2013年末 対外純資産が過去最高を更新 ドル建てでは減少

5月末に、日本の2013年末の対外純資産が公表される予定である。その推計値がすでに発表されている。財務省によると、2013年末の対外純資産の推計値は、327.4兆円となっている(5月27日追記 2013年末の確定値 325兆円)。対外純資産の推移を表すグラフを下記に示す。

対外純資産円

上記の327.4兆円という数字は、財務省による推計値である。一方、日銀の資金循環統計からも対外純資産の推計が可能である。資金循環統計からの推計では、財務省の推計値を少し下回る数字になる。

しかし、昨年の場合、財務省の推計値は確定値を12.9兆円も上回っていた。従って、財務省と日銀の推計値は、あまりあてにならない。それでも、2013年末の対外純資産は、2012年末の296.3兆円を上回り、過去最高を更新することだけは間違いない。

今回と同じような内容をほぼ1年前にも書いている。その時、「円安が止まって株高が進行した場合、対外純資産は減少する」と警鐘を鳴らした。そのことが半分現実のものとなった。すなわち、2013年末の円建ての対外純資産が過去最高であることは間違いない。しかし、ドル建ての対外純資産は2012年末より大きく減少することも間違いないからだ。ドル建ての対外純資産の推移を表すグラフを下記に示す。


対外純資産ドル

2012年末のドル建て対外純資産は、2011年末を少し上回って過去最高となった。しかし、2013年末のドル建て対外純資産は、2012年末比で9.7%もの大幅な減少となる。確定値では、より大きな減少率になる可能性も残されている(5月27日追記 確定値 2012年末 3兆4326億ドル、2013年末 3兆0844億ドル、前年比 3482億ドル、10.1%の減少)

5月末に発表される対外純資産は、「過去最高」と報道されるはずである。しかし、それは円建てで見た場合であり、ドル建てでは大きく減少する。原因は日本の株高である。そのメカニズムをもう一度説明したいと思う。

私は、経常収支を黒字にして拡大させること、対外純資産を増やすことが必要であると繰り返し主張し続けてきた。人によっては、そうした考え方は、重商主義的な考え方であり、正しくないと批判するであろう。私の考え方は、17~18世紀の重商主義とは全く異なる。

1957年にクローサーという人が、国際収支発展段階説という考え方を発表した。クローサーの説によると、日本は、国際収支の6つの発展段階の最終段階である第6段階の債権取崩国の段階に入ろうとしている。すなわち、今までにため込んできた対外純資産を取り崩すという最終段階である。第6段階では、経常収支の赤字が定着し、対外純資産は減少し続けることになる。

私は、一般論としては、クローサーの説に否定的である。クローサーの説が当てはまらない国が世界の大半であり、当てはまる国が非常に少ないからである。しかし、クローサーの説が非常によく当てはまる数少ない国が、日本であると考えている。最近の経常収支の赤字化を外国と比較して、「問題なし」と捉える意見もある。経常赤字が問題とならない国がいくつも存在することは間違いない。しかし、日本の場合は、経常収支の赤字転落が大問題となるのだ。

クローサーの説が日本に当てはまるとすれば、日本は今後、今までにため込んだ対外純資産を取り崩し続けることになる。しかし、対外純資産を取り崩し続けたその先はどのようになるのであろうか。論理的に考えた場合、対外純資産は減少し、対外純債務国へと転落し、対外純債務が拡大し、その最終的に行き着く先は国家破綻ということになる。

日本は、金額ベースで見れば、世界最大の対外純資産を保有しながらも、経常収支は赤字へと転落しつつある。そして、ドル建てで見た対外純資産は、すでに減少に転じている。長期で見た場合、日本社会の超少子高齢化、人口減少が進んで貯蓄が取り崩されると、資本の対外流出から対内流入へと変化する圧力がかかる。国内の輸出産業という供給サイドの崩壊が進行すると、経常収支の赤字拡大を増やす圧力がかかる。残念ながら、クローサーの説から、日本は逃れることができそうにないのである。問題はそのスピードである。経済の老齢化が避けられないとしても、老齢化の進行速度は緩やかにすることは可能である。そのためには、現時点においても、可能な限り経常黒字と対外純資産を増やし続ける努力を続けることが望ましく、必要であると考えている。

