日銀ウォッチャー報告(2014年3月号)

マネタリーベース平残の推移201402(グラフ)

2014年2月の季節調整済のマネタリーベース平残は、前月比で9.4兆円増加し、210.9兆円になった。

マネタリーベース平残の推移201402(表)

上記の表に示した通り、季節調整済のマネタリーベース平残は、2012年12月の白川体制の末期から増加基調が明確になり、昨年11月までは高い増加率が続いていた。昨年12月に、前月比増加率はマイナスとなったが、1月から再び元の増加のトレンドに戻った

2月の市中資金は、10.7兆円の不足であった。そこに、国債の購入7.1兆円、短期国債の購入8.5兆円などを中心とした金融調節により、合計14.2兆円の資金が供給された。金融調節後の市中資金は、3.5兆円の資金余剰になった。この資金余剰のため、当座預金残高は、1月末の110.5兆円から、2月末の114兆円へと、3.5兆円増加した。この当座預金残高の増加を反映して、2月の季節調整済のマネタリーベース平残は、前月比9.4兆円増加の210.9兆円になった。当座預金残高と季節調整済のマネタリーベース平残の増加に差がある理由は、2月のマネタリーベースは、減少しやすいという季節要因があるためである。


日銀BSとMB(実績と予想)201402

上記の表のように、今年の年末時点におけるマネタリーベースの予定残高は270兆円である。残り10ヶ月間で増やすので、マネタリーベース末残は、月間6.5兆円の純増が必要である。3月については、市中資金が1.1兆円の不足となる。大量の国債償還が集中する3月は、従来、市中資金は大幅な余剰の月であった。しかし、今年は、日銀保有の国債と短期国債の償還が合計で13.2兆円もあり、これが資金不足要因となるので、3月も資金不足の月へと変化した。

3月の資金供給については、国債、短期国債の購入は、昨年4月以降の平均的な購入金額である7兆円、7.5兆円と想定する。貸出支援基金による貸し出しは、1兆円と想定する。この結果、3月の資金供給は、3つの合計で15.5兆円となる。3月末のマネタリーベース末残は、前月比14.4兆円の大幅な増加と予想する。季節調整済のマネタリーベース平残は、前月比で14.4兆円を下回る金額の増加になると予想する。月間6.5兆円の純増でよいところに、3月はそれを大幅に上回る資金を供給することになる。季節調整済のマネタリーベース平残は、3月は前月比で大幅な増加となるが、4月以降に市中資金が大幅不足になる月が何度もあるので、そうした月に増加額を抑えるという資金供給を行うと予想する。

2月18日の金融政策決定会合の後、発表された「当面の金融政策運営について」の文章は、内容に大変大きな問題を含む公表文であった。100%正しい内容が、誰にも理解できない作文になっているからだ。

2月18日の金融政策決定会合の決定は、
(1) 現状維持
(2) 金融緩和の強化
の2通りの解釈が可能である。私の解釈は、(1)現状維持である。しかし、(2)金融緩和の強化とも受け取られるような表現が並んでいる。「当面の金融政策運営について」だけを読んだ人には、(2)金融緩和の強化と受け止める人が多いと思う。しかし、日銀を詳しくウォッチしてきた者としては(1)現状維持としか理解しようがない。理由は、仮にこの公表文が(2)金融緩和の強化を意味するとしたならば、日銀は、政策変更の発表の仕方にあまりにも大きな問題がありすぎるからである。その結果、消去法的に考えて、(1)現状維持しかありえない。そう解釈しても、(2)金融緩和の強化の場合よりは問題点は少ないが、依然として問題点を残している。2月18日公表の「当面の金融政策運営について」の内容には、どちらの観点から見ても、問題がありすぎるのである。

最大の問題は、「当面の金融政策運営について」の中に、必須の重要記載事項が抜け落ちているからである。そして、黒田総裁による口頭の説明も、(1)現状維持とも(2)金融緩和の強化ともとれるような、あいまいさを残した説明、あるいは、(2)金融緩和の強化であるかのようなニュアンスを含む説明をしているからである。

