末時点で、国の普通国債発行残高は753兆円、国の借金の総額は1039兆円である。この他にも、国の国債発行残高や借金の残高を表す数字は、複数存在する。財務省の役人が操作をしていると批判されることもあるが、最大の原因は、国の会計制度が非常に複雑であるからだ。最初に、財政赤字拡大の原因の一つに、税収の低迷があると書いた。しかし、私は、税収の低迷は、原因の一つというよりも、最大の原因であると考えている。

株価と税収に相関関係があることは間違いない。では、因果関係はどうであろうか。まず、税収→株価の因果関係を考える。増税を実施した場合、株価は、おそらく下がるであろう。増税により、景気がより悪くなるからだ。逆に減税をすれば、景気は良くなり、株価は上がるであろう。税収と株価の間に因果関係があるとすれば、負の相関関係として現れるはずである。しかし、実際は、正の相関関係が発生している。一方、景気が自律的に回復した場合、税収が増えると株価も上昇する。しかし、これは、税収→株価の因果関係ではなく、景気回復→税収、株価という因果関係である。従って、税収→株価の因果関係はないと考えるべきである。

次に、株価→税収の因果関係を考える。株価が上がると、個人や法人のキャピタルゲインが増加し、それに対する税収は増加する。従って、株価→税収の因果関係は存在するはずである。ただ、問題は、株価が税収を増やすという因果関係があることは間違いないにしても、株価が税収全体を決定するほどの、大きな因果関係があるか、という点である。つまり、株価が上昇すると、税収は増えるにしろ、数多く存在する税の中で、所得税、法人税の一部しか増やさない。財務省も資産価格の下落を原因として発生した税収の減収額とその累計額を算出しているが、それほど大きな数字にはならない。株価が税収全体を決めるという言い方は、大げさな表現であるようにも見える。

日本の一般会計の税収は、国の経済活動の集合体であるフローのGDPと、ストックの代表である地価、株価の双方により決定される。普通の国の場合、長期で見れば、ストック価格は右肩上がりなので、株価は上がる一方である。税収は株価とともに上昇するが、株価ほど大きく変動しない。従って株価と税収の相関関係は低くなり、税収と名目GDPの相関関係の方がより高くなる。日本の場合、長年、ストック価格が右肩下がりであった。ストック価格低下による税収減と名目GDPとの相関関係は、非常に小さなものとなるはずである。ラグなども考慮すると、マイナスになってもおかしくない。資産デフレの時代には、名目GDPと税収の相関関係は低下するのである。株価は、地価と同様にストック価格の代表である。しかし、株価は、フローのGDPの変化を先取りして動くものでもある。つまり、株価は、重要なストック価格の一部門であるだけではなく、日本の経済活動のフローであるGDPを先取りして反映するものである。加えて、株価は、もう一つ重要なストック価格である地価の動きをも、ある程度先取りして反映する。結果として、1985年以降の株価と税収は、高い相関性を持つことになった。この高い相関関係は、偶然ではなく、現在の日本のような税制と、資産デフレとが重なった場合、必然的に発生する現象なのである。株価と税収の高い相関関係は、ストック価格の右肩上がりが定着するまで続くことになるであろう。株価と地価は、ピークを大きく下回っている。株価と地価がピークをこえるまでは、株価と税収は高い相関関係を持ち続けることになるであろう。つまり、現時点で、税収を増やす最も効果的な政策は、株価を引き上げるための政策である。

現在の株価対策は、質的緩和という名で日銀がETFを買うこと、NISAを設けて、個人投資家の資金を株式市場に呼び込むこと、である。私は、このうちNISAという制度には反対である。発想自体が全くおかしいと考えている。巨額の政府債務を抱える現在の日本に必要な政策は、減税ではなく、増税なのである。その上、日本の株価は、NISAの拡充であろうが、キャピタルゲイン課税の全面廃止であろうが、その程度の政策では、株価が上がれば必ず売るという株式市場のヒステリシス(*1)を打ち破って、株価を上昇させることはできないのである。加えて、こうした株価一本に絞った政策は、たとえ成功しても、税収が伸びることは間違いないが、大きくは伸びない可能性が残る。税を株価対策として使う場合、後で述べるように、株価上昇抑制のための増税策に限るべきである。