経常黒字、対外純資産の拡大が必要であるという観点から、2013年に発生した対外資産・負債の変動要因を分析する。昨年も使用した日銀の資金循環統計を使用して説明することにする。資金循環統計を使った経済分析はよく見かけるが、ここでの分析は「調整表」というものを使った分析も含まれている。調整表を使った経済分析は非常にまれである。初めて見る人は、すぐに理解できないかもしれない。ただ、考えながら読んでみれば、それほど難しい内容ではない。わかりにくくとも重要な内容が含まれていると考えるので、我慢して読んでいただきたい。

最初に、海外部門のストック表である金融資産・負債残高表の2012年末、2013年末時点のものを下記に掲載する。


金融資産負債残高

海外部門が持つ資産・負債が計上されている。従って、日本から見た場合は、資産と負債の位置が正反対になる。表の中で特に重要な項目に色をつけている。

薄赤色で示した金融資産・負債差額の(符号を逆にした)319.9兆円が、対外純資産に近い数字である。定義では、この金融資産・負債差額に金、SDRを加えた数字が対外純資産となる。2013年末の場合、金、SDRにIMFリザーブポジションを加えた数字の合計が6.7兆円である。そこから対外純資産を推計すると、最初に書いた通り、327.4兆円を少し下回る金額となる。

2013年末の(符号を逆にした)金融資産・負債差額は、2012年末比で、30兆円増加している。主な項目は、薄緑色で示した対外証券投資の478.7兆円である。この項目は、後で示すように、フローで見た場合はマイナスであるのだが、円安と外国株高の影響で、ストックで見た場合、年間71.9兆円も増加している。一方、薄黄色の株式・出資金が、2013年末で171.8兆円、前年比71.8兆円の大幅増となっている。海外部門から見れば資産、国内から見れば負債サイドにある株式・出資金の金額が大幅に増えている。仮に、株式・出資金が増えなかったと仮定したならば、対外純資産は、追加で71.9兆円増加していたのである。

次に、海外部門のフロー表である金融取引表を下記に掲載する。


金融取引表

資金過不足が2.6兆円のマイナスとなっている。この定義は、「-(経常収支+資本移転等収支)」である。資本移転等収支の金額は小さいので、普通なら経常収支という理解でよい。ただ2013年は、資本移転等収支の赤字が無視できないくらい経常黒字の金額が小さかった。昨年1年間で、経常収支と資本移転等収支の合計で2.6兆円の黒字を記録したのであった。対外証券投資は、2012年に
14.1兆円の増加であったものが、2013年には2.5兆円の減少に転じている。前回も示した通り、普通ならば増加するはずの対外証券投資が、プラスからマイナスに転落したのである。一方、海外投資家の怒濤のような日本株買いの結果、株式・出資金は17.3兆円増加した。これは、上場会社の株式だけではなく、非公開会社の株式、出資金への投資をも合計した金額である。昨年は、海外部門の株式・出資金への投資金額は、過去最高の17.3兆円にまで増加したのであった。

次に海外部門の調整表を下記に掲載する。


調整表

調整表は、資産・負債残高の中で、価格変動の結果生じた資産・負債の増減に、統計上の不都合を加えた数字である。大部分は、株価の変化、為替レートの変化といったものを原因とする価格変動分である。

2013年の海外部門の調整差額はマイナス27.5兆円である。これは、株価や為替レートの変化の結果、日本の資産が27.5兆円増加したということを意味する。その中で主要な項目は、対外証券投資の74.4兆円である。これは、大部分が円安、一部は外国株式の株価上昇により、対外証券投資が74.4兆円増えたことを意味する。一方、株式・出資金が54.5兆円増加している。これは、昨年、日本の株価が大幅に値上がりしたため、海外部門の資産が54.5兆円増えたという意味である。日本から見れば、株価の大幅な上昇の結果、負債が54.5兆円も増えてしまった=損失が増えたのである(5月27日追記 確定値 株の値上がりプラスその他要因で対外純資産は50兆3560億円減少)。過去に何度も指摘してきたように、日本の株価が上昇すると、日本の対外純資産は減少するという構造になっているのである。

