日銀ウォッチャー報告(2014年4月号)

マネタリーベース平残の推移201403(グラフ)

2014年3月の季節調整済のマネタリーベース平残は、前月比で2.2兆円増加し、213.1兆円になった。

マネタリーベース平残の推移201403(表)

上記の表に示した通り、季節調整済のマネタリーベース平残は、2012年12月の白川体制の末期から増加基調が明確になり、昨年11月までは高い増加率が続いていた。昨年12月に、前月比増加率はマイナスとなったが、1月、2月と再び高い増加率に戻った。3月の前月比増加率は、多少低くなった。

3月の市中資金は、1.4兆円の不足であった。そこに、国債の購入6.6兆円、短期国債の購入8兆円、貸出支援基金による貸し出し3.3兆円、共通担保オペの回収1.8兆円などを中心とした金融調節により、合計16兆円の資金が供給された。金融調節後の市中資金は、14.6兆円の資金余剰になった。この資金余剰のため、当座預金残高は、2月末の114兆円から、3月末の128.7兆円へと、14.6兆円増加した。この当座預金残高の増加を反映して、3月の季節調整済のマネタリーベース平残は、前月比2.2兆円増加の213.1兆円になった。当座預金残高と季節調整済のマネタリーベース平残の増加に大きな差がある理由は、3月のマネタリーベースは増加しやすく、特に月末の残高は増加しやすいという季節要因があるためである。

先月号で予想した3月の資金調節で大きく読み違えたのは、貸出支援基金による貸出金額であった。貸出支援基金の中で多くを占める、貸出増加を支援するための資金供給は、昨年6月が3.2兆円、9月が0.9兆円、12月が1.1兆円であった。2月18日の日銀金融政策決定会合で貸出支援基金の拡充が決定された。しかし、その適用は6月からであり、3月は旧来のスキームで実施されることになっていた。そのため、昨年9月、12月以上に貸し出しが増えることはないと考え、貸出支援基金による貸し出しは1兆円と予想していた。ところが、蓋を開けてみると、貸出支援基金のうち、貸出増加を支援するための資金供給は3.5兆円の貸し出しとなり、昨年6月を上回る過去最高の貸出金額となった。理由を考えると、貸出支援基金という固定金利0.1%、期間は最大で4年という好条件で、日銀から借り入れることができるという制度の存在の認識が、銀行の経営陣に薄かったからと思われる。2月18日の金融政策決定会合後に、貸出支援基金の拡充策が大きく報道され、貸出支援基金の存在が広く知れ渡った。その結果、従来、枠を使い切っていなかった銀行の経営陣が、貸出支援基金の利用を考えるようになり、貸し出しが増加したのであろう。先月号では、貸出支援基金についての日銀と黒田総裁によるあいまいな説明を激しく批判した。しかし、黒田総裁は、貸出支援基金の存在を銀行の経営陣が忘れていると考え、2月18日発表の金融決定会合の「当面の金融政策運営について」と会合後の記者会見で、貸出支援基金の存在を強くアピールすることを考えていたようである。


日銀BSとMB(実績と予想)201403

通常は、上記の表に、月末のバランスシート残高を示してきたが、今月は、バランスシート残高の公表が遅いので、3月20日時点のバランスシート残高を示した。上記の表のように、今年の年末時点におけるマネタリーベースの予定残高は270兆円である。残り9.3ヶ月間で増やすので、マネタリーベース末残は、月間5.4兆円の純増が必要である。

4月の市中資金は、6.9兆円の不足となる。4月の資金供給については、国債の購入が6.6兆円と想定する。購入国債の残存年限が長期化し、償還が減りつつあるので、3月と同様に、国債購入のスピードを従来より少なくすると考えるからである。短期国債の購入は、3月と同額の8兆円と想定する。貸出支援基金による貸し出しについては、4月は大きなものは予定されていない。この結果、4月の資金供給は、2つの合計で14.6兆円となる。4月末のマネタリーベース末残は、前月比7.7兆円の増加と予想する。必要額の5.4兆円を上回ることになる。季節調整済のマネタリーベース平残は、前月比で7.7兆円を上回る金額の増加になると予想する。

昨年4月4日に実施された異次元金融緩和の評価については、(*1)で詳しく説明した。その時指摘した金融緩和がもたらしている異常現象が、国際収支面に存在し続けている。今月号もその続編として、現況を伝えたいと思う。

