地価の下落がもたらす財政破綻とその回避策

3月18日に、2014年の公示地価が発表された。最初に、その推移を表すグラフを下記に示す。

公示地価

公示地価の全平均である、「全国全用途平均」は、前年比0.6%のマイナスであった。1991年を頂点とするバブル崩壊後の最安値であり、23年にも及ぶ土地のバブル崩壊が、依然として終了していないことを見せてくれた。

日本では、全国平均の地価が23年間もほぼ継続して下落し、最安値を更新しているという事実が、ほとんど問題になっていない。まず、全国紙の見出しが、「公示地価、3大都市圏で6年ぶり値上がり」といった内容が多く、正確な事実さえ伝わりにくくなっている。そして、局地的でも地価の上昇が発生していることを問題視して、「バブルの芽を封じ込めよ」という内容の社説を掲載する全国紙もあった。世界の常識から完全にはずれた、日本特有の思考形式である。

これが、いかに異常な思考形式かを示すために、日・米・英・スウェーデンの地価の比較をすることにする。なぜ、比較対象がこの3ヶ国であるのかというと、この3ヶ国が、土地や住宅価格の長期のデータが容易に入手可能な国であるという、非常に消極的な理由である。しかし、この3ヶ国は、日本と同様に不動産バブルとその崩壊を経験しており、比較する意味のある3ヶ国でもあると考えている。ただ、アメリカのケース・シラー住宅価格指数は、アメリカで最も幅広く利用されている住宅価格指数であるが、最も長期のデータが存在する10都市の平均でも1987年1月からのデータしか存在しない。そのため、これから示すいくつものグラフは、1987年1月、または1987年を基準点、すなわち100としたグラフである。基準点とするには、最適であるということはできないが、最古の時点であるので、やむをえなく基準点として選択した。そして、全国の更地と住宅価格を同様に扱うというやや乱暴なこともしている。こうした違いがあることを頭に入れながら、多少の誤差があるのを覚悟の上、比較を試みた。

まず、日・米・英・スウェーデンの地価の推移を表すグラフを下記に示す。


地価

見てわかるとおり、米・英・スウェーデンの地価が順調に上昇しているのに対して、日本だけが、継続して下落している。アメリカとイギリスは、2006年-2007年頃まで住宅バブルが進行し、その後バブルが崩壊して、リーマンショックという金融危機を引き起こした。一方、スウェーデンの不動産バブルの頂点は、日本と同じ1991年であった。その後1993年までバブル崩壊が続くのだが、その後は日本とは正反対に、ほぼ継続的に地価が上昇し続けている。

米・英・スウェーデンは、日本と同様に不動産バブルとその崩壊を経験したのだが、日本との最大の相違点は、地価の下落期間が短期間であり、その後は継続的な地価の上昇が復活していることである。長期間、地価の下落が継続しているのは、日本だけである。

日本人の目からすると、現在の米・英・スウェーデンの地価の方こそがバブルではないかという疑問を持つ人がいるはずだ。それを調べるために、地価指数を、名目GDPをデフレーターとして使って、実質化することにする。GDPデフレーターではなく、名目GDPを使う理由は、地価は名目GDPが成長し続ける限り、土地の生産性は上昇し、モノの価格以上に上昇することは当然であるからだ。しかし、地価が名目GDPの上昇率を超えて上昇した場合、すなわち、地価の対名目GDP比率が上昇し続けると、いずれ必ずバブルへと発展するのである。従って、地価の対名目GDP比率のことを、ここでは実質地価と呼ぶことにする。

次に、4ヶ国の実質地価の推移を表すグラフを下記に示す。


実質地価

実質地価で見ても、日本の下げ率の大きさは一目瞭然である。米・英・スウェーデンの直近の実質地価は、名目の地価ほどには上昇していない。アメリカは1987年1月を14%下回り、スウェーデンは24%、イギリスは13%上回っている。一方、日本は47%下回っている。グラフで表示されている34年の期間を眺めてみても、4ヶ国の中で、日本だけが異常に下げすぎである。アメリカも水準は少し低めであり、バブルからはほど遠い。イギリスとスウェーデンは過去34年間の中で高めの位置にある。ただし、高めであっても、過去最高を下回っており、バブルとまでは言えないと思う。今後も、実質地価が継続して上昇し続けた場合には、間違いなくバブルへと発展するであろう。現時点では、まだその少し手前に位置していると思う。

