日本国内の投資家による止まらない日本株売りとその損失

日本の株価が上がらない。5月7日に日経平均株価は前年比上昇率がマイナスに転落した。TOPIXは、4月11日に前年の水準を下回り、その後少しプラスに戻したが、4月25日に再びマイナスになった。ここでは、アベノミクス相場が始まった2012月11月第2週から、直近の2014年4月第4週までの期間を、1年前の以前と以後に分けることにする。2014年4月第4週(4月26日)のTOPIXは前年比で8.8ポイント上昇しているが、前日の4月25日は前年比2.79ポイントのマイナスであった。直近の1年間は、株価がほぼ横ばいで上昇していないので、その理由を調べることにする。

2012年11月第2週は、野田前首相が衆議院解散を表明した週である。この時から、大胆な金融緩和を主張していた当時の安倍自民党総裁の政策が現実のものとなると予想され、円安と株高が始まった。アベノミクス相場の出発点とも言える。2012年11月第2週以降の海外投資家による日本株の買い越し金額と、TOPIXの推移を表すグラフを下記に示す。


海外投資家の日本株株買い

海外投資家の日本株買い越し金額=国内投資家の日本株売り越し金額と考えても良い。2012年11月第2週以降、海外投資家の日本株買い越し=国内投資家の日本株売り越しの金額は急増し、その中で、TOPIXもかなりの勢いで上昇し続けた。しかし、2013年5月第1週以降は、海外投資家は買い越し基調であるが、TOPIXの上昇は明らかに鈍くなった。それから約1年、TOPIXは、結局のところは行って来いであり、1年前の水準と変わらなくなった。

この期間の日本株の投資部門別売買状況を、2012年11月第2週-2013年4月第4週(1年前より以前)と、2013年5月第1週-2014年4月第4週(過去1年間)に分けた表を下記に示す。


投資部門別売買

2012年11月第2週以降は、ほぼ海外投資家の一手買いである。事法、投信、その他法人は買い越しにはなっているが、その金額は海外投資家よりも規模がはるかに小さい。そして、過去1年間、海外投資家の日本株の買い越し金額が少し減少しただけであるが、株価の方はほとんど上がらないようになってしまった。

この海外投資家の買い越し金額=国内投資家の売り越し金額が、TOPIXをどのように動かしたかを表すグラフを下記に示す。


外国人買い短期

縦軸がTOPIXの上昇幅で、横軸が海外投資家の日本株の買い越し金額である。海外投資家の日本株の買い越し金額とTOPIXの変動幅は、正の相関が高いことがわかる。これは海外投資家が順張りの投資をしていることを表す。反対に、国内投資家は、逆バリの投資になっていることを同時に意味する。一番重要な点は、グラフの左上の第一象限である。ここには点が1つしかない。2013年7月第5週である。この週だけ、国内投資家の買い越し=海外投資家の売り越しという状況で、TOPIXが上昇した。しかし、それ以外の75週間は、株価の上昇局面では、必ず海外投資家の買い越し=国内投資家の売り越しが成立していた。国内投資家が株の上値を買い上がることはほとんどないのである。一方、表の右下、第三象限では、いくつもの点が存在している。これは、TOPIXが上昇する局面では、ほぼ間違いなく、海外投資家の買い越し=国内投資家の売り越しが成立するが、TOPIXが下落する局面では、国内投資家が売り越すケースと海外投資家が売り越すケースの2通りがあることを意味している。

上記のグラフで青点で示したアベノミクス相場の初期の頃に比べ、過去1年間の赤点は、点の位置が全体的に下か左へと移動している。これは、海外投資家の買い越し金額が少し減少する中で、TOPIXが上がりにくくなっていることを意味する。国内投資家の売り指し値が全体として下に下がっているのである。始めのうちは上値の指し値売りであったが、次第に現値かそれ以下の指し値に変わっているのである。今年に入って、海外投資家が日本株を売り越しに転じた結果、株価が大きく下がり、国内投資家は株の買い越しに転じている。それでも、4月以降、海外投資家は再び買い越し基調となったが、国内投資家の下値の指し値売りが増え、株価は下落のトレンドが続いている。

このような、海外投資家の順張り、国内投資家の逆張りは、ずっと前から続いている。1976年以降の海外投資家と国内投資家の売買動向が、TOPIXをどのように動かしたかを表すグラフを下記に示す。