株価を一番簡単に上昇させるための政策は、みんなが知っている。それは、金融を徹底的に緩和して、バブルを引き起こすことである。金融緩和の強化、すなわち、日銀が国債購入金額をガンガン増やしても、物価は上がらないという人は、現在でも一定程度存在する。しかし、バブルを引き起こさないと考える人は、少数派だと思う。金融緩和、すなわち日銀が国債購入金額をガンガン増やし続けた場合、必ずバブルが発生する。すなわち株価は大きく上昇するのである。そして、株価が上昇するだけではなく、後に景気回復が発生し、税収の増加に必ずつながるのである。2012年11月以降、金融緩和とその予想が発生すると、株価が著しく上昇し始めた。金融緩和を大規模に実施すると、あふれた金が株式市場に流入し、株価が上昇すると考える人は多いと思う。

しかし、異次元緩和は、そうした現象とは正反対の現象を引き起こした。異次元緩和とその予想は、国内投資家が保有する株を大挙して売らせ、銀行預金等に資金を移動させたのであった。株式市場に流れ込んできた資金は、異次元緩和で創造される信用とは全く無関係の、海外投資家の資金が16.3兆円も流れ込んできただけであった。2012年11月-2013年12月に起こった株価上昇は、国内の余剰資金が株式市場に流れ込む「バブル」という現象ではない。適切な表現が思い浮かばないが、バブルとは正反対の、株式市場から国内投資家の資金が大挙して逃げ出すという、「負のバブル」とも表現できる現象であった。2014年に入ってからは、大きな資金移動は止まっている。1990年代以降、日銀は、金融緩和を繰り返してきたが、国内投資家の資金は、株式市場から流出し続け、負のバブルを形成してきた。これは、金融緩和の規模が、小さすぎ、かつ遅すぎたことが原因である。株を買ったのは、金融緩和と無関係の海外投資家が、88兆円も買っただけであった。株式市場を負のバブルから正のバブルへと転換させるためには、金融緩和の規模を、今よりも大幅に拡大させる必要がある。

金融緩和の結果として、株価が上昇すれば、税収も必ず増える。しかし、より大きく税収を増やすためには、現在は70%である国内投資家の日本株式保有比率を、増やすことが必要である。理由は、日本株の30%を保有する海外投資家のキャピタルゲインに対しては、税金をかけることができないからである。もう一つは、海外投資家が大株主のまま株価が急上昇すると、対外純資産が急減するという現象が発生してしまうからだ(*2)。これは、国家的な大損失になる。日銀が、発行されている国債の全額購入を目指して国債をガンガン買っていけば、国債を売らざるをえなくなった国内投資家の資金の何割かは、株式市場に流れ込んでくるはずである。その時、海外投資家は、日本株を売り越してくるであろう。こうして、海外投資家から、できるだけ多くの日本株を買い戻すことが必要である。

そこからさらに金融緩和を強化すれば、いずれは本物の正のバブルへと発展する。その時は、まず質的緩和の名目で購入したETFを売却するのが最初の対策となる。日銀がETFを大量に保有していれば、株価がバブル化した時、ETFの売却が株価抑制の大変有力な手段となりうる。質的緩和という政策は、株価を下げさせないための政策であるが、同時に株価が上がりすぎることを防ぐために必要な政策でもある。同時にその時日銀が獲得するETFの売却益は、国の税収増加と同じ効果を持つことになる。その次が、キャピタルゲインに対する税率を引き上げることが上げられる。同時に、個人だけではなく、事業法人や非課税法人が負担する新しいキャピタルゲイン課税の導入などが選択肢になるであろう。こうした株価抑制策により、株価の上昇速度を鈍化させ、バブル化を防ぐのである。バブルにならない程度の株価の上昇と同時に税収の大幅な増加も長続きさせるのである。その結果、財政再建は急激に進展することになる。

では、日本の株価は、長期で見た場合、あとどれくらい上昇の余地があるのであろうか。株価の上値の余地を見るために、前回使ったものと同じ世界の株価を、最初のグラフと同じ期間である1985年からの変化を表すグラフを下記に示す。


世界株価1985

上位3ヶ国、イスラエル、インド、ギリシャはインフレが株価の上昇に寄与しているので、日本の手本にはならない。ギリシャの少し前までの株価の下落は凄まじかったが、ギリシャはユーロ加盟以前はインフレ率が高く、並行して株価も大幅に上昇させてきた。そのため、1985年1月基準ならば、日本とはケタ違いの株価上昇を実現させている。しかし、ギリシャは日本の手本にはならない。手本になるのは、4番目のスウェーデンである。スウェーデンのバブル崩壊と再生については、前回書いたので省略するが、1985年1月を基準とした今年6月末の株価を見ると、日本は134。スウェーデンは1,897、差は、14倍も存在する。(*3)でスウェーデンの地価は、「バブルの少し手前」と書いた。今年の3月23日の記事である。その後もスウェーデンの資産価格は上昇し続けたが、7月3日、スウェーデン中央銀行は、政策金利を0.75%から0.25%に引き下げた。上記のスウェーデンの株価や(*3)の中で示したスウェーデンの地価を見た場合、日本人エコノミストのほぼ100%は、スウェーデンの資産価格は、「バブル」と評価するであろう。私のような日本では超少数派の超金融緩和派が見ても、スウェーデンの資産価格の上昇を放置すればバブルになるので、利下げという選択肢は考えられない。しかし、スウェーデン中央銀行は、政策金利を引き下げた。これは、スウェーデン人の半分以上の頭がおかしいか、私も含めた日本人全員の頭がおかしいかの、どちらかである。どちらが正しいかは、将来、必ず明らかになる。

