日銀ウォッチャー報告(2014年8月号)

マネタリーベース平残の推移201408(表)

2014年7月の季節調整済のマネタリーベース平残は、前月比で9.5兆円増加し、236.3兆円になった。

マネタリーベース平残の推移201408(グラフ)

上記のグラフに示したとおり、季節調整済のマネタリーベース平残は、2012年12月の白川体制の末期から増加基調が明確になった。その後は、ほぼ、高水準の伸び率が続いている。昨年12月に、1ヶ月間だけ前月比増加率がマイナスになったことがある。今年7月の伸び率は前月比+4.2%であり、高めの伸び率であった。

7月の市中資金は、18兆円の不足であった。そこに、国債の購入6.5兆円、短期国債の購入12.5兆円、共通担保オペ1.4兆円の回収などを中心とした金融調節により、合計17.8兆円の資金が供給された。金融調節後の市中資金は、0.3兆円の資金不足になった。この資金不足のため、当座預金残高は、6月末の152.3兆円から、7月末の152.1兆円へと、0.3兆円減少した。この当座預金残高の減少を反映して、7月の季節調整済のマネタリーベース平残は、前月比9.5兆円増加の236.3兆円になった。

当座預金残高が減少し、季節調整済のマネタリーベース平残が増加した理由は、7月のマネタリーベースは大きく減少しやすいという季節要因があるためである。ここまではいつもと同じ説明である。今回は、もう少し細かでテクニカルな内容の説明を付け加える。

下記の表に示したとおり、7月のマネタリーベース末残は、0.2兆円の減少であった。その中で、季節調整前のマネタリーベース平残がどう動いたかというと、上記の表に示したとおり、前月比9.9兆円もの大幅な増加となっている。季調前平残、季調済平残の増加額は近い金額であるが、末残の増加額が他の2つと全然異なっている。これは、5月、6月、7月に発生する特殊な季節要因である。この3ヶ月間で、マネタリーベース末残は18兆円増加しているが、そのうち11兆円は、国債の大量償還があった6月20日の1日で増えており、その前後を合わせた6月10日-6月27日の増加額だけで20兆円も増えている。マネタリーベースを日次で見ると、一直線で増加したのではなく、主として6月の中旬、下旬が大幅増加であり、それを除けば、ほとんど増えていない。従って、季調前平残をとると、」6月も7月もあまり変わらない増加額となり、季調済平残でも大きくは変わらない。大きく異なるのは、末残だけである。下記の表に示したとおり、末残は6月が16.8兆円の増加、7月は0.2兆円の減少になっている。

マネタリーベース末残の減少は、今年1月以来である。12月末に年越しのために紙幣需要が急増し、1月にはその紙幣が回収されるため、1月の末残も前月比1兆円の減少となっている。この前月の昨年12月は、季節調整済の平残が前月比マイナスとなった。この昨年12月から、日銀はあまり無理な資金供給をしなくなった。

しかし、昨年の7月は異なっていた。近年においては、年間の資金不足が最大になる月は、7月であることが多い。昨年の場合、7月の資金不足の金額は、18.5兆円の不足であった。そこに資金供給を18.9兆円実施し、下記の表に示したとおり、当座預金残高を0.5兆円、マネタリーベース末残を0.2兆円拡大させた。プラスの残高を維持するために、強引なくらい、大量の資金供給を実施した。市中資金は、季節要因を持ちながら、月ごとに大きく変動するものである。それに対して、昨年7月までは、マネタリーベースの増加額が、どの方向から見てもマイナスにはならないような資金供給を行い、日銀の金融緩和の強化に対する強い意志を市場に見せつけたのであった。昨年12月以降は、見方によっては、一時的なマイナスは許容するという、自然体に近い資金供給をする姿勢へと変化しているのである。

日銀BSとMB(実績と予想)201406

上記の表のように、今年の年末時点におけるマネタリーベースの予定残高は、270兆円である。残り5ヶ月間で増やすので、マネタリーベース末残は、月間5.4兆円の純増が必要である。

8月の市中資金は、15.7兆円の大幅な不足となる。8月の資金供給は、国債の購入が、7月並の6.5兆円と想定する。短期国債の購入は、7月比1兆円減の11.5兆円と想定する。共通担保オペの回収額は、0.5兆円と想定する。貸出支援基金による貸し出しは、8月中には実施されない。この結果、8月の資金供給は、合計で17.5兆円となる。8月末のマネタリーベース末残は、前月比1.8兆円の増加と予想する。季節調整済のマネタリーベース平残の増加額は、前月比で1.8兆円を上回る金額になると予想する。

