GPIF改革論議の問題点

GPIF(年金積立管理運用独立行政法人)の資産運用方法の改革について議論されている。GPIFは国債の組入比率が約60%とかなり高い。これから先を見通すと、国債には金利上昇リスクがある。そうしたリスクを回避し、同時に投資収益率を高めるために、株などの運用比率を高めるべきだ、との考え方が増えつつある。それに対して、国債以外の資産はリスクが高く、年金資産をそうしたリスクにさらすべきではないという意見も存在する。

この問題については、以前(*1)、説明したことがある。その時は、GPIFを含む公的年金の運用資産を外国株40%、外国債券40%にまで高めるべきだと結論づけた。今でも結論はそれほど変わっていない。今回は、その時簡単に説明した、「政府の一部門が資産運用を国債で行うことの意味」をもう少し詳しく説明したいと思う。非常に重要な論点だと考えているが、現在のGPIF改革論議の中では、全く触れられていないからだ。

普通、国債という金融商品は、1つの国家の中で、最も安全な金融商品と見なされることが多い。日本でも同様である。日本は総政府債務の対GDP比率が240%であり、世界でこの比率が一番高い国である。そのため、何か起こったら、金利の急上昇が発生し、財政が破綻してしまうと言われることが多い。そうした警告があっても、日本国債の格付けは、それ以外の債券よりも高く、金利も低い。現在も金利は0.6%強でしかない。なぜ日本国債の格付けが高く、金利が低いのであろうか。その理由は、国債である限り、政府が増税、場合によっては歳出削減により、国債の償還資金を、最後には必ずひねり出すはずだという確信が、日本国債に対する投資家に存在するからである。国家が徴税権を握っているという点が大きい。この点が、他の個人や民間企業と完全に異なる点である。そのため、日本国債は、日本国内で流通している債券の中で、一番安全性が高いと見なされ、金利が一番低くなるのである。

それでも、国債にリスクは存在する。それは金利上昇のリスクである。インフレが定着すると、投資家はインフレによる債券の実質価値の減少を嫌気して、国債への投資を縮小するであろう。この場合、債券価格の下落による債券評価損、売却損を被る可能性が出てくる。この他にも、先に指摘した金利の急上昇、すなわち財政破綻リスクも存在する。財政破綻リスクは、私が最も警戒しているリスクであるが、最後に触れることにする。

国債に金利上昇のリスクがあると言っても、いつ金利上昇が発生するかは、誰にもわからない。しかし、インフレはすでに発生している。遠くない将来に、金利上昇が発生する可能性は高いと考えるべきであろう。従って、GPIFのような巨額の国債を保有する投資家は、現在の低金利の時期に国債を売却し、国債の組入比率を引き下げ、インフレに強い株などの資産の組入比率を増やすべきだという考え方が広まりつつあるのだ。

こうした論争は、かなり昔から行われていた議論である。株価が下落して株の評価損のためにGPIFの資産が大きく目減りした時には、GPIFは株などのリスク資産で運用するのは危険であり、全額国債で運用すべきだという正反対の意見もかなり有力であった。

上記のような考え方は、いずれも標準的な証券投資理論に立脚したオーソドックスな考え方である。この考え方では、国債のリスクを金利変動リスクだけと考える、教科書通りの考え方である。私の考え方は全く異なる。私は、国債のリスクを、ミクロレベルとマクロレベルとで分けて考える。ミクロレベルで見た個人や企業が行う国債での資産運用については、伝統的な証券投資理論を適用してもかまわないと考える。しかし、マクロレベルで見た場合、すなわち、国家、政府、GPIFのような政府の一部門が行う国債運用については、伝統的な証券投資理論は全く成り立たないと考えている。私の考え方では、政府が国債で運用する場合には、その国債は、「全資産損失確定商品」と呼ぶべきだと考えている。以前書いた時の表現は、「全資産損失確定が発生するリスクが最も高い運用手法」であった。厳密に言うならば、後の表現の方が、より正しい。今回は、国債の持つ安全神話を覆すことが目的なので、正確性を少し犠牲にして、より断定的な呼び方にする。GPIFの保有国債には、金利変動リスクのような小さなリスクが存在しているのではない。リスクなどというレベルではない。その資産価値が100%損失してしまうのである。従って、GPIFのような政府の一部門が、国債という「全資産損失確定商品」を保有するという選択肢はあってはならないのである。その理由を説明する。