外国人買い長期

株価の水準が大きく変わっているため、縦軸をTOPIXの変動幅から変動率に変えた。横軸は前の表と同じ、海外投資家の買い越し金額である。青の点が、1974年7月-1989年、すなわちバブル以前の動きを示し、赤の点が、1990年以降、すなわち、バブル崩壊後の動きを示す。見てわかるように、バブル以前は、海外投資家の逆張り=国内投資家の順張りの傾向が見られた。1990年のバブル崩壊後は、明らかに右肩上がりの正の相関を示しており、海外投資家の順張り=国内投資家の逆張りへと見事に転換している。そして、左上の第一象限に、赤点は一つも存在しない。これは、年次で見た場合、国内投資家の買い越し=海外投資家の売り越しによりTOPIXが上昇した年が、バブル崩壊後は、1年たりとも存在しなかったことを意味している。また、2013年は、年間の海外投資家の日本株の買い越し金額=国内投資家の売り越し金額が過去最高になっているが、株価上昇率は、1999年に次ぐ2番目にとどまっている。

バブル崩壊後、取引所内での海外投資家による日本株の買い越し金額=国内投資家の売り越し金額は85兆円にものぼっている。海外投資家が大量に日本株を買い越すとTOPIXは少し上昇し、海外投資家が少量の日本株を売り越すと、TOPIXは大きく下落してきた。その結果、海外投資家が巨額の日本株を買い越す中、日本の株価は下落、低迷のトレンドから抜け出すことができなかった。

この点は、私が繰り返し書いてきた、日本の株式市場におけるヒステリシス(*1)という現象である。この場合のヒステリシスとは、日本国内の投資家が、株価が上昇した場合、株を必ず売り越すという決まった行動パターンを常にとるようになり、その結果、日本の株価が上がらなくなることを意味する。ヒステリシスという病気に一度かかってしまうと、そこから抜け出すことが非常に困難になる。

昨年4月の異次元緩和は、モノの価格をある程度上昇させることに成功した。そして、一見すれば、株価を引き上げる効果も大きかったように見える。しかし、株価は上昇したが、海外投資家が過去最高の金額で日本株を買い越しただけである。国内投資家は、バブル崩壊後、ずっと株価が戻ると売るという姿勢をとり続けてきた。アベノミクス相場で株価が上昇する中、そうした売り越し金額を、過去最高の水準にまで増やしただけであるのだ。

予想や期待には、様々な種類のものが存在し、経済に様々な影響を与える。しかし同時に、予想や期待は見えないものであり、それを計測するのは非常に困難である。普通、用いられているのが、債券市場におけるブレーク・イーブン・インフレ率である。ブレーク・イーブン・インフレ率は、債券市場の投資家の期待インフレ率を見る有効な手段であると思われる。その他にも期待インフレ率を調べるために、いくつかのアンケート調査が実施されている。そこで入手できる期待インフレ率は、財・サービス価格の期待インフレ率であることが多い。

株価の将来期待を調べるためには、東証の発表する投資部門別売買状況を見ることが必要である。そこからわかることは、国内投資家の株価の将来期待は、バブル崩壊後の株価上昇局面では常に下落期待であった。その間、株価の上昇期待を持っていたのは、ほとんどの場合、海外投資家であった。これは、バブル崩壊後、ほぼ24年間以上続く現象である。アベノミクス相場の開始後、国内投資家の株価下落期待は減少したのではなく、過去最高の水準まで拡大したのである。そして、過去1年間は、海外投資家が大量に日本株を買い越しているにもかかわらず、TOPIXは上がらなくなってしまった。これは、国内投資家の株価下落期待がさらに強まったことを意味する。今年の年初に、国内投資家は、海外投資家の売り越しの結果としての株価下落局面で、NISA特需の買いもあって株の買い越しになっている。しかし、4月以降は、株価が下落する局面であるにもかからず、株を売り越している。国内投資家の株価下落期待、株価が戻れば売るというヒステリシスは、アベノミクス相場開始以降も強くなり続けているのである。

モノの価格は日銀の予想通りに上昇している。しかし、株式市場における国内投資家のヒステリシスは全く治っておらず、株価下落期待は、過去最高の水準にまで高まっているのである。ここで重要なことは、モノの価格が上昇に転じていることを理由に、金融引き締め政策をとるべきではないということである。仮に、消費者物価上昇率2%を達成した後、金融引き締め政策を実施し、株価が下落に転じ、株価の低迷が長引けば、株式市場のヒステリシスがますます強力なものとなってしまうからだ。現在のところ、日本の株式市場では、海外投資家による株の保有比率が約30%である。この比率が拡大すると、将来の日本が貧困化する大きな原因になるからである。