先にも書いたとおり、日本は2つの点で異常である。すなわち、地価が長期間下がり続け過ぎているという事実と、局地的でも地価が上昇すると「バブル」と呼ぶ心理が、異常なのである。局地的でも地価が上昇すると「バブル」と呼ぶ心理は、病的な心理であることを認識する必要がある。この心の病を認識して治療し、今後はモノの価格だけではなく、地価も同様に引き上げることが必要不可欠であることを理解すべきである。

地価が大きく下がった場合、実体経済に間違いなく悪影響を及ぼす。その中で最も悪影響が大きいのは、財政赤字の拡大である。地価が下がると、財政赤字の拡大につながりやすい。この「風が吹けば桶屋が儲かる」のように見える事実関係の間に、論理的な因果関係があることを示したいと思う。

まず、4ヶ国の実質GDP成長率の推移を表すグラフを下記に示す。


実質GDP

経済成長は、財政再建に貢献するとよく言われるが、必ずしも正しいとは言い切れない。財政状態が最悪の日本が、実質GDP成長率が最低であるのは当然かもしれない。しかし、後ほど示すように、財政状態が最も健全なスウェーデンは、実質GDP成長率に関しては、アメリカ、イギリスよりも低いのである。

次に4ヶ国のGDPデフレーターの推移を表すグラフを下記に示す。


GDP def

GDPデフレーターが10数年間マイナスが続いているのは日本だけである。日本だけが異常なのであり、他の3ヶ国が、普通なのである。

次に、名目GDPの上昇率の推移を表すグラフを下記に示す。


名目GDP

日本は4ヶ国の中で、名目GDPの伸び率が飛び抜けて低い。実質GDPの伸び率の低さも一因であるが、GDPデフレーターがマイナスの期間が長く続いた影響の方が大きい。2番目の原因として、地価などの資産価格の低下があげられる。地価が上昇すると消費が増えやすくなるという資産効果、それと反対の逆資産効果が考えられる(*1)。すなわち、地価が上昇し続けると、名目、実質GDPも増加しやすくなり、逆に地価が下落し続けると、名目、実質GDPも増加しにくくなる。

地価の変動のより大きな影響は、財政の歳入面に現れる。GDP統計における一般政府ベースでの政府の歳入の推移を表すグラフを下記に示す。


歳入

日本の歳入の伸び率が飛び抜けて低い。この間、消費税の増税や、社会保険料の継続的な上昇が続いている。そうした歳入増加策があったのにもかかわらず、実際の歳入の伸び率は非常に低い。これも、名目GDPの伸び悩みが大きな原因の一つである。しかし、地価などの資産価格が下落した影響も大きい。地価が上昇して企業がその土地を売却した場合、企業の土地売却益は、GDPに加えられることはない。しかし、他の所得による損失と相殺される場合を除いては、法人税がかかり、税収は増える。一方、地価が下落する場合、土地の売却損がGDPから控除されることはない。しかし、企業が、他で所得を獲得している場合には、本来なら他の所得にかかるはずであった法人税が、土地売却による損失分だけ控除され、納入する法人税の金額が少なくなる。また、地価が上昇し続ける場合、個人が獲得する土地の譲渡所得は、GDPに加えられることはないが、税収そのものを増加させることに違いはない。先に指摘した、地価の変動が資産効果、逆資産効果を通して名目GDPを変動させ、その結果として税収が変動することもある。つまり、地価が上昇する局面では、名目GDP以上に税収が増えやすくなり、地価が下落する局面では、名目GDP以上に税収は減りやすくなる。税収は、名目GDPに影響されるが、それにプラスする形で、地価などの資産価格にも大きく影響されるのである。

次に4ヶ国の歳出の推移を表すグラフを下記に示す。


歳出

日本の歳出の伸び率が一番低い。この原因の一つは、モノのデフレの結果、歳出が実体以上に低く見えることである。ただ、同時に、日本は、他国との比較では、無駄な歳出をガンガン増やしたのではないことも事実である。社会保障関連の支出は確かに増えているが、他の3ヶ国と比べて、歳出全体の伸び率は低い。なお、スウェーデンは、歳出の伸び率がアメリカ、イギリスよりも低く、同時にスウェーデンの歳入の伸び率とも近い。これは、スウェーデンが財政再建に強く取り組んできたという要因が大きい。しかし、日本の歳出は、歳出削減によって財政再建を強力に進めてきたスウェーデン以上に伸びていないことも事実である。

次に、財政赤字の対GDP比率の推移を表すグラフを下記に示す。


財政赤字

スウェーデンの財政赤字の少なさが目立つ。スウェーデンよりももっと歳出の伸び率を抑えた日本が最悪である。アメリカ、イギリスは、リーマンショック以前はまずまずだったが、その後急速に悪化した。それでも、2010年以降は、財政再建が急速に進んでいる。日本は、スウェーデンとは正反対に、バブル崩壊後、財政赤字の拡大傾向が、一時期を除いて続いている。