消費税増税から4ヶ月強経過し、増税後の経済統計の発表が続いている。先月号と同様に、今年4月以降の統計から、重要と思われる統計をいくつか取り上げ、その意味を説明することにする。

まず、コア消費者物価の前年比増加率を表すグラフを示す。


コアCPI

6月全国のコア消費者物価は前年比で3.3%の上昇である。5月より0.1ポイント上昇幅が縮まった。うち消費税増税の影響は2.0%と考えられているので、消費税を除くベースで考えてみても、前年比1.3%の上昇となる。一方、7月東京のコア消費者物価は前年比で2.8%の上昇であり、6月と上昇率は変わっていない。消費税率上昇効果は5月までであり、それ以降は、横ばいか少し下落である。今後、円安効果が薄れていき、前年比上昇率が縮小していくことは、多数派の見解だと思われる。黒田総裁も同じ意見を持ちながらも、7月15日の記者会見で、「物価の見通しは・・・1%台を割るような可能性はない」と断言している。私は、黒田総裁のロジックを理解できるのであるが、それは楽観的シナリオが現実化した場合である。景気が悪くなった場合、物価上昇率も1%を下回ることは起こりえると思う。従って、物価の見通しが1%を下回ることは、リスクシナリオの一つに入れておくべきだと考える。

次に、鉱工業生産の推移を表すグラフを下記に示す。


鉱工業生産

景気動向に一番敏感な指数を1つだけ上げるとしたならば、日本では鉱工業生産指数になるであろう。6月の生産は-3.3%、出荷は-1.9%と下落幅が非常に大きかった。にもかかわらず、在庫は+1.9%、在庫率は+3.5%増加した。これは、需要の落ち込みを予想して、大幅な減産に踏み切ったにもかかわらず、予想以上に需要が落ち込み、意図せざる在庫が大きく積み上がってしまったのである。消費税増税によって一時的には大きく落ち込んだ消費だけではなく、設備投資や輸出も予想以上に悪かったからであろう。製造工業生産予測指数は7月が+2.5%、8月が+1.1%とプラスになっているが、通常レベルの下方修正は必死であり、その場合、7月、8月に生産が本格的に回復する可能性は、非常に低いと考えるべきであろう。

次に、設備投資の先行指標として知られる、「機械受注統計、船舶・電力を除く民需」を表すグラフを下記に示す。


機械受注統計

この統計は、わずか280社からのアンケート調査の結果に過ぎない。しかし、四半期で見ると、GDPの民間企業設備投資に先行して動くので、設備投資の先行きを予想するに当たっては、大変重要な統計である。ところがこの統計は、同時に大変大きな欠陥を含んだ統計でもある。この統計は毎月発表されるのであるが、月次で見た場合、非常に不規則な変動が多いからだ。今年3月は+19.1%であり、これは明らかに上ブレを含んだ数字であった。ところが、5月は-19.5%となり、今度は大きな下ブレを含んだ数字となった。しかし、5月は下ブレの数字を含むといっても、下を向いていることは間違いないと思う。先月号で、日銀短観の今年の大企業全産業の設備投資計画が、今年6月時点で前年比+7.4%と大きな数字となったことは、大変、強気の期待が持てると書いた。一方、今後、この数字の下方修正は必死であることも指摘した。5月のあまりにも悪すぎる機械受注統計は、短観での計画を立てる前の数字ではあるとはいえ、今後の下方修正幅が大きくなる可能性があることを示す。そして、短観では製造業の設備投資計画が非常に強かったのであるが、先に示した6月の鉱工業生産、在庫などの指数の大幅悪化は、製造業の設備投資計画の大幅下方修正を引き起こす可能性をさらに高めるものと考える。

生産、投資の次は、消費である。6月までの消費水準指数、5月までの消費総合指数を下記に示す。

個人消費

5月の消費総合指数はプラスになった、6月の消費水準指数もプラスであるが、5月とは異なり、かなりバランスのとれた回復であったため、6月の消費総合指数もプラスであろう。ただ同時に、5月とは異なり、消費水準指数は下ブレしていない可能性が高い。そのため、6月の消費総合指数は、5月を大きく上回る回復は考えにくい。良くて5月を少し上回り、悪ければ5月をかなり下回る回復になる可能性がある(後日追記 消費総合指数は、5月+1.5%、6月+0.7%と発表)。5月、6月と反動減から少しずつ回復してはいるが、それほど順調な回復ではないと思われる。