2013年は、円安が原因で、対外純資産は過去最高を更新した。しかし、株高が原因で、ドル建ての対外純資産は大きく減少してしまった(*2)。現在の日本は、株価を引き下げることにより、国民全体が貧しくなるのを我慢するか、株価を引き上げることにより、国民全体をある程度豊かにすると同時に、その利益の何割かを海外投資家に献上するかの、2つに1つの将来しか存在していない。現在の政策の延長線上には、海外投資家の日本株保有比率が、30%から50%、あるいはそれ以上にまで上昇し、日本の株価が上がればその利益のより多くの部分を海外投資家に献上する傾向が強まるばかりである。潜在成長率が低下し、加えて、海外投資家に利益を献上すれば、日本国内の貧困化は進むばかりである。ここは、あらゆる手段を使って、国内投資家が日本株を買い越すように誘導させるような政策をとり、将来の富の海外流出を可能な限り減らすことが必要不可欠である。

異次元緩和という、文字通りの普通ではない強力な金融緩和が実施されたことは、高く評価されるべきである。普通なら、異次元緩和という大規模な金融緩和策が実施されたならば、国内投資家は日本株の買い越しに転じるか、売り越し金額を減らすのが、当然予想される結果であるはずだ。しかし、実際には、日本の国内投資家は過去最高の規模で株を売り越し始めた。そして、過去1年間に、株価は上がらなくなり、直近では株価の下落局面でも株を売り越し始めるようになった。異次元緩和でさえも、日本の株式市場に強くこびり付いたヒステリシスを解決するのに全く役に立たなかったのである。今回、株価の上昇トレンドが定着しなければ、ヒステリシスは今後さらに強まるだけである。この将来的な損失は、計算が不可能なほど大きい。そしてもう一つの大きな問題は、このヒステリシスという大問題が問題として認識されていないことである。「バブルを再燃させる金融緩和は絶対反対」という長年誤り続けたにもかかわらず、現在でも根強く存在する思想が、将来の日本をより大きく貧困化させるのである。

今、必要とされる政策は、国内投資家による株の買い越しが定着するまで、金融緩和の強化を続ける政策である。そのためには異次元緩和をさらに何次元も上回る金融緩和が必要である。日銀が国債の買い取り金額を大幅に増やしていけば、国債という運用手段を失った国内投資家の資金は、消去法的だが株式市場に流入していかざるをえなくなる。従って、異次元緩和をさらに何次元も上回る金融緩和の強化を実施した場合、ヒステリシスという重い病気は治療可能である。しかしその場合、消費者物価は2%をこえて上昇するはずである。その際、金融引き締めを行ってはならない。金融緩和を強化しながら、所得税の大規模な増税や、消費税増税の上のせなどによる総需要抑制策をとるべきである。インフレによる所得の増加分を大規模な増税で吸い上げ、インフレを押さえ込み、長期金利の上昇を限定的なものにするのである。この政策を実施する前後の時期には、政治的にも経済的にも相当大きな混乱が起こることが予想されるが、そのコストを支払ってもやり抜く必要がある。そして金融緩和の強化を続け、国内投資家による株の買い越しが続き、その結果、海外投資家の日本株保有比率が大きく低下するようになるまで待つ必要がある。それが達成された場合、金融緩和の強化を維持しながら、株にかかるキャピタルゲイン税率を大幅に引き上げ、バブルの進行を防止し、税収を大幅に増やせば良い。これで財政再建が一挙に進む。

日本が抱えるデフレという問題は、モノのデフレだけではない。資産デフレもモノ以上に深刻なのである。経済のストック化の中で、日本は対外資産の量と収益率を増やし、稼げなくなった輸出産業を補完する必要性が増している。しかし、現在の日本は世界最大の対外純資産を持つとは言え、日本の株価が上がるとドル建ての対外純資産が減少(円安が進行しなければ円建てでも減少)するという構造になっている。日本自体が稼ぐ主体にならなければならないのにもかかわらず、外国が少額の投資で、日本の株高により大金を稼ぐという構造ができ上がってしまっているのである。現時点において、日本は世界最大の対外純資産を保有しているが、日本の株価が大きく上昇すると、経常赤字の金額とはケタ違いの富が海外に流出し、日本の対外純資産は大きく減少してしまうのである。

24年間以上の株価低迷の結果、とてつもなく強力なものとなったヒステリシスから抜け出すための政策は、最優先になされなければならない。ヒステリシスが生み出す大きな損失、すなわち対外純資産の大幅な減少についての認識を広めなければならない。モノのインフレ率を2%に引き上げるだけでは全く不十分である。そして、国内投資家が日本株を大量に買い越すようになるまで、追加の大規模な金融緩和を継続し続けることが何よりも必要なのである。


リンク先記事
日本の株式市場のヒステリシス(*1)
2013年末対外純資産が過去最高を更新 ドル建てでは減少(*2)


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テーマ : 経済
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