次に、政府純債務の対GDP比率の推移を表すグラフを下記に示す。


政府債務

財政赤字と同様に、日本の悪化ぶりが目立つ。日本の場合、1991年以降、政府純債務の増加のグラフと、地価の下落のグラフとが見事なまでに対称的な動きを示している。地価の下落は政府純債務の増加を引き起こす原因であり、「風が吹けば桶屋が儲かる」といった偶然ではない。しかし、地価の下落だけが政府純債務の増加の原因ではない。従って、ここまで高い対称性には、「風が吹けば桶屋が儲かる」といった偶然が含まれているはずだ。

4ヶ国の中で、スウェーデンの財政状態が抜群によい。普通、スウェーデンは財政再建に真剣に取り組み、日本は真剣に取り組まなかったことが原因とされる。しかし、日本は、スウェーデン以上に歳出の伸び率が低かった。歳出は他の3ヶ国ほどは伸びなかったが、日本の歳入よりは伸びた結果、財政状態は最悪になった。財政再建に取り組んだのは、日本もスウェーデンも同じであるが、日本は失敗し、スウェーデンは成功したのである。日本が失敗した理由は、スウェーデンとは異なり、財政再建が成功する環境が存在しなかったことが大きく影響している。

日本とスウェーデンの財政状態に決定的な差がついた環境とは、価格という環境の差である。スウェーデンは、モノのデフレに陥らなかったが、日本ではモノのデフレが長引いた。モノのデフレは、富を、債務者から債権者に移転させる。日本における最大の債権者は高齢の資産家たちであり、債務者は政府である。モノのデフレは、高齢の資産家に対してデフレ減税を大規模に実施したことと同じである。害しかない大減税が密かに長期間実施されていたのである。もう一つは、資産価格の差である。土地を例にとると、1991年に土地のバブルが頂点に達した後、日本の地価はその後23年間、ほぼ継続的に下落し続けてきた。一方、スウェーデンは、1991年に地価が頂点をつけた後、1993年までは下落したが、1994年以降はほぼ継続して上昇し続けている。この地価という資産価格の継続的な上昇が、歳入の増加に貢献しただけではなく、不況の拡大を防ぎ、財政再建に伴う痛みのバッファーにもなったのである。その結果、財政再建を進めることが政治的に可能となったのである。日本は、地価や株価が下落している中、1997年に消費税を増税して不況を誘発し、財政再建は失敗に終わった。地価などの資産価格が上昇し続けていたならば、消費税増税の結果としての消費不振を資産効果による消費増加がかなりの程度相殺し、財政再建を続けることが可能であったと思う。日本も、スウェーデンのように1994年以降、ほぼ継続して地価が上昇し続けていたならば、財政再建は成功に向かっていたはずである。

2009年は、リーマンショックの影響により世界的な景気後退が発生した年である。この年の地価の変動率は、日本-3.5%、アメリカ-13.0%、イギリス-7.4%、スウェーデン+2.0%であった。一方、財政赤字の対GDP比率は、日本-10.4%、アメリカ-12.9%、イギリス-11.3%、スウェーデン-1.0%であった。アメリカ、イギリス、日本は2009年の地価が下落したが、スウェーデンだけは地価が上昇した。スウェーデンも2008年-2009年は景気後退となったが、地価が下がらなかったスウェーデンは、景気後退を短期間に克服しただけではなく、財政収支の悪化を最小限にとどめることに成功したのである。日本では、地価の下落率はそれほど大きくはなかったが、超円高・株安という別の資産価格の変動を容認したため、大変大きな不況が発生した。不況で歳入が大きく落ち込む中、財政支出拡大により不況をくい止めようとしたため、財政赤字は一気に拡大し、財政再建は完全に挫折したのである。

安定的なモノと地価などの資産価格の継続的な上昇は、不況の発生を防ぎ、それでも発生してしまった不況の悪影響を最低限に抑えることを可能にする。モノと地価などの資産価格の継続的な下落が続いた日本では、しばしば不況が発生し、歳入が減少する中で、財政支出拡大という景気刺激策がとられ、財政赤字が拡大し、財政再建が挫折したのであった。これは、日本がモノと資産価格、特に地価の下落をあまりにも長期間放置し続けてきたことが原因であった。

