空回りする金融政策 効果を発揮する金融政策への転換

今年に入って、消費税増税後をにらんだ駆け込み需要により、足元の景気動向は非常に堅調である。生産はピークを超えたであろうが、販売は3月いっぱいは堅調であろう。では、昨年までの景気は、何が原因で回復し続けていたのであろうか。統計をよく観察してみると、昨年の景気回復の原動力は、明らかに財政支出の拡大が最大の貢献をしていた。金融政策の効果はどうであるかを考えると、水面下では大きな効果を発揮しているにしても、表面に現れて数値化され、誰にもわかりやすい部分での効果は、非常に限定的なものでしかない。

反リフレ派は、金融緩和に効果がないと、今でも元気に主張し続けている。現時点では、景気回復が順調に続いているので、その声が世論一般に広く受け入れられてはいない。しかし、反リフレ派が現在でもピンピンして元気でいるのには、大きな理由がある。それは、昨年までの景気回復において、金融政策の寄与度が極めて小さなものであったからだ。リフレ派は、景気回復の原因は、金融政策の結果であると主張している。この論争に関しては、私は、反リフレ派の主張により多くの真実が含まれていると考えている。昨年1年間、特に昨年後半においては、金融政策は、ごく一部しか効果を発揮していない。その根拠を、次に説明することにする。

まずは、過去3年間の実質GDP成長率の推移を表すグラフを下記に示す。


実質GDP

2013年に入って、実質GDPはプラスの成長率が続いている。大胆な金融緩和を先取りして円安株高が発生したのが、野田前総理が衆議院の解散発言をした2012年11月14日である。そして、大胆な金融緩和が具体的なものとして現実化したのが、2013年4月4日の異次元金融緩和の開始である。2013年に入って、実質GDP成長率が大きく増加したことは事実である。しかし、2013年後半になると、実質GDP成長率は鈍化している。

次に、過去3年間の実質GDP成長率、それに寄与した公需(政府最終消費支出+公的固定資本形成+公的在庫品増加)、および、「GDP-公需」のグラフを下記に掲載する。


GDPと公需の寄与度

薄水色の棒グラフが、実質GDP成長率を表す。その右の黄緑色の棒グラフが、公需を表す。2013年に入ってから、公需はGDPに対して高水準の寄与度を示している。昨年後半に限っても、比較的高い寄与度を示している。その右の薄赤色の棒グラフが、「GDP-公需」である。昨年前半は、大幅なプラスの寄与度を維持していたが、昨年後半から、寄与度はマイナスに転落している。GDPのプラス成長、公需の大幅な増加、「GDP-公需」のマイナス成長、これが意味するところは、昨年後半のGDPの成長は、多くは公共投資という形態をとり、一部は社会保障という形態をとった政府支出、すなわち公需によって支えられた成長であるということだ。仮に、公需の増加率がゼロであった場合、実質GDP成長率は、2四半期連続のマイナス成長となり、アメリカ流の定義で言えば、景気後退が発生していたことになる。そうした景気後退の発生を食い止めることができたのは、公共投資を中心とする公需の増加があったからである。昨年後半は、公需の増加がなければ景気後退に陥っていたのであり、金融政策は目に見えるプラスの効果を少ししか発揮していないのである。

次に、なぜ「公需がなければ景気後退」という状況になったのかを、GDPを民需と外需に分けてみることにする。


内外需の寄与度

内需=民需+公需である。薄赤色の公需も含めた内需は、比較的強い増加率を維持している。しかし、黄緑色の外需が昨年後半に大幅なマイナスになり、薄水色のGDP成長率を大きく引き下げている。外需、すなわち輸出よりも輸入が大きく増加し、内需による成長を不可能にしているのである。

次に、民需を(民間最終)消費、住宅(投資)、(民間企業)設備投資に分けたグラフを下記に示す。


民需の寄与度

薄水色の民需は、前のグラフで示したとおり、堅調な推移を示している。その中で健闘しているのは、薄赤色の消費である。これは、後に示すが、資産効果の影響が大きい。黄緑色の住宅は、GDPの3%しか占めないので、健闘してはいるが、大きく寄与することはできない。しかも昨年の後半は、消費税増税前の駆け込み需要がプラスに働いている。薄橙色の設備投資であるが、これは、過去1年間、プラスを維持しているが、寄与度が小さいままである。

