経済成長と財政再建を両立させる政策 国債市場を殺せ

日本の財政状況が悪化している。政務債務は増加し続け、その大部分を占める国債の発行残高の増加が止まらない。最初に、国債発行残高の推移を表すグラフを下記に示す。

国債発行残高

今回使用する統計は、統計数値が複数存在するものが多く、実際に数値が異なっている。特に今まで頻繁に使用してきた国際収支統計の数値とは差があり、姿がかなり違って見えるものが存在する。それでも今回は、日銀の資金循環統計の数値に一本化して使用することにする。国債発行残高は2013年末で827兆円にものぼっている。

次に、国債発行残高の毎年の増加額を表すグラフを下記に示す。


国債発行残高純増額

2009年はリーマンショック直後の年であり、大規模な景気対策が打たれた年である。にもかかわらず、国債発行残高はこの年だけは減少している。理由は、2009年は、短期国債の発行残高が大幅に増えた年であるからだ。短期国債をも含めた場合、2009年の国債の発行残高は大幅に増加していた。

国債の発行残高が毎年増加し、金利の急上昇と財政破綻の懸念が出ている。これほど巨額の国債が発行された場合、そうした懸念が生じるのは当然である。中には、財再破綻は必死であるので、ハイパーインフレを引き起こして借金をチャラにするしかないという意見も存在する。消費税率を30%にまで引き上げる必要があるという意見もある。どちらの政策を採用しても、日本経済が大変大きな打撃を受けることは間違いないと思う。

国債の発行残高が大きすぎることは大問題であるが、すでに多くの人たちに知れ渡っている事実である。しかし、問題はそれだけではない。多くの人たちが気づいていないところで、巨額の国債発行残高は、日本経済に大変大きな悪影響を及ぼしているのである。それは、巨額の国債発行が引き起こすクラウディングアウトというべき現象である。国債の発行があまりにも巨額なものとなった結果、本来、他の部門に回るべき資金が、国債市場に吸い取られているという現象である。特に、リスク資産に回る資金が全く不足している。日本国内には、全体として余剰資金があふれているのにもかかわらず、その余剰資金が日本国債や預貯金などの無リスク資産への投資に粘着するようにくっつき、離れようとしない。巨額の国債発行の結果、リスク資産への資金流入が、クラウディングアウトされているのである。クラウディングアウトの過程で、名目金利が上昇していないために、見えないだけである。リスク資産に資金が流れていかないため、日本経済の成長を阻害する大きな原因となっている。

国債に粘着するようにくっつき、離れようとしない投資家の動向と、今までの日銀による国債購入拡大政策の効果を見ることにする。国債の主要な投資家別の売買動向を表すグラフを下記に示す。


投資家別国債売買

上記のグラフを見れば、日銀の国債購入政策が、効果を上げているように見える。2013年年間の日銀による国債購入金額は、51兆円であった。一方、先のグラフで示したとおり、昨年1年間の国債発行残高の増加額は、44兆円であった。一般的には、日銀は国債発行分の70%を購入していると言われている。しかしそれは、カレンダーベースでみた市中発行国債の70%近くを日銀が購入しているという意味であり、国債の償還分を考慮に入れていない。2013年は、国債の償還分をも考慮に入れると、日銀は、国債発行残高の年間増加額を7兆円上回る金額の国債を購入していたのである。見方によれば、国債の買いすぎである。しかし、私の目から見ると、日銀による国債購入金額は、あまりにも不足しすぎているのである。

次に、国債の主要な投資家別の国債保有残高を表すグラフを下記に示す。


投資家別国債保有高

上記のグラフは、ストックベースのグラフである。日銀の国債保有残高は急激に増えつつあるが、生保などの投資家は、以前と変わらないペースで国債の保有金額を増やし続けている。先に示したフローのグラフを見てわかる通り、年金、生保、投信といった日本を代表する機関投資家は、依然として国債を買い越しており、国債の保有残高を増やしつつあるのである。

それでは、日本の投資家は国債以外の資産保有をどのように変化させているのであろうか。まず日本株に対する投資の推移を表すグラフを下記に示す。


国内投資家の日本株投資

今まで何度も使ってきた統計は、東証が発表している統計で、流通市場に限った統計である。日銀の統計は発行市場での買いも含んでいるので、東証の統計よりも、売り越し金額が大幅に少なくなっている。以前、日銀の株式売買の統計は、誤差の多い統計で信用できないと批判したことがある。しかし、代わりに、誤差のより少ない統計を示すことができないので、やむをえなく使用した。従って、他の統計にも誤差はあるが、この統計にはより大きな誤差があるかもしれないことは、頭に入れておいていただきたい。ただ、2013年に国内投資家による日本株の売り越し金額が過去最高になったことは、間違いのない事実である。