地価の下落が定着すると、金融政策の効果が小さくなる。異次元金融緩和は2013年4月ではなく、それより20年前の1993年4月に実施されるべきであった。1993年4月実施ならば、相当大きな効果を上げることが可能となり、失われた20年は存在しなかったはずである。しかし、2013年4月ではあまりにも遅すぎた。長引く資産デフレの結果、国民のリスク回避性向が極端に高まってしまったからである。20年遅れたからには、効果のある金融政策を実施するためには、より大規模な金融緩和が必要になってくる。

追加の異次元金融緩和を何度も繰り返せば、間違いなく地価は上昇してくるはずだ。これは日本経済にとって非常に良いことであり、必要なことである。しかし同時に、問題点も必ず発生する。人口減少下での地価は、全国で平均的に上昇するのではなく、人口減少率の低い地域のみが急激に上昇することが間違いないからである。私は、(*2)の後半部分で、地価の上昇率が高い地域の土地の保有や売買に対する増税を提案した。こうして、異次元金融緩和を大幅に上回る金融緩和を実施し、同時に地価が上昇する土地に対して重点的に増税を実施したならば、土地のバブルを抑制することが可能になるはずである。

従来の日本、特に日銀においては、とんでもなく誤った宗教が信じられていた。日銀が国債購入を増やすと、政府は安易に歳出を増加させ、財政赤字が拡大し、ハイパーインフレが発生し、日本経済は破綻するという宗教である。これは、1932年-1949年という準戦時経済体制、太平洋戦争という国家総力戦、敗戦による経済の崩壊という特殊な環境の下で発生した事実であり、一般化してはいけない事実である。日銀の国債購入は、アメリカ、イギリスのようにバブル崩壊直後ではなく、バブル崩壊から10年も経過した2001年からとあまりにも遅すぎ、同時に金額が小さすぎた。その結果が、モノのデフレと円高、株価の下落、そして、23年にも及ぶ地価の継続的な下落である。地価の下落だけは、現在進行形である。こうした環境下では、財政再建を不可能にする不況の発生が避けられない。政府債務を累積させ、世界ではギリシャと並んで最も悪く、歴史的にも1945年と変わらないくらいまで財政状態を悪化させた最大の主犯は日銀であった。日銀が財政破綻につながると誤った宗教を信じた結果、日銀による国債購入を遅らせ、財政を破綻寸前にまで追い込んでしまったのである。

日銀は、いい加減にこの誤った宗教を100%放棄しなければならない。黒田体制になって、変化はあった。しかし、審議委員の話などを聞くと、これ以上の金融緩和は副作用が大きいと話すなど、現状以上の金融緩和はなんとしてでも避けたいという、白川体制の頃と全く変わっていない内容の話が多すぎる。国債をもっと買おう。ガンガン買いまくり、発行済国債を全部日銀が買い占めよう。そうすれば、地価は必ず上昇に転じる。そして地価が上昇する土地に対する税金を大きく引き上げよう。このような増税こそが、税収を増やし、財政再建を可能にしてくれるのである。モノのインフレが発生すれば、所得税を引き上げ、消費税の追加引き上げも考えても良い。

増税という財政再建策が可能になる条件は、モノや資産の価格が上昇することである。価格が上昇している間は、価格上昇率を抑制するという名目で、増税の実施が可能になり、実際に財政赤字が縮小する。そのことは、アメリカ、イギリス、スウェーデンの経験と、財政赤字を表す先に示したグラフが証明している。一方、モノや資産の価格が下落する局面での増税は、景気をいっそう悪化させるだけで税収は増えず、財政赤字をかえって拡大させてしまう。その事実は、日本の経験と、歳入と財政赤字を表す先に示したグラフが証明している。財政赤字拡大と政府債務拡大の先には、金利の急上昇という財政破綻への道しか残されていない。

あまりにも長期間、日銀が誤った宗教を信じ続けた代償は大きすぎる。代償の具体的な中身は、日本経済の老化現象という治療がほとんど不可能な病気を、10年以上前倒しで発生させたことである。今さら、金融緩和を強化しても、もはや取り戻せないものが多すぎる。それでも、少しでも多くのものを取り戻すためには、日銀が国債を大量に購入し、地価の引き上げを目指すことは、最低限必要である。それを実施した場合でも、取り戻すことができないものが多いため、日本経済の再生には不十分であるかもしれない。しかし、増税という財政再建策が可能になり、金利の急上昇による財政破綻だけは、最低限、回避することが可能になる。従来の日銀が、財政破綻を引き起こす禁じ手としてきた大規模な国債購入策こそが、財政破綻寸前に陥っている現在の日本の財政を再建へと導く唯一の政策であるのだ。

個人消費不振の真の原因(*1)
インフレ抑制とバブル防止を利用した財政再建策(*2)


テーマ : 経済
ジャンル : 政治・経済

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