日銀ウォッチャー報告(2014年6月号)

マネタリーベース平残の推移201405(グラフ)

2014年5月の季節調整済のマネタリーベース平残は、前月比で4.6兆円増加し、220.5兆円になった。

マネタリーベース平残の推移201405(表)

上記のグラフに示したとおり、季節調整済のマネタリーベース平残は、2012年12月の白川体制の末期から増加基調が明確になり、昨年11月までは高い増加率が続いていた。昨年12月に、前月比増加率はマイナスとなったが、1月-2月と再び高い増加率に戻った。3月-5月の前月比増加率は、多少低くなった。

5月の市中資金は、14.6兆円の不足であった。そこに、国債の購入6.6兆円、短期国債の購入11.5兆円、共通担保オペの回収1.3兆円などを中心とした金融調節により、合計17兆円の資金が供給された。金融調節後の市中資金は、2.5兆円の資金余剰になった。この資金余剰のため、当座預金残高は、4月末の133.8兆円から、5月末の136.3兆円へと、2.5兆円増加した。この当座預金残高の増加を反映して、5月の季節調整済のマネタリーベース平残は、前月比4.6兆円増加の220.5兆円になった。当座預金残高と季節調整済のマネタリーベース平残の増加に差がある理由は、5月のマネタリーベースは減少しやすいという季節要因があるためである。


日銀BSとMB(実績と予想)201405

上記の表のように、今年の年末時点におけるマネタリーベースの予定残高は270兆円である。残り7ヶ月間で増やすので、マネタリーベース末残は、月間6.2兆円の純増が必要である。

6月の資金需給を予想する前に、2月18日の金融政策決定会合で決定された、新方式による貸出支援基金による貸し出しが6月から実施されるので、その説明をすることにする。貸出支援基金による過去の貸し出しを表すグラフを下記に示す。

貸出支援基金

成長基盤強化支援資金供給による貸し出しが始まったのは、2010年9月、貸出増加支援資金供給による貸し出しが始まったのは2013年6月からである。今年3月には、成長基盤強化支援資金供給による新規貸し出しが、1994億円実施(ドル特則14億ドルを除く)されたのに対して、償還等の方が多かったので、成長基盤強化支援資金供給のネットの貸し出しは1197億円減少となった。6月分は新規貸し出し分が4500億円行われることがすでに決定されている。償還等の金額はわからないが、2月18日の貸し出し枠の拡大効果が、少しは現れている。

貸出増加支援資金供給の新しいスキームも6月からの開始である。しかし、3月の古いスキームでの貸し出しが、黒田総裁によるアナウンスメント効果により3.5兆円と大幅に増加した。そうした事情もあるので、6月に貸出増加支援資金供給がさらに大きく増えることはあまり考えられない。上記の2つを合計した6月の貸出支援基金によるネットの貸し出しは、3月を少し上回る4兆円と想定する。

6月の市中資金は、1.9兆円の不足となる。6月の資金供給については、国債の購入が、5月と同程度の6.5兆円と想定する。短期国債の購入は、5月に大きく増えたのであるが、6月は巡航速度に近い8兆円と想定する。貸出支援基金による貸し出しは、先に示したとおり4兆円と想定する。共通担保オペの減少金額は2兆円になると想定する。共通担保オペから貸出支援基金に振り替えられる金額が増加すると考えるからだ。この結果、6月の資金供給は、合計で16.5兆円となる。6月末のマネタリーベース末残は、前月比14.6兆円の増加と予想する。季節調整済のマネタリーベース平残の増加金額は、前月比で14.6兆円を大きく下回り、10兆円を少し下回る程度の金額になると予想する。

黒田総裁、岩田副総裁を中心とする日銀の現執行部は、消費税増税の景気に対する悪影響はない、もしくは少ないということで意見が一致しているようだ。普通なら、消費税増税は下方リスク要因のはずである。しかし、下方リスクとして認めてしまうと、下方リスク除去のための追加金融緩和を実施しなければ、つじつまが合わなくなる。そのため、リスクは常に上下双方にあるもので、下方にだけリスクがあるとは認めるわけにはいかない。ただ、黒田総裁、岩田副総裁は、本当に心から消費税増税が下方リスクではないと考えているようである。後で示すが、この点については、政府と意見が完全に異なっている。