次に、国内投資家による対外証券投資の推移を表すグラフを下記に示す。


国内投資家の対外証券投資

2012年以前の国内投資家は、少なくとも日本株よりは、外国証券に対する投資の方が良いものと考えていたはずである。日本株は、配当を考慮に入れても、長期間の投資収益率がマイナスであるのに対し、外国証券は、為替差損を被っても、利子や値上がり益を合計すれば、必ずしも投資収益率はマイナスにはならなかったからである。しかし、2013年に、国内投資家による外国証券の売買は、売り越しへと転換している。

次に、海外投資家による日本株、日本国債の売買の推移を表すグラフを下記に示す。


海外投資家の対内証券投資

日銀の金融緩和に反応して、日本国債を売り越す一方、日本株は大量に買い越すようになった。グラフにはないが、今年に入って、海外投資家の日本株の売買は売り越し基調になっている。海外投資家が買わないと、日本の株価は上がらなくなってしまうのは、バブル崩壊後23年間以上続く不変のパターンである。

2012年11月14日から金融緩和の強化の予想が市場に広まり、2013年の4月4日に異次元金融緩和の実施により、金融緩和の強化が現実のものとなった。それに反応して、海外投資家は日本株を大挙して買い越し始めた。一方、国内投資家は、日本株と外国証券を売り越し始めた。

しかし、2013年年間の国内投資家の売却金額は、国債が10.7兆円、日本株が15兆円、外国証券が2.4兆円であり、その合計は28.1兆円である。この資金の大部分が確定利回りの預金に預けられ、それが回り回って日銀の当座預金残高となっている。昨年末時点の日銀当座預金の残高は107兆円であった。これが今年の年末には175兆円にまで増える予定である。ただこれだけでは、金融緩和の効果が顕在化するかどうかはわからない。国内投資家は、相変わらずリスク資産への投資を避け、預金に資金を集め、銀行を通じて当座預金残高として積み上がるだけになるかもしれないからだ。

昨年は、海外投資家の大活躍で、海外から日本株へと資金が移動し、株価が大きく上昇した。同時に、海外投資家は、円安進行のリスクを押さえるために日本から資金を借り入れ、その円を売って、円売りというショートポジションを作り、円安進行の大きな原動力となった。しかし、国内投資家の資金は、日本株、外国証券などのリスク資産から国内の預金などの無リスク資産への移動が発生した。その結果、ネットの資金の移動が、昨年末から海外から国内への流入超過となった。それが意味するところは、日本の経常収支は、必然的に赤字化するということである。

海外から国内への資金流入は、経常収支の赤字を通じて、所得の減少をもたらす。こうしたネットでの海外からの資金流入超過は、阻止しなければならない。そのためには、国内の余剰資金を海外に大規模に流出させる仕組みを作る必要がある。しかし、異次元金融緩和は、そうした仕組みを作ることに完全に失敗した。

2013年末の827兆円の国債発行残高のうち、日銀以外が保有する国債の金額は、683兆円であった。日銀が、今年、50兆円の国債を購入したとしても、650兆円以上の国債が、日銀の外に間違いなく残る。これはGDPの130%以上にもおよぶ巨額の資金のブラックホールが存在し続けることを意味する。この国債市場というブラックホールから資金を無理にでも引き出し、海外へと資金を流出させることが必要である。資金がネットで海外に流出すれば、金融収支が黒字化(以前の言葉を使えば、投資収支が赤字化)し、金額の少ない資本移転等収支と誤差脱漏を無視した場合、経常収支の黒字復帰が間違いなく実現する。金融収支の黒字拡大と並行して経常収支の黒字が拡大することは、国際収支という統計の定義なのである。