今年1月から、国際収支関連統計が準拠するルールが、IMF国際収支マニュアル第5版から第6版へとバージョンアップされた。細かなルール改訂が多いが、特に従来の資本収支の多くが金融収支として再編された。ただ、金融収支では、従来の項目の符号が反対になり、慣れるまでは相当使いづらくなりそうである。その上、2013年以前の数字は、貿易収支、サービス収支については遡及改訂がなされた数値が発表されている。ところが、金融収支については、プラスマイナスの符号が変わっただけであり、遡及改訂がなされた数値は、現時点では発表されていない(財務省によると、遡及改訂の数値を発表するかどうかは現在検討中とのこと)。そのため、統計の連続性という意味では問題が生じる。

1月からの統計を、新ルールで見た場合の最大の変更点は、従来の証券投資の数字には貸借取引が含まれていたのに対して、新ルールでは証券投資の数字には貸借取引が含まれないことである。この改訂は、非常に大きな影響がある良い改訂である。従来は、貸借取引によって証券投資の数字が大きくブレることがあったが、2014年1月以降については、その心配をする必要がなくなる。

国際収支201403

上記の表は、「経常収支」と「誤差脱漏」だけが従来と同じ符号であり、「直接投資」、「証券投資」、「金融派生商品」、「その他投資」、「外貨準備増減」の項目は、従来と符号が反対になっている。見るだけでも頭が混乱してしまいそうである。時間をかけて慣れるしかない。

2012年11月以降、大胆な金融緩和が確実になると、海外投資家は、怒涛のごとく日本株を買い始め、国内投資家は、日本株を売り始めた。国内投資家は、日本株だけではなく、外国株をも大挙して売り始めた。その結果として、2012年11月-2014年1月の国際収支表における「証券投資」は、31.5兆円もの巨額の赤字になった。これは、大変大きな円高要因である。にもかかわらず、円高ではなく、円安方向に動いた原因の一つは、「直接投資」が継続して黒字になったことである。しかし、それ以上に大きな原因は、「金融派生商品+その他投資-誤差脱漏」の項目が大幅な黒字になった要因も大きい。この項目の黒字は、2012年11月-2014年1月に、12.9兆円にのぼっている。「金融派生商品+その他投資-誤差脱漏」の数値は、長期で見れば、ゼロに近づく。従って、遠くない将来に、少なくとも12.9兆円の赤字、すなわち、円買い外貨売りが発生することになる。これに加えて、この間、外為特会での為替先物の買いを、外国証券の買いに移し替えるという操作、すなわち、「その他投資」の黒字を「外貨準備増減」の黒字に移し返るという操作が、395億ドル、約4兆円強存在していた。この特殊要因を除けば「その他投資」の黒字は4兆円強拡大していたはずである。従って、「金融派生商品+その他投資-誤差脱漏」の黒字は実質約17兆円ということになる。この金額に相当する海外投資家による為替先物を使った円のショートポジションが存在する可能性が高い。これは、大変大きな潜在的な円高圧力が存在していることを意味する。

1月に入って、海外投資家による日本株の売買が、売り越し基調になっている。海外投資家は、代わりに短期国債を大量に購入しており、「証券投資」の赤字自体は拡大している。2月以降は、資金の流れが一方的な流入ではなくなり、「証券投資」の数字の絶対値は小さなものとなっている。

17兆円にのぼる円のショートポジションの大部分は、ヘッジファンドの投機的な売りではなく、日本の株や債券などを合計で268兆円前後(2013年末現在)保有している海外投資家の円資産に対するヘッジ売りのポジションである可能性が高い。この大量の円のショートポジションを持つ海外のヘッジャーたちが、何らかの円高要因が発生した場合、17兆円の円のショートポジションを一気に買い戻してくる可能性が存在する。この場合、急激な円高が発生する可能性を否定することができない。現在の円安は、こうした海外のヘッジャーたちが持つ円の先安予想という非常に脆弱なものに支えられているのである。仮に、急激な円高が発生した場合、株価は暴落し、消費税増税の悪影響に苦しむ日本経済は、一気に以前の超円高、株安、デフレ不況の世界へと戻ってしまう。これは最悪のシナリオであり、発生する可能性は、最大で20%であると考えている。しかし、一旦、発生してしまえば、異次元金融緩和の効果をゼロにするほど非常に大きな悪影響を及ぼす。従って、発生する可能性を限りなくゼロに近づける必要がある。そのためには、追加の大規模な金融緩和を実施し、国内の余剰資金を海外に流出させ、「証券投資」を黒字化し、累積赤字を減少させ、累積黒字にまで誘導することが一番望ましい。「証券投資」の黒字を使って、「金融派生商品+その他投資-誤差脱漏」の将来の赤字を解消するのである。