消費税増税から2ヶ月強経過し、消費税増税後の4月以降の経済統計が続々と発表されている。こうした今年4月以降の統計から、特に重要と思われる統計を一部取り上げ、その意味を説明することにする。

最初に生鮮食品を除く消費者物価指数(コア)の前年比上昇率を表すグラフを下記に示す。


コアCPI

4月のコア全国消費者物価は前年比で3.2%の上昇である。うち消費税増税の影響は1.7%と考えられているので、消費税を除くベースで考えてみても、前年比1.5%の上昇となる。黒田総裁は、しばらくは1%半ばの上昇が続き、労働需給の逼迫が続く中で、消費税増税の悪影響が薄れてくる今年度後半から、2%に向けて消費者物価が上昇に向かうとの予想を述べている。この4月の全国コア消費者物価上昇率を見ると、その可能性が十分高いものであるかのようにも見える。

しかし、そうした日銀のシナリオが実現するかどうか危ぶまれるような統計もいくつか発表されている。その第一としてエネルギー、食料品を除く消費者物価指数(コアコア)の前年比上昇率を表すグラフを下記に示す。


コアコアCPI

コアコア消費者物価の4月の全国は、+2.3%と比較的堅調であるが、5月東京を見ると、+1.9%であり、4月の+2.0%を下回っている。4月と5月の消費者物価(総合)前年比増加率の寄与度差でみると、エネルギー(+0.16%)、食品(+0.16%)といった上昇要因があり、これとも重なるが、消費税増税分(+0.3%)があったことも間違いない。これが5月の消費者物価(総合)を前年比3.1%、4月比で0.2%引き上げた要因である。一方、5月の消費者物価(コアコア)の方を、4月比で0.1%引き下げる結果となった。この場合、消費税増税の影響が一巡し、円安進行が止まった場合、これ以上の価格上昇のドライバーが見あたらなくなる。黒田総裁の予想は、人手不足による賃金の増加である。昔からの私の主張と同じであるが(*1)、これは、消費税増税の悪影響が小さく、今後も景気回復が順調に進んだ場合にのみ現実化する。

直近の統計では、景気の変調を訴える統計がくつか散見される。その中で一番目立ったのは、家計調査における消費の減少である。家計調査の中の消費水準指数を表すグラフを下記に示す。


消費水準指数

消費水準指数は家計消費の実質季節調整済の変化を表す。通常の季節調整の手法だと、今年の3月-4月は歪む可能性がある。しかし、その条件は1997年3-4月も同様である。従って、上記のグラフから見てわかるとおり、2014年の消費税増税に伴う駆け込み需要とその反動減は、1997年よりも大きいことを理解することができる。

消費税増税の効果が反動減だけなら、少し時間がたてば、マイナスの影響はゼロに近づくはずである。しかし、より長引きそうな効果は、消費税増税による実質所得減少の効果の方である。

同じく家計調査から、2000年1月以降の、勤労者世帯の実収入と消費の変化を表すグラフを下記に示す。


勤労者世帯収入消費

家計調査は個人消費に関する重要な基礎統計であるが、ブレが大きくて使いづらいという欠点がある。2006年6月にも実収入が大きく落ち込み、2006年7月には実質収入が10.3ポイントも跳ね上がることが実際に発生した。この時、何の事件も発生していない。その2006年6月が2000年以降の家計の実収入の最低記録であったが、2014年4月にその最低記録を下回った。2014年4月の実収入は前月比-3.7%である。消費の大幅減少の多くは反動減であり、いずれ回復する。しかし、実収入の減少を原因とする消費の減少は、そう簡単に回復するとは言えない。

家計調査による実収入の低下だけを見た場合、単なるブレの可能性を否定できない。そのため、家計調査よりはブレが小さい勤労者世帯の実収入を、事業所調査の方から見ることにする。事業所調査とは、厚生労働省が発表している毎月勤労統計のことである。毎月勤労統計から、名目賃金、実質賃金の両方を表すグラフを下記に示す。