ブレークインフレ率の動きを見て、債券市場においては、内外の投資家のインフレ期待が少しばかり高まったことを確認することができる。しかし、為替市場、株式市場における国内投資家の予想は、円安株高が続かないという予想が続いているという事実を忘れてはいけない。国内投資家は、2013年に、15兆円という過去最高の金額の日本株を売り越したのである。また、国内投資家は、従来、恒常的に外国証券を買い越してきたが、2013年に、2.5兆円の売り越しに転じたのである。異次元金融緩和は、国内投資家の円安株高期待を形成することに、完全に失敗した。異次元金融緩和は、海外投資家の予想を円安株高に変えたが、国内投資家の予想をそれとは正反対の円高株安に変えたのである。円安株高を国内投資家の手によって実現させるために、現状の異次元金融緩和という手段を使って期待に働きかけ、円安株高の予想を作り出すことは、2年という短い期間では不可能なのである。金融緩和がインフレ期待を引き上げることができるとしても、国内投資家が短期間の間に、円安株高期待を持つように誘導することは不可能なのである。従って、円安株高を国内投資家の手によって短期間で実現させるためには、期待に働きかけるだけでは不十分である。もう少し強引な別の政策が必要なのである。

現在、国債市場においては、日銀による国債購入の大幅拡大策は、国債市場を機能不全に陥れる大変誤った政策であり、日本経済を機能不全に陥れる危険な政策であるという意見が当然視されている。従って、追加金融緩和があったとしても、国債市場の機能を低下させない程度、すなわち国債の購入金額の増加は最小限度に止めることが当然であると語られている。日銀が国債の購入金額を増やしすぎると、国債の流通量が低下し、いざという時には国債を売れなくなり、資金ショートなどの大変なことが起こるという話が大まじめに語られている。これは
100%デマである。日銀による国債購入の大幅拡大に反対する人たちは、巨大な国債市場というブラックホールを維持し、それで現在のメシの種を維持しようとする国債村の守旧派である。日本は、このような守旧派による誤った宣伝戦略により、成長への道を自ら閉ざしてはならない。

日本経済の諸悪の根源は、国債市場がブラックホールのように膨張しすぎ、経済成長に必要な部門に資金が回っていないことである。日本経済を成長させる一番確実な方法は、国債市場を殺すことである。その具体的な方法は、日銀以外が保有する国債が683兆円存在している中で、日銀が購入する国債の金額を年間50兆円の純増から大幅に拡大することである。年間200兆円の純増、仮に3年半続けた場合には、残りの国債を全額購入が可能な計画を立てるべきである。この計画は、後に示す通り、大きな障害があり、実現不可能である。ここではとりあえず、実現可能と仮定して議論を進める。

日銀が無理をしてでも国債を購入することにより、リスクのない運用をしたいと国債にこびり付いている国内投資家を、無理矢理にでも国債から引きはがすことができると想定する。昨年、国債を買い越した年金、生保、投信という機関投資家から、日銀が力まかせで保有国債を全額買い取るのである。機関投資家は、一旦、売却した国債代金を、銀行預金などの無リスク資産に預けることになる。しかし、機関投資家が、大量の資金を金利が0.1%以下の無リスク資産に長期間預けたままだと、逆ざやが広がり、存続不可能になる。頼りの国債は日銀が買い占めており、買うことができない。その場合、日本の機関投資家は、資産の何割かを、嫌々ながらも外国証券の購入に回さざるをえなくなる。これが実現すれば、この時こそ大幅な金融収支の黒字拡大が実現する。金融収支が大幅な黒字になると、経常収支は定義として大幅な黒字になる。

経常収支が必然的に黒字になるとしても、現在の日本は供給サイドが弱体化しており、短期間に経常黒字を増やすことのできる金額には限度が存在する。2007年の経常黒字は25兆円、対GDP比で4.9%であった。そこまでの拡大なら、足下の需給ギャップが仮にゼロだとしても、3年半の時間があれば、所得収支の黒字の若干拡大に加えて、輸出数量の拡大と輸入数量の縮小を通じて、実現が可能だと思う。

その場合、輸出増強にしろ、輸入代替にしろ、経常黒字を拡大するためには、国内生産を増やす必要がある。そのためにまず必要とされるのは、人手である。現在の人手不足は、超人手不足となり、賃金の上昇とインフレを引き起こす。そして日銀の大量の国債購入は、資金の一部が株や土地の購入にも回るので、バブルを引き起こすことになる。しかしこれを財政再建の絶好の機会とみて、資産の保有と売買、所得や消費などに対する税金を大幅に引き上げれば良い(*1)。インフレとバブルの進行は緩やかになるが、税収が急激に拡大し、財政収支の黒字化が実現可能となる。この場合でも、増税の痛みは当然ある。しかし、所得と資産の価格上昇が発生しており、所得と資産の価格上昇分の何割かを税金として吸い上げるのである。従って、増税の痛みは大きく相殺されるはずである。消費税単独の引き上げという痛みしか存在しない政策とは違うのである。