まず、政府のバランスシートではないが、それに近い種類のものである日銀の資金循環統計、金融資産・負債残高表の政府部門を要約して下記に掲載する。


金融資産負債残高表

一般政府が、広義の政府であり、それが、中央政府、地方公共団体、社会保障基金の三部門に分かれる。社会保障基金は、GPIFが最大であり、それ以外では、国家公務員共済、地方公務員共済など、他にいくつか類似の資産が存在する。中央政府が国債と短期国債、地方公共団体が地方債を発行し、その一部を社会保障基金が運用しているのである。上記の表で色を付けたように、国債とそれに準じる短期国債、地方債は949兆円発行されている。社会保障基金でそのうち
78兆円が運用されている。ここから先では、国債、短期国債、地方債の合計を、単に国債と呼ぶことにする。この78兆円は、私の考え方では、「全資産損失確定商品」であるのだ。

そのことをわかりやすく説明するため、実際の金融資産・負債残高表の政府部門を大幅に簡略化することにする。その簡略化した表を下記に示す。


金融資産負債残高表 簡易版A

「A 金融資産・負債残高表」は、社会保障基金の資産が1000兆円存在し、その資産を国債ですべて運用していると仮定する。中央政府の資産・負債は、負債が国債として1000兆円だけ存在していると仮定する。

(A)の場合、高齢化が進んで、「実際の年金支払金額>社会保険料収入(プラス金利収入は省略)となると、国債の償還分を年金支払いに回す必要が生じる。社会保障基金の国債購入金額が減少し、やがて売り越しになると、政府は資金調達の方法を変更する必要が生じてくる。その方法は、(1)増税、(2)歳出削減、(3)別の主体に国債を保有してもらう、のいずれかしかない。ただ、(3)は、問題の先送りである。問題の先送りが永遠にできるわけではない。日本人の平均年齢が低い間は、GPIFのような社会保障基金や他の金融機関に老後に備えた貯蓄資金が大量に蓄積されてきた。しかし、日本人の平均年齢が高まり、団塊の世代が定年退職しつつある中で、そうした貯蓄が永遠に増え続けることはないのである。近い将来に先送りをやめて、(1)増税か、(2)歳出削減によって、国債発行金額を減らす必要がある。実際には、(1)増税が継続的に実施されると仮定する。

日本では、2002年から、社会保障基金への資金フローは、流入から流出基調へと転換している。そして、2009年からは、社会保障基金による国債の売買についても、買い越しから売り越し基調へと変化している。すでに、社会保障基金から資金が流出し、国債も売り越される年が増えている。それに対応して、実際に政府がとった政策は、(3)別の主体に国債を保有してもらう、であった。しばらくはこの先送り政策をとっていたが、(1)の増税が、この4月1日から、消費税増税という形で開始された。先送りをやめて増税に転じた日が、今年の4月1日の消費税増税開始の日であり、増税は2015年9月にも行われる予定である。上記の仮定は、フィクションではなく、現実を反映した仮定でもある。

(A)に戻り、国民の老齢化が進み、年金支払金額が増加すると、増税が行われるわけである。この場合の増税を国民サイドから見ると、支払いを受ける年金額と同じ金額が、増税によって吸い上げられることになる。(A)の表をよく見ると、社会保障基金に1000兆円の資産があることになっているが、中央政府の1000兆円の国債という負債によって相殺されている。人によっては増税より受け取り年金額が大きい人、増税だけに資金を吸い取られる人、と様々であろう。ただ、国民全体を平均してみると、国民の老齢化により年金支払金額が増えると、それに等しい金額だけ増税が実施されることになるのである。1000兆円もの貯蓄があると思って支払ってきた年金が、年金を受け取る段階になると、増税として同額の資金を政府に吸い取られてしまうのである。

ただこれは、政府サイドから見れば当然である。過去に発行してきた国債は、医療や年金などの費用の支払い、公務員の給料、道路や橋の建設などに使ってきたのである。民間企業とは違って、支払金額以上のリターンの存在する何らかのものに投資してきたわけではない。そもそも、資本主義社会においては、支払金額以上のリターンの存在する何らかのものに投資することは、民間企業の役割である。リターンが存在せず、民間企業が担えない役割を、民間企業に代わって政府が行うのである。過去の国債収入を、リターンのないものに使うことは、政府の役割としては、当たり前のことなのである。従って、国債の満期が来た場合、増税によって資金を調達することは当然なのである。国債は、発行直後に消費などの形で使われてしまい、全資産が損失し、同時に将来の増税が確定するのである。

もう一度国民サイドに戻ると、年金を受け取る段階になると、年金支払金額と同額の増税が実施され、国民一人当たりの平均をとると、年金を一銭たりとも受け取ることができなくなるのである。日本の公的年金は、現在は賦課方式である。しかし、過去においては積立方式をとっていた事情もあり、巨額の積立金がGPIFなどに存在しているのは事実である。これでは、過去において、GPIFなどに貯蓄をため込んできた意味が全くなくなってしまう。