名目実質賃金

毎月勤労統計においても、実質賃金の大幅な下落が間違いなく発生している。2014年4月の実質賃金は-3.1%と大幅なマイナスになっている。この大幅下落は、1997年4月の変動率+0.1%を大きく下回っている。ただし、4月はベアを一部しか反映していない可能性が高く、今後、ベアに加えてボーナスの上昇により、実質賃金が夏にかけて低下幅が縮まる可能性は非常に高い。しかし、-3.1%という実質賃金がプラスになるのは非常に困難であると思われる。その場合、家計調査で示される実質消費が前年比プラスの伸びを示すことも非常に困難になる。なお、雇用者数は増加しているので、実質賃金がマイナスでも雇用者報酬がプラスになる可能性はある。雇用者数の伸びも景気の動向次第である。2014年4月時点の常用雇用者数の増加率は、+1.3%である。おおざっぱに、実質賃金(4月は-3.1%)+雇用者数(4月は+1.3%)=実質雇用者報酬(4月は-1.8%)と考えることができる。この場合でもマイナス幅縮小の可能性は高い。しかし、実質雇用者報酬のプラス転化も容易なことではない。消費税増税による実質所得削減効果は、単なる反動減よりも、長い期間、続く可能性が高い。

個人消費以外にも少し心配な統計がいくつかある。その一つが鉱工業生産指数である。1997年と2014年の増税前後の鉱工業生産を表すグラフを下記に示す。


鉱工業生産指数

駆け込み需要に基づく生産は、1月の数字で代表されるように今回の方が大きい。4月以降の製造業生産予測指数は、実際の鉱工業生産の上限とも言える数字であるが、5月までの伸びは鈍い。1997年5月は輸出中心に回復したが、今回は輸出増加の気配も今のところ見られない。

4月以降の経済動向を表す統計は、多数発表されており、その中には強いもの、弱いものが入り交じっている。ただ、重要統計では、上記に示したように、弱めのものの方が多かったと感じている。

最後に、想像を絶するほど強かった統計が一つだけあった。その統計を下記に示す。


建設工事受注動態統計

大手50社による建設工事受注動態統計の政府機関発注分である。4月は前年比+316.4%と、すさまじいまでの伸び率を示した。

ただ、この統計を見る際には、いろいろと注意しなければならないことがある。まず、2014年度の公共投資の総額は、政府予想でも、名目+0.9%、実質-2.3%と高くない。民間の研究機関による予想数字は、名目実質ともにマイナスの予想が多い。その根拠は、補正予算の金額である。昨年、年初に決定された2012年度補正予算は10.2兆円、今年、年初に決定された2013年度補正予算は5.5兆円である。この補正予算の規模縮小を考えると、2014年度の公共投資は、名目で見ても前年比プラスは難しいと考えざるをえない。次に、季節調整の問題である。4月の季節調整済の数字は前年比+316.4%であるが、季節調整前の増加率は、-6.3%である。これほどまで大きな差が出る理由は、公共工事の発注は、例年なら3月に発注のピークを迎え、4月は端境月であり、公共工事の発注は3月に比べて4分の1くらいまで減少するのが普通であるからだ。しかし、今年は、安倍内閣が補正予算を気合いで前倒し発注したため、季節調整をかけた4月の数字を見ると、4倍以上に増えるように見えるのである。そして、公共工事の発注と実施には大きくズレがあるのが普通である。4月に発注を大きく前倒したとしても、人手不足などから、実際の建設工事が進むのはかなり先になることは間違いない。さらに、最近は、大手50社だけではなく、それ以外の建設会社も含めた建設工事受注動態統計も同時に発表されている。ただ、こちらの方は、推計値ベースである上、季節調整値がないという欠点もある。