次に、株式・出資金の調整額がどのように変化してきたかを表すグラフを下記に示す。


株式出資金調整勘定

株式・出資金の調整額とTOPIXの前年比変動率は、大体において一致している。株価が上昇すると、株式・出資金の調整額の金額も拡大し、その分、対外純資産は減少することになる。

次に、対外証券投資の調整額がどのように変化してきたかを表すグラフを下記に示す。


対外証券投資調整勘定

対外証券投資の調整額は、名目実効為替レートと外国株の平均株価の影響を受けやすいはずである。しかし、過去数年間は、ドル円レートの変動率と非常に似た動きを示している。円安になれば、対外証券投資の調整額は増加するのである。

ただしこれは、円建てで見た場合だけであり、ドル建てで見た場合、対外証券投資の調整額に変化は少ししか起こらない。日本の株価の上昇は、円建てで見ても、ドル建てで見ても、対外純資産の減少要因となる。しかし、円安は、円建てで見た場合のみ、対外純資産の増加要因であり、ドル建てで見た場合には、対外純資産の増加要因にはならない。このことが、2013年末のドル建ての対外純資産が大きく減少した最大の原因であるのだ。

次に、調整表に戻って、海外部門の(符号を逆にした)調整差額の推移を表すグラフを下記に示す。


調整差額

調整差額は、株式・出資金調整額や対外証券投資調整額などの合計である。直近では、株高を上回る円安の影響で、調整差額は増加している。2001年に調整差額が大きく増加した原因は、円安と株安が同時に発生した結果である。対外純資産は、経常収支よりも、株価や為替レートの変動の合計に近い調整差額に大きく影響されるのである。

日本の株価の上昇は、日本の対外純資産を減少させる。これを防ぐためには、国内投資家が大量の日本株を売り越すのではなく、買い越すように誘導する政策をとる必要がある。

前回も示したように、2012年11月に政権交代による金融緩和期待が発生し、2013年4月に異次元金融緩和が実施されて以降、国内投資家は日本株をひたすら売り越し続けた。これは、国内投資家が、株価が上がれば必ず売るというヒステリシス(*1)の病気におかされていることを意味する。今年に入って、海外投資家が少しばかり日本株を売り越しており、その結果株価が下がると、国内投資家は株を買い越している。しかし、今年に入っても、国内投資家は、株価上昇局面では必ず株を売り越すという鉄則を、全く変えていない。

国内投資家が、株価が上がれば必ず売るというヒステリシスの病気におかされた原因は、バブル崩壊後の金融緩和が、長期間あまりにも不足していたことが原因である。金融緩和が長期間不足し続けた結果、株価は右肩下がりとなった。そうした環境下で、株で利益を獲得するためには、「株価が上がれば必ず売る」という手法を死守することが最も合理的な投資戦略となる。国内投資家のヒステリシスを是正するためには、従来と正反対に、極端な金融緩和を実施する必要がある。日銀が国債の買い越し金額を増やすことにより、国内投資家の予想、期待に働きかけるだけでは、ヒステリシスの病気を打ち破ることはできない。日銀が発行済みの国債をガンガン買い取り、国内投資家の手元から国債が消え失せ、0.1%以下の銀行預金が大きく増加するところまで金融緩和を強化する必要がある。国内投資家が保有する預金の金額が大幅に増加し、日本の国債を買うことができなくなれば、その時になってようやく、国内投資家の資金は株へと流れていくのである。他の国であれば、そこまで極端な金融緩和をしなくても、株に資金は流れていく。しかし、日本の場合、株価が上がれば株を売るという強固なヒステリシスが形成されている。こうしたヒステリシスを打ち破るためには、普通ではない極端な金融緩和策が必要となる。

一人でも多くの日本人が、株式市場がバブルとは正反対の、国内投資家が株価が上がれば必ず株を売るというヒステリシスの病気におかされていることを理解する必要がある。対外純資産を維持するためには、追加の金融緩和を実施し、国内投資家の資金を再び株式市場に呼び戻すことが必要である。追加金融緩和を実施した結果、インフレとバブルが発生すれば、増税を繰り返すことにより、財政再建を急速に進めれば良い。クローサーの予言する不都合な将来が訪れるのを防ごう。そのためには、普通では考えられないくらいの強力な追加金融緩和が実施されることが必要であるのだ。

日本の株式市場のヒステリシス(*1)

テーマ : 経済
ジャンル : 政治・経済

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