私の解釈は、次のようになる。「当面の金融政策運営について」の最初に、「マネタリーベースが、年間約60~70兆円に相当するペースで増加するよう金融市場調節を行う。」と書かれている。これは昨年4月4日に決定された内容であり、その後の金融政策決定会合でも踏襲されている日銀の正式な目標である。ただ、昨年4月4日に発表された『「量的・質的金融緩和」の導入について』の中には、もっと詳しい内容が掲載されていた。その内容が、上記の表で使用している、マネタリーベース残高や、その他の資産残高の2013年末、2014年末の予想数値である。

マネタリーベース残高だけを取り上げると、
2012年末 138兆円
2013年末 200兆円
2014年末 270兆円
となる。この数値は、正式には、「見通し」、「見込み」であり、目標ではない。しかし、実際には、マネタリーベース残高を2013年末に200兆円、2014年末に270兆円までは必ず増やすという必達目標のような扱われ方をしてきたのである。そのため、マネタリーベースを2013年に62兆円増加させ、2014年に70兆円増加させるという目標を、正式には「マネタリーベースが、年間約60~70兆円に相当するペースで増加するよう金融市場調節を行う。」と表現していると理解できるのである。

2月18日の「当面の金融政策運営について」には、「マネタリーベースが、年間約60~70兆円に相当するペースで増加するよう金融市場調節を行う。」との毎回ある表現が使われており、同時に2014年末のマネタリーベース残高目標270兆円を変更するという表現はない。従って、2014年末のマネタリーベース残高目標は、依然として270兆円であり、政策変更はないはずである。従って、(1)現状維持と理解せざるをえない。この観点から2月18日の「貸出増加支援資金供給等の制度見直しの骨子」の内容を説明する。

現在の貸出支援基金のスキームは、2012年10月30日に決定された。しかし、そのスキームは複雑であり、それを正しく書き上げると下記のようになる。

(a)貸出支援基金  
・・・総枠 無制限、直近データを当てはめた場合の単純計算では20.5兆円
・・(b)成長基盤強化を支援するための資金供給 総枠5.5兆円
・・・(c)本則・・・・・・・3.5兆円
・・・(d)ABL特則・・・0.5兆円 
・・・(e)小口特則・・・0.5兆円
・・・(f)米ドル特則・・約1兆円
・・(g)貸出増加を支援するための資金供給 
・・・・・総枠 無制限、直近データを当てはめた場合の単純計算では15兆円

この文章の金額の前には、「総枠」という言葉がついている。これは、20.5兆円を絶対に貸し出すという意味ではなく、最大で20.5兆円貸し出す枠を作るという意味だと受け取れる。当初、総枠が20.5兆円であった(a)貸出支援基金が、2013年4月4日に異次元金融緩和を決定した際、2013年末13兆円、2014年末18兆円という形で、総枠ではなく、貸し出し目標として具体的な金額が設定されたと解釈してきた。

貸出支援基金のうち一番大きな金額を占める(g)貸出増加を支援するための資金供給による貸し出しは、昨年は6月、9月、12月と3回実施されたが、そのうち9月と12月は貸し出し予定金額を大幅に下回る金額しか、実際に貸し出すことができなかった。毎回のように発生している共通担保オペと同じように、事実上の大規模な「札割れ」現象が2回続けて発生したわけである。結果として貸出支援基金の残高は、直近において9.2兆円であり、2013年末の目標である13兆円をも大幅に下回る状態が続いている。貸出支援基金のスキームを変えなければ、2014年末の18兆円という目標達成は完全に不可能である。そのため、スキームが変更されたのである。