こうしたさまざまな事情があるため、公共工事の受注の急増は、実際には大きな効果を上げることはできない。それでも前月比+316.4%という数字は、過去に例のない大きな数字である。この数字の重要な意味は、実際の効果よりも、安倍内閣が消費税増税による1997年型の不況の再発を絶対に繰り返さないという非常に強い意志を持っていることを確認できることである。

しかし、建設工事受注動態統計の数字の報道は、非常に少なかった。確かに、大手50社による建設工事受注動態統計は、重要性が高い唯一の統計ではない。しかし、大手50社の公共工事の受注金額が季節調整済前月比で+316.4%であり、政府がウソの数字を発表したわけでもない。上記のような解説付きで報道されるべき数字であったと思う。しかし、報道がほとんど無視したために、安倍内閣が消費税増税後の不況を絶対に防ぐために、補正予算の数字を大急ぎで具体化し、受注にまでこぎ着けた苦労の意味が大きく減少してしまった。+316.4%という数字に大きな意味はないのであるが、最大の効果は、アナウンスメント効果である。しかし、報道がほとんど取り上げなかったために、アナウンスメント効果は大きく減少してしまった。仮にこの数字が大きく報道されていたならば、安倍内閣の不況を絶対に起こさせないという姿勢がアピールされていたであろう。市場関係者からは、黒田日銀総裁による金融緩和よりも、安倍総理による公共投資に期待をする人が増えたかもしれない。黒田プットでなく安倍プットといった言葉が出てきたかもしれない。

以上のように、日銀サイドが、「消費税増税くらいで不況など起こるはずはない」と考えているのに対して、政府サイドでは、「消費税増税に伴う不況は絶対に起こさせない」という強い決意を持っていることがわかる。黒田総裁と岩田副総裁は、デフレ克服という目的のために、安倍総理が日銀に送り込んだ総裁と副総裁であった。金融政策についての意見はほとんど一致しているが、消費税増税の影響についての考え方は大きく異なっていた。黒田氏、岩田氏のどちらかの代わりに、消費税増税の悪影響を重視する浜田宏一氏あたりが日銀入りしていたならば、別の展開になっていたであろう。

消費税増税後の経済については、現時点では、あまり良いとは言えない経済指標が現れたことは確かであるが、1997年型の不況に突入すると、現時点で断言することはできない。景気後退を避けることができる可能性も十分残っているからだ。予想から逃げていることは事実である。しかし、楽観論者、悲観論者とも、薄弱な根拠で楽観論、悲観論を述べている。そして、このブログの主題は「経済解説」である。予想をすると、外れた場合だけではなく、当たった場合でも、自分の予想に都合の良いように、事実をねじ曲げて解説してしまうことが起こりがちである。予想を示さなかった場合の方が、事後的にはどのような結果が発生したとしても、より正しい解説ができると考えるからだ。仮に、6月に好調な経済指標が続々と発表された場合、1ヶ月後には、「景気後退発生の可能性が大きく減少」と書くつもりでいる。

毎回繰り返していることだが、私の考え方は政府と同じで、「消費税増税に伴う不況が発生する可能性がある以上、不況の発生は絶対に避けなければならない。」という考え方である。「不況が発生する」のではなく、「可能性がある」のである。ただ不況回避の手段が、公共投資ではなく、追加金融緩和という点が、政府とは決定的に異なる。消費税増税にデフレ不況促進効果があり、異次元緩和に景気回復と物価上昇の促進効果がある。現時点では、どちらの効果がより大きいかはわからない。一方、現在の最大の経済問題は、巨額の政府債務である。従って、増税と金融緩和の強化を同時に極限まで追求することにより、ある程度マイルドな物価上昇と経済成長、加えて急激な財政再建を同時に実現すべきだという考え方である。しかし、こうした超財政緊縮、超金融緩和の考え方を持つ仲間は非常に少なく、政治的には無力である。後は、黒田総裁に少しばかりの期待を残している。最近繰り返している、「物価目標の達成に支障がきたすようなことがあれば、当然、躊躇なく必要な金融政策の調整を行う用意はある」との言葉を、その気配が見えた時点で、素早く実行に移すことを願っている。


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金融緩和と賃金の上昇(*1)


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