このように、2013年後半の景気は、外需はマイナスであり、民需の伸びは高くなく、明らかに公需によって、かろうじてプラスの成長率を維持してきたのであった。

次に広義の賃金である雇用者報酬(「賃金+企業の社会保険料負担」×雇用者数)の、少し長めの推移を表すグラフを下記に示す。


雇用者報酬

直近において、名目の雇用者報酬は増えているが、インフレ進行の結果、実質雇用者報酬は伸び悩んでいる。消費の元となる雇用者の実質報酬は、あまり増えていないのである。それにもかかわらす消費が好調な理由は、株高による資産効果の影響が大きい。以前、日本の消費は、個人の保有する資産金額が増えないので低迷が続いていることを示したことがある(*1)。直近の株高による資産効果は、過去と比較した場合でも、大きいほうである。高齢の資産家が、株価の値上がりのため、高額商品を大量に買っているようである。なお、1997年4月の消費税増税後に、雇用者報酬が大きく落ち込んだ推移は、上記のグラフで確認していただきたい。

次に、インフレ率の変動を、GDPデフレーターで見ることにする。


GDPデフレーターの推移

GDPデフレーター上昇率が、消費者物価上昇率より低めに出ることは、昔から変わっていない。日銀の物価目標は、消費者物価で前年比2%上昇である。しかし、異次元金融緩和を実施する際、必要なマネタリーベースの金額を算出するために、マッカラムルールの式に使用したGDPデフレーターの値は、1%(実質GDP成長率=+2%、名目GDP成長率=+3%)であったはずである。日銀は、GDPデフレーターの目標を1%と置いているのである。GDPデフレーターは、国内物価だけの上昇率を示すものであり、輸入物価の上昇分は差し引かれる。

GDPデフレーターは、野田前総理の解散発言があった2012年10-12月期には-0.7%であったが、2013年10-12月期は-0.3%になっている。デフレの幅は縮小しているが、依然としてマイナスである。消費者物価上昇率が、1%を超えて上昇しているにもかかわらず、GDPデフレーターがマイナスである理由は、昨年末までのインフレの全てが、国内生産品の値上がりではなく、輸入品の値上がりに依存したインフレであることの証拠である。消費者物価は日銀の予想通りに順調に上昇しているが、その大元の原因は、円安を通じる輸入インフレであった。4月以降は、賃金上昇の明確化と消費税増税の結果、GDPデフレーターも2%以上の上昇に転じるであろう。しかし、円安が進行しないかぎり、輸入インフレの分は、値上がり幅が低下してしまう。消費税増税分を除く消費者物価の上昇率は、賃金上昇率+輸入物価上昇率に近くなる。4月以降は、円安進行がなければ、賃金上昇率は上昇しても、輸入物価上昇率は低下するので、その合計が、大きく上昇する可能性は低いと言わざるをえない。

以上、見てきたとおり、現在の日銀の金融政策は、目に見える効果については、一部しか発揮できていない。景気回復への寄与度の中で目立つ点は、株高を原因とする消費の拡大である。しかし、これは、株価が継続して上昇し続けないかぎり、その勢いは失われてしまう。物価の上昇も、金融緩和が原因であるが、円安が進行したからこそ可能であった輸入インフレである。輸入インフレは、円安進行が止まれば、消えてしまう。

ここで重要な点は、金融緩和の効果が、「見える形では」現れていないということである。見えないところでは多大な効果を上げている。私は、金融緩和の結果としての円安株高が、景気回復に非常に大きく寄与してきたと繰り返し書いてきた。異次元金融緩和を実施しなかった場合と比較すると、実質GDP成長率を大きく引き上げたことは間違いない。異次元金融緩和が実施されなかった場合、日本経済の供給サイドは超円高によって今よりもはるかに弱体化し、日本経済はどうしようもないほど没落してしまっていた可能性が高い。