スキーム変更の内容は、(b)成長基盤強化を支援するための資金供給の中の(c)本則3.5兆円を、2倍の7兆円へ、(g)貸出増加を支援するための資金供給15兆円を2倍の30兆円に拡大したのである。(d)ABL特則(e)小口特則(f)米ドル特則の金額は現状維持である。従って、(a)貸出支援基金の総枠は、2倍ではなく、20.5兆円から39兆円にまで拡大したのである。黒田総裁によれば、全体では札割れが発生しても、大手銀行では枠一杯の貸し出しを使っているらしい。そのため、枠を2倍に拡大した場合、いくつかの大手銀行では貸し出しを増やすところがあるはずである。その場合、現在の9.2兆円から、2014年末の18兆円まで貸出支援基金の残高を増やすことが可能になるかもしれない。事実上の札割れ発生を回避できる可能性が高まるのである。貸出支援基金の2014年末18兆円を達成するために、総枠を大きく増やすというスキーム変更が実施されたのである。この貸出支援基金のスキーム変更は、必要なものであり、スキーム変更の検討は、事前に報道でも流れていた。そのスキーム変更を2月18日に正式に決定し、発表したのである。

先に、貸出支援基金による貸し出し増加金額を、3月は1兆円と想定する、と書いた。3月は古いスキームで貸し出しを実施するので、昨年の9月、12月並の1兆円前後しか貸し出すことができないと考えたからである。おそらく6月には貸し出し実施金額は増加するが、9月、12月は再び減少することになると予想している。2014年末の18兆円達成は、可能ではあるが、簡単ではないと考える。黒田総裁は、(g)貸出増加を支援するための資金供給の金額を、最終的には30兆円まで増やすと明言したが、その達成時期は、2014年中ではなく、かなり先のことになると考えている。

蛇足であるが、私は、貸出支援基金のスキーム自体に反対である。貸出支援基金の何割かは、住宅ローンの金利引き下げ競争に回っているようである。貸出支援基金の多くは、既存の融資の事実上の低利乗り換えに使われる可能性が高く、ベンチャー企業に対する新規融資といった、本当に必要なところに対する貸し出しに、多くの資金が貸し出されることが期待できないからである。こうした性格の資金は、18兆円でストップさせた方が良い。むしろ、資産運用のブラックホールである国債購入の金額拡大に回した方が、ベターだと考えている。

2月18日の「当面の金融政策運営について」の中には、「貸出増加を支援するための資金供給」と「成長基盤強化を支援するための資金供給」について、規模を2倍にすることが明記されている。札割れ対策の表現がないのは問題ではない。しかし、貸出支援基金とマネタリーベースの2014年末の残高の見通しないしは目標に、全く触れられていない。本来なら、この2つの数字が18兆円と270兆円であり、従来と変更なしと記載すべきであった。それならば、万人が誤解することを避けることができた。しかし、黒田総裁は、その誤解をもたらさない説明をわざと避けた。そして、貸出支援基金による貸し出し規模を増やすという文言を「当面の金融政策運営について」の中に書き入れ、黒田総裁が口頭でも似た内容の説明をした。(2)金融緩和の強化でないことをはっきり説明しないことは問題である。しかし、この「当面の金融政策運営について」で、少しばかりでも(2)金融緩和の強化をするならば、金融市場調節の操作目標と決めたマネタリーベースの変更金額が書かれていないので、政策変更を発表する文章としては、失格である。よって問題点のより小さい(1)現状維持と理解せざるをえないのである。

金融緩和の強化をしてもいないのに、金融緩和の強化を思わせる発表を重ねてきたのは、白川前総裁である。金融緩和の強化を発表し、「資産買入等の基金」を作って購入資産額を拡大すると発表しながら、「資産買入等の基金」の枠外で資金を大量に回収し、実際には金融緩和の強化を実施しなかった時期があった。日銀総裁が、誤解を招く政策を発表し、市場を欺くような言動をすることは、絶対にやってはならないことである。白川体制から黒田体制に変わって良くなった点の一つは、金融政策の目標の明確化である。目標を明確化し、わかりやすく、誤解を受ける余地の少ない金融政策を、昨年の4月4日に発表したのである。この部分は、誰もが評価しなければならない点である。しかし、2月18日発表の「当面の金融政策運営について」において、今まで明確にしてきた数値目標に、あいまいで誤解を生むような表現を加えたことは、大変大きな誤りである。白川体制への先祖帰りのような印象すら受ける。