GPIFが資産の100%を国債で運用する場合、こうした現象が必ず発生する。一つの独立した組織と見るならば、GPIFは国債の利子に相当する運用収益を獲得している。しかし、GPIFを政府の一部門と考えると、政府と一体になって、すべての年金資産を損失させているのである。GPIFが保有する国債は、紙切れ(電子記録)にすぎないのである。従って、私は、GPIFが保有する国債を「全資産損失確定商品」と呼ぶのである。

次に、「全資産損失確定」が発生しないような運用方法を示したい。それは下記のように、運用資産を100%対外証券投資、すなわち外国証券で運用する方法である。その簡潔な内容を、下記に「B 金融資産・負債残高表」として示す。


金融資産負債残高表 簡易版 B

社会保障基金1000兆円のすべてを外国証券で運用していた場合は、年金の支払期日が来れば、少しずつ外国の株や債券を売っていけば良い。年金支払いの原資は、外国の納税者か外国の企業が負担することになる。1000兆円の外国証券という資産を少しずつ取り崩して年金支払いにあてればよく、年金支払いのための増税をする必要は全くなくなる。1000兆円の外国への貯蓄を少しずつ取り崩せば良いのである。

しかしこの場合、次のような反論が予想される。政府が1000兆円の国債を発行しているわけであるから、その償還金を増税によって調達しなければならない。年金支払い分は外国から調達するにしても、国債の償還金は、別個に国民に増税して調達する必要がある。それならば、(A)も(B)も違いはないのではないか、という反論である。

これに対しては、次のような反論ができる。日本の場合、発行済国債の91%は日本国内の投資家が保有している。発行済国債の全額を日本国内の投資家が保有していると考えても、それほど大きな違いは発生しない。(B)の場合、表に示したとおり、一般政府以外の国内部門が、1000兆円の国債を全額保有していることが最初に想定されている。1000兆円の国債償還のためには、増税が必要である。しかし、その増税分は、国内の国債保有者へと償還金が移動するだけである。(A)の場合、日本人全体の収入は、年金支払金額-増税額=ゼロである。(B)の場合の日本人全体の収入は、年金支払金額(=外国証券売却代金)+(国債償還金受取額-増税額)=外国証券売却代金となり、外国証券売却代金分だけ国民の収入は増えることになる。従って、(A)よりも(B)の方が望ましいことになる。

(A)と(B)が同じ結果になるためには、(A)の一般政府以外の国内部門が対外純資産を1000兆円持っていることが必要である。しかし、最初に(A)という例を設定した時、そうした前提を設けていないし、前提とすべきでもない。(A)は社会保障基金を国債で運用し、外国証券で運用しなかったために、結果として対外純資産が(B)よりも1000兆円少なくなっているのである。その延長線上として、(B)よりも資産と収入が大きく減ってしまっているのである。

加えて、社会保障基金が過去に資産の100%を外国証券で運用していたならば、円安と輸出拡大、GDP成長率の上昇の結果、国債発行残高が1000兆円にも達するという(B)の想定が、起こりえなかった想定になると考える。国債発行残高は700兆円か500兆円か300兆円かはわからないが、1000兆円よりは小さくなっていたはずである。日本経済の低迷の原因は、キャピタル・フライトが小規模過ぎたことが原因である。社会保障基金による外国証券運用という大規模なキャピタル・フライトが発生していたならば、円安を通じて対外純資産がより増加していただけではなく、国内の財政状況もより改善していた可能性が高いのである。

年金のように長期にわたる受益と負担をモデル化すると、どんなに単純化しても複雑でわかりにくいモデルとなってしまう。上記の考え方も、複雑な現実を大幅に単純化することにより、極力わかりやすくしているつもりだが、十分ではないかもしれない。どうか斜め読みではなく、丁寧に読んでいただきたい。しかし、単純化することにより論理の結果が変わるわけではない。モデルを複雑な現実に合わせることも可能であり、複雑でわかりにくくはなるが、結論は同じである。すなわち、GPIFが運用する国債は、「全資産損失確定商品」となる。その代わりに外国証券で運用した場合は、国債で運用した場合よりも、国民の受益は大きく増加するのである。現在の公的年金が賦課方式であるとしても、GPIFの運用方法により、受け取ることのできる年金支払額が大きく異なってくるのである。

現在のGPIFは、全資産の約60%を国債という資産で運用している。しかし、その60%の部分に、実は資産は存在しないのである。従って、GPIFは国債での運用をやめるべきである。資産を国債から外国証券に移すべきである。