例えば、シャープという会社は、今のところすぐに倒産するような状況には置かれていない。理由の一つは、円安の直接的な影響により、営業利益が拡大したからである。もう一つの理由は、円安の結果として株高が発生したため、約1400億円にも及ぶ増資が可能となったからである。2012年11月以降も、円高株安が続いていたならば、シャープは間違いなく、倒産か外資系企業に買収されていたであろう。そして今頃は、ソニーとパナソニックのどちらが先にシャープ化するかで大騒ぎになっていたはずである。しかし、2012年11月以降の円安株高により、シャープ、ソニー、パナソニックは、倒産という現象からは、かなり遠くなっている。円高により回復不能の大打撃を受けた部分は、現在でも回復してはいない。それでも、倒産の可能性が大きく低下したことは、金融緩和とその結果として生じた円安株高の大変大きな効果である。しかし、この話は、「仮に円高株安が継続していたならば、日本経済は、より大きく弱体化していたはずだ」というタラレバのつく話である。従って、理論的、科学的には正しいのであるが、普通の人たちに対する説得力が大きいとは言えない。金融緩和の大きな効果であっても、「目に見える効果」ではないのである。

2012年11月以降の円安進行の結果、貿易赤字は拡大している。因果関係としては、円安にもかかわらず、貿易赤字が拡大していることを(*2)で説明した。経済現象は複雑である。いくつかの現象の間の相関関係を見つけ出すことは難しいことではない。しかし、因果関係を正確に説明することは、簡単ではないことも多い。特に、相関関係がない場合に、因果関係が存在することを、万人に対して説得力のある形で説明することは非常に難しい。そのため、経済学者、エコノミストの間で、経済に対する見方が大きく分かれてしまうのである。意見が分かれるだけではなく、誰もが、万人に対して説得力のある正しい説明ができないことが多いのである。2012月11月以降に円安→輸出拡大・輸入縮小→貿易収支の赤字縮小・黒字への転換→実質GDP成長率の拡大、という現象が発生していたと仮定する。それならば、円安が貿易黒字を拡大させ、実質GDPの拡大につながったという、わかりやすくて説得力のある説明が可能になる。この場合、反リフレ派は、白旗を揚げるしかなかったであろう。

しかし、実際には、円安発生の後、貿易赤字は拡大し、実質GDP成長率を引き下げたのである。また、「円安にもかかわらず、貿易赤字が拡大」という私の説明は、私個人の考え方であり、リフレ派の中でも、説明の仕方はバラバラである。「貿易赤字は時間がたてば縮小する」、「貿易赤字の拡大は騒ぐほどの大きな問題ではない」、「貿易赤字の拡大を問題視するのは、重商主義的な考え方であり、誤りである」。こうしたリフレ派のバラバラな意見が広まると、普通の人が聞いた場合、「円安が貿易赤字を拡大させ、実質GDP成長率を引き下げている」という反リフレ派による、正しくはなくともシンプルな因果関係の主張が、より広く正しいと世論一般に受け入れられる余地が生じてくるのである。

景気回復が継続するかぎりにおいては、世論一般のリフレ政策に対する支持率が下がることはないと思う。結果よければ、すべてよし、なのである。しかし、目前において、消費税増税という大変大きな不確実性のある政策が実施に移される。仮に、ここでつまずき、景気回復に変調をきたすようになれば、普通の人たちの、リフレ政策、リフレ理論全体に対する信用も同時に大きく失われてしまう可能性が高くなる。消費税増税は以前から決定されていた話である。反消費税増税のリフレ派も多い。しかし、リフレ派の最高のリーダーである、黒田日銀総裁、岩田副総裁は、消費税増税の積極推進派であり、消費税増税が、リフレ政策に害を及ぼすほどの大きな悪影響をもたらすことはないと、繰り返し主張している。私自身は、消費税増税の景気に対する悪影響を非常に大きく評価しながらも、消費税増税自体には賛成するという、非常に理解を得られにくい少数派の立場に位置している。このような場合、原因が消費税増税であろうと、なかろうと、景気回復が思わしくなくなってくると、反リフレ派からの批判は間違いなく強まる。「リフレ派が主張していた円安株高の後、景気回復が続くことはなかった」、「円安になっても輸出は減少し、景気の足を引っ張っている」、「従来の景気回復は財政政策の結果であり、リフレ政策の結果ではなかった」、「リフレ政策という壮大な社会実験は完全に失敗した」、という様々な批判が、正誤とは無関係に、普通の人たちに対して強い説得力を持つことになるのである。