次に7月の東大日次物価指数プロジェクト・売上高指数(前年比)のグラフを下記に示す。


東大売上高

物価の対象が、スーパーで売られている生鮮食品を除く食品、日用品であり、消費者物価の17%しかカバーしていない。その上、売上高は、掲載され始めてからまだ日は浅く、メインの目的は消費者物価の早期把握であり、売上高の把握は副産物である。物価とは異なって、分析もなされておらず、データ間に理由のわからない矛盾があったり、東大サイドにミスがあることまで発見できたりする。そうした不完全なデータであることを認識した上で、速報性の高さを評価して引用する。

上記の数字は、日次の1ヶ月分の売上高の平均を集計したデータである。メインの目標である、日次から求められる物価指数の月次平均を単純に引き算し、実質売上高指数を算出して、合わせて掲載した。直近売上高は、6月-1.8%、7月-2.0%と、7月の方が悪化している。実は、東大の売上高指数は月次の売上高も算出しているが、6月-1.2%、7月-2.6%である。日次の1ヶ月平均と月全体の売上高は、近い数字にはなっても完全に一致しないのは当然である。今回は、日次の物価を使って実質売上高を算出ているので、日次の月平均-1.8%、-2.0%の方を使う。それでも6月よりは悪い数字になっている。スーパーの生鮮食品を除く食品、日用品だけの売上高であるが、生活必需品の売上高でもあるので、その売上高の減少率の拡大は、庶民のフトコロ事情が悪化していることの一つの根拠になりえる。

その他、7月には大手百貨店の売上高が、6月より大きく回復しており、特に7月後半は良かったようである。ただ、百貨店売上高は、昨年7月の水準が低かったので、回復方向にあるとしても、強いとまでは言えないと思う。東大売上高指数の悪化も総合して考えると、7月の個人消費の水準は、昨年よりもまだ少し低めである可能性が高い。

その他、消費税増税の影響を最も大きく受ける商品は、住宅と自動車である。6月の新設住宅着工戸数は前年比-9.5%であったが、前月比+1.3%であった。多少は回復傾向を見せているが、水準は微妙であり、高くはないが、低いとも言い切れない。新車販売台数は、前年比で6月+0.4%、7月-2.5%であった。昨年7月の水準の高さを考えると、7月も比較的高い水準であった。消費税増税による悪影響が、個人消費の中で一番大きいものは、耐久消費財なのであるが、自動車だけは消費税増税による悪影響から脱出し、ほぼ前年並みまで回復している。

自動車のように、消費税増税による実質所得削減効果を乗り越えて回復しつつあるものは、少しは存在する。しかし、その他の消費の多くは、反動減からは明らかに回復しつつあるが、実質所得削減効果をこえて実質が前年比プラスにまで戻しているものはほとんど存在しない。その他、鉱工業生産指数、機械受注統計などを見る限り、消費以外にも、設備投資、輸出が低位のまま伸び悩んでいることが見て取れる。反動減の完全解消により、景気はある程度までは回復するにしても、消費税増税分平均2%の所得削減効果を克服するほどの強い回復力は、現時点では見えていない。この効果は、数年という長期間続くことはありえないが、単なる反動減からの回復にかかる3ヶ月や半年という短期で終わる可能性も低いと思われる。日本では、非ケインズ効果(財政赤字の縮小が個人消費を増やすという効果)は発生しえないのである。

今回と1997年の消費税増税との最大の違いは、政策面である。金融政策は、当時よりもずっと大規模に緩和されている。財政政策の効果は、1年は持たないと思うが、数ヶ月は持つであろう。現在、市場において、8月の金融緩和の実施を予想する声は、ほとんど存在しない。こうした環境下で、異次元緩和第二段が実施された場合、市場に織り込まれていないため、効果が大きいのである。黒田総裁が、本当に財政再建を図りたいのであれば、ここで予想外の大規模追加緩和に踏み切るべきである。追加金融緩和が、金融収支と経常収支の黒字拡大をもたらすまでには時間がかかり、年内には無理である。しかし、予想外の金融緩和は、即効性のある効果を伴うのである。円安株高が再び進行し、市場心理が急回復する。この市場心理の急回復だけで、来年は景気がさらに良くなるであろうという期待が経済全体に広まる。安倍総理は、今年の年末に消費税10%までの引き上げを決断できるはずだ。市場心理が低迷し、同時に景気の水準が、昨年の水準を下回る状況が続けば、安倍総理は、消費税引き上げの延期を決断せざるをえなくなる可能性がある。元財務官僚として、黒田氏が本気で財政再建実現を援護射撃したいのであれば、早めの大規模追加金融緩和を決断することが、一番正しい道であると考える。


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