この政策を実施するにあたっての最大の問題点は、金融収支の黒字拡大が経常収支の黒字拡大を導くため、途中で、大幅な円安が発生することである。足下では、円安進行の過程で、経常収支の悪化が進行している。そのため、経常収支の黒字化と黒字拡大が進行する際には、緩やかな円安ではなく、急激で大幅な円安の進行が発生せざるをえないのである。日本国内においては、円安による輸入価格の急上昇という痛みが発生するが、一時的なものであり、GDPが増加するとともに賃金が上昇し、痛みを上回ることになる。対外純資産も急激に増加する。

しかし、大幅な円安が発生する過程で、外国からは、「一国繁栄型の近隣窮乏化政策」と激しく非難されることは間違いない。日銀が国債の購入金額を大幅に拡大した結果、大幅な円安が進行した場合、日本という一ヶ国だけは繁栄が可能であるということは、グローバルスタンダードの考え方では常識なのである。しかし、長年、日本周辺のアジア諸国による超円高・アジア通貨安という近隣窮乏化政策により、日本は経済の供給サイドが大きく弱体化してしまったこともまた事実である。政治力の弱い日本が、外国からの非難をはねのけ、そうした政策を続けることは、実際問題としては不可能であろう。日本は、円安誘導が目的ではなく、デフレ転落への防止や財政再建などの国内目標を達成するために必要な金融緩和の強化をしているという看板を掲げ続けるしかない。海外からの近隣窮乏化の非難を最小限に抑える努力をしながら、国際社会で許されるギリギリ可能なところまで、日銀は国債の購入金額を拡大すべきである。具体的には、年間200兆円の国債純増を決定すると、円レートが急激に円安の方向に飛びすぎて、国際社会の非難の声が一挙に高まり、国債購入を続けられなくなる可能性がある。従って、年間の国債純増の金額を100兆円にとどめ、全力を挙げて近隣窮乏化の非難を押さえながら、100兆円純増の目標を死守することがより現実的だと思う。

日本経済を再生させるためには、日銀が国債購入金額を可能な限り拡大させることが最低限必要である。その結果、国内資金が海外にネットで大規模に流出し、円安を通じて経常黒字とGDPが同時に大幅に拡大する。そしてその結果として発生するインフレとバブルを増税によって封じ込めるのである。ハイパーインフレを起こせば、借金は帳消しにできるが、日本経済も同時に死んでしまう。金融政策の援護なしに、消費税率を30%にまで引き上げるだけの政策を採用した場合、消費税を段階的に引き上げる過程で、デフレ不況が深刻化して税収が減少し、金利が急上昇し、やはり日本経済は死んでしまう。金融緩和のみ、財政緊縮のみで、日本経済の成長と財政再建を同時に達成することは不可能である。超円高とモノのデフレ、資産のデフレにより窮乏化しすぎた借金大国を救う一番痛みの少ない政策は、可能な限りの金融の超緩和、その後に実施する財政の超緊縮という政策の組み合わせしかない。

超金融緩和、超財政緊縮の政策を採用しても、日本経済の将来がバラ色になることは100%あり得ない。日本は過去において、長年にわたって金融政策を誤り続け、同時に国債の大量発行という先楽後憂の仕組みを作り上げてしまった。憂いをなくす政策は存在せず、憂いを一番小さくすることができる政策が、超金融緩和、超財政緊縮という政策であるにすぎない。日本一ヶ国だけは繁栄が可能であるということが、グローバルスタンダードでは常識であることは間違いないが、超金融緩和をしなかった場合との比較で栄えるだけであり、日本経済の成長率が今から大きく上昇することはないのである。超高齢化、人口減少、巨額の政府債務を抱える日本経済の将来は、イバラの道しか残されていないのである。その中で、トゲに刺さって痛みを感じることが一番少なくなる政策を採用するしかない。その政策の第一段階が、日銀による国債購入金額を大幅に増やすことにより、ブラックホールのように日本経済を蝕んできた国債市場を殺すことなのである。


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