しかし、スウェーデンは、1985年1月を基準にした場合、今年6月の日経平均の15,376円の14倍強まで株価を上昇させることに、すでに成功しているのである(厳密にはTOPIXを使うべきだが、ここでは近いものとして、日経平均で代用)。1985年1月を基準にして、日本とスウェーデンの今年6月の株価を同じ水準にさせるためには、日経平均を14倍強の21万円にまで引き上げる必要がある。そのような政策をスウェーデンはすでに実施してきたのである。日経平均を21万円まで引き上げるべき、といった主張はしない。キチガイ扱いにされたくないからだ。ただ、日経平均が21万円相当まで上昇しても、スウェーデン人は追加金融緩和を実施するという事実があることだけは伝えておきたい。21万円は上がりすぎである。しかし、21万円までは未踏ではなく、スウェーデンという先例がある。日本にはなく、スウェーデンにはあるいくつかの条件を満たせば、21万円は、実現可能なのである。繰り返すが、21万円は、実現可能と言っているだけで、21万円を目標にしろとは言っていない。私は、キチガイなどではなく、まともな人間だからである。ただ、上記のグラフで示したとおり、1985年1月を基準とした場合、今年6月の日本の株価は世界最下位である。直近の株価15,318円も、間違いなく世界最下位であり、安すぎである。今は、株価の上限を考えることなく、株価の上昇を目指して、日銀は、ひたすら国債の購入額を増やすことだけ考えれば良いのである。

現在、日本が抱える最大の問題は、財政再建である。それを実現するためには、株価を大幅に上昇させることが必要である。そうすると、株価と連動する税収を、同時に大幅に増やすことが可能になる。株価を大幅に上昇させ、税収を大幅に増やすためには、異次元緩和を上回る大規模な追加金融緩和策を繰り返すことが、必要不可欠なのである。


リンク先記事
株式市場のヒステリシス(*1)
2013年末対外純資産が過去最高を更新 ドル建てでは減少(*2)
地価の下落がもたらす財政破綻とその回避策(*3)


                  


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疑似相関が大きくないですかね

いつも楽しく拝見させて頂いて、ありがとうございます。

この税収と株価の関係ですが、因果関係は「企業収益」と「税収」、「企業収益」と「株価」にあって、疑似相関のウェイトが大きくないでしょうか。

少なくとも法人税は企業収益に比例しますし、株価も論理的には将来の収益をベースとした値動きをするので、当該年度の企業収益と一定の相関はあると思います。

もちろん資産効果を通じた、景気浮揚というのもあるのでしょうが気になったので。フィンランドの例はインフレを除いた実質で見ても伸びていて面白そうですが、ノキアが同国のGDPの25%を占めていたというような特殊事例にも思います。

で、企業収益を伸ばせば税収が増えるってのは、まああたり前で、それができれば苦労しないという話になっちゃいますけどね。

「税収」は「企業収益」より「株価」が重要

株価=1株当たり企業収益×PERだから、大元の原因は企業収益にあり、という考え方はわかります。

しかし、日本の場合、特に1990年代後半ー2000年代初めの長期間とリーマンショック直後の短期間、企業収益は激変していました。理由は、銀行の不良債権処理とシーマンショックによる大不況の結果、上場企業の収益の総額がマイナスの期間、あるいは非常に少額でPERが100倍をこえる状況が、相当長期間続いたからです。

その間に、株価も税収もゼロになったりマイナスになったりしていません。少なくとも、「上場企業の収益」と「税収」の相関係数は、「株価」と「税収」の相関係数よりずっと低いはずです。

意外かも知れませんが、「上場企業の収益」と「株価」の相関係数は、上記の「株価」と「税収」の相関係数より低いのです。株価の決定要因は複雑で、企業収益以外の様々な要因にも左右されます。それでも「株価」は、「名目GDP」や「地価」、すなわち「税収」を先取りして動くのです。
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