「現在の景気回復に対して、異次元金融緩和は、少なくとも、目に見える形では、効果を少ししか発揮していない、景気回復は、主として財政政策のおかげである。」という事実を、リフレ派は認めるべきである。金融政策の効果が現れるまで2年必要であるとよく言われるが、2年というのは最長である。株高による資産効果は、株高開始直後から始まっており、株高が続かなければ、時間がたつうちに消えてしまう。実質金利の低下の効果が発揮されるまでは、2年近くかかるであろう。ただ私の意見では、実質金利の低下という伝統的な金融政策の効果は小さい。「金融政策は馬を川に連れていくことはできるが、馬に水を飲ませることはできない」という伝統的な考え方は、全く誤った考え方であるが、実質金利低下の効果に対する反論に限った場合、かなりの程度の真理を含むと考えている。

異次元金融緩和が開始されて1年近くたつのに、予想通りの成果が現れていないのである。しかし、目に見えにくいところでは効果を発揮しているので、リフレ政策そのものが間違っているのではない。リフレ政策の規模が小さすぎることが大きな原因なのである。

消費税増税があろうとなかろうと、現在の金融緩和の規模は小さすぎる。2012年11月-2014年2月の16ヶ月間に、証券売買だけで31兆円もの巨額の資金が国外から国内へと流入している。普通、異次元金融緩和のような大規模な金融緩和を実施した場合、資金が国内に31兆円も流入することが起こるはずがない。起こるとすれば、31兆円の国外への資金流出のほうである。金融緩和を強化すると、インフレ期待が発生し、金利が急上昇すると警告する人が無数に存在した。しかし、実際に発生していることは、その正反対の動きなのである。現在の日本国内の投資家は、大規模な金融緩和が実施に移され、インフレが進行しても、資金をリスク資産から無リスク資産へと大規模に移動させ、インフレによる資産の目減りの方を積極的に選択しているのである。年率2%程度のインフレによる無クリス資産の目減りの金額は、過去に被ったリスク資産に対する投資での大損よりも、はるかに金額が少ないことが一つの原因である。過去20数年間続いた資産デフレの結果、日本国内の投資家は、リスクを極端に回避する行動をとるようになった。その結果、多くの日本人は、従来の経済学の常識では考えられないような行動をとるように変化してしまったのである。

従来の経済学の常識が通用しない日本においては、従来の経済学の常識通りの経済政策では効果が上がらない。日銀が年間ネットで50兆円の国債を購入し、マネタリーベースを年間60兆円~70兆円増やすという政策は、常識的に考えたならば、十分すぎる金融緩和である。だが、現在の日本では、その常識は通用しない。少なくとも、日銀がネットで年間100兆円、200兆円、あるいはそれ以上の規模で国債購入を続けなければ、目に見える成果が上がらないという特殊な経済構造へと、現在の日本経済は変化してしまっているのである。日銀はそうした日本経済の特殊な構造への変化を理解し、大規模な追加緩和を一刻も早く実施しなければならない。インフレが進行すれば、追加増税によるインフレ抑制と財政再建を強力に進めれば良い。その結果、金融政策の効果が、「目に見える効果」、「万人を納得させることのできる効果」へと変化し、リフレ政策の正しさが証明されるのである。

個人消費不振の真の原因(*1)
貿易収支の黒字復帰 可能であり必要な政策(*2)

テーマ : 経済
ジャンル : 政治・経済

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