外国証券で運用するなら、何でもOKというわけではない。その際、最も重要なことは、徹底的な分散投資を行うことである。私は、外国株と外国債券で運用する場合は、100%インデックス運用に徹するべきだと考えている。現在GPIFが一部で実施しているアクティブ運用は、長期で見れば、手数料分が損失となる可能性が高い。公的年金の場合は、可能な限りリスクを抑える運用をする必要があるため、インデックス運用が最も適切である。株と債券以外の資産、すなわち、世界の不動産、インフラ、天然資源、ベンチャービジネスなどでの運用は、インデックス運用が不可能である。こうした分野こそは、専門家をこれから養成して、可能なかぎり、ローリスク・ハイリターンの運用を目指すべきである。

国債のように、大半は消費や移転、必要性の高くない投資に使われてしまい、増税以外には裏付けとなる資産が存在しない金融商品が大量に存在する現在の日本経済は、望ましい姿ではない。個人や企業が資産運用を国債で行うことは、ミクロレベルの話であるので、国債を「全資産損失確定商品」と呼ぶことは必ずしも正しくない。国債で資産運用する一個人、一企業で見た場合、国債償還金額>増税金額となる個人、企業が必ず存在するからである。しかし、個人や企業の集合体であるマクロレベル、政府レベル、国民経済レベルで見た場合、国債償還金額=増税金額となり、国債は「全資産損失確定商品」となるのである。そうした国債の存在は、過去においては、需要不足を補い、総需要と総供給を均衡させるために大きな貢献をしてきたことは、間違いない事実である。しかし現在のような対GDP比で総政府債務が240%にも達してしまっている現状は異常である。マクロ的には「全資産損失確定商品」である国債の発行残高は、現状よりずっと少ない方が望ましい。

現在存在する国債は、できるだけ日銀に引き取らせるべきである。その結果として所得や資産価格が上昇し、その後、当然のごとく発生するインフレやバブルを、所得と資産に対する思い切った増税で封じ込め、財政再建を一気にすすめるのが一番正しい道である。日本国債が潜在的に抱える財政破綻リスクを完全に除去するためには、これくらい思い切った政策を採用することが不可欠なのである。そうした政策の一環として、GPIFや他の公的年金などをも含む一般政府の社会保障基金は、国債での運用はやめて、すべて日銀に国債を売却すべきである。国債を売却して獲得した資金は、主として外国証券に対するインデックス運用に回すのが、一番望ましい運用手法となるのである。


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時すでに遅し

貴殿の考えは、個人的にも大筋で賛同。
ただし、GPIFなどが今から外国証券に資金を回すのは愚の骨頂。今の円安水準、株高水準からのこのこ参入するのでは、おカネをドブに捨てるようなもの。
慌てなくても、数年内には前回のリ-マンショック、ソブリンショックのような狂乱相場が再来する。
その時こそ、従来の国債運用から、リスク運用への配分を高めた投資戦略が有効になると考える。

時間分散

80兆円以上の資金を国内から海外に移そうという提案です。実行するなら、1年2年のような短期でやってはいけないし、できないでしょう。10年20年単位の時間をかけるべきです。その際、資産を分散させるだけではなく、ドルコスト平均的に時間をも分散して投資すべきでしょう。今が天井、今が底、といった相場観は排除すべきです。それが本物のインデックス運用、パッシブ運用だと思います

タイミングは重要

見方が分かれるところですかね。
80兆円以上の資金だからこそ、スタ-トが肝心なのです。1ドル100円あたりの円安相場が続いていますが、それこそ10年後20年後の米国は、日本以上の青色吐息の状態に陥っているかと。
だから、分散投資しろと言われそうですが、円相場はドル/円のレ-トがベ-スになりますから、米国の凋落ぶりは他のクロス円レ-トにも影響を与えます。
何も「今が天井」だとはいえませんが、NYダウが史上最高値だなんていっている現状、これからも上に伸びるよりも下へ向かうリスクの方が高いと思えます。
そういった相場観は排除しろというのは、自分から言わせてもらえば無謀です。GPIFなどがそんな無謀な運用をしようというのなら、それは反対ですね。今のまま、国債運用をしながら、来るべき時を待つ方がいい。
まぁ、スタ-ト時点を重要と見るか否か見解の相違でしょう。

GPIFは底値では買えません

1.26億人の日本国民の大切な80兆円超の資産です。

GPIFが世界の株、債券を値下がりしたところで集中的に買うという運用方針を決めれば、しばらく世界中の株と債券の価格は下がりにくくなるでしょう。そして、GPIFが買い始めたとたん、一時的には価格が急騰することになると思います。安値で大量に買うのは、神わざ以上に困難です。

一番安全な運用方法は、銘柄だけではなく、時間も分散させる運用方法です。ただ、時間分散は、100年200年の方が好ましくても、現実的には無理です。現実的な時間分散は10年20年のレベルだと思います。近い将来NYダウのバブルが崩壊するならば、10年20年かけて買い下がればよいのです。時間分散は、銘柄分散とともに、無謀では無く、一番安全な運用方法だと思います。
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