1月の国際収支を見ると、経常収支の赤字が拡大する一方、「直接投資」の黒字も拡大基調が続いている。これは、以前述べたことがある「空洞化シナリオ」の状態である。これが継続する場合、「直接投資」の黒字が拡大し、上記の「金融派生商品+その他投資-誤差脱漏」の黒字も解消されていく。しかし、「直接投資」の拡大に伴い空洞化が進行し、経常収支の赤字拡大も止まらなくなる恐れがある。これが継続した場合、超円高という最悪のシナリオの発生を避けることは可能になる。しかし、この場合の円安は、経常収支の赤字を拡大させ、GDPを縮小に向かわせる悪い円安である。最悪のシナリオではないが、2番目に悪いシナリオである。現在のところ、国際収支の動向は、この2番目に悪いシナリオの方向に向かって進みつつあるようだ。この空洞化シナリオの発生も、極力回避しなければならない。それを防ぐための対策は、円の急騰を防ぐための対策と同じである。追加の大規模な金融緩和を実施し、国内の余剰資金を海外に流出させ、「証券投資」を黒字化し、累積赤字を減少させ、累積黒字にまで誘導することが一番望ましい。その結果、「直接投資」の黒字減少、「金融派生商品+その他投資-誤差脱漏」の黒字減少、経常収支の黒字復帰と黒字拡大を達成することが可能になる。この場合、大幅な円安が発生し、「直接投資」の黒字は縮小に向かい、経常収支は黒字化し、黒字が拡大するようになる。大幅な円安の発生過程で、輸入品価格の大幅上昇という副作用が生じるが、経常収支の黒字復帰、黒字拡大が定着すれば、GDPは増え、副作用を上回ることになる。

こうした経常収支の黒字復帰、黒字拡大を目指す政策を実施する上で、一番大きな障害となるのは、外国からの「一国繁栄主義の近隣窮乏化政策」という批判である。日本は、日本周辺のアジア諸国による現在も続く近隣窮乏化政策の結果、見事に窮乏化してしまった(*2)。その窮乏化を取り戻そうとすると、「近隣窮乏化政策」の非難を逆に浴びるのである。これは、過去においても現在においても、日本が、日本周辺のアジア諸国による極端な自国通貨安誘導という近隣窮乏化政策の悪影響を認識することなく、自国が窮乏化するのを放置してきたという政策の誤りの帰結である。

大規模な追加金融緩和の実施は、日本が周辺国の富を奪って一国だけ成長をはかるという、日本にとっては良くても、諸外国にとっては悪い政策というのが、諸外国の多数派の意見である。一方、日本国内の反リフレ派は、大規模な金融緩和は、「日本の繁栄」ではなく、「日本の破綻」をもたらすと考えているようだ。これは、日本国内では多数派であっても、世界的に見れば、少数派の意見である。異次元金融緩和の第二弾は、諸外国の多数派が考えているように、少なくとも日本一国は繁栄させることを可能にする政策なのである。2012年11月から超円高の修正が始まったとたん、2013年1月のダボス会議で、日本は為替操作をしているという批判の声が巻き起こった。海外投資家が、2012年11月以降、日本株を大量に購入する一方、円のショートポジションを大量に積み上げてきたのも、金融緩和の強化が、円安と株高を通じて、日本経済の回復につながると確信しているからである。一方、現在も続く日本周辺のアジア諸国による近隣窮乏化政策に悩まされている日本としては、異次元金融緩和の第二弾の実施により、超円高・アジア通貨安の解消をはかることくらいは、最低限実現させなければならない政策目標であるはずだ。

大規模な追加金融緩和実施の最大の難点は、諸外国からの政治的な非難の声である。従って、大規模な追加金融緩和を実施しようとしても、政治的に実施が難しくなるケースが考えられる。政治力の弱い日本は、円安誘導という本音を隠し、「インフレターゲットの実現」を前面に打ち出して追加金融緩和を実施するしかない。その点、これからしばらくは、「インフレターゲットの実現」に加え、「消費税増税が景気に及ぼす悪影響を回避する」という名目で、異次元金融緩和の第二弾を実施することができる。「消費税増税の悪影響回避」という大義名分があるので、「近隣窮乏化政策」の非難を受けにくくなる。

異次元金融緩和の第二弾は日本経済を破綻させるという、諸外国ではほとんど通用しない論理で、追加金融緩和を実施しないのは、大変大きな誤りである。「日銀による追加金融緩和」は、日本経済を改善させるということは、諸外国では常識とも言える政策である。消費税増税前後の時期というのは、政治的、外交的に見た場合、異次元金融緩和の第二弾を実施する絶好のチャンスであり、決して逃してはならない時期であるはずだ。

関連記事
異次元金融緩和の効果(*1)
購買力平価から見た円相場 超円高による産業の空洞化(*2)


テーマ : 経済
ジャンル : 政治・経済

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