黒田総裁は、貸出支援基金の規模を拡大すると表明し、日銀が金融緩和に積極的であるかのような印象を振りまくことにより、一種のアナウンスメント効果を狙っていたのかもしれない。黒田総裁自身は、現状の政策を変更する必要はないと考えているのに、現状維持では市場が満足しないようなので、リップサービスを加えてみたのかもしれない。しかし、市場に誤解を与えるようなリップサービスは禁じ手である。恐ろしいのは、市場が黒田総裁を信用しなくなることである。その場合、急激な円高株安が進む可能性が高まるのである。

ただ、黒田総裁の内心も少しは理解できる。消費税増税があるのにもかかわらず、景気回復と2%のインフレ実現に自信を持っていることは、多分、本当であると思う。しかし、全く自信がないと考えている点が存在する。それは、出口戦略である。黒田総裁は、昨年11月22日に、民主党の前原誠司氏の質問に対する答えで、具体的な出口戦略を語ったことがある。その内容は、通説的なものであり、特別な戦略を持ち合わせていないことが明らかになった。その後も出口戦略についての質問を何度も受けてはいるが、答えは「出口戦略を語るのは時期尚早」であるようだ。黒田総裁は、2%のインフレ実現までは大変大きな自信があるようだが、その後の出口戦略に全く自信がないのである。

通説の通りに出口政策を日銀自身が担う場合、インフレ率が2%を超えて上昇した際、ある程度の金利上昇が発生する可能性が高くなる。その場合、日銀の収益が赤字になり、最悪の場合には、債務超過に陥ってしまう可能性がゼロではない。赤字や債務超過が発生した場合、経済的な効果は別にして、政治的にはその責任を黒田総裁が負わなければならない。日銀単独で、インフレ率を2%まで引き上げ、その後、2%に維持し続けること、加えて、その政策を絶対確実に成功させることは、簡単なことではない。金融緩和をガンガン続けていけば、2%のインフレ実現は簡単である。しかし、その後の出口戦略でつまずく可能性が高くなる。黒田総裁は、通説的見解以上の出口戦略しか持ち合わせていない。従って、安易な追加金融緩和を請け負うことができないのである。

反リフレ派は、出口戦略で、金利急上昇→財政破綻の決定と、今から決めつけて、リフレ政策を攻撃している。そのようなことが起きる可能性はないが、金利がある程度上昇する可能性は高いと言わざるをえない。だから私は、出口戦略は、政府が増税をすることにより、インフレを封じ込めると宣言する必要があると、ワンパターンの内容を繰り返し書き続けているのである。金融緩和の結果として景気が過熱し、インフレ率が2%を超えて進行するような事態が仮に発生した場合、増税→景気回復とインフレ率上昇の頭打ち→金利上昇は発生せず→財政赤字の縮小、が一番安全な出口戦略であると考えている。こうした出口戦略を日銀ではなく、政府の方が考えて提案し、経済成長と財政再建の両立をはかる戦略として打ち出す必要がある。政府がこうした出口戦略を打ち出せば、行きすぎた金融緩和は、財政再建の加速化につながることになる。黒田総裁は、財政再建を大義名分にして、金融緩和の強化を打ち出し続けることが可能となる。怠慢なのは、日銀ではなく、政府の方かもしれない。

黒田総裁は、出口戦略について大きな悩みを抱えているのである。私が提案している出口戦略にもいろいろと問題があることは承知している。ただ、日銀だけが出口戦略を担うよりは、よりましであろうと考えている。もっとよい出口戦略が他にあるかもしれない。より良い具体的な出口戦略を提案し、黒田総裁を支援することは、リフレ派全員の責任であるのかもしれない。

テーマ : 経済
ジャンル : 政治・経済

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